音駒のお姫様

走が委員会の仕事で昼食が別になるって聞いてた昼休み。
リエーフが迎えに来るから待っててって言われたから大人しく待ってた。
そしたらクラスの女の子に呼ばれた。
3年の先輩が廊下で呼んでるよって。
3年の知りあいなんてバレー部の先輩達しかいないから何かあったのかなとお弁当を持って出てみたらこないだ夜久さんに告白してたヒトが居た。
その隣に気の強そうな女のヒトがいる。


「ねぇ、このこなの?」
「うん」


気の強そうな先輩が隣のショートカットの先輩に聞く。
私に何の用事だろうか?


「ねぇ、貴女は黒尾か夜久と付き合ってるの?」


よく分からない質問をされた。
何でそんなことを聞くんだろう?
しかも初対面なのに。
初めましてのヒトと話すのは昔から苦手だ。
とても居心地が悪い。
夜久さんに告白した先輩は気の強そうな先輩にやっぱり止めよう帰ろうって言ってる。


「あんたは黙ってて。てか聞いてるんだけど。答えてもらえる?」


ショートカットの先輩はその言葉に口を閉じた。
正直連れて帰ってほしかったのに。
教室からのクラスメイトの心配そうな視線もなんだか居心地が悪い。
そうこうしてるうちに周りにヒトが集まり始めてるし。


『あの、貴女とは初対面なんですけどどちら様ですか?』


失礼だとは思ったけど知らないヒトとは話したくない。
だから気の強そうな先輩に向けてつい言ってしまった。


「はぁ?質問に答えてくれたらいいんだけど」
『もしかして夜久さんと前みたいに仲良く出来てないんですか?』


今度は隣のショートカットの先輩に言う。


「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」


瞬間頬が熱を持った。
反射的に打たれた頬を触る。
痛いと言うより熱いだ。何故に頬を打たれたのか分からなかった。
どうして?隣のショートカットの先輩に問いかけたはずなのに私の頬を打ったのはその隣の先輩だ。


「何やってんだよ!」


リエーフの声に我に返った。
庇うように前に出てくれる。
いつから見てたのだろうか?
私の言ったことを聞いてただろうか?
リエーフは先輩達を責めている。
でももう話が終わるならそれでいい。
それにきっと私の一言で怒らせてしまったのだから。
何が悪いのか分からなかったけど、ヒトを叩くくらいだからよっぽどのことだったのだろう。
リエーフを止めて先輩達に謝って部室へと向かった。


リエーフに色々聞かれたけど言えない。
夜久さんのことに関わってくることだろうし、夜久さんが居ない時に話すのは何か違う気がした。
誤魔化しておくも頬が赤くなってることは先輩達にバレるぞと指摘されてはっとする。
咄嗟に逃げようとした時には遅かった。
そのまま引きずられて部室まで連行される。
どうせなら見逃してくれたらいいのにリエーフの分からず屋!


部室に行ったら案の定、研磨に気付かれた。
そこから色々大変だったけどなんとか誤魔化せたと思う。
知らないヒトに叩かれたのは事実だし。
そこはリエーフも空気を読んで話を会わせてくれたから。


海さんに頬を冷やしてもらい猛虎さんに教室へと送ってもらった。
ちなみに私はテストは大丈夫。
勉強は得意なのだ。ヒトよりもずっとずっと簡単だ。


「じゃあまた部活でな」
『ありがとうございます』
「あんま気にすんなよ」
『はい』


ぽんと頭を撫でて猛虎さんは階段を上がっていく。
教室に帰ると走が委員会から戻ってた。


「未来!ビンタされたってほんと?」
『走、もう知ってるの?』
「クラスの殆どが見てたんだろ?」
『あー』
「だいぶ赤いのひいた?」
『海さんが保冷剤で冷やしてくれた』
「俺が居ない時にごめんな!」
『走が悪いわけじゃないよ』
「でも」
『私が相手に失礼なこと言っちゃったんだよ』
「未来はビンタしたりしてないんだろ?」
『うん』
「だったらビンタした先輩のが悪くねぇ?」
『でももう大丈夫だよ』
「ならいいけど、何かあったらちゃんと俺らに言えよな!」
『ありがとう』


自分の席に戻ると走が来て早口にまくしたてる。
いや、走が謝る必要全くないと思うの。
心配させるつもりはなかったのにな。
きっとクラスメイトもみんな心配してくれたのだろう。
チャイムが鳴って午後の授業が始まる。
頬がまだジンと痛んだ気がした。


午後の授業も終わりいつものように四人で部活へと向かう。
ジャージに着替えて部室へと向かうとそこには黒尾さんと夜久さんの姿があった。
いつもの部活の流れは黒尾さんと海さんが居て今日やることの確認をするんだけど…今日は夜久さん?
他のメンバーはいつも大体この時間もう体育館にいる。


「おー来たか」
「とりあえず入れ。そして座りなさい」
『はい』


部室の中へと促されて座らされる。
いつもは立ち話で確認するだけなんだけど…どうしたのだろうか?


