合宿と独占欲

『合宿?』
「そ、GWは毎年合宿すんの」
「今年は氷帝でやるんだっけな?」
「あぁ、そうそう今年は跡部の別荘で合宿だよ」
「跡部さんちの別荘ってまた豪華っすね」
「長野でやるそうだ」
『長野?』
「いつもはうちと氷帝と青学の三校でやるんだけど今年は規模を大きくするみたいでね」
「跡部君のやりそうなことですね」
「まぁ今年で最後だからね俺達」
「長野まで行くの面倒じゃのう」
「跡部がバスを出してくれるから大丈夫だよ仁王」


今日は部室でみんなでお昼ご飯。
GWは合宿なのか。しかも長野県とか。
やることが凄いなぁ。
でも跡部って何処かで聞いたことがあるような?気のせいかな?


「4月29日の土曜日から5月5日の金曜日まで一週間だよ」
『明後日!?』
「あ、椎名さんには言ってなかったね」
「すまない、毎年のことだから伝えるのを忘れていた」
「予定は大丈夫かな?」
『部活だとは思ってたので大丈夫ですけど』
「なら良かった」
「5月6日の土曜日は帰ってきてこちらで部活をする」
「5月7日は休みにすることに決めた」
「おお!真田副部長太っ腹っすね!」
「丸一日休みなんて珍しいな」
「修学旅行の買い出しとかあるだろうからね」
「あぁ、それは助かります」
「凛、俺と行こうぜ」
『うん、分かった。あ、今日は梅ゼリーにしてみました』
「凛先輩あざーっす!」


明後日から合宿!?
急すぎてびっくりした。毎年のことだから他の皆は普通そうにしてるけど。
帰ったら準備しなくちゃ。
んーそれにしてもあとべ?あとべー?…駄目だ全然分かんないや。
絶対に聞いたことある気がするんだけど。
皆にゼリーを配りながら考えてみる。
でも何度考えても記憶はぼんやりしてて思い出すことは出来なかった。


「お前らGWいねーの?」
『長野で一週間合宿だって』
「えぇ!凛と修学旅行の買い出し行こうと思ったのにー」
「鈴木残念。凛は最終日に俺と行くんですー」
「丸井って意外と独占欲強いんだね」
「あ、俺もそれ思った」
「普通だろい?」
「椎名さんは気になんねぇの?」
『うん、ないよ』
「凛は丸井のこと大好きだからねぇ」
『ちょっと!ちはるちゃん!』
「お前も嬉しそうにしてんじゃねぇよ丸井!」
「あ?んなことねぇよ」
「その顔全く説得力ないな」
「だね」


今は五限。担任の授業を潰して修学旅行のタイムテーブルを煮詰めることになっている。
梨夏が頑張ってくれてるおかげで私達のやることはあまり無い。
このままだと本当に旅のしおりを作ってくれそうな勢いだ。
ちはるちゃんが変なこと言うから顔が熱い気がする。


「じゃあ俺達四人で行こうぜ買い出し!」
「サッカー部いつ休みなの?」
「俺達は1日2日と連休!」
「あ、私も一緒ー」
「バレー部も一緒だよ」
『四人で買い出し楽しそうだねぇ』
「なっ!凛!俺と行くのは」
『ブン太と行けるのは楽しみだよ』
「お、おう」
「俺が想像してたのと違う」
「大丈夫、うちらが想像してたのとも違うから」


最近はブン太の考えてることも何となく分かることが増えてきた。
だから不満を漏らす前に先回りして回避出来るようになってる。
そうすると不満げだった顔が一瞬でふにゃりと緩むから可愛いんだよね。
これは私だけの秘密。
四人は何処に買い出しに行くかの相談を始めている。
あーちはるちゃん嬉しそうだなぁ。


「凛ーこれ見てみろって」
『ん?なぁに?』
「ここ。これ旨そうじゃねぇ?」
『えぇと、札幌で話題のスイーツ特集?』
「そ、このケーキ屋。札幌で一番なんだって」
『わ、それは絶対に行かなきゃねぇ』
「そっからここのメシ屋に行こうぜ」
『それならちょうど時間的にもいいねぇ』


初日と二日目三日目のタイムテーブルは四人に任せている。
私とブン太は四日目のタイムテーブルの担当。
確か初日がちはるちゃんと青木君で二日目三日目が梨夏と上田君の担当だ。
ちはるちゃんと梨夏で二日目三日目をやると思ってたから少し意外だった。
まだちはるちゃんからは直接聞いてないけど、多分梨夏がそうするって決めたんだろうなぁ。


