初めての二人乗り

朝の8時25分。凛を迎えにきた。昨日宣言したから約束通り今日は自転車。
あーでも手を繋げなくなるから毎日はやめておこう。


ガチャリと玄関の開く音がして昨日会った凛のお母さんが顔を覗かせる。


「あら!早いのね丸井君。おはよう」
「おはようございます」
「ちょっと待ってて頂戴ね。凛ー!丸井君来たわよー!」
「まだ時間に余裕あるので大丈夫です」


カラカラと音がすると思ったら二階の窓から凛が顔を出した。


『まままま丸井君!今日って制服?ジャージ?』
「休みの日まで制服は面倒だろぃ。ジャージで大丈夫だぜ」
『分かった!後ちょっと待ってて!』
「おう」


「ごめんなさいね。あのこほんとおっちょこちょいなのよ。今日も私はジャージでいいんじゃないのって言ったのに丸井君に聞くって言うから上から丸井君が来るの見てたのよ」
「そういうとこ可愛いと思います」
「あら!うちの娘を可愛いだなんてありがとうね」


階段を降りる音が微かに聞こえ凛が玄関から出てきた。
今日はポニーテールだ。見慣れてなくてドキリと心臓が鳴った。


『お待たせ!』
「おう、自転車に乗れよ」
『えぇ』
「いや、じゃねーと自転車で来た意味ないだろ?」
「凛、早くなさい。部活に遅刻しちゃうわよ」
『分かった』


そろりと凛が荷台に腰をかける。


「さ、いってらっしゃい」
『行ってきます』
「いってきまーす!」


俺はゆっくりとペダルをふみだした。


「凛!ちゃんと掴まっとけよ」
『わ、分かった』


そっと俺と腰に手を回す。
まぁこれなら大丈夫か?
俺も気をつけるけど頼むから落ちたりするなよ。
ふと、甘い匂いがした気がする。


「凛!今日の差し入れ何だ?」
『あれ?差し入れ作るって言ったっけ?』
「聞いてねーけど、なんか甘い匂いがした」
『今日はねーマドレーヌだよー。ノーマル味と抹茶味とチョコレートと味があるのー』
「抹茶とか柳が喜びそうだな」
『でしょー?後ねーお弁当もあるよ!』
「は?マジで?」
『あ、違うの!私が作ったんじゃなくてお母さんがね』
「凛のお母さんすげー張り切ってんな」
『今まで私が彼氏とか連れてきたのなくて、昨日丸井君が来て挨拶してってくれたのが相当嬉しかったみたい。うち一人っ子だからさ』
「今度うちにも遊びに来いよ!弟達に会わせてーし!」
『行きたい!丸井君の弟君達に会ってみたい!』
「昨日彼女出来たって三年前のチョコレートケーキのお姉さんだっつったら会わせろ会わせろうるさかったからな」
『じゃあ本当にケーキ作って行かなきゃだね』
「おぅ、宜しく頼むな」


自転車は川沿いを走る。
桜がすげー綺麗だ。
自転車もいいもんだな。二人きりの空間って感じする。


『お花見したいねー』
「だなぁ」
『桜が綺麗だねぇ』
「今日か明日部活終わったら夜桜でも見に行くか?」
『えっ?いいの?』
「お前そのいいの?って完全に口癖だよな」
『えぇ』
「いやほんとに。俺が何かするかって聞くたびにいいの?って聞いてくるもんな」
『わ、本当に?直した方がいい?』
「いや、気にすんな。俺お前のいいの?って結構好きだから。なんかちゃんと気遣ってくれてる感じするし」
『当たり前のことだと思うんだけどなー』
「いや、それが出来ねー人間もいるんだよ」
『そうなの?』
「そうなの。あ、俺人生初の二人乗りだ!」
『わぁ、いいねぇ』
「凛は?」
『私は二人乗りしたことあるー』
「は?」
『ちはるちゃんの後ろに乗せてもらったことあるよ?』
「あぁ片岡か。男は?」
『勿論丸井君が初めてだよー』


焦った。俺こんなに余裕ない人間だっけな?
前は違ったと思うんだけどなー。
何か昨日からちょいちょい調子狂う。
いや、狂わされてんのかな?
嫌じゃねーんだけどさ。


そろそろ立海の校舎が見えてきた。
自転車を止めて凛を降りるように促す。
真田に見付かったら怒られるどころじゃねーし。
残りの道を自転車をひいて歩く。


たまには自転車もいいもんだな。
さて、マドレーヌあるし弁当あるし今日も部活張り切るぜ!

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