一泊二日海合宿

俺は別に合宿をしようとは言ってねぇ。
海も大勢いた方が楽しめると思ってジロ君経由で氷帝、菊丸経由で青学を誘っただけなのに何でこんなことになったのかさっぱり謎だ。
金曜日の夜に跡部からの連絡網が回ってきて、その内容が水着とテニス道具一式と泊まりの準備をして朝七時に各学校に集合しろってことだった。
海に行くのにテニス?泊まりってなんだよ?と思いつつ幸村に確認してみればその通りにしろって言われたから準備をして翌日学校へ向かう。
そのまま跡部が寄越したリムジンに乗って着いた先は何故か飛行場だった。


『ブン太、海に行くんだよね?』
「おお、そのはずだけどこれどこ行くんだろな?」
『飛行機乗るってこと?』
「まぁそれ以外ねーよなぁ」


跡部の個人的な飛行場なんだろ、飛行機にリムジンが横付けされて促されるまま乗り込むと既に氷帝と青学のヤツらが全員揃っていた。


「やぁ、待たせたね」
「お前らが一番ここから遠いからな、この時間になるのは想定内だ。直ぐに出発するからさっさと好きな席に座れ」
「丸井くーん!凛ちゃん!こっちこっち!」
「お、ジロ君起きてんじゃん。凛行くぞ」
『うん』


凛の手を引いてジロ君のいる席まで進む。通りすがりに挨拶しながら席に着くと直ぐに出発アナウンスが流れた。


「んでジロ君結局どこに行くんだ?」
「んーと、八丈島?って確か跡部が言ってた〜」
『え』
「八丈島ぁ?」


ただ海で泳ごうって話がいつの間にかスケールがでかくなってる。跡部を誘った時点でこうなるのもわからなくはねぇけど八丈島に行くとかそこまでしたいとは俺言ってねぇぞ。
八丈島へは一時間くらいで着いた。


「海っす!すげぇ綺麗ですよ!凛先輩!」
『わぁ、ほんとだねぇ』
「赤也!迷子になるなよ!」
「なりませんって!うわ、すっげぇ!」


海に行きたいって言い出した張本人の赤也は八丈島の海を見て大はしゃぎだ。
確かにすげぇ綺麗だけど、多分直ぐには泳げねーぞ赤也。海はオマケで俺達テニスをやらされる気がする。まぁ来月には全国大会もあるしそれも仕方ねぇか。


「先ずは荷物をホテルに置いてそれから昼食だ。その後テニスをする」
「えー跡部さん本気ですか」
「駄目だよ赤也。あくまでもテニスが主体なんだから」
「来月全国大会があるんだから遊んでばかりはいられないってことですね」
「じゃあ海では泳げないってことっすか?」
「練習終わったら泳ぎに行けるよ」
「へーい」


幸村の言葉に赤也は渋々納得したみたいだ。バスに乗り換えてホテルへと移動する。
部屋割りは一部屋二人だ。凛は藤堂と同じ部屋。俺と凛一緒でも良くね?そうやって跡部に言ったのにさくっと却下された。お前だって藤堂と同じ部屋で問題なかったろー?
んじゃどーすんのかと思ったら俺達は何故かくじを引かされた。
氷帝と青学は男子が九人ずつだからそれなら全員でくじ引きして決めれば良いって部長達の話し合いで決まったらしい。
これ跡部と一緒になったら藤堂こっち寄越して俺が凛のとこ行けばよくね?


「丸井、お前何番?」
「あー4」
「んじゃ俺と一緒だな!」
「向日とかよ」
「何だよその顔。俺じゃ不満なのかよ!」
「あーわりぃ、向日が悪いってわけじゃねーよ」
「はぁ?」


くじ引きだから跡部と同じ部屋になる確率のが低い。それでも当初の目的を果たせなくなって少しだけ落ち込んだ。
まぁ跡部と一緒だとしても俺の提案が却下されてた可能性は高いしそれなら向日と一緒で良かったかもなー。そう自分を納得させる。
部屋のカードキーを渡されて向日と部屋に荷物を置きにいった。


