三日目&最終日

ぼんやりと意識が覚醒していく。
もう朝なのかな?
横を向くとブン太がまだスヤスヤと寝ている。
熟睡してるなぁ。
その寝顔を眺めているだけでなんだか幸せだ。


ふと昨日の夜のことを思い出して頬がじんわりと熱を持つ。
夢とかじゃないよね?
何がなんだか分からなくて自分の身体じゃないみたいで怖かったりもしたけどブン太の嬉しそうな顔を思い出して私もなんだか嬉しくなった。


今、何時だろ?
ベッド脇の時計を確認するとまだ6時だ。
もう一回お風呂入ってこようかな?
ブン太を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出してお風呂へと向かった。


『気持ちいいー』


湯船へと浸かると自然と声が出ちゃうから不思議だ。
そういえば昨日はお風呂も一緒に入ったんだった。
ちゃぷんと肩までお湯に沈めてその時のことを思い出す。
ブン太の上半身裸姿を思い出していっきに体温が上がった。
身体中の血液が沸騰したみたいだ。
今までだって着替えの時に見たことあったのに何でこんなにドキドキするんだろ。


「――?」


ぼーっとしてたらブン太の声が聞こえた気がする。
ハッとして耳を澄ませる。


「凛ー?」


あ、やっぱりブン太の声だ。
起きちゃったのか。もう少し寝顔を見たかったのにな。


『お風呂だよー!』


ブン太に聞こえる様に大きく返事をすると磨硝子越しに見慣れた赤髪が確認出来た。


「お前朝から心配させんなよ」
『ご、ごめん』


お風呂の戸が開くとブン太が顔を覗かせる。
こんなに早く起きると思ってなかったんだ。
本当にブン太は心配症だよね。


「ま、ここに居たのならいいわ」
『うん』
「逆上せる前に出てこいよ」
『わかった』
「あ、おはよう凛」
『おはよう』
「んじゃ俺先に準備しとくな」
『はーい』


朝から一緒にお風呂入るとか言い出さなくて良かった。
それはさすがに明るいし恥ずかしい。
や、昨日は昨日でかなり恥ずかしかったけど!


お風呂から出て準備をする。
荷物もまとめたしもう大丈夫かな?
いつでも出れる準備は完璧だ。


「凛」
『んー?』
「準備終わったか?」
『うん、もう完璧だよ』
「俺も終わったからちょっとこっち来いよ」
『はーい』


ブン太がソファに胡座をかいて座ってるからその隣へと言われたまま座った。
ブン太の視線はテレビに注がれたままだ。


「昨日、ごめんな」
『何で?』
「や、俺焦り過ぎたかもしんねえと思って」


ぽつりと申し訳なさそうに呟くからその姿が可愛くてクスクスと笑ってしまった。
気にしなくていいのになぁ。


『嫌じゃなかったよ』
「笑うなよ!」
『だってそんなこと気にするんだもん』
「お前って俺のこと優先すんだろ」
『それはそうだけどさすがに嫌なことは断るよ』
「んー」


納得いかないみたいにがしがしと後頭部をかいている。
そんなに私の気持ちって伝わりづらいのかな?


『後悔してるの?』
「や、そうじゃねえけど」
『私はブン太で良かったと思ってるし昨日で良かったと思ってるよ』
「痛かっただろ」
『最初は痛いものなんでしょ』
「まぁ、な」


これだけ伝えても駄目なのか。
うーん。ブン太は私がブン太のこと優先にするって言うけどブン太だって大して変わらないと思う。
私のことちゃんと考えてくれてるから今こんな感じなんだろうし。
ブン太の隣で横向きに膝立ちになり優しく頭を抱きしめた。


「凛?」
『何でこんなに好きなのに伝わらないかなぁ』
「や、それは伝わってんぞ」
『じゃあもう気にしなくていいと思うよ』
「ほんとにいいんだな?後悔してねえんだな?」
『だからそう言ってるでしょー』
「んじゃ気にしねえ」
『うん、それでいいよ』
「後、朝から欲情したくねえからそろそろ離せよ」
『えっ』
「胸が当たってんだろ」
『ご、ごめん』


