二日目

『ちはるちゃん、これで大丈夫そう?』
「塗ってないよりはマシだね」
「もう諦めちゃいなよ凛ー」
『やだよう』
「でももう仕方無いでしょ」
「ほら、早くしないと」
『もう』


ブン太につけられたキスマークを隠したいのに全然隠れない。
梨夏から借りたファンデーションを塗ってみたけど少し薄くなったくらいだった。
コンシーラーなんて持ってないし。
二人は容赦なく急かしてくるし。
これはもう諦めるしか無いよね。
もう何だってこんなに目立つ所にキスマークに付けたのさ。
合宿の時だって散々皆にからかわれたのに。
幸村君に怒られたのブン太覚えてないのかな?


「ほら、凛行くよ」
『分かったー』
「昼には登別温泉に着かなきゃなんだからねー」
「今日はカメラ宜しくね」
『うん、それは大丈夫だよ』


梨夏から渡されたカメラを手に三人でロビーへと降りる。
キスマークのことは気になるけど修学旅行二日目も楽しもう。


「椎名さんそれって」
『な、何かな?上田君』
「丸井も大胆なことするな」
「凛、その態度逆に怪しいよ」
『ちはるちゃん笑わないでよ!』
「丸井も楽しそうにニヤニヤするの止めなよ」
「や、凛の態度面白いだろい」
『ブン太のせいでしょー』
「はいはーい、喧嘩しないのー」
「クマ牧場に向けて出発すんぞ」
「椎名さんドンマイ」
「私達気にしないからさ」
「凛も開き直りなよ」
『分かった!分かりました!』
「ほら凛むくれてないで行くぞ」
『うん』


青木君の掛け声に皆が歩き出した。
ブン太が私の手を取ってそれに続く。
むくれて無いけど、むくれて無いよ!
でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだもん。


「凛、そんな怒るなって」
『怒ってるんじゃないよ。恥ずかしいだけ』
「悪かったって」
『これも慣れるしかないのかなぁ』
「まぁな。俺は凛が怒っても止める気ねーし」
『ブン太ってワガママ?』
「ちげーし。独占欲強いだけ」
『仕方無いなぁ』


あまりにさらりと独占欲が強いとか言うから笑っちゃったじゃないか。
もー。付き合ってからブン太のイメージがどんどん崩れていく。
でもどんなブン太も全部全部新鮮で知るたびに好きになってくんだよね。


「凛ー」
『何?』
「今日も沢山楽しもうな!」
『記録係り頑張るんだ』
「凛ってそういうの下手そうだよな」
『そんなことないよ!』
「どうだろなー?」
『大丈夫だよ!』


何だってそんなからかうようなこと言うかな?
私だってきっと大丈夫なはず。
写真くらいちゃんと撮れるはずだよ!


札幌まで電車で90分。
札幌からバスで90分かけてやっと到着しました登別温泉。


「やっと着いたー!」
「三時間長かったよねー」
『はーい、皆写真撮るよー』


バスから降りた所で四人を撮影する。
そのお返しにと上田君が私とブン太を撮ってくれた。
上田君まめに撮ってくれそうだなぁ。
私もちゃんと頑張らないと!


登別温泉のバスターミナルで荷物をホテルに送ってくれるサービスをやっていたのでそこに荷物を預けてそこから昼食を取ってクマ牧場に向かうことにした。


「なぁ!」
「どうした青木」
「登別駅の近くに水族館ある!」
『青木君ほんと動物好きだねぇ』
「青木、登別駅に行く予定無いぞ」
「え」
『今日はクマ牧場行ってその後地獄谷に行くし』
「明日もバスで札幌戻るよ」
「マジか!」
「水族館は神奈川戻ってから行ってこいよ」
「何ならちはるが付き合ってくれるよ」
「は?片岡水族館好きなの?」
「青木がどうしてもって言うなら付き合ってあげてもいいよ」
「マジ!?約束しろよ!一人で行く勇気無かったんだよなー」
「良かったな青木」


梨夏ナイスアシストだよ。
青木君もちはるちゃんも嬉しそうだなぁ。
青木君って本当に動物園も水族館も好きなんだねぇ。
昼食を終えて皆でクマ牧場に向かうことにした。


『ロープウェイに乗って行くんだね』
「見晴らし良さそうだな」
「倶多楽湖も見えるんだと」
「わ!倶多楽湖って透明度が日本で2番目にいいんだよー」
『それは楽しみだね』
「クマちゃんとおねだりしてくれっかなー?」
「お前ほんとそればっかりな」
「青木の意外な一面だよな」
「間違いないー」


ワイワイ騒ぎながらクマ牧場に繋がっているロープウェイへと乗り込む。
ちょうど六人乗りで良かったよね。


『クマが乗ってる!』
「可愛い!」
「上田!写真撮って撮って!」
「ロープウェイ動いてんだから先に乗り込めって」
「上田!俺も撮って!」
「お前もかよ」


私達の乗り込むロープウェイの中に大きなクマのぬいぐるみが乗っていた。
全部じゃ無いらしいから運が良かったみたいだ。
四人で入れ替り立ち替り上田君に写真を撮ってもらう。
あ、ちはるちゃんと青木君とクマで撮ってあげよう。
二人とも楽しそうだなぁ。


『ちはるちゃん青木君!こっち向いてー!』
「はーい!」
「おー!」
「二人とも良い笑顔してるねぇ」
「お前らクマ大好きかよ」
「こんな大きなクマのぬいぐるみ初めて見たの!」
「俺は動物なら何でも好きだぜ」
『ブン太はいいの?』
「俺はそれよりこうやって撮りてえかな」


ブン太が手元のカメラを拐っていく。
どうするのかと思ったらそれを私とブン太の方に向けた。
自撮りってやつだよね。
でもデジカメだと難しいんじゃないのかな?


「撮るぞ。ちゃんと笑えよ凛」
『はーい』


パシャリとシャッター音がして撮った写真を二人で確認する。
わ、ちゃんと撮れてる。
ブン太って何でもそつなくこなすよなぁ。


『ちゃんと撮れてる』
「天才的だろい?」
『うん、絶対に上手く撮れないと思った』
「俺に出来ねーことのが少ないからな」
『うん、ブン太ほんと凄いね』


ロープウェイの7分はあっという間だった。
と言うか景色を全く見てなかったよ。
クマのぬいぐるみに皆して夢中だったから。
帰りはちゃんと景色の写真も撮らないとだな。


「着いたぜ!クマ牧場!」
『第一牧場から行こうか?』
「えーと、第一牧場にはオスのクマがいるんだってー」
「よし、片岡行こうぜ!」
「はいはい、青木焦って転ばないでよ」
「あの二人ノリノリだね」
「昨日から青木の好きなもんばっかだよなぁ」
「それもここまでだろ?」
『動物系はこの先もう無いねえ』


青木君とちはるちゃんは二人でさっさと行ってしまった。
もういっそ付き合っちゃえばいいと思うの。
それはきっと私達四人全員が思ってることだと思う。


ヒトのオリに入ってのクマ達の迫力は本当に凄かった。
私達がクマ達に観察されてる気分になるから不思議だ。
エゾヒグマのオスはかなり大きくてガラスが割れないか不安になったくらいだ。


その後は第二牧場へと移動する。
こっちはメスのクマの集まりで餌やりが出来るみたいだった。
NKB総選挙なんてものをやってるからみんなで楽しく投票してきた。
誰がセンターになるのかちょっと楽しみだ。
こうやって見ると結構クマも個性的なんだよね。


その後は倶多楽湖を一望出来る展望台へと移動する。
クマの餌やりを止めようとしない青木君を止めるのが大変だった。


「お!すげーな!」
『ほんとだね!凄い綺麗な青色だよ!』
「日本で2番目の透明度なだけありますなぁ」
「1番はどこなんだ?」
『確か摩周湖だよ』
「へえ」
「なぁ透明度と透視度の違いってなんだ?」
「透視度?なんだよそれ」
『透明度は上からで透視度は横からだよ確か』
「椎名さん物知りなんだね」
『前にテレビでやってただけだよー』
「でも横からってどうやって見るの?」
『透視度を気にするのはダイビングする人じゃない?』
「なるほど」


一通り六人で写真を撮ると青木君とちはるちゃんが上田君からカメラを奪いあぁでもないこうでもないと倶多楽湖の写真を二人で撮っている。


「さっさと付き合っちゃえばいいのにねー」
「だな」
「片岡に告白しろって言えよ」
『ちはるちゃんから?』
「ちはるからは無理じゃないかなぁ?」
『青木君はどう思ってるの?』
「あの感じは満更でもないだろ」
「青木に言わせた方が早いかもなー」
「あ!そしたらさ!明日がちょうどいいよ!」
『明日?』
「夜に小樽の夜景見に行くでしょ?」
「あーそゆことね」
「だから二人ともちゃんと青木に頑張れって言っておいてよ」
「おー」
「りょうかーい」


倶多楽湖の良い写真が撮れたのだろう。
二人がこっちに戻ってきた所でこの会話は打ち切られた。
さて、次は地獄谷だな。
それはそれで楽しみだ。


「凛ー」
『何ー?』
「温泉楽しみだな!」
『そうだねぇ。のんびり浸かりたいなぁ』
「あんまり待たせんなよ」
『ちゃんと部屋まで迎えに行くよ?』
「あーならいいわ。部屋で待っとくな」
『温泉街の散歩も楽しそうだね』
「だなー」


地獄谷をブン太と二人でのんびり歩く。
四人は私達の少し前を歩いている。
どうやら写真に手こずってるらしい。
レンズが湯気で曇っちゃうもんね。
私のカメラも何故か梨夏に回収された。
どうやらセンスがなかったらしい。
クマしか撮ってないのに。


「申し訳ありません!」
「予約は三人×二部屋にしたはずなんですけど」
「此方の手違いでして」
『梨夏どうしたの?』


地獄谷を堪能してホテルに向かい梨夏のチェックイン待ちをしてる時だった。
梨夏がフロントで揉めている。
その声を聞いて五人でフロントへと向かった。


「どうしたんだよ片岡ー」
「三人×二部屋の予定がホテルの手違いで二人×三部屋になっちゃったんだって」
『えっ』
「他に部屋は空いて無いんですか?」
「今日は満室でして」
「困るよなぁ。鈴木はちゃんと予約したんだろ?」
「ちゃんと三人×二部屋って何回も確認したよ」
「申し訳ありません」
「んー部屋はもうそれしか無いんだよね?」
「そうなります」
『困るよね?』
「あーお姉さん、部屋はそれしか空いて無いのならこっちでどうにかするからさ」
「本当ですか?」
「その代わりメシ豪華にしてくんない?」
「それはこちらのミスでしたので勿論させて貰うつもりでした」
『ちょ!ブン太!?』
「んじゃ仕方無いよな?」
「豪華なご飯食べれるー」
「椎名さん、しょうがないよ。他に部屋が無いんだから」
「凛、そうなると部屋割りどうなるか分かるよね?」
「俺は青木と」
「私はちはると」
「んじゃ俺と凛だな」
「これがお部屋の鍵となります」
「ありがとうございます」
「お食事は19時から倶多楽湖の間ですのでお間違いなく」
「はーい」


えええぇぇぇぇ!?
嘘でしょ?私以外が納得した部屋割りに言葉すら出て来なかった。
何ならそんな私を気遣うでもなくホテルに届いた各自の荷物を持って四人が歩いていく。


「凛、行くぞ」
『う、うん』
「そんなに俺と同じ部屋が嫌なのお前」
『そんなこと無いよ。ちょっとびっくりしちゃって』


昨日、お風呂で梨夏とちはるちゃんと話したことが頭を過っただなんて口が割けても言えない。
そんなの恥ずかしすぎる。


「今更だろい?そんな照れんなって」
『そうなんだけど』
「ここのホテルって部屋がどの部屋もすげーんだって。楽しみだな」
『確か部屋付きの露天風呂があるんだっけ?』
「どの部屋にもあるとかすげーよな」
『大浴場もじまんらしいしね』
「後はメシだよなメシ!」
『楽しみだね』


どうやらそんな不埒なことを考えてたのは私だけらしい。
ブン太は至って普通だ。
一人でそんなこと考えてたなんてほんと恥ずかしいよこれ。
穴が合ったら入りたいかもしれない。


「おーすげーな!」
『わ!ほんとだね』
「凛ーまた一緒に寝れるぞー」
『えっ何で!?』


部屋に入って荷物を置くと二人で探検をする。
私は先に露天風呂を見てたんだけど奥からブン太の声が聞こえた。
また一緒に寝れるって何で?
慌ててブン太の声が聞こえた方に向かってみればそこには何故かダブルベッドがドーンと置いてある。
そこはシングルベッド2つじゃないの?


「お前まだ照れんの?」
『う』
「俺と一緒に寝たくねえの?」
『そんなこと無いよ』
「んじゃ何でそんな顔してんの凛」
『恥ずかしいんだもん』
「お前ほんっとそういうとこ可愛いよな」


ブン太と同じ部屋で泊まるってだけでも頭がクラクラしちゃうのにまさかのダブルベッドとか。
どれだけ手違いを起こすんだこのホテル。
ブン太はリラックスしてる様でダブルベッドへと座った。
こんなにドキドキしてるのはきっと私だけだ。


「凛、突っ立ってないでこっち来いよ」
『うむ』
「何だよその返事」
『笑わないでよう』
「今日は足りなくならなさそうですげー安心したわ俺」


ブン太に言われるがまま隣へと座ると横から抱きしめられた。
既に心臓はバクバクしてるからこれ以上速くなることは無いけど、死んじゃうかもしれない。
二人から言われた「覚悟しておきなよ」って言葉が頭をぐるぐるしてる。
大丈夫かな私?
ブン太が何を考えてるか分かんないから何とも言えないけど。
そんなに心配することじゃないのかな?


無いと思ってて有ったらそれこそ驚いちゃうから一応覚悟はしておこう。
何をどう覚悟していいか分かんないけど。


土壇場でビビって断らない勇気を誰か私にください。
二人にも初めての時の話をちゃんと聞いておけば良かった。


「よし、メシ食いに行こうぜ」
『そろそろ時間だね』
「豪華な夕飯楽しみだな!」
『海の幸沢山だといいね』
「だな!」


私の心臓は未だにバクバクと鳴っている。
覚悟ってよくわかんないけど腹をくくることにした。
きっと成るようにしか成らない。
目の前のことに集中しよう。
夕御飯楽しみだな。

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