合宿初日

4月29日早朝。
今日から長野県の軽井沢で一週間合宿だ。
一週間も合宿とか凄いなぁ。
バスが来る時間に合わせて学校に着くようにうちを出る。



「凛、はよ」
『ブン太おはよう。眠そうだね』
「んーこんな早起き普段しねぇもん」
『確かにねぇ』



神奈川から軽井沢までバスで三時間の道のり。
朝6時に集合とか早すぎるよね。
みんなで心配していた赤也君の遅刻もなく全員でバスへと乗り込む。



「丸井せんぱーい」
「どうした赤也」
「俺、朝メシ食ってないんすよ」
「だから?」
「可哀想な俺に何か恵んでください!」



ブン太とマイクロバスの真ん中辺りへと座る。
私は窓際だ。そしたら前の席からひょっこり赤也君が顔を出した。
あぁ遅刻しないように頑張ったけど時間ギリギリで朝御飯食べれなかったんだなぁ。
ブン太は隣で凄い嫌そうな顔をしている。
お菓子沢山買ってきてたのに赤也君にあげるのは嫌なんだろうなぁ。



『赤也君、サンドイッチならあるよ?』
「凛先輩いいんすか!」
『うん、沢山作ってきたから』
「あざーす!」
「おい!赤也!それ俺のやつ!」
『大丈夫だよ。ブン太の分とは別にちゃんと作ってきたんだよ』
「俺が全部食べたいのに」
『全部食べるのはブン太でも無理だよ』



こんなことがあるかなと思っていたから早起きして大量にサンドイッチを作ったのだ。
ブン太の分と別にレギュラーの分全員分。



『赤也君、他の人達の分もあるから分けて来てくれる?』
「りょーかいっす!」



一人分ずつ分けてあるサンドイッチが入ったバスケットを赤也君へと手渡すと幸村君から順に配りに行った。
部長からちゃんと回るとことかね、赤也君意外としっかりしてるんだよなぁ。



『はい、ブン太の分だよ』
「他のやつらに作って来なくてもよくねぇ?」
『そしたらブン太の分もなかったけどいいの?』
「それは嫌だ」
『ちゃんとブン太のが一番沢山だよ?』
「んー分かった」



渋々納得してくれた様だ。
私の作ったものを独り占めしたい気持ちは嬉しいけど、私はテニス部のマネージャーとして部活に参加してるからブン太の分を作るってなるとどうしても他の人にも作らないとって思ってしまう。
皆ちゃんと私のことを部員として扱ってくれてるから。
私もそうやってしなきゃって。
いつかちゃんと分かってくれるといいんだけどなぁ。



「椎名さんサンドイッチありがとう」
『はーい』
「美味しいなり」
「玉子がしっかり味がついているな」
「ポテトサラダもです」
「サンドイッチもたまには食べてみると美味しいものだな」
『真田君のお口にも合ったみたいで良かったです』
「赤也!俺の分まで食うんじゃねぇ!」
「ジャッカル先輩1つだけ!1つだけっすから!」
「静かにせんか!馬鹿者!」



今日も立海テニス部は平常運転です。
一週間がっつり合宿かぁ。
気合いを入れて頑張らないとなぁ。



サンドイッチを食べ終わると皆の口数が減っていく。
朝早かったから眠たいよね。
ブン太も隣でうつらうつらしている。
私も眠たくなってきた。
窓から見える景色を眺めながら瞼をそっと閉じた。



「凛!着いたぞ!」
『ん、着いた?』
「起きろよ。荷物運んで全体ミーティングしたら直ぐに練習始まるから」
『分かった』



肩を揺すられて起こされた。
いつの間にか軽井沢に着いていたらしい。
どうやら私以外はみんな起きてたらしく慌てて飛び起きた。



『私が一番最後だったの?』
「幸村がギリギリまで寝かせてやれって。サンドイッチ作るのに早起きしたろ?」
『気を遣わせちゃったのか。恥ずかしい』
「可愛い寝顔見れたからな!」
『もう、そんなこと言わないでよ』



荷物を持って別荘?らしき建物へとみんなで向かう。
大きい。別荘と言うかこれはもう合宿所って言っていいのかもしれない。
凄いなぁ。



他にも沢山の人がいる。
みんながそれぞれ色んな人と挨拶を交わしてるのを眺めながら入口の受付へと向かった。
勿論ブン太と手を繋ぎながら。
えぇと注目を集めてませんか?
気のせいですか?手を繋ぎたくないなんて言ったら怒るから何も言わないでおくけど。



「立海大附属マネージャー合わせて9名到着したよ」
「ウス、これが3部屋分の鍵です」
「これがマネージャーの部屋の鍵?」
「ウス」
「ありがとう」
「荷物を置き次第大ホールでミーティングです」
「分かった」



幸村君が代表して受付済ませてくれている。
受付の男の子大きいなぁ。



「椎名さん」
『はい』
「これがマネージャーの部屋の鍵ね」
『はい』
「俺達はこっちでマネージャーさん達は逆の棟に部屋があるんだ」
『分かりました』
「一応俺達の部屋番号教えておくからちゃんと覚えておいてね」
『はい』
「後、大丈夫だとは思うけど丸井を連れ込んだりしないでね」
『そんなこと!しないよ!』
「冗談だよ。荷物を置いたらまたここに集合ね」
『はい』



幸村君に部屋の鍵を手渡される。
当たり前だけど男子と女子で泊まる棟が違うみたいだ。
ちゃんとしてるんだなぁ。



「あんなにはっきり否定しなくてもいいのに」
『ブン太!何を言ってるの!』
「冗談だよ。お前からかうと反応が面白いんだよ。だから幸村もあんなこと行ったんだぞ」
『う』
「また後でな、迷子になるなよ」
『ならないよー』



私の頭をぽんぽんとするとブン太は幸村君達の後に続いた。
さて、私も荷物を置きに行かなくちゃ。



男子側がどうなってるのかは分からないけど女子棟にされてる部屋は個室で全部必要な物は部屋に揃っていた。
お風呂まである。ちょっとした豪華なホテルみたいだ。
何か贅沢だなぁ。ここに一週間一人とかなんだか寂しい気がする。
あ、いけないいけない。
早く準備して行かなくちゃ。
荷物を置いて必要な物だけを持って部屋を後にした。



受付でみんなと合流して大ホールへと向かう。
本当にここ広いよなぁ。地図を貰っておいて良かった。



「凛先輩聞いてくださいよー!俺、幸村部長と真田副部長と柳先輩と同じ部屋なんすよー」
『それは、朝寝坊しないで済みそうだねぇ』
「俺も丸井先輩と同じ部屋が良かったっす」
「お前は問題児だから真田から赤也は俺と同じ部屋だって言われたんだろい」
『真田君面倒見良さそうだもんねぇ』
「その瞬間、仁王先輩と丸井先輩でジャッカル先輩と柳生先輩誘って四人部屋にしたじゃないっすかー」
「真田と同じ部屋はパス」
「酷いっすよー」
『決まっちゃったからにはしょうがないよ。赤也君頑張って!四人部屋とか楽しそうでいいなぁ』
「お前は違えの?」
『個室だったよ』
「じゃあ夜に丸井先輩と遊びに行きますね!」
『えっ』
「赤也、それはぜってぇ駄目」
「でも丸井先輩、一人じゃ絶対に幸村部長許さないっすよ」
「あーまぁどうにかなるだろ」



どうにかするつもりなんだブン太。
怒られないといいけども。
三人で話していたら大ホールに着いた。
え、何これ凄い。
大ホールには立食形式で沢山の料理が並んでいる。
既に何校か先に着いていた人達が食事をしていた。



「メシ!俺行ってきます!」
『食べすぎちゃ駄目だよー』



昼食にはまだ早いから軽食っぽい料理が並んでいる。
これできっと軽食なんだろうな。
お昼はお昼である気がする。
沢山の料理を見て目をキラキラさせた赤也君を見送った。


『ブン太は?何か食べる?』
「んじゃ少しだけ俺達も食うとするか」
『ケーキもあるねぇ』
「旨そうだなあれ」
『ドルチェかな?小さいし』
「あれなら全種類食えそうな気がする」
『ブン太、練習前だからね』
「分かってるよ」


色んな種類の小さなケーキがずらーっと並んでる所へと二人で足を運ぶ。
うわぁ、宝石箱みたいだ。
小さいのに1つ1つ丁寧に作られていて見ているだけでも楽しかった。


「丸井くーん!」
「お!ジロ君だ!」


二人で選んだケーキを食べているとブン太を呼ぶ声がする。
二人でそちらを向くとブン太が嬉しそうに手を振っていた。


「久しぶりだねー」
「おう、久しぶりだな」
「元気してた?」
「おう!お前は?」
「元気元気ー!丸井君に会えたからね!目が覚めちゃったよー」


二人は楽しそうに話している。
中学から顔馴染みのやつらが多いから知り合いは沢山いるよって幸村君が言ってた気がする。


「丸井君丸井君!」
「ん?」
「このこ丸井君の彼女?」
「おう。何で分かったんだ?」
「侑士が丸井君が女子と手繋いでたって言ってたから」
「あいつ相変わらず抜け目ねぇな」
「昔に戻ったみたいで俺安心したよー」
「おう、もう大丈夫だ。ぜってぇ負けねぇ」
「あ、俺ねー氷帝の芥川慈朗って言うの宜しくねー」
『椎名凛です。こちらこそ宜しくお願いします』
「凛ちゃんねー。じゃあ二人ともまた後でね」


ブン太は去年と今年でどう違うんだろ?
学校の違う芥川君が言うってことは雰囲気とか結構違ったのかな?
ちょっと知りたくなった。


『芥川君元気な人だったねぇ』
「他校だと一番仲がいいかもしんねぇ」
『彼女って紹介してくれてありがとう』
「当たり前だろい。何言ってんだよ」


去って行く芥川君の背中を見守りながらお礼を告げた。
ブン太は呆れた様な顔をしてるけど、でもやっぱり彼女って紹介されるのは凄い嬉しいよ。


「あ、あー。よし大丈夫だな。全校揃ったからな。ミーティングを始める。メシ食ったままでいいから聞いてろ」


マイクを通して大ホールに声が響いた。
これ全部で何校くらいいるんだろう?


「この後、部長と副部長だけでのミーティングをする。11時から食堂で昼食を取って12時30分から練習スタートだ。各校に練習試合の組合せ表は配っておいたからコートを間違えるなよ。以上。部長副部長は会議室Aに集合だ」


自然とマイクで話している主の元へと視線が向く。
この話し方はどこかで聞いたことがあるような気がする。どこでだろう?


『ブン太、この声って』
「あーこれが跡部な」
『そうなんだ』
「何かあったか?」
『んー跡部ってどこかで聞いたことあった気がするんだけど』
「は?人違いじゃねぇの?」
『この話し方も聞いたことある気がするし』
「どこで跡部なんかと知り合うんだよ」
『多分小さい時だと思う』
「あぁ」


私の言葉に一瞬ブン太は焦った表情をする。
いけない、心配させたくて言ってるんじゃないんだから。
またこないだみたいな風になってほしくはない。
言い方に気を付けないと。


『向こうも覚えてないかもしれないし』
「まぁ跡部のことなんて気にすんなよ」
『うん、大丈夫だよ』
「昼メシまでちょっと時間あるし散歩でも行くか」
『いいの?』
「いいに決まってんだろ」


良かった。機嫌が悪くなることは防げたみたいだ。
ブン太と大ホールを抜けて合宿所の外へと出た。


『気持ちいいねぇ』
「おー自然が沢山だもんな」
『ねぇブン太』
「なんだ?」
『言いたくないなら言わなくていいんだけどね』
「おう、お前になら何でも話してやるよ」
『去年のブン太は今とそんなに違ったの?』
「あー、まぁ、な。じろ君が言ってたから気になったか?」
『少しだけ』


合宿所から少しだけ離れた所に噴水があってその脇のベンチへと二人で座る。
そして気になってたことを聞いてみた。


「お前はどこまで知ってんの?」
『去年と今のブン太が全然違うってことだけ』
「俺去年は本当に荒れに荒れたからなぁ」
『そんなに?』
「そ、一時レギュラー落ちそうにまでなった」
『それは相当だね』
「クラス以外の女子にも冷たくしてたしな」
『そうなの?』
「まぁクラスの女子とも素っ気なかった気はする。多少な」
『うん』
「だから多分お前が隣にいる俺って去年を知ってるやつらからしたら多分別人なの」
『私何にも知らなかったなぁ』
「凛はこっちに居なかったから当たり前だろい。それに」
『それに?』
「お前は去年の俺知らなくて良かったって思ってる」
『何で?』
「すげー酷かったからさ。そんな俺見てなくて良かったなって思って」
『どんなブン太でも私は好きだよ。そりゃなるべく笑っててほしいけど』
「おう、ありがとな」


確かにブン太の笑ってる顔とか楽しそうにしてる所は好きだけどそうじゃなくても私はブン太のこと好きだったと思う。

付き合い始めて私が思ってたより隣にいる彼氏は繊細な所があるんだなぁって思った。
もっとずっと強そうだと思ってたのに。
でも気付いたらそういう所を含めて私はブン太のことが好きになっていた。

最初は繊細なとこがあるとか分からなかったけど今は全部含めて大好きな人だ。
だからなるべくブン太の笑顔を崩したくないなぁって思う。


「よし、そろそろメシ食いに行くか」
『うん』
「ごめんな」
『何で謝るの』
「お前の思ってる丸井ブン太と本当の俺結構違うと思う」
『そんなことないよ』
「でもさ、カッコ悪いとこ沢山あるぜ」
『さっきも言ったけど、私の知らなかったブン太を知れて私は嬉しいよ』
「凛」
『大丈夫だよ。笑ってなくたってカッコ悪くたってそれだってブン太だもん。ちゃんと隣にいるよ』


立上がり背伸びをしてブン太の頭をよしよしと撫でる。
元気がが出ますように。部活頑張れますように。安心してくれますように。


「俺、カッコ悪いな。よし!お前の彼氏なんだからちゃんとするわ!」
『別に大丈夫だよ?』
「俺がちゃんとしてぇの」
『頑張りすぎちゃわないように』
「疲れたら凛に充電してもらうわ」
『うん、いつでもどうぞー』


やっといつもみたいに笑ってくれた。
その表情を見て私もホッとする。
やっぱりこないだから何だか変だ。
でも何にも言ってこないから私からは聞かない。


私に出来ることは安心させてあげることだけ。


ブン太が何をそんなに心配してるのか分からないけど早く安心してくれますように。

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