知れ渡る一日

お花見の次の日、初めての朝練に参加した。
早起きは結構得意だ。
1年の時に結構頑張ってた気がする。から
早起きからの朝の勉強。夜中まで勉強するより早起きしてからの方が効率が良かったのだ。
今年はそんなに勉強に専念することもないからこんな早起きするとは思ってなかったけど。


朝練が終わって丸井君と教室へと向かう。
周りの視線が少し痛い。
あぁそうか、柳君が言ってた気がする。
月曜には知れ渡ってると。


「凛、お前何考えてんの?」
『んー?丸井君が隣にいるなぁってしみじみ思ってただけー』
「なんだそれ。早く慣れろよ」
『まだちょっと緊張するよ』
「ドキドキしすぎて死んだりするなよ」
『そんなこと、ないよ。多分?』
「何で疑問系なんだよ」


二人で顔を見合わせて笑う。
廊下がざわりとしたけど気にしない。
私にはこんな丸井君のイメージしかないけど周りは違うんだよね。
ずっと周りに冷たくしてたって梨夏が言ってたもんな。


「丸井!凛!おはよー!」
「おしどり夫婦おはよー!」
『おはよう二人共』
「なんだよおしどり夫婦ってそれ」
「ちはる、おしどりって意外とおしどり夫婦じゃないらしいよ」
「そうなの?でもおしどり夫婦ってのは仲良しな夫婦のことでしょ?」
『ちはるちゃん!夫婦じゃないから!』
「今はまだな」
『まままま丸井君!』
「楽しみにしとく」
「私もー」


朝から何て恥ずかしいことを言ってるんだ!
顔が熱い。
三人してこっちを見てにやにやしてる。
反応を見て楽しんでるんだこれ。
丸井君もなんだか楽しそうにちはるちゃん達と笑っている。
あぁ、この笑顔が好きなんだなぁ。


「凛、お前一人で何嬉しそうに笑ってんの」
『丸井君がちはるちゃん達と楽しそうだなーって』
「は?」
「凛、あんたも混ざればいいのよ」
「そうだよ!一人で丸井見てにやにやしちゃってー」
『え、にやにやしてた?』
「「うん」」
『俺に見とれてたってことだろい?』


また三人が笑いに包まれている。
あぁいいなぁ。こういうの。
幸せだねぇ。


「お前ら、楽しそうなとこ水をさしてすまんがHRは始まってるぞ」
『あ』
「げ」
「「まじか」」


クラス全体にどっと笑いが伝染した。
ほんとに良いクラスだと思う。
四人で担任に謝った。


昼休み。丸井君にテニス部のみんなとお昼ご飯一緒に食べるかって誘われたけど断った。
差し入れだけみんなで食べてと渡しておいた。今日は生チョコレート。


「凛、良かったの?」
『え?何が?』
「丸井とお昼一緒に食べたら良かったんじゃないの?」
『ちはるちゃんと梨夏とも食べたいよ』
「凛ー可愛いこと言っちゃってー」
「丸井ちょっとしょんぼりしてたよ」
『え?そうだった?』
「ちょっとびっくりしてたとは思う」
「確かに」
『でも、他のテニス部の人達もいるから。気を遣わせちゃうかなって』
「嫌なら嫌って言うのがあいつらだと思うんだけどなー」
『私が梨夏とちはるちゃんを大事なように丸井君にもちゃんと周りの人を大事にしてほしかっただけなんだけど』
「ちゃんとそれ丸井に言ってあげなよ」
「うん、その方がいいと思う」


教室で三人仲良くお昼ご飯を食べる。
女子には女子の、男子には男子の付き合いがあると思うからそっちを優先して欲ただけなのになぁ。


「なんか落ち着かないよね」
「あー、今日ずっとだよね」
『やっぱり?ごめんね』
「凛が悪いんじゃないから」
「丸井が悪いってわけでもないんだけどねー」


授業の合間の休み時間から女子生徒が覗きに来ては去っていく。
今日ずっとだ。
中に入ろうとするこにはクラスの誰かしらが「誰に用事ですか?呼びますよ」と言うとみんな逃げてっちゃうから何が目的なのかはよく分からないけど。


「まぁ確実に凛を見に来てるよね」
『私もそんな気はする』
「丸井も全然態度変わったからなぁ」
「みんなびっくりしたんじゃない?」
『そんなに違うのかぁ』
「凛には想像つかないだろうねぇ」
「だろうねぇ」