「いやそれお前どう考えても無理だろ」
「良い案だと思ったんだよ」
「跡部が許すわけねーよ。アイツその辺しっかりしてるから」
「まぁな、俺も後から気付いた。んでそれなら跡部じゃなくて向日で良かった気する」
「だろだろ?こんな機会滅多にないんだから楽しもうぜ丸井!」
「つっても今からテニスだけどな」
「そこまで激しい運動はしねぇって跡部言ってたぞ?」
「かと言ってこのメンツで軽い打ち合いで済むと思うか?」
「あーねぇな」
「だろい」


着替えてテニスラケットを持ってホテルの下に集合すると即座にバスに乗らされた。島内の移動は全部このバスですることになりそうだ。


「は?ダブルス?」
「跡部と手塚と話したんだけど、今日は同じ部屋同士で組んでダブルスの試合をすることになったよ」
「それって確実に亮達が有利だろ」
「あー宍戸と鳳同じ部屋だもんな」
『ブン太は向日君とダブルスするの?』
「おお、そうなるな。足引っ張んなよ向日」
「そっくりそのセリフお返ししてやるよ!」


しかも負けたチームに乾汁の罰ゲームとか。クソ、ぜってーに負けたくねぇ。
柳と乾のペアも要注意だし、何なら幸村越前ペアもキツ過ぎんだろ。跡部も手塚とペアだぞ?
部屋割りのバランス悪すぎ!つーかどのペアとやってもキツい気がしてきた。


『ブン太頑張ってね、向日君も』
「おお、ぜってーに勝ってやる」
「相手がジローと菊丸なら勝ち目あんな」
「アクロバットで菊丸に負けんなよ」
「俺が負けるわけねーだろ!」


菊丸の分身に手こずったものの初戦は向日と何とか勝てた。
つーか、今更気付いたけどこれ凛との時間全然取れなくね?テニスをしてる間凛は藤堂と動き回っている。
二十六人を二人で見なきゃなんねぇから仕方無いのはわかってるけど面白くねぇ。
そんなんで挑んだ二回戦はあっさり幸村越前ペアに負けちまった。あ、これ幸村に怒られんな俺。


「丸井」
「っと悪い集中出来てなかったわ」
「わかってるならいいよ。次の試合は大丈夫だよね?」
「おお、ちゃんと集中する」
「怒られてる丸井さんとか新鮮ですね」
「真田とかなら有りそうだけど相手が幸村だしなぁ」
「お前ら全部聞こえてんぞ」


結局、軽い試合になんてならねぇんだよな。乾汁飲みたくないっつーのもあるけど俺達が集まったら勝ちにこだわるのは当たり前だ。
全ペアが三試合やったとこでテニスの練習は終わった。普段組まない相手とやるダブルスの試合はいつも以上に疲れた気がする。


『お疲れ様』
「おお、お疲れ」
『疲れたブン太?』
「あーまぁちょっとな」
『今から海だけど、自由行動なんだって』
「海強制じゃねぇの?」
『結華ちゃんは跡部君とリラクゼーション?って言ってたよ。手塚君は何人かと森に行くって言ってたし』
「ふーん、まぁ俺達は海で良くね?赤也の当初の目的でもあるし」
『う、やっぱりそうなる?』
「いい加減腹くくれって凛ー。あの水着すげぇ似合ってんだからさ」
『わかってるけどやっぱり恥ずかしいよ』
「んなもん慣れだ慣れ」


まぁ俺がお前の水着姿自慢したいのもあるけどな。あんまり言うと余計に照れるだろうから止めといた。砂浜行きゃ水着姿の女子ばっかだし直ぐに気にならなくなんだろ。
バスでホテルまで戻って直ぐに自由行動になった。こんだけ暑けりゃ暗くなっても海は楽しめそうだ。
跡部がすげぇのは自由行動の数に合わせてバスも用意されてたってことだ。
海に行く組、リラクゼーション組、森組、温泉組計4台並んでた。
海に行く人数が一番多いけどな。俺達立海と桃城越前菊丸、それにジロ君向日宍戸鳳。この数いりゃ楽しめそうだよなー!
何なら夕飯は海沿いの店でバーベキューするから結局最後は全員海に集まることになりそうだ。


