土曜の肉の日

あっちこっちで騒がし過ぎるだろい。跡部がうちと氷帝、青学、不動峰、山吹、ルドルフ、六角のレギュラー全員呼んだのが原因だ。
ま、ただで良い肉食えるからいいんだけどよ。


「凛、この際跡部と藤堂しか居ねーし聞いちまえよ」
「何の話だ丸井」
「えー?凛ちゃん何々ー?」
『あれ本気だったの!?』
「今のうちに聞いとかねぇとそのうち誰かしら乱入してくんぞ。あ、藤堂その肉それで食えるからな」
「まだ赤くない?」
「タンはそんくらいでいいんだって。焼きすぎると固くなる」
「じゃあはい景吾」
「あぁ。それで俺と結華に何の話があったんだ椎名」


最初はタン塩からと言う俺らの意見を聞き入れてくれたので今は藤堂と凛が肉を焼いてくれている。なんつーか人に焼いてもらうのもいいもんだよな。野郎ばっかだと肉の取り合いになるし。藤堂も凛も各々俺達の皿に焼いた肉を置いてくれるからかなり楽チンだ。
んで必然的に暇になった結果昼間の話をしてみることにした。
凛の動きが止まったからその手からトングを引ったくって代わりに俺が焼いてやることにする。藤堂は俺の言葉に首を傾げてるし跡部は何だか怪訝そうな表情だ。
隣の凛の顔は見なくても想像出来る。ぜってぇに困ってると思う。


『えぇと、その』
「何か困ったことでもあったのか?」
「あー跡部それは違え。そういうんじゃねえから安心しろ」
「じゃあどうして凛ちゃんそんな困った顔してるの?」
「照れてるだけじゃね?」
「「?」」
『ブン太!何で言っちゃうの!』
「全然意味分かんないんだけど」
「丸井、お前が説明した方が早いだろ。面白がってないでさっさと言え」


っと、もうちょっと凛の様子見てたかったのに跡部に急かされちまったぜ。
そういやこいつらってその辺どんな感じなんだろな?ま、いいか。聞かれたから素直に答えてやるか。


「凛がさ、キスマーク嫌がるんだよ。んで」
『嫌がったわけじゃないよブン太!?』
「あーそうだったな。困るって言うんだけど別にそんなこと無いだろい?んで周りの友達に聞いてみろって話になったわけ」


お、これもちょうど良く焼けてんな。大体焼けてるからそれぞれの皿に乗せてやる。次は何から焼くとするかなー?やっぱ特上カルビだよなー?ロースも食いてぇから半々で焼くことにするか。つーか何で藤堂のトングまで止まっちまったんだ?肉と網しか見えて無かったから顔を上げると藤堂が固まっている。どことなく顔が赤くなってるような気がするのは気のせいじゃねぇよな、多分。


「キスマークなんざ付ける必要がねぇだろが」
「そーか?」
「結華は俺のもんって決まってるからな」
「まぁお前のとこはそうだろうけどそれとこれとは違うだろ?」
「おい結華手が止まってるぞ、ちょっとそれ俺に貸せ。それとこれって別に変わらないだろ。要は自分がどうしたいかってことだからな。なんだ、丸井は椎名とのこと考えて無いのか」
「や、それは考えてっけどそれとキスマークはまた別だろい?」
「あぁ、単なる独占欲か」


相変わらず凛と藤堂は黙ったままだから今度は野郎二人で肉を焼くことになった。藤堂の顔はさっきより赤くなってる。コイツ意外とテレ屋なのかもなー。


「その方が周りに対して牽制にもなんだろ」
「それはそうだが女の嫌がることはするなよ丸井。ま、この態度見てれば周りへの牽制なんざ必要ないと思うがな」
「そりゃ真剣に嫌だって言うならしねぇけど…や、無理かもなー。あー結局独占欲か。でもどっちにしろ止めるのは無理かもなー」
「まるっきり自分勝手じゃねぇか」
「誰かさんがうちの彼女に手出しそうになったせいだろ絶対に」


真剣な表情の跡部と視線が重なる。俺だって本気で言ったわけじゃないからどちらかともなく表情を崩すことになった。ま、今じゃ笑い話だよなほんと。


「椎名、嫌か嫌じゃないかどっちなんだ」
『え』
「キスマークの話な凛」
『嫌、じゃないよ』
「じゃあ慣れろ。女の嫌がることはしちゃいけねぇが嫌じゃないのなら好きな男の好みに合わせるのも女の務めだ」
『う、うん。分かった』
「跡部のおかげで許可出たぜ、やりい!」
『結華ちゃんは?』


あ、そういや藤堂は黙ったまんまだったな。跡部の隣の藤堂を見ると凛に名前を呼ばれてハッとした所だ。


「私?」
「もっと分かりやすく質問をしろ椎名」
『もしキスマーク付けられたらどう思うのかなって』
「景吾に?」
「そりゃ跡部以外居ないだろ」
「俺様はそんなことしないがな」
「されたことないけど、いいなとは思ったかも」


藤堂の言葉に今度は跡部が固まった。わ、こんな跡部見んの初めてかもしんね。
固まっのは一瞬で直ぐに表情を戻してしまう。ちぇ、つまんねーの。


『そっか』
「ほらな!跡部もあぁ言ってたしもう気にすんなよ」
『別にそんなに気にしてたわけじゃ!』
「思いっきり気にしてただろい」
「あ、景吾ごめんね。私が焼くよ」
「あぁ」
『私もやるよブン太』
「んじゃ宜しく頼むな凛」


周りはあちこち相変わらずすげぇ騒がしい。なんだっけな?昔もこんなことがあったらしい。あの時は全国の決勝の前って言ってたか?


「失礼します」
「観月か、どうした」
「僕もここにお邪魔してもいいでしょうか」
「おーいいぞいいぞ」
「何かあったのか観月?」
「えぇ、ほんの少しだけですが。えぇと貴女は跡部君の婚約者の方でしたね」
「藤堂結華です」
「んでこっちは俺の彼女な」
「椎名さんのことは承知してますよ丸井君」


誰かしら乱入してくるとは思ったけど一番が観月だったとは予測してなかった。ほんの少しって何やってんだろな?


『それで観月君は何があったの?』
「不二君と同じテーブルで焼き肉を食べていたんですがそこに大石君と赤澤がいましてね」
「大石か…」
「景吾何か知ってるの?」
「アイツ焼き肉には拘っただろ」
「えぇ。ついでにうちの部長もそんな感じですので」
「焼き肉奉行二人に挟まれて大変だったってことですか?」
「それにあの不二君ですからね」


不二の味覚は変わってるって確か柳が言ってたような気がする。焼き肉奉行がいると途端に面倒になるんだよなー。うちも真田がそれに近いことするから気持ちは分かるような気がする。


「俺もお邪魔していいー?」
『あ、千石君』
「お前は何があったんだ千石」
「俺?何にも無いけど可愛い女の子と焼き肉食べた方が美味しいと思ってさー。あ、他意は無いからね!ちゃんとその辺は俺分かってるし」
「お前は相変わらずブレねぇよな」
「向こうは勝負が始まっちゃったしね」
『「勝負?」』


千石の言葉に凛と藤堂の言葉が被った。そして千石が説明してやっている。聞くところによると三年前にも似たような勝負をやったらしい。皿を消化するたびに乾汁とかぜってぇに嫌だ。跡部も千石の話を聞いて表情がひきつってるし、何か嫌な思いしたのか?


「僕は避難しておいて正解でしたね」
『乾汁ってそんなに不味いの?』
「不味いで済んだらまだマシなレベルって菊丸が言ってたぞ」
「俺は二度と飲みたくねぇな」
「景吾がそんなこと言うなんて相当だね」
「俺も絶対に嫌だったんだよね〜亜久津が飲むってのなら見たかったけど」
『あ!』
「どうしたんだよ凛」
『亜久津君にお礼言ってくる!』
「亜久津にお礼なんて別にいいよ凛ちゃん〜」
『いやいや、それは駄目だよ。千石君もあの時はありがとう。南君にもお礼してくるね!ブン太いってくるね』
「おお、乾汁の被害に合う前に戻ってこいよ」
『わかった』


千石の言葉で亜久津のこと思い出したんだろな。さっと座敷から立ち上がっていってしまった。ま、顔見知りしかいねえし別にいいか。
そうやって割りきって肉を焼いてたら何やら視線が突き刺さる。


「何だよ。全員してこっち見てんなら何か言えよ」
「僕は追いかけていくと思いました」
「俺は行かなくていいって丸井が言うか彼女をちゃん付けにしたこと怒られると思ったかな?」
「お前でも椎名から目を離したりするんだな」
「私も少しだけびっくりしたよ丸井君」


お前ら俺のこと何だと思ってんだよ。別に今更んなこと気にしねえし。何ならもう付き合いも長いやつらばっかりだし幸村達だって散らばってんだから心配するだけ無駄だ。


「俺ってそんな独占欲強く見えんのかよ」


四人が俺の言葉に一斉に頷いた。いや、強い方だとは思うけどそこまでじゃねえよ。


「お前らは別だろい」
「ま、確かにな」
「身内みたいな感じかな?」
「千石君みたいな人も居ますが」
「え、俺〜?俺だって女の子はみんな可愛いし好きだけどちゃんと色々考えてるよ、酷いなぁ観月は」
「だから今日凛がナンパされてるの助けてくれたもんな」
「ほお、お前がな」
「俺じゃなくて南が最初に気付いたんだけどね」
「それがどうして亜久津君にお礼をすることになったんですか?」
「相手がちょーっと素行の悪そうな不良でねーだから亜久津に俺が頼んだってわけ」
「俺はそれ聞いて相手に同情した」
「僕もその気持ちなんとなく分かるような気がします」


さすがに殴ったりはしてねぇだろうけどな。アイツ迫力すげぇもんなー。みんなもそれが想像出来たのか苦笑いだった。まさか観月まで同調してくれるとはなぁ。


「丸井先輩!」
「おー今度は赤也か。どうした?」
「ちょ!ちょっと早く来てください!」
「なんだよ、乾汁なら飲まないぞ俺」
「だから凛先輩が飲みそうだから早く止めに来てくださいってば!」
「「「「「は」」」」」


そうやって肉を食いながら五人で喋ってたら今度は赤也が慌てて俺を呼びにきた。
乾汁の餌食になる前に戻って来いって俺言ったよな?驚いたのは俺だけじゃ無かったらしい。五人で声が重なっちまったし。


「丸井君、とりあえず早く止めに行かないと」
「あ、あぁ。赤也何でそうなったのか説明しろよ」
「俺のせいじゃ無いっすよ!」


藤堂の声で我に返ったので赤也を急かして凛を迎えに行くことにする。
十中八九赤也が原因だと思うんだけどな。


「あー。お前らとりあえず正座しろ。んで何があったかを説明しろ」


俺が行った時には既に遅かったらしい。
凛は珈琲?みたいなもん飲んで気絶した後だった。とりあえずその場にいた全員を正座させることにする。


「丸井さんこれは違うんすよ!」
「俺も止めましたよ。椎名さんが飲まなくてもいいって」
「全員で止めたんす。けど自分は先輩だからって」
「俺達の代わりに飲んでくれちゃったんです」


桃城日吉海堂鳳が順に説明してくれた。赤也は正座して大人しくしている。飲んだ理由は分かったけど何で凛はここにいるんだ?


「赤也」
「う」
「お前が亜久津にお礼をしにいった凛を捕まえてここに引っ張ってきただろ」
「いやでも丸井先輩俺も全力で止めたんすよ!」
「凛が飲む前にお前が飲めば良かった話だよな赤也ー?」
「実際ジャンケンに負けたの切原だもんな」
「桃城!んなことここで言うなって!」
「お前が全部原因じゃねぇか!」
「いってぇ!」
「真田と幸村に報告しとくからな。お前は今日は最後まで正座しとけ。桃城達は悪かったな」
「俺達も止めれなかったんで」
「酷いっすよ丸井先輩!」
「焼き肉終わるまで正座崩さなかったら黙っててやるよ。お前らは気にしないで焼き肉楽しめよ」
「「「「っす」」」」
「後からこいつらに確認するからな。ちゃーんと正座しとけよ赤也」


俺のせいじゃ無いとか言ってたけどやっぱり赤也が原因じゃねぇか。一発拳骨落とすだけで許してやったの感謝しろよ。気絶した凛を抱えて元の座敷に戻ることにする。


「ありゃ、遅かったみたいだね」
「椎名さん気絶したんですね」
「え?大丈夫かな凛ちゃん」
「気絶したくらいならしばらくそのままにしておけば大丈夫だろ」
「全部赤也のせいだったけどな」


ったく。何で身内ばっかしかいねぇのにこんなことになったんだか。
凛を寝かせて焼き肉の輪に戻ることにした。まぁきっとそのうち起きるだろ、腹はまだ減ってるし。気絶するくらい不味いってだけで人体に悪影響のものは入ってないはずだ。


結局凛はお開きになる少し前に目を覚ました。亜久津と南にはお礼を言った後だったから良かったものの俺が赤也達を怒ったことに対しては不満そうだった。周りの制止を振り切って飲んだのはお前だもんな。けど赤也に関しては駄目。アイツがジャンケンに負けたのが悪いんだからな。つーか結局俺が言うまでもなく幸村達にはバレて説教されたらしい。
ま、凛を運んでるのを誰かが見たんだろうな。


『ブン太お待たせ』
「何やってたんだよ」
『桃城君達に謝ってきた』
「俺もアイツらには謝ったぞ」
『分かってるよ。でも迷惑かけちゃったから』
「今度からは許否しろよ」
『うん、ちょっともう飲みたくないかも』


思い出したのか珍しく凄く嫌そうな顔をした。そんなに嫌だったとかやっぱ乾汁すげぇな。
関東大会も終わっちまったし後は全国大会だけか。幸村達とテニスすんのもこれでほんと最後なんだよなぁ。悔いが残らないようにしないとだな。


「んじゃ帰るか」
『うん』
「腹減ってねぇ?」
『大丈夫。起きてからみんな色々食べさせてくれたから』
「デザートも大量だったもんな」
『美味しかったよ。後、楽しかったね』
「色んなやつと話せたもんなー」
『赤也君のこと怒ったら駄目だよ』
「幸村達にも怒られたみてぇだしもう怒ってねぇよ」
『なら良かった』


跡部が送るって言ったのを断って二人で帰ることにした。いつものように手を繋いでのんびりと歩く。今日はずっと誰かしら周りに居たから二人の時間は貴重なんだよ。
キスマークの許可出たしなー。まぁ一番重要なのそこだったんだけど凛は多分そんなこと忘れてんだろな。
ま、かと言って止めてやんねぇからな。早く慣れろよ凛。
さぁて、今日はどこにキスマーク残してやろうかな?


久々の更新になりました。書いてて楽しいなぁ。まだまだ三月まで長いですがのんびりとお付き合いくださいませ!
2018/10/24

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