修学旅行の計画

「俺旭川行きたい」
「札幌で旨いもん食いたい」
『スイーツも』
「なぁなぁ稚内行かねぇ?」
「それ遠すぎない?」
「移動にどんだけ時間かかると思ってるのさ」
「最北端だぜ?日本最北端!」
『13時間かかるって札幌から稚内』
「げ」
「上田それは無いわー」


修学旅行の計画をお昼ご飯の時間に6人で考えてる時に上田君が稚内に行きたいって言い出した。
ささっとGoogleで調べて見たけど13時間は遠いなぁ。
三泊四日の予定をきっちりタイムテーブルで作り上げて先生に提出して許可が降りないと行かせてもらえないのだ。
学校から出されたのは帰りの飛行機の時間だけ。
そこに間に合うのなら何処へ行っても良いとされている。


『旭川までは二時間で行けるみたいだけどねぇ。稚内は遠いなぁ』
「私小樽に行きたい!夜景見たい!」
「函館も捨てがたいよねぇ」
「稚内はやっぱり駄目か」
『往復でまる一日潰れちゃうからねぇ』
「飛行機は?」
「交通機関は電車かバスのみって決められてるよ」
「仕方無い、諦めるわ俺」
「どんまい上田」


よっぽど稚内に行きたかったらしい。
上田君はがっくりと肩を落としている。
ブン太が静かだなと思ったら札幌の食べ歩きの本を見て目をキラキラさせていた。
北海道なら何処に行っても食べ物は美味しいだろうからなぁ。
私も絶対にここに行きたいって要求はあんまりない。


「なぁ最終日は札幌に泊まらねぇ?」
「何か美味しそうなものあった?」
「帰りの飛行機は夕方だから朝イチで食べ歩きしてーじゃん」
「札幌は初日でもいいんじゃないの?」
『お土産買うこととか考えたら最終日のがいいかも。ホテルから宅急便で送ってもらえばいいし』
「あー確かにな」
「じゃあ三日目を札幌泊ね」
「旭川行きてぇ!旭山動物園行きたくねぇ?」
「初日旭川にする?」
『それでいいかも。函館は五時間かかるって』
「移動に五時間は」
『無理そうだねぇ』


稚内と函館を却下する。
後は小樽だけど小樽は札幌から近いからなぁ。
二日目はどこに泊まろうかと6人で頭を悩ませる。
北海道の観光ガイドをペラペラ捲ってると登別温泉の文字が見えた。
温泉かぁ。


『温泉良さそうだなぁ』
「温泉?」
『あ、ごめん。観光とかじゃないよね』
「凛何を見てんの?」
『登別温泉って書いてあったからつい』
「登別って札幌からどんくらい?」
「高速バスで二時間半だって」
「温泉なー」
「いいんじゃない?他に見つからないし」
「登別ならクマ牧場あんな!」
「青木って動物好きだったのね」
「かなり好き!」
「意外だわお前がそんなに動物好きだなんて」


クマ牧場と旭山動物園に行けるって決まって青木君はかなり嬉しそうだ。
温泉は観光になるのかな?
でもこれで予定が一応決まった。
初日旭川二日目登別三日目が札幌泊だ。
予定が埋まってくのがなんだか嬉しい。


「じゃあ決めちゃうよ」
「おっけー」
『うん』
「後はこの細かいタイムテーブル埋めてくだけか」
「先生に許可取って提携のホテルか宿に予約の電話もね」
「げ、だりぃ」
「はいはい、運動部の君達は大変でしょうからね私がやりますよ」
「鈴木やるなぁ!」
『じゃあ梨夏に任せちゃうよ。何かあったら手伝うし』
「こういうの得意だから任せて」


確かに梨夏は旅の栞的な物を作ったりするのは昔から得意だった気がする。
泊まる場所が決まったら後は肉付けしていくだけだ。
修学旅行楽しみだな。
梨夏とちはるちゃんが居てブン太と上田君と青木君がいる。
二人ともブン太とは仲良しだしこの6人で班になれて本当に良かった。


ちなみに青木君にはお花見の時に「俺、椎名さんのこと諦めるから。だからクラスメイトとして仲良くしてほしい」って言われてる。
そんなこと言われなくてもそうするつもりだったのに青木君は律儀だなぁって思った。