そうか、私が後悔してると思ってたのか。
そんなこと全然無いのにな。
思い出すとちょっと恥ずかしいけど良かったなとは思ってる。
付き合ってたらいつか通る道だしね。
ブン太の返事にホッとしたのもつかの間、続いた言葉に慌てて離れる。
朝からあんなことされても困るよ。
離れた私を見てブン太は吹き出した。


『そっそんな笑わなくても』
「朝からんなことしねえよ」
『からかったの!?』
「少しだけな」
『冗談に聞こえなかったよ』
「最初から冗談に聞こえたらつまんねえだろ。っとそろそろ朝メシ行くぞ」
『言っていい冗談と悪い冗談があるよ!』
「ちょっと意識したんだろい?」
『違っ!?』


ブン太に合わせて二人で立ち上がる。
部屋の鍵だけ持って朝食へと向かうのだ。
さっきと全然態度が違うし。
私の反応に終始楽しそうだ。


「俺、お前のことずっと大事にするからな」
『私もだよ。ずっとブン太の隣にいるからね』


部屋を出た所で声のトーンが落ち着いて改めてそうやって言ってくれるから私も真剣に返事をする。
ブン太、いつだっていつでも何回も何度でもそうやって私に嬉しい言葉をくれてありがとうね。


「あ、そーいや片岡の話聞いてねえわ」
『あ!?』
「どうなったんだ?」
『やっぱり今日の夜に告白するって』
「夜景見ながら?」
『うん』
「んじゃまだ何もねえんだな」
『昨日の夜にわざわざ呼び出すってのもねってなったんだよ』
「ま、アイツらなら大丈夫だろ」
『そうだね』


私と梨夏的には青木君から頑張ってほしかったんだけど上田君の見解的に青木君からは難しいって言われたんだよね。
「四月の頭に椎名さんに告白しといてその一ヶ月後に片岡ってのはアイツの性格的に無理だ」って。
この修学旅行前に私と梨夏と上田君でのグループLINEを作ったんだ。
青木とちはるをくっつけようの会。
発足したのは梨夏なんだけどね。


『おはよう』
「はよー」
「凛と丸井おはよー」
「おはよおはよー」
「おはよ」
「はよ、ねみー」


倶多楽湖の間に付いたら既に四人が揃っていた。
昨日と同じ席へと座る。
上田君と青木君は眠そうだなぁ。
遅い時間まで色々話してたのかな?
テーブルに並ぶ朝食は今日も豪華だ。
朝からお刺身なんて食べたことない気がする。


「んで今日の予定は?」
「今日は札幌まで戻ってホテルに荷物を預けて」
「そっから小樽な」
「何するの?」
「オルゴール館行くぞ」
『わ!』
「小樽と言えばオルゴール館だよね!」
「後はオリジナルオルゴール作りに行くんだよー」
「おお、すげえな」
『楽しみだね』
「そっから全員で集合して小樽水族館だよ!」
「は?」
「良かったね青木!」
「先に言えよ鈴木ー!」
「お前嬉しそうだな青木」
『今日の予定が内緒だったのはそういうことね』
「サプライズになりましたね!」
「んでその後は?」
「みんなでご飯食べて夜景見てバスで札幌のホテルに戻るよ」


まさか水族館に行くとは。
梨夏と上田君以外今日の予定知らなかったからびっくりだ。
しかも水族館からクラスのみんなと一緒。
今日も沢山写真撮ってもらわないとな。
ちなみにカメラ係は梨夏と青木君で固定されたみたいだった。
ちはるちゃんとブン太は触ってないけど楽が出来るって喜んでた。


「で、昨日はどうだったのさ」
『えっ!?』
「まさか断ったとかじゃ」
『何でブン太がそういうこと言い出す前提なのさ!』
「や、だって丸井だし」
「そーそー」


札幌のホテルに着いて先にチェックインをしてから小樽へと向かう。
札幌のホテルはちゃんと三人一部屋になってたからホッとしたのに。
荷物を部屋に運びこんだ途端二人からの質問責めだ。
だって丸井だしってブン太ってこの二人からどんな風に思われてるんだろ?