「未来、うちのクラスの女子にやられたんでしょ」
「リエーフから聞いたよ」


あぁ、リエーフ言っちゃったのか。
上手く誤魔化せたと思ったのに。
でもリエーフもきっと心配してくれてたんだろうな。
何て答えようかな、結局怒られると思うんだけど。


「何でさっき言わなかったの?」
「結構一年でも噂になってるらしいよ?さっき芝山も言ってたし」
『他にもヒトが居たから』
「ん?」
『夜久さんが関わってることだから』
「あぁ、お前夜久のことがあったから言わなかったの」
『それに叩いてきたのは本当に知らないヒトだったし』
「別にそんなこと気にすんなよ」


はぁと溜め息を吐いて夜久さんが目の前にしゃがむ。
そしてぽんぽんと頭を撫でてくれた。


「で、お前は何を聞かれて何を言ってビンタされちゃったわけ?」


黒尾さんに聞かれて最初の件から全部説明した。
ここには黒尾さんと夜久さんしか居ないから話してもいいかなと思って。


全部の流れを話したら黒尾さんが吹き出した。
夜久さんも困ったような仕方ないかなみたいな表情を浮かべている。


「お前そこでふつーどちら様ですか?とか聞くか?ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ!」
『知らないヒトと話すの苦手なんです………それに』
「黒尾笑いすぎだぞ。それにどうした?」
『夜久さんに告白した先輩は帰りたそうにしてたから』
「お前あいつらのこと庇おうとしたのか」
『何で叩かれたんですかね』


考えても考えてもそこは分からなかった。
午後の授業そっちのけで考えたのにだ。
ヒトは相変わらず不可解だ。
それに最初の質問の意味もさっぱり分からない。


「何でだろうな?」
「黒尾も分かんないとかお手上げじゃね?」
「でもお前が悪かったわけではないと思うぞ」
『でも叩かれましたよ』
「あれはなー多分友達のこと想ってつい手が出たんじゃねーかな」
『よく分からないです』
「まぁ確かに音駒祭からあいつと話してないしなー」
「やっくんが避けてるわけじゃないでしょ?」
「そんなつもりはないぞ」
『最初の質問の意味も分からないです』


それを聞いて二人が互いに顔を見合せて困ったように笑う。


「女子ってのは理由をつけたがるんだよ」
『理由?』
「そ、理由。何かしら物事に意味を理由をつけたがるんだよ」
『ムズカシイ』
「やっくんに告白しました。部活を理由にフラれました。それじゃ納得出来なかったんだろ」
『黒尾さんのことも聞かれた』
「俺もモテるんでーすーけーどー」
『理由をつけてどうするんですか?』
「そんなの簡単だろ、諦めたいんだよ」
『何を?』
「恋愛を」
『どうして?』
「お前ほんっと恋愛初心者なんだな」


夜久さんが盛大に溜め息を吐いた。
そんなこと言われても。好きなことを諦める意味が全く分からない。
好きなものはずっと好きじゃダメなんだろうか?


「好きな人が他の人と付き合ってたら悲しくなるだろ?」
『?』
「未来、こないだ教えたでしょ。特別だと思ってた人が自分じゃない他の人を特別に思ってたら悲しくなんねぇ?分かる?」
『うーん、なんとなく』
「やっくんそんな教え方したの?」
「うっせーな。これくらいしか言えなかったんだよ!」
『でも何で諦めるの?』
「未来、特別は一人だけだよ」
「お前のじーちゃんとばーちゃんみたいなもんだよ」
『あ』
「分かりやすいお手本身近にいたわ!」
「間違いない!」
「そしたら諦めなきゃって思うだろ?」
「あの二人に割って入るのは無理だわなぁ」
『そうか』
「分かったな」
「お、理解出来たのなら良かった」
『はい。心配かけてごめんなさい』
「まぁだからあんまり気にすんな」
「お前が悪かったわけじゃないから」


そう言って二人で交互に頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。
そうか、最初からお爺ちゃんとお婆ちゃんのことを考えてみれば良かった。
お互いがトクベツってあの二人のことを言うんだな。
叩かれた理由は少しわかりづらかったけど私が100%悪かったわけではなかったから良かった。


黒尾さんに今日の予定を聞いて三人で体育館へと向かう。
やっぱり二人はおとーさんとおかーさんだ。頼りになる。
ちゃんと話せて良かった。
今日の部活も頑張ろう。
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