丸井家訪問

県大会の決勝リーグは今までで一番みんな集中してた。
それも昨日幸村君が「どうせなら明日は失点無しにしてみようか?」って言ったせいだと思う。
本当に失点無しで県大会優勝してしまったのには驚いたけど。
かなり集中してたもんなぁ。
赤也君ですらいつもより口数が少なかった。


その後は昨日と同じく真田君の家で勉強会。
心配だった赤也君もブン太も大丈夫そうだ。
今日は佐助君の突撃も無かったし。
どうやら昨日のことをお父さんに怒られたらしい。
佐助君もお父さんは怖いみたいでちょっとホッとした。


『緊張してきた』
「何でだよ。みんな凛と会えるの楽しみにしてるんだぜ?」
『それは嬉しいけど!でもドキドキしてきた』
「大丈夫だって!」
『ブン太のうちのも燒菓子にしたんだけどいいかな?』
「そんな気遣わなくて良かったのに」
『いやいや!必要だよ!イメージ戦略だよ!』
「なんだそりゃ。別にイメージとかいいだろい」
『ブン太のお母さんにはイメージ良くしときたいの!』
「いや、いつも通りで大丈夫だろ。お前俺の彼女なんだからな」


真田君の家からの帰り道。
今からブン太の家に行くって考えたら急に緊張してきた。
きっと今までで一番緊張してる。
大袈裟とかじゃなくて本当に。
ブン太は隣でそんな私を見て笑ってるけど。
彼氏のお母さんとの関係ってどんな女の子でも一番気にするでしょ。


「ただいまー」
「兄ちゃんおかえり!」
「試合どうだった?優勝した?」
「当たり前だろい!ほら凛に挨拶しろお前ら」
「丸井煌太!11歳です!」
「僕は耀太!8歳!」
『椎名凛です。仲良くしてね?』
「お姉ちゃん!何して遊ぶ?」
「何でもあるよ!」
「お前ら先にメシじゃねえの?」
「後30分ってママが言ってた!」
「パパが帰ってくるのが」
「そういうことな。んじゃ後30分遊ぶか!」
「じゃあお姉ちゃん行こー」
「リビングにゲームあるの」
『お邪魔します』
「俺先に着替えてくるな」
『えっ!?』
「「はーい!」」


家に着いてブン太の弟二人に出迎えられた。
あぁやっぱりブン太の小さい時みたいで可愛いなぁ。
なんてのほほんとしてたら第一関門が直ぐにやってきた。
ブン太が着替えてる間にお母さんと挨拶しなくちゃいけないの!?
玄関を上がってブン太はさっさと二階へ上がってっちゃったし。


二人に急かされたので私も靴を脱いでリビングへと向かうことにした。
あ!ちゃんと靴は揃えなくちゃ!


「お母さーん」
「お姉ちゃんきたー!」
「兄ちゃん着替えにいったー」
「二人とも楽しそうねぇ。凛さんいらっしゃい!パパが帰って来るまでもう少し待ってちょうだいね。せっかく休みだったのに機械のトラブルとかで呼び出されちゃったのよ」
『お邪魔します。あ、これ良かったたらどうぞ。うちの燒菓子なんですけど』
「わ!お姉ちゃんのとこの?」
「マドレーヌある?」
『うん、あるよ』
「あら!わざわざごめんなさいね。煌太、耀太、夕食前だからまだ食べたら駄目よ」
「ちぇ」
「バレたか」
「まだ時間はあるから凛さんと遊んでて」
「「はーい」」


第一関門は突破出来たかな?
ちゃんと粗相をせずに燒菓子を渡せたと思う。
ブン太のお母さんはキッチンでまだ忙しそうだったので二人とブン太を待つことにしよう。


「お姉ちゃん!マリオカートしよう!」
「しよしよー!」
『うん、いいよ』
「じゃあお姉ちゃんに専用コントローラー貸してあげるね!」
『うん?』


二人に促されるままにリビングのソファの前へと座る。
大きいテレビだなぁ。
マリオカートって小学生の時に友達の家でやったことくらいしか無いんだけど大丈夫かな?
耀太君がコントローラーの使い方を教えてくれる。
えっ?十字キーで曲がるんじゃないの!?
ハンドルを傾けるの?