部活の時間、いつもの洗濯タイム。
この洗濯機を回して乾かしてる時間はいつも暇だ。
最近はテニスのルールブック入門編なるものを柳君に貸してもらって読んでいる。
なんとなくしかテニスのルール知らなかったから読んでいて初めて知ったこととかも多かった。
コンコンと扉をノックする音が聞こえて顔をあげる。
仁王君ではない。仁王君なら扉を開けつつ声をかけてくるからだ。
じゃあきっと初日に来たあのこ達だなって予測した。


『はい』


ガチャリと扉を開けて入ってきたのは予測した通り初日に辛辣な言葉を投げつけてきた子でぐっと身体に力が入る。
相変わらず物凄い形相だ。
初日と違ったのは今日は一人だってことくらい。


「部活辞めてくれる気になった?」
『なりません』


何をこの人は突然言い出すんだろうか。
そんな嫌がらせしたって仕方無いのに。
小さく口から溜め息が漏れた。


「貴女、丸井と付き合ってるって本当に?」
『はい』
「チッ」


あからさまな舌打ちが聞こえる。
あぁまた可愛い顔が台無しだよ。
そんなこと言ったら怒らせるだけだから言わないけど。


「別れる気は」
『ありません』
「何で貴女なんかがマネージャーになれて丸井と付き合えるのよ」
『それは私に聞かれても』


困るよ。私だって何故ブン太が私のことを好きになってくれたのか分からないんだ。
不安は全くない。ブン太を見てたらなんとなく気持ちは分かるから。
でもどうして付き合おうって思ってくれたのかはまだよくわかってない。
でも大して気にしてはなかった。
ブン太は本当に色々分かりやすいから。
好きだって大事だって気持ちは凄い伝わってくるから。


「ねぇ」
『ブン太とも別れないしマネージャーも辞めませんよ』
「なっ!」


ピーと洗濯の終わりを告げる音が聞こえる。
彼女には悪いけど今は部活中だ。
話に付き合ってはいられない。
洗濯機からタオルを乾燥機へと移していく。


「ちょっと!話してる最中なんだけど!」
『部活中なんでごめんなさい』
「ふざけてるの!」
『そんな大声出すと』
「ねぇ、君は何をしているの?」


そんな大声出すとコートまで聞こえちゃうよって言おうとした所で幸村君の声が聞こえた。
扉開いたままだったのか。いつもは仁王君がいるその場所に幸村君が居る。


「違うの」
「何が違うの?うちのマネージャーに何か用事?」
「別に」
「じゃあもう出てってくれるかな」
「幸村君違うの」
「何が?俺は別に何も言ってないよね。ただマネージャーの仕事の邪魔はしないでって言ってるだけだよ」
「分かった」


幸村君の声がやけに刺々しい。
彼女は小さく最後の言葉を呟くと大人しく出ていった。


『ごめんね』
「何が?」
『気を遣わせちゃったなと』
「休憩中だっただけだよ」
『でも』
「むしろこういうのはちゃんと話してほしいんだけどな」
『え?』
「何もなかったから良かったものの何かあったら大変だよ」
『何もないから大丈夫だよ』
「丸井には心配させたくないんだろうけどさ」
『うん、ブン太には知られたくない』
「俺達は知っててもいいでしょ?だから今度から嫌がらせとかあったら話してよ」
『うーん』
「椎名さんから聞く前に他の人間からその話を聞いたら丸井の練習増やすから」
『えぇ!』
「じゃあちゃんと話してよ。まぁ当分は大丈夫だろうけどね」
『分かった。幸村君ありがとう』
「何かあってからじゃ遅いからね」


彼女が出ていってからも幸村君の言葉にはどこか棘がある。
あ、もしかして怒ってるのだろうか?
でも初日の部活以来こんなことはなかったのだ。
コートへと戻る幸村君の背中を見送った。


どちらにしろやっぱりテニス部は過保護すぎると思う。
嫌なわけじゃないけど、ちゃんと同じ部員として大事にしてくれてるのも分かるけど。
あんまり心配させすぎたくはないんだけどなぁ。
こないだも柳君と柳生君に言われたばっかりなのに。
ついに幸村君にまで言われちゃうとは。


あ、仁王君の話を聞くの忘れた。
幸村君だって部長だ。きっと何か知ってるはずなのにな。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。


でもこれで洗濯の最中に誰かに邪魔をされることもなくなるだろう。
そこは素直に幸村君に感謝しようって思った。

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