進路相談

「進路相談だよー」
『個人面談だね』
「んで、青木からっつーことな」
「まぁケースケもこのまま立海大かな」
『じゃあきっと面談直ぐ終わりそうだね』


ちはるちゃんはさくっと青木君のことを名前で呼ぶことにしたらしい。
照れもなく慣れたらしいから凄いなぁ。私がブン太を呼ぶ時って凄い恥ずかしかった気がする。
卒業後の最終的な進路相談と言うこと別室で順番に担任との個人面談が始まった。
他は自習だと言われたけどそれぞれ騒がしく進路をどうするのか話している。


「んで、凛と丸井は専門学校なんだよね?」
『そうだねぇ』
「おお、小学校からの夢だからなー」
『梨夏とちはるちゃんも立海大?』
「勿論!立海大もバレー強いし」
「私も推薦貰って立海大かなー。まだ具体的にどこの学部にするか決めてないけど」
「お前急がねぇとあっという間に推薦入試くるぜ」
「だよねぇ」
『そのための個人面談でしょ』
「「「確かに」」」


大学は学部も決めなきゃいけないから大変なんだろうなぁ。その点私とブン太が行く製菓専門学校は一年目はそういうの無いからなぁ。
二年になる時に細かく分かれたはずだ。


「凛と丸井はいいよねぇ」
『え、何で?』
「お前だって青木と大学一緒だろい」
「学部が違っちゃうんだよね?」
「多分そうなりそう」
「別に大学は一緒なんだから好きな時に会えるだろ」
『そうだよちはるちゃん!大丈夫だよ』
「そうだよ、丸井と凛の言う通りだよ。それに青木はそこそこモテるけど今はちはる一筋だから心配しなくても大丈夫」
「そこそこってのがリアルだな」
『梨夏はばっさり言うなぁ』
「そうだよね、大丈夫だよね」


ちはるちゃんが女の子女の子してるのは珍しいなぁ。それが可愛くてほのぼのしてしまった。
私達の言葉にちはるちゃんは不安そうな表情を和らげてくれる。


「それにお前青木の好みにぴったりだからな」
「え、何それ」
「あたしもそれ知らなーい」


ブン太の言葉に二人が食いついた。ブン太はブン太で(ヤバい)みたいな顔してるしきっと言ってはいけなかったことらしい。


『二人は希望の学部とかあるの?』


ぐいぐいとブン太の口を割らせようと二人が詰めよってるので話題の矛先を変えることにする。私が発言したことによって二人ともこちらを向いてくれてその後ろからブン太がごめんと口を動かすのが見えた。


「あたしは教育学部かなぁ」
「あぁ、お前教えるの上手いもんな」
『梨夏に似合ってると思う』
「んで、片岡は?」
「まだ全然。文系が良かったんだけど」
「「あー」」
『ちはるちゃん国語苦手だもんね』


あの成績じゃ文系だとかなり頑張らないと厳しいんじゃないかなぁ?
けど理学部や工学部のちはるちゃんってのも何かピンと来ない。バレーの推薦だろうしスポーツ系の学科だろうな多分。
そうやって四人でちはるちゃんの学部をあぁでもないこうでもないと話してたら自分の番がやってきた。名簿順かと思いきや完全にランダムらしい。


『失礼しまーす』
「椎名なー。えぇと丸井と同じ駅前の製菓の専門学校が希望だったよな?」
『はい』


前の人に呼ばれて別室まで向かう。入室して担任の前の椅子に座ると何やらがさがさと資料を取り出してる所だ。そんなに沢山の資料必要だっけ?


「あーお前さ、九月からベルギーの製菓学校に行く気は無い?」
『え』
「ホストファミリーのなんだっけな?ペータースさん?あの人から問い合わせがあったんだよ」
『えぇと』
「あの人ショコラティエだっただろ?学年一位だからってホストファミリーの職業まで指定してきたよなお前」
『はい』


せっかく一年留学出来るのだからと駄目元でホストファミリーの職業まで指定させてもらったのだ。それが叶うとは思ってなかったけど学校は私の願いをさらっと叶えてくれた。
おかげで語学留学だったにも関わらずショコラティエの勉強まで出来てかなり楽しかったのを覚えている。
ペータースさんも嬉しそうにショコラティエの技術を教えてくれたし。
かと言って担任の突然の提案にかなり驚いた。九月って後二ヶ月半しか無いよ?


「それで良かったらまたペータースさんの所でホームステイしながら本場で学ばないかって連絡が来たんだよ」
『あの、でも』
「幸いまだ二ヶ月半あるだろ?それで単位取得して卒業前倒しにしてベルギーに行けば九月に間に合うからな」
『先生、でも』
「直ぐに答え出さなくてもいい。と言っても今月中には出して欲しいけどな。残り二ヶ月で単位取得するのもギリギリになるだろうから。まぁ椎名は優秀だから心配はしてないけどな」


「よく考えて決めろよ。お前が悩む気持ちも分かるから。ま、30日にでもまた面談するか。資料はどーする?ペータースさんが向こうの学校の送ってくれたんだよ。持ってくか?」
『でも』
「あーんじゃこれは家に送ってやるよ」


『無理です、行かないです』と即答することは出来なかった。言うのは簡単だったのに、断ってしまえばその話も無くなるのに。
ブン太がいるのに海外には行けない。私のその言葉を遮るように担任は矢継早に説明をして私の肩をポンと叩くと「次は委員長なー」と呑気に言うだけだった。


ショコラティエにはなりたい。なるからには一流のショコラティエになって将来的にはお父さんと一緒にお店に立ちたい。
そこにブン太が居てくれたらもっと嬉しい。
きっとそしたらうちのお店はもっと常連さんが増えると思う。
けれどここで私がベルギーを選択したらどうなるんだろう?きっと私の隣にブン太は居ないんだと思う。
せっかくブン太が私のことを好きになってくれたのにこの関係が崩れるのは嫌だった。
製菓学校にいってからでも海外留学の制度はあるはずだ。けれどそこにベルギーはあっただろうか?
さっきは何の心配もせずにちはるちゃんのフォローをしたけれどまさか自分にそんな不安が襲いかかるとは全く思いもしなかった。


ベルギーへのショコラティエとしての留学はかなり魅力的だ。ペータースさんの作るチョコレートはどれもが素敵でまたいつか会いに行きますと約束して帰ってきた。けどこんなに早く行くとは想定外だ。
それにブン太とは一緒に居たい。この二ヶ月半とっても楽しかった、幸せだった。
私と同じくらいブン太が自分のことを好いてくれている。そんな大好きな人と離れるなんて出来るんだろうか?
教室まで自問自答をぐるぐると繰り返す。
これは誰にも言えない。自分で決めるまでは両親にさえ言えない。ブン太には特に知られたくない。担任はきっと余計なことは言わないだろう。それなら私も決めるまでは隠し通さなくちゃいけない。
教室に入る前に一旦深呼吸をする。今月末まで後半月。誰にも言わないと決心して扉を開けた。


『ただいま』
「おーおかえり!どうだった?」
『問題無しだから直ぐに終わったよ』
「凛なら当たり前だよね」
「そのわりに長く無かった?」
『色々チョコレートの話になっちゃって』
「酒呑みの癖に担任も甘いもん好きだもんなー」
「ビールのつまみに生チョコとかよくわかんないよね」
「あ、分かるそれ。うちのお父さんも辛いものの方が良いって言ってたし」
『うちのお父さんもだよー』
「あーうちの親父もそんな感じ」


梨夏の言葉に心臓が跳ねるも特に怪しまれることなく会話が弾む。それからお酒のつまみにそれぞれの親は何を食べるか談義に話がそれていった。
一口ビールを味見したことがあるけれどあれは美味しくない。私達の出した結論はみんな同じだった。ビールは美味しくないけれどビールを飲みながらつまみを食べてる大人は楽しそうだと。


「俺もバッチリだったぜ!」
『それなら良かった』
「二年からコース分かれちまうな」
『あの学校はちゃんとショコラティエのコースあるからね』
「俺も」
『ブン太はパティシエでしょ』
「ちぇ、まぁ冗談だけどな」
『うん、知ってるよ』
「なんだよ、つまんねぇの」
『小学校からの夢ってさっき言ってたでしょ!』
「そーそー。んで最終的に凛の親父さんとケーキ作って賞貰うのが俺の今の夢な!」
『壮大な夢になってきたね』
「そんくらいしねぇと悪いだろ」
『何が?』
「や、俺の話」


そんなことうちのお父さんは気にしないよ。
こないだだってブン太が挨拶に来てくれたことをかなり喜んでたし。尚且つパティシエになりたいって言うからもう大喜びだった。
あぁ、やっぱりブン太とは離れたくないなぁ。こうやってブン太の将来に自分がいることがとても嬉しい。ずっとこうしてたい。


家に帰るとペータースさんからエアメールが届いていた。
帰ってからもメールでやりとりはしていたけどまさかエアメールで直筆の手紙が届くとは。
そこにも丁寧にベルギーへの留学のお誘いの言葉が綴られている。
後二週間でどうするか決めなくちゃいけない。
明日の差し入れを作りながら考えてみても直ぐには答えは出そうになかった。


2019/02/06

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