「俺、ドンキーコング!」
「僕はキノピオにする!」
「お姉ちゃんは?」
『何がいいと思う?久々にやるから分かんなくて』
「マリオでやってみたら?」
「後から変えたらいいし」
『分かった』


ただキャラクターを選ぶだけじゃなくて他にも細かい設定が沢山あった。
え、マリオカートってこんな難しかったっけ?
二人の言うままに設定を決めていく。


「おーマリオカートすんの?」
「兄ちゃんもやる?」
「俺は凛がどれくらい出来るかとりあえず見とくな」
『えっ?』
「頑張れよい」


ブン太の声と同時に比較的簡単なコースでの勝負が始まった。
これで簡単なの!?
曲がり切れずに壁にぶつかるし今度は曲がり過ぎて危うく逆走しそうになるしアイテムは取れないしで結果は散々だった。
ちょっとだけ悔しい。
ブン太が後ろのソファに座ってあれこれ言ってきたせいかもしれない。


『悔しい』
「お姉ちゃんゲーム下手くそなんだね」
『そそそんなことないよ!馴れてないだけだもん』
「軽量級のキャラにしてみたら?」
『分かった!次は頑張る!』
「コイツらに勝つには結構練習しねーと勝てないぞ」
『ブン太は静かにしててー。集中して頑張る!』
「兄ちゃんのが上手なんだけどな」
「そうそう!」


その後も私が二人に勝てることは無かった。
順位が最下位じゃなくなったことだけは救いだったけど。


「耀太!パパが帰って来たから出迎えてきてー」
「はーい!お姉ちゃん行こー」
『えぇ!?』
「行ってこいよ。きっと喜ぶぞ」
『嘘でしょ!?』
「ほらお姉ちゃんはーやーくー」
「俺も行く!」


インターホンの鳴る音がしてブン太のお母さんから耀太君へと指令が飛んだ。
ブン太のお父さんと会うのは初めてだ。
緊張するなぁって思ってたら第二関門が突然やってきた。
またブン太無しでお父さんに会うの!?
耀太君が私の手を握って急かすから仕方無く立ち上がる。
三人でパタパタと玄関へと向かった。


「パパおかえりー!」
「休日出勤ご苦労様!」
「おお!二人して出迎え、か」
『こんばんは。お邪魔してます』


煌太君が鍵を開けて出迎えるとブン太のお父さんが朗らかに中へと入ってきた。
ふと私が視界に入ったのだろう動きと言葉が止まった。
目を丸くしているので先に挨拶をすることにする。


「君が噂のブン太の彼女さんだね」
「そーそー!凛お姉ちゃん!」
「ケーキ屋さんなの!」
『椎名凛です』
「ブン太が世話になってるね」
『私の方がお世話になってばっかりですよ』
「いや、そんなことは無いだろう。着替えてくるから先に行ってなさい」
「「はーい」」


ブン太のお父さんも二階へと上がっていってしまった。
朗らかそうな人で良かった。
心臓はドキドキしてたけどこれでブン太の家族には顔合わせが出来たから一先ずホッとした。


「すげーな!」
「兄ちゃんの誕生日より豪華!」
「すげえすげえ!」
「ママ頑張ったねえ」
「張り切りすぎちゃったのかも」
『ほんとに凄いです』


ダイニングテーブルにはこれでもかってくらい豪華な料理が並んでいる。
ブン太のお父さんに始まり四人とも目がキラキラしてるなぁ。
やっぱり親子なんだなと微笑ましくなってしまう。


「遠慮せずに食べてくださいね」
『はい、ありがとうございます』
「じゃあみんなで食べるかな」
「パパ!兄ちゃん県大会優勝したって!」
「おお、おめでとうブン太」
「まだまだこっからだからな。関東大会と全国あるし」
「四人とも先にいただきますしなきゃ」
「そうだそうだ忘れてたな、じゃあいただきます」
「「「いただきます」」」
『いただきます』
「はい、沢山召し上がれ」


どれから食べていいか迷うくらいだよね。
ブン太のお母さん本当に張り切って作ってくれたんだなぁ。
どれを食べても本当に美味しかった。
私もお菓子だけじゃなくて料理これくらい作れるようになりたいなぁ。


「はい、紅茶で良かったかしら?」
『ありがとうございます』
「パパはコーヒーね」
「ケーキがあるからブラックな」
「分かってますよ」


夕食が和気藹々と終わってデザートのケーキだ。
宣言通り煌太君と耀太君が作ってくれたらしい。
シンプルなチーズケーキだけど見ただけで美味しそうだ。


ブン太と二人はリビングでマリオパーティをしながらケーキを食べている。
私は遠慮することにした。
マリオカートで散々だったからマリオパーティなんてもっと散々だと思うから。
そしたら「こっちで一緒に食べましょう」とブン太のお母さんに誘ってもらったんだ。


「娘が出来たみたいだねママ」
『え』
「気が早いですよ。それに多分ブン太がお婿に行っちゃうんですよ貴方」
「嫁に来ようが婿に行こうが娘は娘だろ」
「凛さんがびっくりしちゃってるじゃないの」
『いえそんな』
「ブン太と別れる予定は無いだろう?」
「貴方、お付き合いしてるんだから当たり前でしょう?」
『それははい。全く無いです』
「即答だね」
「嬉しいわね」


ダイニングテーブルに座り三人でケーキを堪能する。思ったとおりチーズケーキはとても美味しかった。
緊張もやっと溶けてきた気がする。


「ねえ凛さん」
『はい』
「あのこの何処が好きなの?」
『ええ!!』
「ママ、それ聞いちゃうのかい?」
「いいじゃない。ブン太には黙っておくから」
『それは…』


修学旅行の時もちはるちゃん達に聞かれた気がする。
あぁでもこればっかりは上手く説明出来る自信がない。
迷ってるのも失礼だよね?
でも何処がってちゃんと1つ決めれそうにもなかった。


『上手く言えないんですけど』
「いいわよ」
『きっかけは中2の時でその時に初めて同じクラスになってブン太の周りはいつも人が居て楽しそうだなって。それから気付いたら目で追うようになってて』
「青春ねえ」
「聞いてるこちらが恥ずかしいな」


いえ、話してる私もかなり恥ずかしいですこの話。
ブン太にだってちゃんと話したことがなかったのに。
でも二人が私の話を聞いてにこにこしてくれてるから良かったのかもしれない。


それからケーキを食べ終わってお父さんと煌太君と耀太君はお風呂に私はブン太の部屋にいる。
お母さんが洗い物を終えたら家まで送ってくれるらしい。
それまで待つことになったのだけど何でブン太の部屋なんだろう?


「凛、こっち来いって」
『うん』
「緊張してんの?」
『男の子の部屋って初めて入るから』
「お前ほんと可愛い過ぎだろい」


ベッドへと座るブン太の隣に腰を落とす。
やっぱり男の子の部屋って私とは違うんだなぁ。なんだかそわそわして落ち着かない。


『ブン太の家族に会えて良かったかも』
「楽しかっただろい?」
『うん、ありがとう』
「またいつでも遊びに来いよ」
『分かった。あ、でも次はブン太の番だからね』
「おーいつでもいいぞ!」


沢山緊張したけど無事に顔合わせが終われた気がする。
だいぶ落ち着いたと思うし。
今はブン太と二人きりってのもあるんだろうけど。
穏やかな空気が私達の間に漂っている。


「凛」


名前を呼ばれたからブン太の方へと顔を向ける。
すっと頬に手が伸びてきてきっとこれはキスされるんだなって分かったからゆっくりと目を閉じた。


「ブン太!準備出来たわよ!」


ガチャリとドアノブの鳴る音と同時にブン太のお母さんの声が部屋に響いた。
と同時に私達も慌てて距離を取る。
焦った!かなり焦ったよ!
それはブン太も同じだったみたいだ。


「直ぐ行く」
「車出しておくから後三分後でも大丈夫よ」


クスクスと楽しそうな笑い声とともにバタンとドアが閉まる音がする。
あぁきっとこれお見通しなんだと思う。
恥ずかしい。かなり恥ずかしいよね。
一気に体温が上昇したみたいだ。


「何だよ三分後って」
『お母さん何でもお見通しなんだね』
「察しは良いかもなぁ」
『びっくりした』
「まぁお言葉に甘えるか」
『えっ!?』
「いいだろい。昨日も金曜もお預けだったんだぞ」
『いいけど恥ずかしい』
「もうきっと誰も来ないって。ほら目瞑れよ凛」


両頬を優しく包み込まれてブン太と視線が絡んだ。
あぁもうそんな目で見られたら断れないよ!
断る気もないけれど!
これ以上恥ずかしい思いはしたくなかったので大人しく目を閉じた。


『ん』


唇が優しく重なってブン太が私の頬から耳へと両手をずらす。
頭を固定されると同時に耳を塞がれてリップ音が頭に反響する。
こんなの初めてで凄くドキドキした。
角度を変えて何度も何度もブン太の唇が触れる。


「やべ、止まらなくなりそうだからまた今度な」


唇が離れた所でそっと目を開けるとブン太が困ったようにそう呟いた。


「お前顔がエロかったぞ」
『そんなこと!』
「あったからな。無意識に誘うなっての」
『違っ!』
「はいはい。ほら帰るぞ」
『違うんだよ!』
「ムキになるなよ凛。余計に怪しいぞ」
『…でも』
「別にいいだろい?何が不満なんだよ」
『恥ずかしいから』
「気にすんなって」


ほんの少しでもそんな気分になったなんてブン太にはバレたくなかったのにどうやらあっさりとバレてたらしい。
気にするなって言うけど気にするに決まってるよね?
ブン太は楽しそうだけど私は本当に本当に恥ずかしかった。
なんだか初めての時より恥ずかしかったよ。


また遊びに行くことを約束して丸井家を後にする。
さて、県大会も終わったし後は中間テストだな。
ブン太とちはるちゃんと青木君が赤点取らないように何とかしなくちゃな。


2018/04/27

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