甥っ子との攻防

「お前いい加減にしろよ」
「やだね。僕まだ宿題残ってるし」
「凛の邪魔しかしてねえだろ」
「そういうブン太だって一緒でしょ」
『あの二人ともそろそろちゃんと勉強しよう?』
「ブン太が僕の邪魔するんだよお姉ちゃん!」
「佐助が凛の邪魔をしてるせいだろい」


今日は部活を早めに終わらせて真田君の家でテスト勉強をする予定だったはずなんだけど…どうしてこんなことに?
9人が広々と座れる大きな机のある部屋に通されていざ勉強を始めようとしたら真田君の甥っ子の佐助君が現れたのだ。
私以外の皆は面識があるみたいだった。


「お母さんが、お菓子のお礼してきなさいってー」
「邪魔だけはするでないぞ佐助」
「弦一郎、僕がそんなことすると思ってるの?」
「佐助は相変わらずだな」
「小生意気だよなぁ」
「お姉ちゃんがお菓子持ってきてくれたの?」
『そうだよ。口に合うといいんだけど』
「ひいお爺ちゃんが味見してたけど喜んでたよ」
『それなら良かった』
「お姉ちゃんは弦一郎の彼女なの?」
『えっ!?ち、違うよ』
「まぁそりゃそうだよね」
「相変わらずませたがきんちょだのう」
「おい、凛は俺の彼女だぞ」
「あぁブン太の彼女なんだ。へえ」
「なんだよその言い方」
「別にー。ねえ精市!僕もここで宿題してもいい?」
「佐助が大人しく宿題出来るのならいいよ」
「じゃあ持ってくるね!」


真田君の家での勉強会だからと手土産にうちの焼き菓子の詰め合わせを持ってきたのだ。
佐助君の提案に幸村君がさらっとOKを出していた。
宿題を持ってきて私と赤也君の間に無理矢理座り込む。


「俺が凛先輩に勉強教わりたかったんだぞ!」
「赤也は弦一郎か蓮二に教わればいいんだって!お姉ちゃん、これ教えて?」
『算数の宿題?』
「うん、ここ分かんないから」
『これはね』


赤也君はぶつぶつ文句を言いながらも真田君に怒られたくなかったのか直ぐに諦めたみたいだった。
佐助君に算数の宿題を教えてるけど反対側の雰囲気が悪くなっている気がする。
一段落ついてブン太に数学を教えてると直ぐにまた佐助君から質問が飛んでくるのだ。
だんだんブン太の機嫌が悪くなっている。
机を挟んで対面に座ってる幸村君と柳君と仁王君は何だか楽しそうだ。
そして勉強が進んでかないことについにブン太がキレたんだった。


「丸井君、数学ならば私が教えますよ」
「じゃあ仁王の勉強は代わりに俺がみるよ柳生」
「幸村じゃと?」
「何か文句あるの仁王?」
「いや、なかよ」
「それでは宜しくお願いします」
「俺は凛に」
「お姉ちゃんは俺に算数教えるんだってば!ブン太は比呂士に教われよ!」
「ブン太、今日は諦めた方がいいぞ」
『ブン太、ごめんね』
「今日だけだぞ佐助」
「知らなーい」


ブン太が妥協したのに佐助君は「ベー」と舌を出している。
隣でブン太が更にイライラしてるのが分かる。
真田君、何故止めてくれないのか。
赤也君に勉強を教えることに夢中なのかさっきから全く触れてこない。


「宿題終わった!」
『全部ちゃんと出来たね』
「お姉ちゃんありがとう!」
『どういたしまして』
「ねえ!一緒に遊んでよ!」
『え?』


佐助君の宿題が終わったからこれでブン太の勉強が見れると思ってたのに佐助君はさらに無謀なお願いを私にしてくる。
さっき幸村君と約束したこと覚えてないのかな?


「おい、俺達は来週テストなんだよ」
「佐助と遊んでる暇はねーの」
「ブン太と赤也に頼んで無いし。お姉ちゃんちょっとでいいからさ!駄目?」


佐助君!そんなにブン太と赤也君を煽らないでくれるかな?
あぁでもそんな風に可愛くお願いされると断りづらい。
これはどうしたらいいんだろう?
返事に困って目の前の幸村君を見ると頷いてくれた。
きっと幸村君がどうにかしてくれるんだろう。


「佐助、さっき俺と大人しく宿題するって約束したよね?」
「したよ。だから大人しく宿題したじゃん。終わった後のことは約束してないよね」


ピシリと部屋の空気が一瞬で凍った気がする。
幸村君にそんな風に言えるの佐助君だけだよきっと。
冷や汗が出てきちゃいそうだ。
何か言った方が良いと思うのに上手く言葉が出てこない。


「佐助、そんな風にワガママばかり言うと椎名さんは二度とここに来ないかもしれないよ」
「精市が決めることじゃないし」
「そうだね。でも椎名さんは丸井の彼女だからね。丸井が行くなって言ったら来ないよ。わざわざここに来る用事も無いし」
「僕が遊んでって言うし」
「それをどうやって伝えるのかな?こんなことしてたら弦一郎は協力しないだろうね」
「勝手に弦一郎のスマホから連絡するし」
「椎名さんはね、ブン太のことが凄い大切なんだよ。そのブン太のことを無下にした佐助のお願いを聞いてくれると思うの?」


幸村君が容赦なく佐助君へと辛辣な言葉を浴びせていく。
ついに佐助君は返す言葉がなくなったらしい。
俯いて黙りこんでしまった。


「ごめんなさい」
「分かればいいんだよ。また今度皆で遊ぼう?」
「ほんとか?精市、約束だからな」
「テストが終わったらいつでもいいよ」
「絶対だぞ。お姉ちゃんまたね!」
『うん、佐助君またね』
「ブン太、色々ごめんな」
「おう。ま、気にすんな」


小さく謝罪の言葉を告げると幸村君の言葉にパッと顔を上げた。
きっと嬉しかったんだろう。
そして筆記具とノートを持ってさっさと部屋を出ていった。
やっぱり幸村君は凄いなぁ。
佐助君のことに関して真田君がノータッチだったのは意外だったけど。


「佐助は年々小生意気になってくのう」
「真田、何とかしろよ」
「俺も手に負えんのだ」
「最近は俺達の中では幸村の言うことしか聞かないな」
『そうなんだ』
「ま、幸村のおかげで大人しく出てってくれたしいいか。んじゃ俺は」
「丸井はそのまま柳生に数学を教わってね」
「は?」
「赤也は蓮二に教わって。仁王は真田ね。俺はジャッカルに教えるから」
『私は?』
「椎名さんはとりあえず自分の勉強してね」
『あ、分かりました』
「大丈夫だとは思うけど自分の勉強もしておかないとね」
『要点の確認しておきます』
「これなら文句無いよね丸井」
「…ねーよ」


ブン太は幸村君の爽やかな問いかけに不満げに返事をしている。
文句有りますって感じなのバレバレだよなぁ。
けれど幸村君はそれにはあえて何も言わなかった。
ブン太のことは気になるけどせっかく時間を貰ったんだから効率よく自分の勉強をしてしまおう。
明日と明後日も自分の勉強が出来る時間はきっと少ないもんね。


「もうこんな時間か」
「そろそろ帰らないといけませんね」
「疲れた」
「俺もじゃ赤也」
「腹減ったー」
「じゃあ今日はこの辺にしておこうか」
「明日もこのくらい勉強すれば赤也達の赤点も免れるだろう」
「テスト最終日まで気を抜くでないぞお前達」
『皆お疲れ様。明日の決勝も頑張ってね』
「おう、お前に県大会の優勝旗見せてやるからな」
「楽勝っすよ!凛先輩!」
「そうじゃのう。こればっかりは赤也に賛成じゃ」
「仁王君、油断してはいけませんよ」
「まぁかと言って県大会だしなぁ」
「無論だ。常勝立海に今年も穴は無い」
「椎名、俺達の目標は」
『全国制覇ですもんね。分かってますよ』
「そうだね、どうせなら明日は失点無しにしてみようか?」
「「「「「「「『!?』」」」」」」」


テストも大事だけどそれ以上に明日の決勝も大切だよね。
そう思ってみんなを激励したんだけどもしかしたらタイミングが悪かったかもしれない。
失点無しってテニスの試合で可能なのかな?
幸村君の一言に皆びっくりしてるみたいだ。
あの真田君ですら驚いている。


「楽勝なら出来るよね?」
「そりゃ勿論っすよ!最短時間明日も目指しますよ俺!」
「赤也は強気じゃのう」
「せっかくだしね。皆頑張ってくれよ」
「幸村が言ったからには拒否権無いだろい」
「ふふ、そんなことないよ」
「出来ませんと言いたくは無いですね」
「あぁ、そうだな」
「俺はお前達が出来ないことは言わないよ」


幸村君の言葉に全員の空気が引き締まった気がする。
ああやって言われたらね、やってやるって気になるよね。
無失点ってことは完全試合ってことだよね?
皆なら本当に出来ちゃいそうで明日が楽しみになった。


原作で6歳の佐助君は失恋ショコラティエでは9歳になります。
小生意気っぷりが書きたかった(笑)
弦一郎もお手上げな感じで書きたかったのです。
9歳と張り合う18歳も可愛いよね。
2018/04/09

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -