夜のお散歩

今日の夕御飯はスパルタだった。
黒尾さんは昼食を食べなかったことにご立腹だったらしくいつも以上に厳しく食べさせられた。
それに夜久さんと海さんまで参戦した。
ようやく半分食べた所で許しをもらったのだ。
お腹が重たい。
ずるずると身体を引きずりお風呂へと向かう。
そういえば夜の散歩最近してないなー。
ここにはお爺ちゃんもお婆ちゃんも居ないしなー。
少しくらいならいいよね?閃いた。


お風呂をあがり部屋に戻る。
少しだけ扉のドアを開けておいた。
これなら猫になっても外に出られるだろう。
合宿所の入り口が24時間開きっぱなしなのは知っている。
防犯的にどうなのかと心配したけど田舎では物騒なことは早々に起きないらしい。


時計を確認すると22時08分。
私もすっかり猫の姿だ。
消灯時間も22時とされているので廊下の外もひっそりと静まりかえっている。
これなら大丈夫だろうとするりとドアの隙間から外へ出た。
ひんやりとした空気で包まれている。


「未来ちゃーん、こんな時間に何処へ行くんですかー?」
『く、黒尾さん!』


次の角を曲がれば入り口だって所で黒尾さんに出くわした。
廊下の曲がり角に立ちどうやら私を待ってたようにも見える。


「クククッ、お前本当に分かりやすいんだな」
『どうして分かったんですか?』
「ばーさんに聞いた」
『えっ』
「俺、今日ずっとばーさんと連絡取ってたの。一応お前のこと報告しとこうと思って」
『それって全部ですか?』
「おぉ、全部伝えといた」
『何でそんな心配させるようなこと!』
「どっちにしろお前のじーさんとばーさんは心配してたろ。初めての県外、しかも泊まり。人様に言えない秘密を持ってるお前」
『…………だからって』
「だからこそこっち側にお前の秘密を分かってる人間がいるって言っておいた方がばーさん達は安心するだろうよ」
『でも』
「ちゃんと伝えといたから。お前の秘密は俺達で守りますって。昨日の夜なんか寝れなかったらしいからな」
『う』
「今日はぐっすり眠れそうだって言ってたぞ。んで、お前のお散歩癖の注意も受けたってワケ」
『なんで』
「方向音痴なことも聞いた。うちの周りの散歩だって最初はじーさんが付き合ってたんだろ」
『た、確かに』
「でも猫の姿で散歩するのは好きで」
『はい』
「暫く禁止してたからこっちでその癖が出ねーか心配してた」
『ぐ』
「迷子になっても困るしな、ほら行くぞ」
『黒尾さん、おろしてください』
「外までは俺が抱っこした方がはやいし」


一通りお叱りとお婆ちゃんとのやり取りを聞かせて黒尾さんは私を抱き上げた。
逃げれなかったことが悔やまれる。
外に出るとすんなりおろしてもらえた。


「さ、行くぞ」
『宜しくお願いします』
「車には気を付けろよ。後は人が通れない道に入ってかないように」
『はい』


久々の散歩だ!少しだけわくわくした。
知らない道を気ままに歩く。
言われた通り車には気をつけて。黒尾さんが付いてこれるように配慮して。
途中で野良猫とバッタリ遭遇した時はひやっとした。
でもひょいと黒尾さんに抱きかかえられて事なきをえた。


「そろそろ帰るぞ」
『えぇ』
「明日起きれなかったらまた夜久に怒られるぞ」
『それは嫌だ』
「コンビニでアイス買ってやるから」
『帰ります!』


腕の中にかかえられたまま頭をぐりぐりと撫でられる。どうやらこのまま帰るらしい。
あれ?でもコンビニって猫は入れないよね?
どうするんだろう?不思議に思っていたらパーカーのフードにいれられた。
黙っとけよの言葉とともに。
なるほど、これならコンビニにも入れるだろう。


『てっきり外で待っとけと言われるかと』
「そんなことしてお前が居なくなったらどーすんだよ」
『さすがに大人しく待っときますよ!』
「待ってる間に知らねーやつに連れてかれるかもしんないだろ」
『確かに』
「じーさんとばーさんに約束してんの」
『すみません』
「ほら、何食べるんだ」
『ガリガリ君食べたいです』
「明日朝ごはんちゃんと食べろよ」
『う、善処します』


コンビニに入って黒尾さんがアイスを買ってくれた。
そのままフードにいれられたまま合宿所への道を歩く。……正直少しだけ気分が悪い。
フードの中はゆらゆら揺れるのだ。


『く、黒尾さん』
「なんだ」
『酔った』
「おい、ちょっと待て!そこで吐くなよ!」


私の意識はそこで無くなった。
車とか電車は大丈夫だけどこの独特な感じの横揺れはダメだったらしい。


ふと肌寒くて意識が覚醒する。
あぁどうやら私はあのまま気絶したらしい。
吐いてないといいけども。
時刻は4時37分。部屋に戻ってきたらしい。
ぐぐっと伸びをする。裸だから寒いのだなと納得し服を着ようとして驚いた。
部屋の隅に座って寝息を立てる黒尾さんが居たからだ。
とりあえず服を着る。このまま起こしたらまた夜久さんから雷が落ちる。
そして黒尾さんに近付いた。


『黒尾さん、風邪ひきますよ』


起きない。どうしたものかと悩む。
このまま寝かせておくのは得策ではない。
しかし起きる気配もないのだ。
体調を崩されては困るのだ。
強引に肩を揺すってみた。少しだけぴくりと反応をする。
もう一押しだ。再び強く肩を揺する。
眉間に皺が寄りうっすらと目が開く。


『黒尾さん、風邪ひきます。布団で寝ないとダメですよ』
「あー、わりぃ。寝ちまったわ」


ごしごしと目を擦るも眠そうだ。
確かにまだこの時間では眠いだろう。
のそりと立ち上がると私のフトンヘト潜り込んだ。
それは私の布団なんだけども。


「さみぃ。未来ちょっとこい」
『はい』


黒尾さんに呼ばれたので布団へと向かう。
そのまま掛け布団を開けてくれたのでそこへ潜り込んだ。確かに寒い。そして私もまだ眠たいのだ。
暖を取るなら一人より二人。


「よし」


と、呟いて黒尾さんはまた寝息をたて始めた。
これ、また夜久さんから怒られたりしないかな?
まぁ、いいかと私も意識を手放した。


次回からお散歩は誰かに付き合ってもらおう。
そしたら誰にも心配かけなくてすむ。
東京に帰ってもお爺ちゃんと散歩へ出掛けよう。
でも二度とパーカーのフードには入らないと決意した。


次の日起きたら黒尾さんは居なかった。
どうやら一足早く部屋へと戻ったらしい。
なので夜久さんから怒られるようなこともなかった。
でも昼食中に昨日のことは内緒なと言われたのでバレたら怒られるんだろうなとなんとなく分かった。
昨日のガリガリ君をくれたので黙っておこうと思いました。
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