『ちゃ、ちゃんと断らなかったよ』
「マジか!」
「凛頑張った!偉いよ偉い!」
『偉いって何で』


二人から頭をわしゃわしゃと撫で回された。
ちょっと!犬じゃ無いんだよ私!
照れ臭いし髪の毛ぐちゃぐちゃになってないか気になるしだけど二人が喜んでくれてるからまぁいいかな。


「あんまりからかっても丸井に怒られるしね」
「そうだね、このくらいにしとこか」
『あーやっぱり髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃったよ』
「直してあげるから」
「だいじょぶだいじょぶ」


二人ともお気楽だなぁ。
そのまま髪の毛をアップにしてもらった。
梨夏ってほんと器用だよなぁ。
いつも体育か部活の時にポニーテールにするくらいしかしないけど今日はハーフアップだ。


「お前ら遅いぞー」
「待たせるのは女の特権でーすー」
「ちょっと凛の髪の毛いじってたら楽しくなっちゃって」
『三人ともごめんね』
「あ、ほんとだ。椎名さん珍しいね」
「おーなんか新鮮だな」
『ほんと?大丈夫?』
「ま、お前はいつでも可愛いけどな」
「わぁ」
「お熱いことで」
「お前ってほんとさらっとそういうこと言うよな」
「だから事実しか言ってねえし」
『み、みんな!早く行かないと』
「そうだね」
「小樽まで一時間の電車旅ですよー」
「水族館楽しみだよなー」
「青木はそれしか頭にねえよな」
『八景島とどっちが良かったかまた教えてね』
「八景島面白かったら俺も凛と行ってくるわ」
「おー任せとけ」
「仕方無いなぁ」


小樽水族館で青木君が満足しない様にさりげなく釘を刺しておいた。
ブン太も乗ってくれたから良かった。
上田君と梨夏がニヤニヤしている。
別に今日の夜に告白するなら言わなくても良かったのかな?


小樽オルゴール館を見学してオリジナルオルゴールを作る工房へと向かう。
オリジナルオリジナルとかワクワクしちゃうよね。
先にオルゴール本体を選ぶんだけどそれが凄い迷うんだよね。


「凛はどれにすんの?」
『これだけあると悩むよね。星に願いをもいいしキセキも好き』
「キセキは俺も好き」


2つはちょっと贅沢だもんなぁ。
どっちにしようかなー?
ちはるも青木君と何やら悩んでるみたいだ。
梨夏は彼女のお土産にするって上田君の相談に乗っている。


「んじゃ俺が星に願いをにすっからお前はキセキにしろよ」
『え?』
「俺が作ったやつお前にやるからお前が作ったやつ俺にちょーだい」
『ええ!?』
「決まりな!」


悩んでたらさくさくとブン太に決められてしまった。
作ったやつ交換するの?
それってなんだか付き合ってても凄い恥ずかしいんだけど。
ブン太はさっさとパーツ選びへと行ってしまった。
今更嫌だなんて言えないからこれはブン太のために作るしかないんだろうな。


手回し式のオルゴールに決めたからそれをいれる箱を選んで後は飾り付けのパーツだ。
絵の具で箱も塗れるのか。
ブン太のことを考えながら丁寧に丁寧に作っていく。
あ、ケーキ作りみたいでなんか楽しいかもしれない。


「終わったー!」
『私も終わった!』
「お、みんなほぼ同時だね」
「ちょ!後ちょっと待って!」
「上田がここまで不器用だと思わなかったぜ俺」
「ねー」
『梨夏が居て良かったね』
「ほんとサンキュな鈴木」
「彼女のお土産なんだからちゃんと綺麗に作らないとね」


ボンドが乾くまで30分かかるから近くの有名なチーズケーキ屋さんで時間を潰すことになった。
隣に同じお店のチョコレート専門店が見えたよ!


