夕食タイム

凛の様子がなんだか少し変なんだよなー。


あーこれきっと女子は女子で昨日風呂の時にでも色々話してんだろな。
アイツらお節介だろうし。
そう考えたら凛の様子が変なのも納得出来た。


まぁ据膳食わぬは何だっけ?
あ、そうそう男の恥っつーもんな。
凛が何も意識してなかったら止めとこうかと思ったけどまぁいいか。
つーか多分意識してなくても無理だろ。
シングル2つならまだしもダブルベッドだぞ。


嫌がるなよ絶対に。
凛に嫌がられたら俺多分絶望的に凹む自信がある。


『ブン太、もうすぐ19時だし行こうか』
「おお、腹減ったもんな」


それぞれ荷物の整理をしてたら背中から声をかけられた。
まぁとりあえずメシだ。その後に風呂だな。


「凛、せっかくだから俺と一緒に風呂入ろーぜ」
『えぇ!?むっ無理だよ』
「冗談だって。んな焦った顔すんなよ」
『冗談に聞こえなかったよ』
「悪いな。大浴場もすげーらしいから楽しみだよな」
『ゆっくり浸かれるねぇ』


凛と倶多楽湖の間まで向かう。
食事の出来る部屋は全部北海道にちなんだ名前らしい。
たまたま今日見てきた倶多楽湖の間なんてなんかツイてる気がするよな。


「あ、やっときた!」
「凛と丸井遅いよー」
「来ないかと思っただろ」
「お前らが早すぎなんだろい」
『そうだよ、今ちょうど19時だよ?』
「お腹空いちゃったんだよー」
「そうそう俺らもそう話してたんだよな」
「丸井が一番だと思ったのになー」
『荷物の整理をしてたんだよ』
「あ!」
「あー!」
「そんなの忘れてたわ俺達」
「だよな」


テーブルに既に四人が座ってた。
てっきり男女に別れて座んのかと思ってたのに四人のバランスが悪い。
片側は鈴木、片岡、青木が座っている。
青木の正面に上田だ。
あぁこれ鈴木と上田の仕業だな。


「バランス悪い座り方してんなお前ら」
「丸井と凛に気を使った結果なんですけどー」
「そうだぞ丸井」
『わ、ありがとね』
「分かった分かった。ありがとな」


俺らにっつーか青木と片岡に、だよな。
鈴木と上田は楽しそうに笑っている。
凛が鈴木の正面に座ったから俺は上田と凛の間に座ることにした。
テーブルには所狭しとこれでもかってぐらい料理が並んでいる。
豪華にしてくれるとは言ってたけど想像以上だったわ。


「すげーな」
『ほんとにね』
「料理の撮影はもうしといたぜ」
「動物以外でも写真撮るんだな」
「俺、写真もハマったかもしんね」
「お前熱しやすく冷めやすいもんな」
「上田うっせ」
「じゃあいただきますか」
「では皆さんーグラスを持ってください」
「班長から一言!」
「え?乾杯だけじゃ駄目?」
『梨夏、せっかくだし一言言いなよ』
「鈴木が一番修学旅行のためにあれこれ動いてくれたもんな」
「そーそー」
「もー。楽しんでるじゃん!」
「それはお前もだろい」
「バレた?」
「鈴木早くしろって。腹減ってんの」
「仕方無いなぁ。ではいきますよ。修学旅行も気付けば半分終わりつつあります。二日間がっつり楽しんだよね。残り二日も目一杯楽しんじゃいましょー!かんぱーい!」
「「「「『かんぱーい!』」」」」


烏龍茶の入ったグラスで全員で乾杯した。
せっかくならクラス全員で泊まるとこ合わせても良かったよなぁ。
花見の時みたいに盛り上がって楽しそうだし。
乾杯の音頭で料理を食べ始める。
何から手をつけていいか迷うなこれ。
とりあえず刺身から食うことにする。
イカが見たことも無いくらい透き通ってんぞ。


