音駒の王子様

「リエーフ、俺明日委員会あるから昼メシ一緒に食べれないからー」
「あ、僕もだ。未来だけ迎えにきてね」
「おっけー」


音駒祭の浮わついた空気も落ち着いたある日の部活後。
芝山と犬岡に言われた。
ちなみに赤組から白組への罰ゲームは部活が終わってからの体育館の片付け一週間だった。
何故か俺だけ夜久さんからの強い要望でレシーブ練習が倍になったけど。
何で俺だけ!


んで、次の日の昼食の時間。
犬岡と約束した通り1年1組へと向かう。四限の先生がチャイム鳴り終わるギリギリまで授業をするから少し遅くなった。
ま、未来は方向音痴だしちゃんと教室で待ってるでしょ。


廊下がざわついている。目的のクラスの前には何やら人だかりが出来ていた。
中心に…未来がいる。
名前を呼ぼうとした瞬間だった。


「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」


怒鳴った女子生徒の声と共にパァンと頬を打たれる音が響いた。
廊下が静寂に包まれる。
ちょ!あの人今、未来にビンタした!?


「何やってんだよ!」


未来は打たれた頬を片手で押さえて呆然と叩いた女子生徒を見ている。
その前に割って入った。
あ、見覚えがある。この人、黒尾さんと夜久さんと同じクラスの人だ。
遊びに行った時に見たことある。
その周りに数人の女子生徒が居て彼女達の顔にも覚えがあった。


「黒尾さんと同じクラスの先輩達がこいつに何の用事があるんすか?」


背中に未来を隠すようにして未来を叩いたであろう女子生徒を見下ろし睨みつける。
俺の姿を視界に捉えてからはどこか罰の悪そうな顔をしている。


「違う、そんなつもりじゃなくて」
「そんなつもりがなくても結果こいつのことビンタしましたよね?先輩が、後輩に」
「そのこが馬鹿にするようなこと言うから」
「例えそうだとしてビンタしていい理由になるんすか」


学年が2つも上の先輩達が1年の教室に来て後輩をビンタする理由はないはずだ。
俺が来たことで落ち着いたのか周りの人だかりもいつの間にかなくなっている。
ブレザーの裾を後ろからクイと引っ張られた。


『リエーフ、大丈夫。多分私が失礼なこと言った』
「でもお前頬真っ赤だぞ」
『うん、でも私が悪かったと思う。失礼なこと言ってごめんなさい』


振り向くと未来がブレザーを引っ張って居て俺の背中から顔を出して先輩達に謝った。
殴られた側が謝るのっておかしくねぇ?


「お前が謝る必要なくね?」
『失礼なこと言ったのは事実だから。お昼ご飯遅れちゃうよ。みんな心配する』
「未来がそう言うならいいけど」
『はやく行こう』


お弁当箱は既に手にしていたから俺の腕をグイグイと引き歩き始めた。
てか先輩達から謝りの言葉もらってねーじゃん!


『リエーフ、ありがとね』
「何が?」
『助けてくれて』
「痛かったろ?」
『ちょっとひりひりする』
「かなり赤くなってるぞ」
『痛いから触らないでー』


部室までの道のりの途中立ち止まって未来が言う。
泣くかと思ってたのに未来は平気そうだ。その頬にそっと触れると痛いのか顔を歪めた。


「何言ってあんなに怒らせたんだよ」
『言えない』
「はぁ?何で?庇う必要ないだろ?」
『でも言えない。私が言っていいことじゃない』
「何でだよ。でもそれ結局先輩達にバレるぞ」
『あ』
「行くぞ」
『ちょっと待って!じゃあ今日お昼一緒に食べるのやめる!』


慌てて教室へと戻ろうとしたからその腕を捕まえた。
そのまま引きずって部室へと連れていく。
別に俺に話せないならそれでもいい。
でも黒尾さん達だったらあの状態の未来を見て何か分かってくれると思う。
未来を取り囲んだ先輩達は確実に黒尾さんと夜久さんと同じクラスの人達だったから。