「凛、後からね」
「お前顔に出過ぎ」
『ブン太!笑わないでよ!』
「ほんとチョコレート好きなんだな」
「きっかけは丸井のためだけどね」
「そっからどっぷりチョコレートの世界に浸かったよね」
「あーね」
「椎名さんらしいね」


それから生フロマージュを堪能してチョコレート専門店にも寄ってもらってからオルゴールを取りに行って小樽の街を散策する。
街並みが凄く綺麗だ。


水族館で他クラスメイト達と合流する。
何か凄い久しぶりな感じがする。
初日は札幌までみんなと一緒なのに変な話だよね。
どこを回ったのかとかどこが良かったとか皆で盛り上がりながら水族館を回った。
バラバラに散らばればいいのに皆固まってたから他のお客さんには迷惑だったかもなぁ。
そこで集合写真も撮ってもらった。
先生が手配してくれてたみたいでこれには全員でびっくりした。


『盛り上がってるね』
「そうだなー」
「おう!お前ら楽しんでるか?」
「酔ってんの?」
「そりゃ俺は大人だからな。ビールくらい飲みたいだろ」
『先生それって』
「内緒だぞ。委員長には許可もらったんだからな」


夕食をあらかた食べ終えた所でみんなが席移動をしつつ会話を楽しんでいる。
あちこちから楽しそうな笑い声が聞こえるのだ。
私とブン太の席の向かい側に先生が座った。
ほんのりと顔が赤い。
まぁお酒は強いって言ってたから心配しなくても大丈夫かな?


「いやー椎名が帰ってきてくれて良かったわ!」
『留学は一年ですよ』
「こんな笑う丸井見たの一年ぶりか?ほんと俺安心したんだからな!」
「俺そんなに酷かった?」
「一年の時と真逆だったろ。俺にすら心閉ざしてたもんなー」
『そうなんですか?』
「おーそりゃもう酷かったわ」
「あーもうその話はいいだろい」
「椎名にお礼言いたかっただけだからな。そんな照れるなよ丸井」
「照れてねえっつーの」


ブン太は先生にまで去年のことを言われて気恥ずかしかったみたいだ。
先生はさっさと他のこに絡みに行ってしまった。


『先生も知ってたんだね』
「理由までは知らねえだろうけどな」
『ほんと良いクラスだね』
「だな」


それからバスで天狗山まで移動する。
駐車場から展望台へ向かう途中からちらちらと見える景色がもう綺麗だ。


『ブン太!凄いね!』
「おお、ほんっとにすげえな」
『ちゃんと梨夏写真撮ってくれてるかなぁ?』
「鈴木のことだし大丈夫だろ」


30分後にバスに集合ってことで今はみんなバラバラだ。
ちはるちゃん大丈夫かなぁ?


「あ!凛と丸井居た!」
「探したぞお前ら」
『梨夏と上田君?』
「おーどうした?」
「とりあえず写真撮ってからね」


呼ばれて振り向くとそこには二人が居て梨夏がカメラを構えてくれたからブン太と二人で写真を撮ってもらう。
まだバスの時間までは時間あると思うんだけど。


「ちはると青木を二人きりにしてきたからさ」
『呼び出したとかじゃなくて?』
「結構人が多いからはぐれたふりしてきた」
「やるじゃん」
「でね、ちょっと行って見ませんか?」
『えぇ!?』
「や、別に放っておけばよくねえ?」
「あの二人だからそのまま何事も無く終わっちゃうかもしれないんだって!」
『ちはるちゃんから告白するんじゃないの?』
「ちはるって意外とそういうの奥手なんだよ!」
「って鈴木が言うからお前ら探しに来たんだって」


そうか、ちはるちゃんは恋愛事は奥手なのか。
梨夏がどうしてもって言うからちはるちゃんと青木君を探す。
途中途中クラスメイト達に聞いて回ったら皆がぞろぞろと着いてきた。
展望台に居ないなー?って思って駐車場に戻ってきた時に二人を発見した。
梨夏が皆に静かにする様にジェスチャーをして二人からは見えない位置へと移動する。


微かに二人の声が聞き取れるくらいの距離だ。
皆、顔がニヤニヤしている。


「修学旅行楽しかったねー」
「残り一日しかねえもんな」
「ほんとあっという間だよね」
「明日も全力で楽しもうぜ」
「そうだね!」
「つーかアイツら遅くね?」
「まだ誰も帰ってきてないみたいだねー」


