心配事

修学旅行から帰って直ぐに朝練があるとかみんな本当に頑張るなぁ。
昨日は帰って直ぐに寝ちゃったからいつも以上に早起きだ。
今日の差し入れはチョコレート専門店で買ったチョコの詰め合わせ。
お土産がてら皆で食べてもらうのだ。
手抜きだと思われちゃうかな?
手作りする余裕全く無かったんだよね。
後は赤也君達後輩へのお土産を持って朝練へと向かう。


『ブン太?』
「おー、時間ぴったりだな」
『おはよう。何してるの?』
「はよ。早く目が覚めちまったから迎えに来たんだよ」
『うちでゆっくりしてから来れば良かったのに』
「弟達は寝てるし親父にお前のこと聞かれんのもなんか照れ臭いだろい」
『そうなの?』
「おお。皆が話しちまったんだよ」


玄関から出た所にブン太が居たから物凄いびっくりした。
まさかいるとは思ってなかったから。
いつもの様に自然と手が繋がって二人で歩きだす。


『結華ちゃん達のお土産いつ渡そうかな』
「向こうも県大会始まるから来月の関東大会の時でいいんじゃね?」
『遊びに行く時間は無さそうだもんね』
「夏までは部活に集中しねえとな」


食べ物じゃなくて良かったよね。
結華ちゃんお土産喜んでくれるといいなぁ。


『赤也君お土産喜んでくれるかな?』
「赤也のお土産何にしたんだよ」
『北海道のお菓子の詰め合わせ』
「だからあんなにあれこれ買ってたのかよ」
『一種類だと寂しいかなって。残ったのは部活へのお土産になるし』
「後輩達が喜ぶなきっと」
『ブン太は?』
「俺?ジンギスカンキャラメル」
『あれ買ったの!?』
「おお、仁王とどっちが面白いお土産買うか勝負してんだよ」


隣で楽しそうにブン太は笑ってるけどジンギスカンキャラメルって確か物凄い不味かった気がする。
赤也君大丈夫かな?


「凛せんぱーい!」
『赤也君おはよう!』
「先輩達居なくて俺かなり寂しかったっすよ!」
「赤也、これお土産な」
「丸井先輩あざっす!ってこれ何すか?」
「キャラメル」
「ジンギスカンって何ですか?」
『それは』
「食ってからのお楽しみな」


私が説明しようとしたら遮られてしまった。
それ以上言うなよみたいな目をブン太がするから大人しく黙っておくことにする。
ついでに私も赤也君にお土産を渡すことにする。


『はい、赤也君へのお土産だよ』
「こんなに沢山いいんすか?」
『うん、これ全部赤也君のだよ』
「あざっす!ロッカーに閉まってきます!」
「俺も準備してくるわ」
『じゃあ私も着替えてくるね』


ブン太と別れて女子更衣室へと向かう。
後輩達へのお土産も持って行って部室に置いてもらおう。
ジャージに着替えて更衣室から出た所に彼女は居た。
明らかに私を待ってたみたいだ。
ブン太の元カノの斎藤さん。


「話があるの」
『あの、部活があるんで』
「ほんの少しでいいから」
『でも』
「お願い」
『…分かりました』
「ちょっと来てくれる?」


ほんの少しって言うから了承したのに斎藤さんはここから移動するみたいだ。
まぁこんな目立つ所じゃ話せないか。
誰かが探しに来ても心配させちゃうしな。
分かったと言ってしまったからには着いていくしかない。
でも私に話って何だろう?
4月のブン太への告白騒動からその後は何にもなかったのにな。
テニスコートとは逆側の校舎裏へと連れて行かれる。
完全に朝練遅刻コースだよね。
遅かれ早かれ心配させるやつだろなぁ。


「こんなこと椎名さんに言うのはズルいと思うんだけど」
『はい』
「ブン太を返してくれないかな」


てっきり諦めたのかと思ってたのに斎藤さんは衝撃的な一言を私に告げた。
返すって言われてもブン太は私の物じゃない。
ましてや斎藤さんの物だったことも無いと思う。
そんな風に人のことを物みたいに扱ったら駄目だよ斎藤さん。


