キスマーク騒動

「えぇ!?凛先輩の差し入れ今日無いんスかー」
『ごめんね赤也君』
「切原君、そんな風に言ってはいけませんよ」
「俺楽しみにしてたのに」
「昨日も散々ケーキ食ったじゃねぇか」
「椎名の差し入れが無いとは珍しいのう」


ブン太のうちに泊まったからとは言えない。
二回もするとは思ってなくてクタクタでクッキーくらいなら作れるかなって思ってたのに無理だったのだ。
仁王君が何か言いたげに含み笑いを浮かべてこちらを見ている。
バレるようなことは何もしてない、よね?


「早くコートに行かないと弦一郎に怒られるよお前達」
「ゲ。それは嫌っス!」
「んじゃ今日も頑張るか!」
「来週には関東大会がありますからね」
「気合い入れてかないとな」
「暑い季節になってきたのう」
『仁王君は暑いの苦手そうだね』
「んー」


みんながぞろぞろと部室を出ていくのを見送りながら一番後ろの仁王君に話しかけるとこっちを振り向いた。なんだろ?


「お前さん気付いてなさそうだから一応言うとくな」
『何を?』
「首の後ろにキスマーク綺麗に残っちょるぞ」
『嘘!?』


そんなとこまで確認してなかったし!
慌てて首の後ろを押さえるもどうしていいのかは分からない。


「ま、それくらいじゃみんな何とも思わんじゃろうし気にしなさんな」
『な、何で言ったの仁王君!』
「昨日の仕返しなり」


したり顔で仁王君は部室から出ていってしまった。
あぁ、昨日のヤキモチの件の仕返しなんだろう。あの時慌てたりしなかったからだ。
今更どうすることも出来ないしこのままここにいるわけにもいかない。
髪形を変えるのも絶対に怪しいしもう今日は開き直るしかないのかもしれない。
ブン太絶対に気付いてたはずなのに教えてくれなかったとか酷いよもう!
恥ずかしいけれど覚悟を決めてマネージャーの仕事をすることにした。


『ブン太酷いよ』
「どうしたんだよ凛」


どうしても一言言いたくて休憩中に近寄ってったら何だか楽しそうだ。
これはやっぱり知ってたんだな。


『仁王君にキスマークのこと言われたんだよ!』
「アイツやっぱり目敏いよなぁ」
『朝、ポニーテールにした時に教えてくれたら良かったのに』
「別にいいだろい。気にすんなって」
『首元についてなかったからすっかり安心してたのにー』
「そんなこと言うともっと見えるとこにつけんぞ」
『それは困る!』
「んじゃ仕方無いよな」


「ま、大丈夫だって」私の頭をポンと触ってブン太は練習に戻ってしまった。
何が大丈夫で何が大丈夫じゃないのか全然分かんないよブン太。
何か昨日の夜から意地悪じゃない?気のせいかな?
あぁでも上機嫌だしあんまり水を差すのは止めておこう。
キスマークは恥ずかしいけれど今日は朝からずっと機嫌が良さそうだ。
と言っても最近は機嫌が悪いことが無いんだけれど。


『あ』
「どうしたんスか凛先輩」
「何かあったのかよ」


昼休憩、いつものようにみんなでお弁当を食べているとLINEのメッセージが届いたのだ。
それは修学旅行の班で作ったグループのメッセージで確認してみると上田君だった。
ジャッカル君を誘ったかの確認だったみたいだ。


『ブン太、LINE見て』
「あー。ジャッカルの件な」
「俺?」
「何かしたのかいジャッカル」
「や、俺は別に何も」
『夏休みにね千葉にみんなで行こうって話になってて』
「いつ行くんスか!」
「お盆過ぎな。引退した後だからお前は部活だぞ赤也」
「えぇー!先輩達だけズルいっスよ!」
「俺は何も知らないよ赤也」
「俺もだ」
「クラスのヤツらと行くんだよ」
「それがどうして桑原君の話になるんですか?」
『テスト週間の時にクラスメイトにジャッカル君も勉強を教えてくれたんです。それで仲良くなったので』
「あー梨夏達か」
「そうそう!んでお前は会ってねぇけどもう一人上田ってのが居てそいつの親戚が千葉で民宿やってんだと」
『だからジャッカル君も一緒にどうかなって』
「ま、もう行くって言っちまったから拒否権無いけどな!」
「マジかよブン太」
『急にごめんね』
「丸井が急にジャッカルに無理を言うのもいつものことだしね」
「諦めるしか無さそうじゃのう」
「まぁブン太だからなぁ」


最初は驚いていたものの続く幸村君と仁王君の言葉にジャッカル君は首を縦に振るしか無さそうだった。
もう行くことが決まっててごめんね。
でもどうしてもジャッカル君の参加は必須なんだよ。青木君とちはるちゃんが張り切ってるんだよ。


「俺も海行きたかったっス」
「赤也、全国の前に合宿には行くよ」
「海っスか!?」
「残念だな赤也。今年は山だ」
「えぇ」
「どこに行くんだ幸村」
「赤也が中1の時に行けなかった蓮二の叔父さんがやってるペンションにね」
「あっこはメシが旨かったのう」
「マジっスか!俺あっこ行きたかったんスよ!」
『赤也君は何で行けなかったの?』
「寝坊したんだよコイツ」
「その前に全科目赤点取ったこともあったね」
「幸村先輩それ凛先輩知らないんスから!」
『全科目赤点は…』
「バカだったもんなお前」
「今は大丈夫ですって!」
「当たり前であろう。誰が勉強を見てると思っておるのだ」
「ぐ」
「それでも英語は赤点ギリギリだがな」