「来たぜ海!」
「やっぱ神奈川の海より綺麗っすね!」
『凄いねぇ』
「丸井くーん!一緒に遊ぼー!」
「おお!せっかくだしみんなで遊ぼうぜ!」
「おいジロー!先に一人で行くなよ!迷子になるぞ!」
「宍戸さん俺パラソル借りてきます」
「では俺も一緒に行くとしよう」
「あ、ありがとうございます柳さん」
「海組の予算管理は俺が任されているからな。構わない」
「あ!そんなら俺も行きますよ!」


柳が鳳と桃城を連れてパラソルを借りに行った。真田と幸村はどこを拠点にするか二人で話し合ってるところだ。


「丸井先輩!早く海に行きましょうよ!」
「ちょっと待てって、先にどこ集合か決めとかねーと後で困るぞ赤也」
「そんなの直ぐにわかりますって!目立ってるとこ戻れば誰かしらいますし!」
「まぁそりゃそーだ。んじゃ凛行くか」
『え?』
「水着下に着てんだろ?脱ぐだけで海行けるじゃねーか」
『えっとそれはそうだけど』


まだ脱ぐのに抵抗あんのか?周り見てみろよ、水着の女子だらけだぞ?
そうこうしてるうちにパラソルを持った柳達が戻ってきた。幸村に言われて早速設置している。
荷物もここに置いときゃ問題ないだろ。仁王は泳ぐ気がないのか早速日陰に避難して寝転んでいる。


「凛先輩!海行かないんすか?」
『え、行くよ。うん、行く』
「んじゃ俺先に行ってるっす!桃城海まで競争しよーぜ!負けた方がかき氷奢りな!」
「乗った!負けらんねーな!負けらんねーよ!」
「何々?かき氷?俺も勝負に参加する!おチビも行くよね?」
「俺は別に」
「自信がねーのなら参加しなくていいぞ越前!」
「…そんなこと言ってないです」
「俺も行くCー!」


凛がまごまごしてるうちにジロ君を含めた五人は服を脱ぎ捨てて鳳のスタート合図で海に走ってった。
赤也、あいつ上手いこと越前のこと煽ったな。


「脱がねーなら俺が脱がしてやるぜ」
『脱ぐ!自分で脱げるから』


パイル生地のセットアップのジッパーに手を伸ばすと慌てて止められた。ちぇ、脱げねーのなら脱がしてやるのに。


「丸井、あんまり急かすと椎名さんが余計に脱ぎにくくなるよ」
「気にしすぎだろい?」
「そう急かしてやるなってブン太」
『ごめんね、脱ぎたくないとかじゃなくて』
「それはわかってるって」
「あの、ちょっといいですか」
「あ?どーしたんだよ鳳」
「下に水着を着てるとは思いますがあそこに更衣室があったので」


向日と宍戸が海に向かっていく後ろで鳳が振り返る。パラソルの貸し出しをしていた小屋の方を指差して更衣室を教えてくれた。
あぁ、水着になることじゃなくて脱ぐことに抵抗があんのか。


「鳳ありがとな」
「いえ、藤堂さんも前に似たようなことで跡部さんと揉めてたのを思い出しただけです。じゃあ俺も海に行くので。柳さん荷物頼みます」
「気にしなくていい」
「んじゃ俺達も行くか凛」
『え?』
「いいから行くぞ」


それならそうやってさっさと言えば良かっただろ?鳳の提案に一瞬ムカついたもののあいつすげぇ、フォローまで完璧だった。おかげでイライラせずに凛を連れ出せた。ぐいぐいと引っ張っていき空いてる個室に凛を押し込む。


『ブン太、大丈夫かな?』
「おお、すげぇ可愛い。ほら早く行くぞ!赤也達待ってんだから」
『う、うん』


着替えたであろう凛が更衣室から顔を覗かせる。その手を取って引っ張り出すとすっかり水着姿だ。なんだよ、やっぱ変なとこなんて一つもないだろ。俺が選んだ水着なんだから似合って当たり前だ。


「ブン太、お前が椎名の水着選んだのか?」
「おお、可愛いだろい?」
「似合ってるとは思うけど、彼女のこともう少し考えて水着を選ぶべきだったとは思うよ」
「は?なんでだよ」
「椎名さんが脱ぎたがらない理由が何となくわかりましたので」
「似合ってんなら問題ないだろ?」
『ブン太、大丈夫だから早く海に行こう』
「そうだ、浮き輪もいくつか借りてきたから椎名も使うといい」
『柳君ありがとう』
「丸井、しっかりと赤也達に準備運動をさせるんだ」
「おお、りょーかい」


好きな女に自分好みの水着着せて何が悪いんだよ。そこまで過激な水着じゃねーし問題ねぇよな?まぁそのせいで凛の口数が減ってる気はするけど。
あーでもこの恥ずかしがってる顔までは考えてなかった。お前そんな顔他の男に見せんなって。そこはちょっと反省するか、ちょっとだけ。


「悪かったな」
『え?』
「もう少しお前の好みも聞くべきだったとは思う」
『あ、でも嫌とかじゃなくてね。その水着なんて本当に久しぶりだから』
「余計に恥ずかしいんだろ?」
『そうかも』
「そこまで想定してなかったからごめんな」
『あ、でも大丈夫だよ。ブン太が言ったみたいにそのうち慣れるはず。水着も可愛いし』
「んじゃその顔さっさと元に戻せよ凛」
『そんな変な顔してる?』
「変な顔じゃなくてその顔他の男に見せたくねーの」
『え?それどんな顔してるの?』
「や、戻ってきたからいいわ。もう気にすんな」


周りに凛より派手な水着を着てる女が沢山いる。そのおかげか赤也達のとこ向かってる最中に緊張はだいぶ解れてきたみたいだ。
余計なこと言ってまたあの顔されても困るしもう色々言うのは止めといた。


「凛先輩それ新しい水着っすか?」
『うん』
「すげぇ似合ってますね!」
『わ、ありがとう赤也君』
「何で赤也が褒めんのは普通に嬉しそうなんだよ」
『ブン太に褒めてもらえるのも嬉しいよ!ちょっと恥ずかしいだけで!』
「丸井先輩凛先輩、イチャイチャしてないで早く泳ぎに行くっすよ!」
「赤也、ちゃんと準備運動しろって真田が言ってたぞ」
「俺達はもう準備運動終わってますよ!走ってここまで来たんですから」
「んじゃま、いっか」
『いいの?』
「いいのも何ももう海に入ってんだから今更感あるだろい」
『あー確かに』


俺達を見付けた赤也が駆け寄ってきて凛の水着を褒める。
あまりに赤也がさらっと褒めたからか凛は大して照れもせずそれを受け入れた。
赤也は言いたいこと言って波打ち際に戻ってった。あ、越前に足引っ掻けられて盛大に転けてやんの。


「んじゃ俺達も行くか」
『準備運動はいいの?』
「遠泳とかしなけりゃ問題ねーだろ。お前には浮き輪があるし」
『そっか、わかった。足つらないようにねブン太』
「大丈夫だって!とりあえず浮き輪は置いて行くぞ凛!」
『わかった』


凛のための浮き輪を赤也達のであろうビーチサンダルの近くに置いて俺達もそれに習う。俺が凛を誘えばようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
後はめいっぱい海を楽しむだけだな!


「後からビーチバレーしようぜ!」
『え、本気?』
「負けたら乾汁ですか丸井さん」
「越前!余計なこと言うなって!」
「面白そうじゃねーか、俺達も参戦しようぜ長太郎」
「やるからには勝ちましょうね宍戸さん」
「俺も俺も!丸井君と勝負するC〜!」
「ジローあんまり飛ばし過ぎると夕飯前に眠くなんぞ」
「んじゃ俺は切原と参戦すんね!」
「菊丸さんとですか!?」
「ほらもうペア出来上がってんよ?」
「んじゃ俺は凛と参加な」
『え?本気?ブン太本気なの?』
「お前の分のハンデ貰ったら余裕だろい」


久しぶりの更新。わちゃわちゃさせるの本当に楽しい。
後編に続く。
2020/01/18

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