「あ、そうそう言い忘れてたんだけどさ」
『どうしたの梨夏』
「なんだよいきなり」
「大事なことか?」
「そこまで大事ではないかも」
「梨夏勿体振らないでよ」
「気になるだろ」
「明日の夕食は3B全員で食べますよー。勿論担任もー」
『え?』
「マジかよ。やるな鈴木!俺さっきそれ思ったとこだったし」
「泊まるとこみんなで合わせたの?」
「班長会議で決めたの。班員には二日目の夜にばらそうって」
「軽いドッキリみたいなもんか」
「びっくりした?」
『かなり』
「でもみんなで夕食楽しそうだね」
「そうだな。みんながどこ行ったか聞けるしな」
「ちなみに小樽のレストランだからね」
『わぁ!』
「つーことは」
「夜景もみんなで見られるね」


各々に料理に手を付けながら鈴木の話を聞いてるとさっき俺が考えたことが叶うらしい。
やるじゃん、鈴木。
班行動だとクラスとしての思い出は薄くなっちまうもんな。
明日、全員で宴会でその後に夜景か。
かなり賑やかになるだろうな。


『ブン太、お刺身美味しいよ』
「お前どれ食った?」
『ホタテ』
「北海道のホタテは旨そうだよな」
『ほんと一回冬に来てみたいよね』
「だから次は冬に来るんだって」
「次こそ上田の希望叶えねえとな」
「そうなると車の免許取ってからだねぇ」
「稚内まで車とかすげー遠そう」
「死ぬまでに一回最北端行くべきだろ!」
「それは上田が運転頑張ってよ」
「上田だけじゃ心配だから青木もね」
『もう行く前提なんだね』
「凛も免許取りなよ」
「つーか片岡と鈴木も取れよ。俺も取るから」
『せっかくだから上田君の彼女も一緒に連れてったら?』
「お、それいいな」
「んでお前ら三人も彼氏彼女作れよ」
「その方が楽しいだろな」
「努力するー!」
「片岡と青木もだぞ」
「分かった」
「おう」


なんだよ、アイツら返事の歯切れが悪いな。
あぁそっか、お互いに相手が恋人連れてきた時のこと考えてんだろ。
つーかもうさっさとくっつけばいいのにな。
鈴木はすげー元気良く返事したからお前ら浮いてんぞ。


『そろそろ鍋いいんじゃないな?』
「海の幸盛り沢山だって」
「凛、蓋取ってみろよ」
『分かった』


凛がゆっくりと蓋を取る。
瞬間すっげえ旨そうな匂いが立ち込めた。


「すげー!」
『美味しそうな匂いするねぇ』
「カニと牡蠣も入ってるね」
「旨そうだな!」
「ちはる!みんなに取り分けて!」
「はいはい、分かったよー」


片岡が全員に鍋を取り分けてくれる。
どうやら変な空気も無くなったみたいだ。
凛のおかげだよな。


「そう言えばお前ら進路は決まったのか?」
「うちら全員このまま立海の大学だよね?」
「おー」
「立海のサッカー部も強いからな」
「凛は製菓の専門でしょ?」
『そうだよ』
「丸井は?うちらと一緒?」
「俺も凛と一緒だぜ」
「は?お前テニスは?」
「今年で終わりだな」
「いいのかよ」
「ジャッカルが悲しむよー」
「俺1年から決めてたからジャッカルも知ってんぞ」
「凛と同じとこ行きたいからだと思ったし」
「流石に違えよ。まぁ同じとこ行くけどな」
『本当にいいの?』
「だから俺はお前と付き合う前からパティシエになるって決めてたんだって」
『ならいいんだ』
「さっさと結婚してしまえバカップルめ」
「そうだぞ。結婚式にはちゃんと全員呼べよ」
『気が早いよみんな』
「んじゃ丸井は婿養子になるの?」
『ちょっと梨夏!』
「凛一人娘だもんなー」
「丸井のとこは?」
「うちは弟二人いるからな。俺が婿養子に行っても問題ねえかな」
「んじゃ椎名ブン太になるんだな」
「しっくりこねえな」
『だからみんな気が早いって!』
「椎名さんもいい加減にこの話に慣れなよ」
「凛は恥ずかしがりやさんだからねぇ」
「きっと結婚式でもこんな感じだよ上田」
「確かに俺らの話に乗ってくる椎名さんは想像つかないかも」
「凛の良いとこだろい」
「はいはい、お前の惚気話は俺達お腹いっぱいです」
「惚気話なんかじゃねえし。事実だろ」
「たまには椎名さんから聞いてみたいんだけどね」
『えっ?私?』