『ブン太とはお付き合いしてるけど私の所有物では無いので無理です』
「お願い」
『ブン太が決めることで私が決めることじゃないです』
「椎名さんから別れるって言ってくれたらいいの」
『私は別れるつもり無いので』
「何で」
『え?』
「何で貴女は付き合えたの?」
『それは…』
「私だって別れたくなかったのに」


斎藤さんと二人きりの状況に少しヒヤヒヤしたけれど怒ると思っていたら逆だった。
どんどん声色が静かになっていく。
私は気になってたことを聞いてみることにした。


『ならどうして浮気なんてしたの?』
「あれは!っ!そんなんじゃ無かったし」
『仁王君のことも傷付けたよ』
「……」
『ブン太が好きならずっとブン太一筋でいなきゃいけなかったと思う』
「そんなの分かってるし」
『斎藤さん、いくらお願いされてもこればっかりは聞けないよ』
「でも諦めきれないの。また私に笑ってほしいの」


諦めきれないからって私に別れてほしいだなんて言ったら駄目だよきっと。
ブン太には逆効果だよ。
どうして自分のことしか考えれないんだろう。


「椎名、皆が探しているぞ」
『わ!や、柳君』
「こんなところで何をしているんだ」
『えぇとその』
「斎藤か。丸井の元彼女だな」
「元って言わないでよ」
「1つ忠告しておこう。お前がいくら努力しようと丸井がお前の元に戻る確率はゼロだ」
「そんなの柳がそう言ってるだけでしょ」
「お前はどれだけ丸井と仁王のことを傷付けたのか自覚が無いのだな」
「仕方無かったんだよ」
「ならば俺もこう言おう。丸井と付き合えないのも仕方が無いぞ。椎名、行くぞ」
『え、はい』


斎藤さんのことは気になったけど部活そっちのけで皆が探してくれてるのなら戻らなくちゃいけない。
柳君の後を追うことにする。


「俺が思ってた通りだ。あぁ、お前は心配するな。直ぐに連れて戻る」


柳君の隣に追い付いた時に通話は終了したみたいだった。


『ブン太?』
「そうだな」
『心配してた?』
「校内だからそこまでは心配して居ないぞ」
『何て説明しよう』
「先生に捕まって荷物を運ぶのを手伝っていたとでも言えばいいと思うぞ」
『分かった』
「お前は本当に優しいのだな」
『どうして?』
「丸井のことと斎藤のことを考えてこの話をしたくないんだろう?」
『人を所有物扱いされるのはもう懲り懲りです』
「そうだな」


何も無かったかの様に部活へと戻った。
柳君の考えてくれた言い訳に誰も疑わないでくれたからそれにはホッとした。


お昼休み、ちはるちゃんは青木君とご飯を食べるらしく今日は梨夏と二人きりだ。
二人とも仲睦まじくやってるみたいで見てるだけで何だか微笑ましい。
私は朝練であったことを梨夏に報告した。


「斎藤さんまだ諦めて無かったのか」
『そうみたい』
「まぁ別に放っておけばいいんじゃない?」
『いいのかな?』
「今度から話があるって言われても聞かなくていいよ」
『でも』
「多分どんだけ話しても平行線だからさ。斎藤さんのために丸井と別れたりしないでしょ?」
『しないよ!絶対にしない』
「なら話しても仕方無いよ」
『そっか』
「そうだよ」


梨夏の言うように話した所で解決法はきっと無い。
そしたら話すだけ無駄なのかな?
でも話さないってのもズルくないかな。
何となくそんな気がした。
何度でも話を聞いてあげた方が良い様に思ったんだ。
でもこれきっと誰に話しても反対しそうだよなぁ。


「凛、やっぱあそこのチョコレート旨かったわ」
『手抜きみたいな差し入れでごめんね』
「お土産がてらの差し入れだからいいんじゃね?つーか俺達に土産があったことにアイツら驚いてたぜ」
『美味しかったから』
「お前はほんっと周りのことしか考えてねえのな」
『そんなことないよ』


今日は部室で昼食だったらしいブン太が戻ってきて私に告げた。
お母さんもお父さんも大絶賛だったもんなぁ。
あのチョコレートみたいな味を私も出せたらいいよね。


斎藤さんのことをブン太に報告するかしないか私はかなり迷った。
ブン太に極力隠し事はしたくなかったから。
でもこのことをブン太に報告して斎藤さんのことを傷付けることもしたくなかった。
どうするのが一番いいのかさっぱり分からなかった。


「浮かない顔をしとるのう」
『…仁王君』


いつもの洗濯の時間にいつもの仁王君だ。
そうだ、仁王君にいっそ話してみよう。
そしたらきっと仁王君のことも少し分かるかもしれない。
私は朝の出来事を話してみることにした。
勿論ブン太には言わない様に口止めしつつ。


『どうしたらいいかな?』
「俺が口出しすることじゃなか」
『そんな』
「誰も傷付けたくない気持ちは分かるがおまんは誰が一番大切なんじゃ」
『それはブン太だよ』
「ならアイツが傷付かない様にするのが一番じゃろ」
『話しても話さなくても傷付けないかな?』
「後からバレた時が怖いんじゃろ」
『隠し事だから』
「丸井のことを想っておまんがしたことならアイツは怒らんよ」
『大丈夫かな?』
「ブン太はお前さんのこと大事だからな。そんな心配なさんな」
『仁王君は?』
「何がじゃ」
『どう思ってるのかなって』
「何も」
『でも』
「斎藤のことは何とも想ってなかよ」
『本当に?』
「そろそろ時間じゃき戻らせてもらうぜよ」
『あ、仁王君!』


ブン太にはこのまま黙ってても良さそうだ。
でも2つのことは解決していない。
1つは斎藤さんの話をこの先聞くか聞かないか。
もう1つは仁王君が何を考えてるか。
何とも思ってないだなんて言ったけど俯いてて表情は分からなかったし去り際にちらりと見えた横顔はどこか寂しげに見えて仕方無かった。


「そうそうこれが県大会の日程ね」
『中間テスト前ですね』
「マジかよ」
「この時期はいつもそうだろう」
「赤点は許さんぞ赤也」
「何で俺だけなんすか!真田副部長!」
「丸井は椎名さんがいるし仁王には柳生がいるからね」
「凛先輩俺にも英語教えてくださいよ!」
「凛は俺に数学教えなきゃなんねえの」
「ずりいっすよ!」
「赤也、お前には俺達がみっちり教えてやろう」
「三人いれば何とかなるだろうな」
「弦一郎と蓮二だけでも充分だろうけどね」
「ジャッカルは?」
「国語だけちょっと自信がねえな」
「じゃあ全員で真田君のうちで勉強するのはどうでしょうか?」
「柳生、良いこと言うね」
「精市!?全員だと!」
「マジか」
『大勢でお邪魔しちゃっていいんですかね?』
「真田のうちは広いから大丈夫じゃ」
「俺は別に凛と二人でも」
「丸井、椎名さんにも自分の勉強があるんだからね」
「分かったよ」


幸村君中心でさくさくと話が進んでいく。
勉強会は27日の部活の後と28日の決勝リーグの後にやるみたいだ。
テスト週間だけどさすがに決勝の前日は少しくらい部活をしないとね。
赤也君は顔がげんなりしてたなぁ。


「じゃあ今日はこれで終わり」
「お疲れーっす!」
「赤也、明日も朝練遅れない様に」
「最近は遅刻してねえっすよ!」
「俺達が居ない間遅刻しただろう?」
「げ」
「赤也たるんどる!」
「明日からは遅刻しないんでお先っす!」
「逃げたな」
『そうだね』
「んじゃ俺らも帰るか」
『うん』


皆に挨拶して部室を後にする。
そういえば赤也君はジンギスカンキャラメル食べたんだろうか?


『ジンギスカンキャラメル食べたのかな?』
「何も反応ねえから忘れてんぞきっと」
『明日だねえ』
「ロッカーに置きっぱなしだろうし明日また言ってみるわ」
『楽しそうだねブン太』
「おお、当たり前だろい」


バタバタしたしまだまだ考えることはあるけど今日もなんだかんだ良い1日だったと思う。
これもブン太が隣に居てくれるおかげだ。
隣に好きな人が居てくれるって本当に幸せなことなんだなって改めて思える1日だったよね。

back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -