ダブルデート

「よお、丸井」
「跡部、神奈川まで何しにきたんだよ」
「丸井君、凛ちゃん迎えに行こう!」
「はぁ?」
「今日デートでしょ?」
「こないだの詫びも兼ねてな」
「ダブルデートしませんか?」


凛を迎えに行こうとうちから出た所に黒塗りの見知らぬ車があったから珍しいなと思ってたら中から見知った二人が出てきた。
凄い驚いたぜ俺。
友達になるの許可しなきゃ良かったかもしれねぇ。


「丸井君、景吾はもう凛ちゃんのことは諦めたから大丈夫だよ」
「昨日、結華と正式に婚約するって両家に伝えたからな」
「そりゃ良かったな」
「だから安心してね」


この砕けた態度は何なんだろ。
こないだはキリッとお嬢さんらしくしてたっつーのに。
あ、でも跡部に飛び蹴りしてたなコイツ。きっとこっちが素なんだろな。


「俺、凛と二人でデートしたかったんだけど」
「まぁまぁ、それは今度にしよう?」
「せっかく神奈川まで迎えに来てやったんだから行くぞ」
「凛には言ったのか?」
「言ってないよ?丸井君も内緒にしておいてね。サプライズだから」


跡部が二人に増えたみたいだ。
どっちもコイツら強引だ。
とりあえず凛には「今から向かう」とだけ連絡を入れておいた。


「今日何する予定だったのー?」
「修学旅行の買い物」
「デートなのかそれは」
「いいだろい。二人で出掛けたらデートだろそんなもん」
「何処に行くんだ?」
「北海道だよ」
「あ、じゃあきっと桜が咲いてるね」
「そうなのか?」
「一年に二回も桜見れるなんていいねぇ」
「北海道の桜も綺麗だぞ」


へぇ、北海道はこれから桜が咲くのか。
何か変な気分だ。
こっちじゃとっくに散っている。
桜の名所とかでも良かったかな。
つーか、俺普通にコイツらと馴染んでるけど凛大丈夫かな?


「凛ちゃん!来ちゃった!」
「よお、椎名」
『えぇとお二人がどうしてここに』


凛のうちに着いたと連絡をしたら直ぐに出てきた。
やっぱり二人を見て困惑している。
けど事情を説明すると予想外にクスクスと笑った。
てっきり困り果てると思ってたのにだ。


『だから結華ちゃんは昨日から嬉しそうだったんだね』
「え?」
『何かやり取りがルンルンしてたよ』
「そんなつもりなかったのに」
『ちゃんと婚約決まったなら良かった』
「うん、ありがとう」
「なぁ跡部」
「なんだ」
「お前の許嫁ってこんなキャラだったか?」
「俺の前だけはいつもこうだぞ」
「違い過ぎねぇ?」
「結華も色々プレッシャーとかあるからな」
「お前らって大変なんだな」
「丸井君、私には藤堂結華って名前があるんだから」
「じゃ、藤堂って呼ぶわ」
「そうして頂戴」
「行くぞ、どこに買い物に行くんだ」
「景吾、私イチマルキューってとこに行きたい」
『え』
「は」
「どこにあるんだ」
「渋谷にあるみたい」
「よし、行くぞ。お前ら早く車に乗れ」


はぁ?ここ神奈川だぞ?
109まで行くのかよ。
別に神奈川でも充分買い物出来るだろうに。


「や、ちょっ」
『ブン太、せっかくだから渋谷まで行こう』
「何でだよ」


二人を止めようとしたのを凛に止められた。
そしたら小声で「結華ちゃん多分初デートなんだと思う」と凛が教えてくれた。
109行ったこと無いとかマジか。


「凛ちゃん!あの服可愛い」
『わ、本当だね』
「この色凛ちゃんによく似合うよ」
『この色は結華ちゃんに似合うね』
「じゃあ、あの…」
「どうしたんだアイツ」
「あれは揃いでワンピースが欲しいんだろ」
「言えばいいんじゃねぇの?」
「結華は女友達少ないからな。おい椎名!」
『え?はい!』
「そのワンピースお揃いで買ってやるから着替えてこい」
『えぇ!』
「俺からの詫びだ」
「跡部がこう言ってんだし買って貰えよ。俺も凛がそのワンピース着てるの見てぇし」
『分かった』
「景吾ありがとう」


女子二人が服を選んでいるのを跡部と二人で見守る。
いつの間にか跡部が凛を呼んでも気にならなくなっていた。
まぁ跡部と藤堂の仲が良いってのは見てたら分かるからな。
どっちもお互いのことを良く分かってる。


「何で藤堂がお揃いでワンピース着たいって分かったんだよ」
「んなもん見てたら分かるだろ」
「や、分かんねぇだろ普通」
「言い澱んだからな」
「確かに言いにくそうだったな」
「断られたくない時は大体あんな感じだ」
「良く見てんだな」


会計を済ませて二人が着替えてくるのを待ってる間跡部に疑問をぶつけた。
見てたら分かるってすげーな。


「二人ともお待たせ」
『どうかな?』
「似合ってんな」
「結華も良く似合うぞ」
「お揃い嬉しい」
『跡部君ありがとう』
「次の店行くぞ」


跡部、まさかコイツ。
全部の店回る気じゃねぇだろうな?
跡部が指を鳴らすとすっとどこからかスーツ姿の人が現れた。
その人が凛と藤堂から荷物を受け取りすっと居なくなる。
いや、跡部やっぱりすげぇわ。


『跡部君、丸井君の買い物もしなきゃだよ』
「もう少し後からでもいいだろ」
『もう私充分だから!』
「足りなくねぇか?」
『修学旅行4日間しかないよ!』
「確かに10着以上買ったわね」
「じゃあ次は丸井だな、行くぞ」


俺の服も跡部買ってくれんのかな?
それならすげぇ嬉しいんだけど。


「丸井君、今度はこれを着てみて」
「丸井、その次はこれだ」
『ブン太、きっとこれも似合うよ』


アイツら次から次へと服を持って来やがる。凛も便乗してるし。
着替えが追い付かねぇよ!
着替えてはこれは買うこれは買わないを繰り返している。
俺が選びてぇんだけど。
着せ替え人形の気持ちが分かった様な気がした。


「よし、こんなもんだな」
「そうね次の」
「おい、待て。こんだけあれば充分だから止めろ」
「あら」
『ブン太疲れた?ごめんね。つい楽しくなっちゃって』
「腹減った」
「ランチの時間ね」
「もうそんな時間か」
『確かにお腹空いたね』
「結華、109は堪能したか?」
「えぇ、付き合ってくれてありがとう景吾」
「跡部、服ありがとな」
「詫びだ。気にするな」
「イタリアン食べたい」
『わ、イタリアン良いね』
「ドルチェ食えるな」
「よし、じゃあ行くぞ」


大量の服をまた跡部の従者の人が持って行ってくれた。
何人くらい跡部の周りに待機してんだろ?
一軒で諦めてくれてほんと良かった。
三人のこれ着て攻撃で俺はくたくただったんだ。


『ブン太、どうなるかと思ったけど楽しいね』
「跡部に服買って貰ったしな」
『お母さんびっくりしないかな?』
「まぁどうにか納得してもらうしかないな」
「お前らの服はもううちに届けたぞ」
「『は?』」
「景吾が買ったって説明するから心配しなくても大丈夫よ」
『ほんとに大丈夫かなぁ?』
「俺もちょっと心配」
「大丈夫だ。俺の従者は皆優秀だからな」


二人の後ろを凛と手を繋いで歩く。
俺達の声が聞こえていたのだろう。
振り向いて直ぐに返事が飛んできた。
藤堂の目線は俺達より少し下にある。
手を見てんだなあれ。


「結華、余所見をするな。行くぞ」
「うん」


跡部はほんとすげぇな。
藤堂が俺達の繋がれた手を見たのは一瞬だったと思う。
なのに直ぐに藤堂の名前を呼んでその手を取って歩き始めた。
かなりスムーズだったと思う。


『跡部君て凄いね』
「俺もそう思う」
『結華ちゃん嬉しそうだなぁ』
「顔が緩みっぱなしだもんな」


イタリアンの店に着いたのは14時だった。俺、腹減り過ぎて死にそう。
イタリアンで個室の店とか来たことねぇよ俺。


「適当に頼むぞ」
「二人とも好き嫌いは?」
「ねぇな」
『私も大丈夫』
「じゃあ景吾、私これが食べたい」
「じゃあパスタはこれにするぞ」
「後これも」


本格的なイタリアン過ぎてメニューが全部イタリア語だったことにびびった。
それを見ながら普通に料理を決めてくアイツらはやっぱりお坊ちゃんとお嬢様なんだろう。


『イタリア語全然分かんないなぁ』
「だよなぁ」
『本格的なイタリアンだからデザート楽しみ』
「先にメシ。早く食わねぇと死ぬ」
『後少しだから頑張ろうブン太』


跡部達が注文した料理が次々と並べられて行く。
どんだけ頼んだんだよコイツらは。
でもどれも旨そうだ。


「よし、食べるか」
「いただきます」
『いただきます』
「跡部ありがとな!これで生き返るぜ!」
「好きに食べろ」


跡部と藤堂が食ってるイタリアンなだけはある。どれも今まで食ったこと無いくらい旨かった。
詫びだっつってたけど色々やってもらい過ぎな気がしなくもない。
まぁ跡部だからいいか。
前にジロ君に聞いたことあったけど跡部はそういうの気にしないらしいし。


「で、次はどうするんだ?」
『次ですか?』
「もう夕方だろい?」
「まだ16時ですよ」
『明日も学校だよ』
「買い物しただけじゃねえか」
「元々その予定だったんだよ」
『んー』
「凛ちゃん?」
『二人ともごめんね』
「どうした」
「何かありました?」
「凛、何かあったか?」
『四人なのも楽しいんだけど、今からはブン太と二人がいいかなって。だからまた四人で遊ぼう?それじゃ駄目かな?』


凛がすげぇ可愛いことを言った。
申し訳なさそうに話してるけど俺はすげぇ嬉しい。
跡部達が居なかったら抱きしめてたと思う。


「お前らも二人でどっか行ってこいよ」
「どうします景吾」
「まぁアポ無しで押し掛けたのは俺達だからな」
『ワガママ言ってごめんね』
「その代わりまた遊んでくれないと怒るからね」
『勿論。修学旅行のお土産買ってくるね』
「楽しみにしとく」
「跡部悪いな」
「次があるならいいだろ」


俺と凛のうちの中間辺りまで送ってもらった。
もう17時だし丁度良い時間だよな。
夕飯まで奢ってもらうのも悪いし。


「凛ー」
『何ー?』
「お前にしては珍しく意見通したな」
『んー多分跡部君と結華ちゃんと上手く付き合っていくには自分の意見をちゃんと伝えないと駄目かなって思って』
「曖昧にすると押しきられるからな」
『そうなんだよね。楽しかったんだけど』
「俺と二人が良かったんだろ」
『うん』


手を繋いでのんびりと凛のうちまでを二人で歩く。
うちまで送ってもらったらこの時間すら無かったもんな。
凛の言いたいことが分かった気がする。


「今度は俺達が庶民デート教えてやろうぜ」
『跡部君電車に乗るかなぁ?』
「跡部と電車って似合わねぇから見たくね?」
『そっちが本音だね』
「跡部には内緒な」
『でも良かった』
「何がだ?」
『ブン太と跡部君がギスギスしてなくて』
「まぁほらアイツら仲良かったろ?」
『凄い仲良かったね』
「お互いの信頼感みたいなのあったよな。あれ見てたらさ、凛を氷帝に連れてくって言った跡部は夢だったんじゃねぇかと」
『夢とか』
「笑うなって。でもそう思ってたら跡部と話すの楽になった」
『結華ちゃんも良いこだもんね』
「凛」
『何?』
「跡部の誘い断ってくれてありがとな」
『当たり前だよ』


さらりと凛は言ってくれたけど。
あの最後のプロポーズを断るまで俺は正直気が気じゃなかったんだ。
仁王も向日も大丈夫だろって言ってたけど(俺の予測通りジロ君は何も知らなかった)それでも凄い不安だった。
だから今日実際に跡部と藤堂と会えて良かった気がする。
仲睦まじい二人を見てやっと安心出来たんだ。


「凛」
『はーい』


繋いだ手をクイッと引いてこちらによろめく凛の頬にキスをする。
外だから今日はこのくらいにしとく。


『ブン太!ここ外だよ!』
「誰も居ねぇからしたんだよ」
『もう!』


顔を赤らめて周りを気にする凛がすげぇ可愛い。
満足したから早く凛をうちに送り届けてやろう。


「なぁ、そのワンピース修学旅行にも着てこいよ」
『なんで?』
「桜が咲いてんだって」
『そうなの?』
「だからその桜色のワンピース着たお前と桜見てみたいだろ」
『桜には負けるだろうなぁ』
「俺が見たいんだって」
『もう、分かったよ』
「北海道楽しみだな」
『沢山思い出作ろうね』
「写真も沢山撮ろうな」


修学旅行は直ぐそこだ。木曜日から4日間。目一杯楽しもう。
跡部とも和解出来たし俺もう怖いこと何も無い気がする。
県大会も関東大会も全国大会も負ける気がしなかった。

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