嫌がる未来を全力で引きずって部室まで連れてきた。
色々抵抗されたけどそこは無視した。
怒ってたようにも見えたけどそれも無視して部室の扉を開けて中に放り込む。


「ちーっす」
『……こんにちは』


挨拶をしていつもの場所に座る。
未来も渋々いつもの1年組の場所へと座った。
俺らの雰囲気に黒尾さん達も困り顔だ。


「お前ら喧嘩でもしたのか?」
「『してません』」


海さんの言葉に二人で返事をする。
上手くハモったので海さんが少し笑った。


「未来、頬っぺたどうしたの?」
「あ、お前頬赤くなってんじゃん」
「リエーフ!お前まさか!」
「俺じゃないっすよ!」
「未来、どうしたの?」
『何でもない』
「頬赤くして何でもないって通用すると思ってるのかな?」
「未来、言いたくないならそれでもいいけどリエーフを庇ってるように聞こえるけどいいの?」
「俺じゃないっすよ夜久さん!」
『リエーフじゃないよ。助けてくれたのリエーフだし』


研磨さんが未来の頬が赤いことに気付いた。
俺が疑われて焦ったけど未来がちゃんと誤解を解いてくれた。
そのせいで墓穴掘ったとは思うけど。
しまったと言う顔をして口をつぐんでいる。
後は時間の問題だなと俺は先輩達に丸投げして弁当に集中することにした。


「未来ちゃん、何があったの?」
「黙ってたら分かんないだろ」
「リエーフに聞けば分かる話だぞ」
『それは』


ちらりとこちらを未来が向いた。
何で庇うかなー。
分かったよ。肝心なとこ言わなきゃいいんだろ。


「廊下で知らない女子生徒に絡まれてたんすよ」


あまりに可哀相な顔をしてたので知らない女子生徒だって言ってあげた。
ちゃんと話しておいた方がいいだろうに。
じっと黒尾さんがこっちを見ている。
怖えー!絶対何か疑ってるでしょそれ!


「リエーフそれほんと?」
「ほんとっすよ。何で叩かれたかまでは知らないっすけど。そのままこっち連れてきました」
「お前が居て何でそんなことに」
「えぇ、俺が悪いんすか!?」
「未来、本当に知らない女子だったの?」
『知らないです。見たことなかった』
「ふーん」


研磨さんも怖えー!絶対何か考えてる疑ってる!
海さんが弁当に入っていた保冷剤をハンカチに巻いて未来の頬に当てた。


『冷たい』
「冷やしとけば少しはましになるだろうから我慢な」
『ありがとうございます』
「頑固なのはばーちゃん譲りかね」
「未来のお婆ちゃん優しそうだけど変なとこかなり頑固だもんね」
「言いたくないならもういいけど俺達心配してるんだからな」
「それちゃんと分かっとけよ」
『すみません』


そのまま話は終わった。
皆で弁当に集中することになった。
黒尾さんに中間テストの話を振られて焦る。
数学がちょっとヤバい、かも。


昼食が終わり、テストの話で場が和む。
いや、俺は全然和んでないけど。
勉強会の話まで出てきた。
猛虎さんも数学がヤバいらしく二人で周りから説教されてるとこだ。


「虎、未来のこと教室まで送ってよ」
「え」
「虎の教室は未来の上の階だしちょうどいいでしょ」
「あー、分かったよ。ほら行くぞ」
『はい』


研磨さんがそう言って猛虎さんと未来を先に部室から出した。
俺が送ってけば良かったんじゃないのか?


「リエーフ、全部話して」
「え?」
「お前何か隠してるだろ」
「いや、別に」
「リエーフ、またレシーブ練習倍にされたいの?」
「先輩達怖えーっすよ」
「はやく話したらいいよ」


残った先輩達に詰め寄られた。
このために先に二人を返したのか!
最後に福永さんがぼそりと呟いた。
怖えー!かなり怖えーよ!
未来、ごめんなと思いつつちゃんと見たことを伝えた。
まぁちゃんと伝えとくべきだとは俺も思ってたし。


「あーそういうことか」
「クロ全部分かったの?」
「なんとなく、夜久も分かったろ」
「おう」
「黒尾と夜久が分かったのなら大丈夫だな」


海さんの言葉で場が締め括られた。
それで解散になった。
夜久さんの表情が曇ったままだったのは気になったけど。


ま、黒尾さん達がなんとかしてくれるな。
気楽に教室へと戻る。
俺らの先輩はかなり頼りになるんだぞ。
未来、それまだ分かってないの?


とりあえず部活の時間に謝って仲直りしようと思った。
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