「なぁ」
『何ー?』
「俺達が四日目のタイムテーブルやるのは当たり前だろい?」
『うん』
「何であいつらも男女に分かれたんだ?」
『それはこっそり梨夏かちはるちゃんに聞いて』
「おう」


ブン太は全く分かってないみたいだった。
私もちゃんと聞いたことはないけど多分ちはるちゃんは青木君のことが好きなんだと思う。
顔を見てたらなんとなく分かる。
ちはるちゃんはとても優しい顔をして青木君を見てるから。
あぁ、恋愛って第三者から見てるとかなり分かりやすいんだなぁ。
上田君には他校に彼女がいるらしい。
あ、そう言えば梨夏とジャッカル君ってどうなってるんだろう?
野次馬っぽいことはしたくないけど、梨夏もちはるちゃんも自分の恋愛話はあんまりしてくれないからなぁ。少しだけ気になった。いつも私の話を聞いてくれてたのは二人だから二人も絶対に幸せになってほしい。
これも柳君にこっそり聞いてみよう。


「凛」
『なぁに?』


部活が終わった帰り道。
次の曲がり角を曲がればうちに着くって時にブン太が立ち止まる。
手を繋いでいるわけで自然と私の足も止まった。
どうしたんだろう?隣のブン太の顔を覗き込む。


『ブン太?』


空いた方の手の平がすっと私の頬に伸びた。
ブン太と向き合う形になる。
触れられた頬が熱を持った気がする。
ブン太は何も言わない。
顔が近い。心臓がドキドキしてきた。
あぁでもブン太カッコいいなぁ。
思わずブン太に見とれてしまう。


「凛」
『何?』
「その顔は反則」
『え?』


気付いたらブン太の腕の中。
ぎゅっと抱きしめられた。
反則?え?反則ってどうして?


『ブン太がカッコいいなぁって思っただけだよ』
「俺は凛が可愛すぎるんだけど」
『うーん、そんなことないよ?』
「俺がそう決めたからいいんだって」
『ブン太急にどうしたの?』
「急にじゃねぇの」
『ん?』
「俺は最近ずーっとお前が大好きなの」
『私の方がずっとだよー』


どうしたんだろう?
こんなブン太は初めてだ。
でも可愛い。きっとこんなブン太が見れるのは私だけだと思う。
かなり自惚れてるとは思うけど。
私の肩に頭を埋めるブン太の後頭部をよしよしと撫でる。
いつもは撫でるなって言うのに今日はそれもない。
私、何かしちゃったんだろうか?


『私、心配させるようなことしちゃった?』
「何もねぇよ」
『ほんと?』
「おう、ただちょっとこうしたかっただけ」
『ならいいけど。ちゃんと何かあったら言ってね』
「分かってる」
『合宿も修学旅行も楽しみだね』
「合宿は正直連れて行きたくねぇ」
『えっ!』
「他にも男沢山いるだろうし」
『マネージャーは他の学校にもいるんでしょ?』
「そうだけど嫌なもんは嫌だ」
『私はブン太と一緒に居たいのになぁ』
「またそうやって可愛いこと言う」
『本心だよ?』
「なぁ」
『なぁに』
「俺のことだけ見てろよ。他の男なんて見るなよ」
『当たり前だよ。今までだってずっとブン太のことしか見てなかったよ』
「ん、ならいい。よし!充電終わったー」


最後に強く抱きしめてからブン太は私から離れた。
何にもないのにこんな風になったりするのだろうか?
大丈夫かな?男の子はたまにはこういうこともあるのかな?


「んな顔すんなよ」
『え』
「大丈夫だよ。何もねぇから」
『分かった』


心配してたのが顔に出てたらしい。
私の頭をぽんぽんとするといつものように笑って私の手を取る。
そうして何もなかったかのように歩き出した。
男の子ってなんだか難しい。
でも何も無いって言うならそれが本当なんだろう。


合宿だと差し入れ作れないなぁ。
柳君が言うには跡部君はお金持ちらしいから別荘でキッチン貸してもらおうかなぁ?
今日みたいなブン太を見れるのも嬉しいけどやっぱりいつもみたいに笑っててほしいから。


毎日がキラキラしてる。
あぁ、私は本当に幸せだ。
繋いだ手を強く握りしめた。

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -