満月と食事会

遠征合宿から戻った次の日の18時。
俺達四人は未来のばーさんに呼ばれて一ノ瀬家にやってきた。
俺と研磨からしてみれば何回か来たことはある。
海は大丈夫そう。やっくんはちょっと緊張してんのかな?


「黒尾、何で俺らも呼ばれたの?」
「何か四人一緒に話したいことがあるらしいぜ」
「ふぅん、何だろうね?クロは聞いてるの?」
「いや、何にも」
「いやー少し緊張するよなー」
「いや、全然」
「夜久君が緊張とか珍しい」
「研磨もそう思う?」
「改めて話したいことってよくわかんなくねぇ?」
「うーん」
「ま、聞いてから考えればよくねぇ?」
「夜久は考えすぎだって」


学校で待ち合わせて四人で未来のうちへと向かう。
海はいつも通りのほほんとしているけどやっくんはどこかそわそわしてる。
研磨もスマホでゲームしながら平常運転。
そうこうしてると一ノ瀬家に辿り着いた。


「あら、いらっしゃい」
「どーも」
「今晩はー」
「三年の夜久衛輔です」
「同じ三年の海信行です」
「夜久くんと海くんね、未来から聞いてますよ。さ、そのままお庭に回ってくださる?」


玄関でばーさんに出迎えて貰って言われた通りに庭へと回る。
庭にはバーベキューが出来るように準備してあった。
じーさんが火起こしをしてる。その隣で煙に涙目になりながら未来が内を団扇扇いでいた。


「おーやっと来たか」
『いらっしゃいませー』
「未来、ばーさんの手伝いをしてこい」
『ゲホゲホ、分かった』
「こんばんはー」
「お邪魔します」


じーさんに四人で挨拶をすると未来は研磨に団扇を渡し縁側から室内へと入って行った。
研磨はその団扇をそっと海に渡す。
まぁ、働きたくはないよな。
海は大して気にするでもなく火を燻らせている炭を扇ぐ。
じーさんに促され用意してあった椅子に海以外の三人は座った。


「遠征合宿の次の日にすまんのう」
「休みだったんだけどじーちゃん」
「研磨君、ほんと悪かったと思ってる」
「モンハンすすんだ?」
「勿論じゃ、もう上位のクエスト行けるぞ」
「じゃあ後からやろうよ」
「手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ」


未来が台所から運んでくる肉やら野菜やらを受取り庭のテーブルに並べていると研磨とじーさんが和気あいあいと話している。
この短時間でよくもまぁ研磨と打ち解けたなとじーさんのコミュ力に驚いた。
海も夜久の顔にもそう書いてある。
ふっと自然と笑みが溢れた。


『お爺ちゃん、先に始めてってお婆ちゃんが言ってるー』
「おお、わかったぞ」
『お待たせしましたー』


未来が縁側からペットボトルのお茶と紙コップを持って降りてきた。
そのまま俺らにお茶をついで回る。
じーさんが肉を焼き始めた。腹は減ってきたしバーベキューは久しぶりだ。
ごくりと喉が鳴った。


「じーさん、何でバーベキューなんだ?」
「なんじゃ突然」
「いつもばーさんの手料理だろ」
「そういえばそうだね」
「あー、どれくらいの量食べるかわからんかったんだと」
『いつも多くて黒尾さんと研磨がいるくらいだからプラス二人分がピンと来なかったって言ってたよ』
「足りないと申し訳ないからな」
「何か俺らのためにすみません」
「たまにはバーベキューもいいじゃろ」
『三人だと出来ないからね』


じーさんがテキパキと肉を焼いてくれる。
手伝おうとしたけど断られた。
ばーさんも庭に降りてきてそれを見て笑った。
鍋奉行みたいなものよと教えてくれた。
手を出したら怒られそうなので大人しく食べることにした。
肉だけじゃなくて海鮮もあってなかなか豪華だ。
ホイル焼きもやっていた。


「食ったなー」
「かなり食った」
「全部美味しかったからね」
「お腹苦しい」


気づけば22時だ。
あっという間に時間は過ぎた。
未来は自室へと戻った。珍しく今日はまだ寝てない。
猫になる時間だからと戻って行った。


俺らは縁側でデザートにアイスを食っている。
縁側とかいいなぁ。めっちゃ楽チンだ。
研磨はじーさんとモンハンをやっている。
ばーさんは後片付け。手伝おうとしたらお客さんなんですからと断られた。


「黒尾ー縁側っていいなぁー」
「おー、だらだら出来るよなー」
「月が綺麗だねぇ」
「満月か?」
「ぽいなー」
「俺この家住みたいかも」
「やっくん大胆なこと言うね」
「そういうんじゃなくて!和風のうちって良くねぇ?」
「まぁわかる気はする」
「今時珍しいもんなー」


チリンと鈴の音が聞こえる。
三人で振り向くと猫の姿の未来が居た。
鈴のついた首輪をくわえている。
てててとこちらに向かってくるとその首輪をぽとりと俺の膝に落とした。


「おーどうした?」
『散歩に行く時に首輪をつけてくなら行っていいってお爺ちゃんと約束したのー』
「お、この首輪ちゃんとプレートついてんじゃん」
「これなら何かあっても大事だね」
『今日はお婆ちゃんとお散歩行くんだ』


未来に首輪をつけてやると海と夜久に交互に抱っこされて喉を鳴らしている。
てことは俺らに話があるのはじーさんってことか。
わざわざ未来を散歩に出すってことは未来に聞かれたくない話なのだろうか?


「未来ちゃん、待たせちゃったわね。さ、お散歩行きましょう」
『分かった!じゃあ行ってきます』
「おー気を付けてなー」
「お婆ちゃんに迷惑かけるなよ」
「楽しんでおいで」


洗い物を終えたばーさんが未来を呼びにきた。
ピクリとその言葉に耳を動かすとばーさんの方へとかけていった。
気付くとじーさんも研磨とゲームを終わらせている。
ちょっと待ってなと台所へと引っ込んだ。
新しいグラスに麦茶をいれたものが4つ。
それと日本酒の瓶とお猪口を盆に乗せて縁側へとやってきた。
俺らにグラスを渡すとよっこいせと縁側へと座る。
お猪口に日本酒を注いでそれをちびりと飲んだ。
静かにふうと息を吐く。
俺らはじーさんが口を開くのをじっと待った。


「未来を拾ったのはこの縁側の下じゃ。珍しく寒くて雨の日が続いてのう。気付いた時には未来以外はダメだったわ。生き物を飼ったことはわしもばーさんもなくてのう。いや、子猫の世話があれだけ大変だったとは思わなんだ。息子のことを思い出したわ」


ゆっくりとじーさんが話し出す。
昔話を語るように月を見上げながらしみじみと。
俺らは何も言わない。何故かまだ口を出す時じゃないって分かってたから。


「いつだっかのう?うちにきて2年くらいだったかの?未来が急に話すようになった。最初はカタコトでのう、驚いたがそれ以上に嬉しくもあった。大変なこともあったけどな。わしらの前以外で話してはならんと言うことを覚えてもらうまではヒヤヒヤしたものじゃ。それからまた一年がたったかのう?こんな満月の夜だったように記憶している」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

何時ものように月見酒をしていた。
珍しく隣にはばーさんも居て三人で月を眺めていたように思う。
突然未来が光ったんだ。ぼんやりと眩しくはない淡い光に包まれている。
わしとばーさんが話しかけても反応はしない。


「この猫の願いを叶えようと思う。主らはこの猫が人間になっても変わらず愛せるだろうか?」


わしとばーさんは驚いた。
いつもの未来の声じゃなかったからな。
目もどこか虚ろだった。


「本当に人間になれるんですか?」


先に声の主に反応したのはばーさんだった。
さすがわしの嫁なだけあって肝が座っている。


「出来る。但し条件がある」
「難しいことでしょうか?」
「否、それほど難しくはないであろう」
「あなた、未来ちゃんが人間になれるんですって。私は会ってみたいです」
「その条件を聞いても宜しいですか?」
「猫の寿命は人間とは違い短い。この猫が人間になろうとも生きて二十歳までだ。それでも宜しいか?」
「二十歳…」
「それはあまりに短いですね」


その条件を聞いてわしとばーさんは落胆した。
猫のままで居ても確かに頑張って生きて二十年だ。
しかし人間になって寿命が二十歳までしか生きれないとなると、それはそれでとても悲しいことだと思う。
わしらは直ぐには返事が出来なかった。


「何か、何か他にありませんか?人間になれても寿命が二十歳までなんて未来ちゃんが可哀相です」
「それでも人間になりたいと望んだのはこの猫よ」
「しかし、二十歳までしか生きれないとなるとあまりに悲しいです。どうにかならないんですか?」


ばーさんが問うた。
次は声の主が押し黙った。
その間は短いようで長く。わしは気が気ではなかった。


「ならば、この猫が二十歳になるまでにつがいを見つけよ。主ら以外の人間がこの猫を愛せるようになれば猫は人間になれるであろう」
「本当ですか?」
「是。嘘は言わない」
「ありがとうございます」
「難しいだろうがな」
「二十歳までしか生きれないよりは望みがありますから」
「良かろう。それを見守るとしよう。但し22時から4時は猫の姿になる。気を付けよ」


声の主はそう呟くと眩しく光った。
思わずばーさんと目を瞑った。それくらい眩しかったのだ。
気付いた時には人間の女の子が猫の居た所ですうすうと寝ておった。
わしらは慌ててそのこに適当な服を着せ布団へと寝かせた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

じーさんの話が終わった。
何の話をされるかは想像してなかったけどこんなに重いとは思ってなかった。
重たい沈黙が流れる。ま、そうなるわな。
じーさんだってその役目を俺達にやれと言ってるわけではないと思う。
あいつの秘密を知ったのならこれも話しておくべきだと思っただけだろう。


「未来は…未来はその話を知ってるの?」


長い沈黙を破って研磨がぽつりと呟いた。


「話しておらん」
「そう」


再び沈黙。
何かを言いたかったけど何を口にしていいのか分からなかった。海も夜久も似たようなものだろう。


「大丈夫じゃない?そんなに心配しなくても後五年ある。焦らなくていいと思う。クロも夜久くんも海くんも重たく考えすぎだよ。未来の世界は少しずつ広がってるから」


大丈夫じゃない?と最後に研磨は強く言い切った。
こいつの大丈夫がこれほどバレー以外でありがたいと思ったのは初めてだ。


「まぁ、そうだな。研磨に言われるとはな」
「だって事実だよ」
「確かに重く考えすぎたかもなー」
「もう少し気楽に考えても良かったんだな」


研磨の言葉に場の空気が少し和んだ。
じーさんもそうかと呟いて口元を綻ばせた。


「ダメだったら誰かがお嫁さんに貰えばいいんじゃない?」
「「「はぁ?」」」
「それもいいかものう」


研磨の言葉にじーさんが笑う。
俺達は一瞬呆気に取られたもののじーさんに釣られて何となく笑った。
そうならないようにちゃんと未来に恋愛なるものを教えてあげないとなぁ。


じーさんにお礼を告げて未来とばーさんが帰ってくる前に俺らは帰ることにした。
まぁそれぞれ考えたいこともあっただろうし、今日未来に会うのはやめておきたかった。


「あいつ恋愛とか分かるんかなー?」
「夜久もそう思う?」
「海も?」
「未来はまだ親愛しか知らないと思うよ」
「研磨が言うと説得力あるよね」
「どーするかなー?」
「まぁそれは俺らの頑張り次第でしょ」
「クロも頑張ってよ」
「まぁまぁ、七月にはまた合宿あるしどうにかなる」
「げ」
「クロ、未来が一人部屋の言い訳考えておいてよ」
「あー忘れてたわ」
「頑張れ主将」
「かーいーくーんー一緒に考えてくれますよねー?」
「まぁどうにかなるだろ」
「とりあえず夜久くんは未来の教育宜しく」
「俺?」
「一番なついてるし。人見知り直さないと」
「研磨にも直して欲しいところー」
「メンドイ」


帰り道、満月がぽっかりと俺らを照らしていた。
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