教室の入り口がざわついた。
何だろう?女子生徒が見に来ててもこんなにざわつくことはなかったはずだ。


「だーかーら少し話をしたいだけって言ってるでしょ」
「だから誰と話したいのか聞いてるんだって」
「そんなのあんたに関係ないでしょ」
「呼んでくるから勝手に教室に入んなって言ってんの」
「何でそんなこと言われなきゃいけないのよ」


廊下側の一番後ろの席の男子。あれは青木君と同じサッカー部の上田君だ。彼が女子生徒と揉めている。あれは…斎藤さんだ。
梨夏とちはるちゃんが溜め息を吐いた。


『どうしよう、迷惑かかってるよね』
「あんたが迷惑かけてるわけじゃないんだからそんな顔をしないの」
『私に用事かな?』
「丸井が居ないのは見れば分かるだろうし」
「多分そうだろうね」
『行ってこようかな』
「「駄目」」
『えぇ』
「凛は行ったら駄目」
「とりあえず私が行ってくる。そろそろ上田がイライラしてそうだから」


そう言って梨夏が後ろ側の出入口へと向かって行った。
上田君と口論してた斎藤さんは梨夏に気付く。
二人がこっちを見ながら話している。
梨夏は終始笑顔を絶やさない。斎藤さんは不機嫌だ。
何を話してるんだろう?


「凛、生チョコ美味しいね」
『ちはるちゃん!こんな時に何をのんびりしてるの』
「梨夏が行くって自分で言ったんだから任せておけばいいの。ほらあーん」
『えっ』


口を開けたらそこに生チョコを放りこまれた。
あ、やっぱりチョコレートは美味しい。
自分で言うのもあれだけどほんとに美味しい。
ちはるちゃんの言うように梨夏に任せちゃっていいのかな?でも大丈夫かな?


「ただいまー」
「お、おかえりー」
『梨夏大丈夫だった?』
「全然平気ー」
「斎藤さん何だって?」
「聞いてないよ」
『え?』
「青木に告白した斎藤さんが何の用事ですか?青木にですか?って聞いたら去っていったよ」
「あはは!梨夏やるじゃん」
「上田も話にのってきたからさー」
『えっ?斎藤さん、青木君に告白したの?』
「始業式の日にねー」
「青木は断ったらしいけどね」
『そうなんだ、そしたら何の用事だったんだろ?』
「青木に用事ってわけじゃなさそうだったなー」
「ま、いいじゃん。生チョコ食べよう」
『あ、上田君にお裾分けしてくる』
「それがいい。あいつ今日頑張ってるから」


上田君に生チョコのお裾分けをしてる間にもひっきりなしに女の子達が来てる。
そんな至近距離で見られるとちょっと気まずい。
そんな私の気持ちを察してくれたのか上田君が扉をぴしゃりと閉めてくれた。


「椎名さん、あんま気にすんなよ。そのうちみんな飽きるだろうから」
『ごめんね』
「大丈夫大丈夫。おかげで俺、今日のおやつゲットしたから」


そう言って生チョコを指差し笑ってくれた。
本当にうちのクラスメイトはみんな優しい。このクラスで良かったなぁ。


「凛、上田と何話してんの?」
『あ、丸井君おかえり』
「お前の話だからナイショー」
「何だよそれ。気になるだろい」
「椎名さんに聞けばいいだろ」
『えぇ』


しみじみしてたら丸井君が帰ってきた。
さっきのことはあんまり話したくないなぁと思ってたら上田君が機転を利かしてくれる。
話が上手いこと逸れたので二人で席へと戻った。


「生チョコ、ビターとミルク両方作ってくれたんだな」
『真田君とか仁王君とかジャッカル君は甘いの苦手そうだから』
「おーみんな美味しく食べてたぜ。つーか喧嘩したのかって言われたんだぞ」
『何で?』
「お前が一緒に昼メシ食いに来なかったから」
『えぇ。私はただちはるちゃんと梨夏ともお昼一緒に食べたくて丸井君にも男同士の付き合い大事にしてほしかっただけだよ』
「あー。そういうことか」
『でも丸井君ともお昼一緒に食べたいからたまにお邪魔してもいい?』
「おう、お前だったら大丈夫だから。明日は一緒に食おうな」
『うん、心配させてごめんね』


まさかお昼一緒に食べないだけで喧嘩を疑われるとは。
予想もしてなかった。
丸井君は意外と彼女にべったりなのだろうか?もっとサバサバしてると思ってたのになぁ。
でも一緒にお昼食べたいって伝えたら嬉しそうに笑ってくれたから良かった。
遠慮しすぎだったのかな?