二人ともごめんなさい。
一人残らず戻ってきてます。
バスに隠れて見えないだけで。


「夏になったら部活も引退だな」
「寂しくなるよねえ」
「片岡はもう彼氏作らねーの?」
「彼氏?そうだなぁ」


まさかの青木君からきっかけを作ってくるとは!?
梨夏が叫びそうになるのを上田君と慌てて止めた。
今バレたら台無しだよ梨夏。


「好きな人はいるんだけどね」
「そうなんだ」
「青木は?」
「俺はどうだろなー椎名さんのことはもうすっぱり諦めたけどさ。それで直ぐに次って駄目じゃね?」
「駄目じゃないと思うけど」


回りくどい。二人が物凄い回りくどい気がする。
遠回し過ぎて話が進む気配が全く無い。
ちはるちゃんの好きな人がいるって言葉に焦ったりしてくれないのかな?


「なぁ」
「どうした丸井」
「あの流れ駄目じゃね?」
『え?』
「片岡に好きな人がいるなら青木は諦めるかもな」
「そっち!?」
『あぁ』
「かと言って片岡は片岡で言えそうになくね?」


確かに。
ちはるちゃんは何かを言いかけては口ごもりその後にどうでもいい話を繰り返している。
これどうしたらいいんだろ?


「お前らこんなとこで何やってんだよ」


これは不味い!
夜景には興味が無いと先生はバスに残ったんだった。
そこから先生が降りてきたのだ。
梨夏が慌てて先生に声のトーンを落とすように伝えている。
そしてバスの向こうの二人を指差した。
先生はそれがどういう意味なのか直ぐに理解したみたいだった。


「アイツらがくっつく確率は?」
「ほぼ100かと」
「んじゃお前らバスに乗り込んで上から冷やかしてやればいいだろ。もうすぐ時間だぞ。ちょっとトイレ行ってくるわ」


冷やかす?え?それでいいのかな?
梨夏が委員長と何やら相談している。
そして静かにバスに乗り込む様に私達に指示が出た。
バスの乗車口こっち側で良かったよね。
全員が乗り込んでバスの窓をそっと開ける。


「じゃ行きますよー」
『はーい』
「おー」
「ちーちゃんのために頑張る」
「青木には幸せになってほしいもんな」
「せーの」


梨夏の合図で皆で二人をそれぞれの言葉で冷やかしていく。
二人はこっちを向いてギョッとしたまま固まった。


「早く付き合っちゃいなよー!」
「遅えぞ!そんなんじゃ置いて帰るぞ!」
「ちーちゃんファイトだよー!」
「青木!男ならお前から行けって!」


口々に色んな言葉が飛び交っている。
まとめたらさっさと付き合うって決めてバスに乗り込んで戻ってこいとかそんな感じだと思う。
様子を伺ってたらトイレから戻った担任が二人へと近付いてった。
それから二人に何やら話して三人でバスに戻ってくる。


「良かったなお前ら」


最初に乗り込んできた先生がそれだけ私達に伝えるとさっさと座席へと座った。
後ろの二人は照れた様に顔が赤い。
どうやら最終的に先生がまとめてくれたらしい。
二人の表情で付き合うことになったんだなって悟った私達はわあっと全員で喜んだ。


「お前ら早く座れよ。ホテルに帰るんだから」


梨夏は上田君の隣にちゃっかり座っているのでちはるちゃんと青木君は二人で座るしかない。
私達に冷やかされながらもちゃんと二人で座ってくれたみたいで良かった。


「何でこんなことに」
「お前だって凛と俺の話聞いてただろい」
「ちはると青木おめでと」
『ちはるちゃん良かったねえ』
「つーか何かすげー恥ずかしいなこれ」
「照れんな照れんな」
「そのうち慣れるぞ」