いきなり青木から話を振られて凛は俺の隣で固まった。
ちょっと面白いから様子を見るとすっかな。
周りも凛の返事待ちみたいだし。
俺はその間ホッケをつつくことにする。


「丸井の好きなとこでいいんだって」
「そーそー」
『ブン太の好きなとこ?』
「何でもいいからさ」
「1つでいいんだぞ」


四人ともかなり楽しそうだな。
凛は隣で考え込んでるみたいだ。
え?俺の好きなとこってそんな悩むことか?


『ぜ、』
「「「「ぜ?」」」」
『全部だから1つって決めらんないかも』


なんだそのすげー可愛い答えは。
危うくホッケを噎せるとこだったろい。
つーか誰からも返事がねえ。
周りを見ると凛も顔が赤いけど他の四人も何故か顔を赤くしていた。
凛の答えに当てられたな。


「何でお前らまで顔が赤いんだよ」
「逆に何でお前あれ聞いて普通なんだよ!」
「笑うなって丸井!」
「面白すぎるだろい」


誰からも返事が無くて凛は戸惑ってたけど俺は堪え切れずに吹き出した。


『そんな面白いこと言った?』
「凛じゃなくてコイツらな」
「凛の言うことが可愛すぎたから」
「全部好きとか言われてー」
「俺の彼女でも多分言わないな」
「もーほんと凛は可愛いなぁ」
『え?え?』
「つーか全部好きって当たり前だろい」
「丸井は不満とか無いの?」
「ねーし。合ったとしてもそこ含めて全部好きなんじゃねえの?」
「あー何となく分かるわ」
「だろい?」
『私も不満とか無いからね』
「俺、椎名さんのちょっとずれてるとこツボかもしんね」
『今間違ってた?』
「いや、俺的にはあの言葉すげー大事」
『そうだよね』


今度は凛の言葉に上田が笑ってる。
凛は心配そうにしてたけど俺の言葉にホッと安心した様に息を吐き出した。
また俺のこと優先にして返事したんだな。


「凛達見てると恋愛したくなるなぁ」
「梨夏も?」
「うん、何かバカップルだけど微笑ましいよね」
「青木もそろそろ次の恋しろよ」
「別に俺もう椎名さんのこと引きずってはねえんだけど」
「引きずってたら平気そうな顔してここにはいれないよね」
「だろ?もう何か全然平気。今なら婚姻届の証人にだってなれそう」
「じゃあそん時は青木に頼むな」
『またそうやって言うー』
「んじゃお前俺と別れるとこ想像出来んの?」
『出来ないけど』
「つーことは最終的にそういうことになるんだよ」
『もう』
「椎名さん、腹くくれって」
「うちらもこのまま丸井の言うことが実現すると思うよ」
「そーそー」
「仲人は担任にやらせよーぜ!」
「いいなそれ!」
『分かったけど分かったけど恥ずかしいからその話はもう止めようよ』


凛の言葉に五人で笑った。
コイツらと話してるとほんと楽しいよな。
話が全然尽きねえ。
テニス部はテニス部で大事だけどいつの間にか3Bも同じくらい大事になってたな。
こうやって思える様になったのも凛のおかげだ。


夕飯を六人でがっつり堪能した。
あーすげえ食った気がする。
鍋終わって雑炊までしてもらったもんな。


「食ったなー」
『美味しかったねぇ』
「さ、お風呂行こうか」
「凛部屋まで迎えに行くね」
「俺達部屋で入るわ」
「んじゃ俺も部屋で入ることにすっかな」
「明日は何時?」
「明日は比較的ゆっくりで大丈夫だよー」
「チェックアウトの10時で良いってことか?」
「でも8時にご飯だからね」
『朝御飯もここ?』
「そうだねー」
「了解ー」
「んじゃまた明日なー」


四人と別れて凛と部屋に戻る。
かなり食ったよなほんと。
このまま寝そうだぜ。
っと、違う。
寝たらいけねーんだった。


『ブン太は大浴場行かないの?』
「青木も上田も部屋で入るんなら一人で行ってもつまんねぇしな。部屋でのんびり浸かるわ」
『お風呂で寝たりしたら駄目だよ?』
「子供じゃねえんだから大丈夫だって」
『ならいいけど』
「俺部屋から出ないからちゃんと鍵持ってけよ」
『分かった』


この様子だとすっかり頭から抜けてんな。
まぁ片岡達と風呂に行くならまた挙動不審で帰ってくんだろ。
それも面白そうだからあえてせっつくのは止めておいた。


「凛ーお風呂行くよー」
『はーい』
「んじゃ丸井凛借りるね」
「おーちゃんと温まってこいよ」
『うん』
「鍵は?」
『ちゃんと持ったよ』
「ならよし。あ、おい片岡」
「何、丸井?」
「お前さっさと青木に告白しろよ」
「は?」
「私も告白してもいいと思うよ」
『私も』
「え、でも」
「大丈夫だろい。な?」
『うん』
「そうだよちはる」
「ま、その辺も風呂で話し合ってこいよ」
『分かった』
「さ、ぼうっとしてないで行くよちはる」
「え?え?本気?」
『結構本気だよ私達』
「嘘でしょ?」


三人でワイワイ騒ぎながら風呂に向かってった。
こんだけ鈴木と凛の前で言えばアイツらも片岡の後押しすんだろ。
上田は上田で青木に何か言ってるんだろうしな。
さ、俺ものんびり風呂に浸かるとするか。
全室源泉かけ長しとかほんとここすげえわ。
凛一時間は帰ってこねえだろなぁ。


露天風呂に浸かって昨日の夜のことを思い出す。
上田に貰っといて良かったかもしんねぇな。
いきなり今日だったら俺マジ焦ってたかもしんねえし。
アイツ空気読みすぎだろ。
部屋に戻るときもアイツらニヤニヤしてたもんなー。


やべ、寝そうだわこれ。
このまま寝たら逆上せるだろうから気をつけねえとな。


のんびり浸かったと思ったのに風呂から上がったらまだ30分しかたってなかった。
凛まだ帰ってこねぇなきっと。
暇だよなぁ。何となくテレビを付けたらスマホが着信を告げた。
誰だよ。
確認したら上田からの電話だ。


「おー」
「丸井?風呂から上がった?」
「おう、お前も?」
「そそ。入れ違いで青木が入ったとこ」
「んで?」
「一応青木には早くしろとは言っておいたぞ」
「あーそっちな」
「なんだよそっちって」
「昨日の下世話な話の続きかと思ったんだよ」
「そこまで口挟まねーよ」
「俺もさっき片岡に言っておいたぜ」
「何て?」
「さっさと告白しろって」
「直球だな」
「鈴木も凛もそれに賛成したから今頃風呂で会議でもしてんじゃねえ?」
「じゃあこの後ってことももしかしたらあるかもだな」
「そうだな」
「まぁ報告は明日にするわ」
「おー青木にも片岡にも鈴木にもそう言っとけよ」
「邪魔しちゃ悪いからな」
「お前昨日のタイミング良すぎるから鈴木と計画したのかと思っただろい」
「そこまで下世話じゃねーよ」
「まぁ助かったわ」
「じゃまた明日な」
「じゃあな」


電話を切ってベッドに寝そべりながらテレビでも見ることにすっかな。
俺が寝る前に凛帰ってくるといいけど。
LINEに寝てたら起こせって送っておくか。
アイツが怖がりませんように。

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