全科目赤点だなんて聞いたこともない。
そんなののび太君くらいしか取れないだろうに赤也君はどれだけ勉強が嫌いだったんだろ?
それを英語は赤点ギリギリにしろここまで勉強出来るようにさせた幸村君達は凄いなぁ。
みんなから赤也君が弄られている。
柳生君まで参加してるのは珍しいからやっぱりみんなそれぞれ苦労したんだろうなぁ。


「あ!それで柳先輩の叔父さんのペンションってどこにあるんスか?」
「群馬県だ」
「あー温泉でしたっけ?」
『草津温泉があるね』
「赤也でもちゃんと知ってんだな」
「他は知らないっスけど」
「いつから行くんだ精市」
「夏休み入って直ぐだね」
『山なら涼しいといいねぇ』
「あーまぁこっちよか涼しいだろな」


話を聞いてる限り全国大会前の合宿は立海だけで行うらしい。
ついでに仁王君がご飯が美味しいって言ってたけど今年はペンションじゃなくてコテージを借りるらしく料理は自分達で作ると幸村君に言われて赤也君はがっかりしていた。


「俺も旨いメシ食いたかった」
「椎名さんの作るご飯も美味しいよ赤也。ね?丸井」
「おお、コイツのオムライス昨日も旨かったからな」
『ブン太!?』


幸村君の質問があまりに普通すぎてブン太がさらっと爆弾を落としてしまった。
一瞬みんなの動きが止まる。
あ、これ私が反応したのが悪かったのかもしれない。


「何で丸井先輩が昨日凛先輩のオムライス食べれたんスかー」
「はぁ?俺は彼氏なんだからいつでも凛のメシくらい食えるだろ」


仁王君は私の方を見てニヤニヤしてるし真田君以外は赤也君を残念そうな目で見ている。
と言うことは真田君と赤也君以外はやっぱり気付いてたんだな。
自ら墓穴を掘ってしまったらしい。
その穴に今なら喜んで埋まれそうなくらい恥ずかしい。
真田君が気付いてないのはなんとなく分かるけど赤也君が気付いて無いのには意外だった。


「赤也は知らなくていいことだよ」
「そうだな」
「何でっスか」
「切原君、世の中には知らなくていいことも沢山あるんですよ」
「えー気になるじゃないですか」
「赤也それ以上言うと椎名が死ぬから止めてやれよ」
「そうじゃ赤也。どうしても知りたいなら後からブンちゃんに聞くといいぜよ」
「んじゃ後から丸井先輩に聞きます。凛先輩合宿の時に俺にもオムライス作ってくださいね!」
『うん』
「俺任せなのかよ」
「さっきから何の話をしてるのだ」
「合宿の献立を赤也がリクエストしただけだ弦一郎」


みんな空気を読んでくれてありがとう。
あれ以上聞かれていたら恥ずかしくてひっくり返る所だったよ。
結局午後の練習を終えてそのことを赤也君がブン太に聞くことはなかったみたいだった。
オムライスが食べれるなら良かったらしい。


『何であそこで昨日オムライス食べたとか言っちゃったのブン太』
「悪い悪い、幸村の質問に何も考えずに答えちゃったんだよ」
『絶対に真田君以外は気付いてたよね』
「凛も焦ったりしたのがいけねーんだぞ。昨日の弁当がオムライスでも良かっただろい」
『あ』
「だから自業自得だな」
『顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったんだからね』
「別に気にすんなって」
『でも』
「アイツらも気遣って何も言ってこなかっただろ?」
『うん』
「なんだよ、機嫌悪いのか?」
『そうじゃなくて、ただ恥ずかしかっただけだよ』
「んー凛はさ俺がこうやってお前は俺の彼女だって主張すんの嫌?」
『そんなこと』
「ま、嫌っつっても止めねぇけど」
『えぇ!?』


部活の帰り道。
再び昼の出来事に抗議をするもブン太は止めるつもりは無いらしい。
今ちょっと反省してるっぼい流れにならなかった?
隣でブン太はまたもや楽しそうだ。
やっぱり意地悪だなぁ。もしかしたらこっちのが本当のブン太なのかもしれない。


「あ!んじゃお前も俺にキスマーク付けりゃいいんだよ」
『え?』
「したらお互い様だろい?」
『や、でも』
「なんだよ」
『ブン太ってそういうの嫌がるタイプかと思ってた』


そもそもキスマークってどうやって付けたらいいのか分かんないし。


「凛って独占欲とかねぇの?」
『え、あるよ』
「んじゃキスマーク付けたいってならねぇ?コイツは俺のだからって主張したいから付けるもんだと思うんだけど」
『キスマーク付けたいって思ったことは無いかも。だってブン太いつも側に居てくれるし』
「あーそういうことな」
『駄目かな?』
「駄目じゃないけど。ま、今度機会があったらやってみろよ。俺もお前なら嫌じゃねぇし」
『分かった』


独占欲とか今まで考えたこと無かった。
人並みにはあるはずだけどそんな風にブン太を独占したいって思ったことは確かにない。
でもそれってきっとブン太のおかげなんだろうなぁ。
ブン太がいつだってストレートに愛情表現をしてくれていつも隣に居てくれるから今でも充分独占出来てるからだと思う。


だからきっとブン太は私のだからって主張しなくて済んでいるんだろう。
私のものだなんて人を物みたいに扱うから嫌だけどブン太のおかげでそう思わなくて済んでるんだなぁ。
あぁ本当に私の彼氏は凄いと思う。
ブン太は私のことを凄いって言うけど私からしたらやっぱりブン太の方が凄いんだよ。


久しぶりの更新になってしまいました(´・ω・`)
ジャッカルは強制で海に連れてくよ( ・∀・)ノ
2018/08/13

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