ちゃんと付き合うことになったのなら良かった。
ちはるちゃん嬉しそうだなぁ。
それは青木君も一緒か。


ホテルに帰って梨夏とちはるちゃんを散々からかってその日は眠りについた。
お風呂でも他の女子から色々言われてたもんなぁ。
それはきっと青木君も同じ目に合ってる気がする。


四日目はスイーツ食べ歩きだった。
ブン太と組んだタイムテーブル通りにあちこち札幌の街を回っていく。
どれも本当に美味しくて参考になった。
赤也君のお土産もちゃんと買えたし良かった良かった。


「あ、凛」
『ん?』
「ほらこれ」
『あ、オルゴール?』
「おー」
『じゃあはい』
「ありがとな」
『こちらこそ。ありがとね』


四日間の修学旅行はあっという間に終わってしまった。
飛行機で帰ってきてバスで学校へと戻る。
さすがに疲れてるだろうからって断ったのにブン太はうちまで送ってくれた。
うちの前で作ったオルゴールを交換する。


「兄ちゃん?」
「あ!兄ちゃんだ!」
『え?』
「お前らこんなことで何してんだ!」
「ママとケーキ買いにきたー!」
「兄ちゃんが迎えはいらないって言うから」


オルゴールを交換した所で声がした方を振り返るとそこに二人の男の子が立っていた。
どうやらうちのお店から出てきた所みたいだ。
え?この子達がブン太の弟?


「あら、やっぱり彼女を送りにきたのね」
「このお姉ちゃんが兄ちゃんの彼女ー?」
「ブン太がここにいるってことはそういうことよきっと」
「あー」


まさかのうちの前でブン太の家族と遭遇しちゃうとは。
えぇとこういう時は挨拶だよね?挨拶からするべきだよね?


『椎名凛って言います』


突然のこと過ぎて頭の中ぐるぐるしてるけどなんとか名乗ることが出来た。
ちゃんと頭も下げれたから良かった。


「そんなに固くならなくて大丈夫よ。ブン太の誕生日にケーキありがとうね」
「あ!ケーキのお姉ちゃん!?」
「僕の誕生日にもお姉ちゃんのケーキ作ってー」
「ズルい!俺の誕生日もー」
「お前ら初対面でんなこと言うなよ」
『私のケーキでいいの?』
「また食べたい!」
「美味しかったから!」
『じゃあまた二人のために作らせてもらうね』
「ありがと!」
「楽しみにしとくね!」


ブン太の小さい頃ってきっとこんな感じなんだろうなぁ。
二人ともかなり可愛い。
ひとりっ子だからお姉ちゃんって言われるのがなんだか気恥ずかしいけど。


「二人ともブン太と先に車に乗っててくれる?」
「「はーい」」
「は?」
「お母さんちょっと凛ちゃんとお話したいから」
「や、別に今度でもいいだろい」
「はい、鍵とケーキね」
「兄ちゃん早くいこ!」
「お土産何買ってきてくれたの?」
「おい!引っ張んなって。凛!また明日な!」
『うん、また明日ね』


心臓がまたもや死にそうにドキドキしている。
まさかのブン太のお母さんと二人きりで話すことになってしまうとは。
ブン太は弟二人に引っ張られるようにして行ってしまった。


「ブン太がいつもごめんなさいね。あのこワガママでしょう?」
『そんなことないです。いつも私の方がお世話になってばっかりですよ』
「本当に可愛らしいこで安心したわ私」
『いえそんな』
「これからもブン太のこと宜しくね」
『は、はい』
「またうちにも遊びにいらしてね」
『ありがとうございます』


何を言われるのがドキドキしたけど普通の会話だったから良かった。
去り際に微笑んでブン太のお母さんは車へと向かっていった。
この感じだと大丈夫かな?
ちゃんと好印象で終われたかな?
まさかの修学旅行の最後にこんなイベントが残ってるなんて思ってなかったし。


緊張しすぎてどっと疲れた気がする。
ブン太から連絡がきてたからそれに返信するとお風呂にも入らず私は爆睡した。
四日間良い思い出が出来て本当に良かった。
明日からはまた部活頑張らないとな。
これから夏の全国大会まではきっと物凄いハードだ。
出来る限り精一杯サポートをしていこう。

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