帰りのHRを終えて梨夏とちはるちゃんに挨拶して二人で教室を出たとこだった。


「ブン太」
「…何」


斎藤さんが居て丸井君を呼び止める。
丸井君の足が止まるから手を繋いでる私も自然と足が止まった。
斎藤さんの遠慮のないじろじろとした視線が痛い。


「ちょっと話があるんだけど」
「んで何」
「ここで話せって言うの」
「俺部活あるんだけど」
「直ぐ終わるから」
「俺は話すことねーよ」


アンタはいつまでここにいるのとでも言いたげな視線が私に向いている。
でも、私が先に行くなんて言っても丸井君は了承してくれないだろう。
だから言わない。こういうことからは逃げないって決めたのだから。


「そのこがブン太の彼女?」
「そうだよ」
「もう立海で彼女作らないって言ってたじゃん」
「誰のせいだよ」
「他校に彼女いるって言ってたし」
「あれは嘘」


丸井君の機嫌がどんどん悪くなってる。
これ私が聞いていい話なんだろうか?
でもここで丸井君と離れるのも良くないと思う。うーん、どうしよう。
口を挟めることでもないから丸井君の手を強く握った。
大丈夫だよ。私は何聞いても平気だよ。そんな気持ちを込めて。
丸井君はちらっと横目で私のことを見て手を握り返してくれた。


「何で」
「何が」
「あたしの方が絶対ブン太のこと好きだよ」
「で」
「何でそのこなの」
「お前に関係あるの?」


え?今、丸井君に告白したの斎藤さん?
ちょっとびっくりした。
こないだ青木君に告白したんじゃなかったの?
ちょっと意味がよく分からない。
呆気に取られているとガラリと目の前の教室の窓が開いた。
三人でそちらに目をやると、不機嫌そうな青木君と梨夏とちはるちゃんの顔。
その向こう側にも心配そうなクラスメイトが見える。


「斎藤さん、声でかすぎ」
「お前さーこないだ俺に告白したばっかなのにもうそんな感じなのー」
「青木に始業式に告白して一週間もたたずに丸井に告白ねぇ」


三人が辛辣な言葉を斎藤さんに浴びせる。
隣で丸井君が小さく「まじか」と呟いた。
斎藤さんは俯いてしまったので表情は分からない。


「凛、丸井!部活遅れるよ!」
「やべ、凛行くぞ」
『う、うん』
「お前らわりーな」
「気にすんな」
「たまたま聞こえちゃっただけだから」
「部活頑張ってねー」


行くぞと手を引かれたので一緒に歩き始めた。空気が重たい?かな?そろっと隣の丸井君の表情を伺うも硬いままだ。


『丸井君?』
「ん?」
『機嫌悪い?』
「凛に怒ってるわけじゃねーよ」
『それは分かってるよ』
「不安にさせたろ?」
『え?』
「いや、アイツのせいでさ」
『大丈夫だよ。不安になんてなってないよ』
「でもアイツ色々言ったろ」
『斎藤さんが言ったことは気にしないよ。丸井君が隣に居てくれたらそれでいいもん』


そうやって伝えると少し驚いた顔をしていた。
その後に吹き出して笑うから今度はこっちがびっくりした。


『え、何で笑うの』
「いや、わりー。お前がそんな強いと思ってなかった」
『私は打算的な女って伝えたでしょー?』
「それは絶対ないだろ」
『でも笑ってくれて良かった』
「あー心配させたか?ごめんな」
『心配はしてないよ。でも笑ってる顔のが好きだから。丸井君にはなるべく笑っててほしいなぁって』


あれ?返事が来ない?
隣を見ると顔を赤くした丸井君がいる。
え?何か私変なこと言った?


「俺、気付いたけど今初めて直接好きって言われた気がする」
『え?嘘』
「いや多分ほんと。やべーだろ。嬉しすぎる」
『言ってなかったっけな?』
「凛、もっかい言って」
『え、改めて言うの?』
「聞きてーの」
『う』
「一回でいいから。ちゃんと言って」
『丸井君のこと好き、だよ』
「俺も凛のこと好き」


丸井君の席が赤いのが伝染したみたい。
顔が熱い。
おかしいなぁ?言ってなかったかなぁ?
改めて言うのってなんだか凄い恥ずかしい気がする。
女子用の更衣室の前で丸井君と一端別れた。


斎藤さんのことがあったけど機嫌直ってくれたしギクシャクするとかじゃなくて良かった。
梨夏達を置いてきちゃったけど良かったかな?
まぁきっと上手くやってくれてるはずだ。
また明日にでも話を聞こうと思う。
さて今日も部活頑張ろう!

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