班決めと寂しい背中

「今日のHRはこれで終わりな。あ、来月の修学旅行の班を決めといてな。出来れば今日中に」


そう言えば来月は修学旅行があるなぁ。
朝のHRに先生に言われて思い出した。
北海道三泊四日の旅。
さらっと今日中にって言葉にクラスから非難の声が上がってる。
丸井君と同じ班になれたらいいなぁ。


「お前ら仲良しなんだから今日中にでも大丈夫だろ。今日俺の授業ないんだし宜しく頼むよ。忘れてたことは謝るからさ」
「しょうがねぇなぁ」
「先生が今日までなの忘れてたのが悪いのにねー」
「まぁどうにかするわ」
「んじゃ宜しくな」


そう一言告げて先生は教室から出て行った。
今日中だとくじ引きとかかなぁ?
周りで班決めの相談が始まっている。
30人のクラスだから6人男女3人ずつかな?
それだったらちはるちゃんと梨夏と同じになれるなぁ。
ちなみに丸井君のことはまだ二人の時にしかブン太って呼べてない。
恥ずかしいから。
誕生日の時はそんなことなかったけどお祝いしたい気持ちでいっぱいだったし。
でも教室着いてからなんか一気に恥ずかしくなって名前を呼べて居ない。
みんながいる時は丸井君って呼んでしまう。
慣れるまではしょうがないって笑って許してくれたことが凄い嬉しかった。


「凛、凛ってば聞いてるの?」
『あ、ごめん。聞いてなかった』
「お前また一人で考え事してただろ」


ちはるちゃんの声にハッとする。
全然聞いてなかった。
丸井君がそれを見て笑ってる。
その横に青木君と上田君もいる。
どうしたんだろう?


「椎名さん全然聞いてなかったみたいな顔してるよ」
「俺達6人で話してたつもりなのに」
「凛、あたしとちはると凛と丸井と青木と上田で班にしようって話してたんだけど」
『そうなの?』
「嫌なのかよ」
『違うよ!くじ引きとかになるのかなって思ってた』
「それじゃ俺、お前と同じ班になれねーじゃん」
『そうなんだけど』
「他の奴らも決まったみたいだぜ」
「はえーな」
「3Bだからねぇ」
「じゃ、修学旅行の時は宜しくな」
「おー」
「こちらこそー」
『うん、宜しく』


梨夏が委員長の所に班を報告しに行ってる。
ちはるちゃんはそのまま上田君と青木君と北海道の話をしていて丸井君は…あ、ちょっとご機嫌ナナメ。


『丸井君?』


すっとこっちに視線を向けたけど直ぐにそらされた。
あーくじ引きって言ったことに対してご機嫌ナナメなんだなこれ。


「俺、もう丸井君って呼ばれても返事しねぇ」
『えぇ!ごめん!丸井君と同じ班になりたかったよ!』
「返事しねぇ」
『くじ引きとか思ってたけど、ちゃんと丸井君と同じ班になりたかったと言うかなんとなくなれるって思ってたよ』
「聞こえないー」


えぇ、そんな意地悪なこと言うの?
確かにみんなの話をきいてなかった私も悪いけど。


「何々?喧嘩?初喧嘩?」
「鈴木、楽しそうだな」
「梨夏違うよ。丸井が子供なんだよ」
「凛にはこのくらいスパルタしねぇと俺名前呼んでもらえねーし」
「お前色々と吹っ切れたんだなー」
『だからねだからね、二人の時はちゃんと呼んでるよ』
「聞こえません」
「返事してるじゃねーか」
「凛、慣れるまでは恥ずかしいだろうけど名前で呼べばいいじゃん」
「このままだとそのうち凛も名字で呼ばれるよ」
『それは嫌だ』
「椎名さん、名前で呼んでやったら?」


何でちはるちゃんも梨夏も青木君も上田君も丸井君の味方みたいになってるの?
丸井君は丸井君でなんだか得意気だし。
他の四人も早く名前で呼んでやれよみたいな顔をしている。
あぁもうこうなったら仕方ない。


『ブン太、くじ引きって言ってごめんね』
「おう」
「何で名前で呼んだだけなのにコイツらの空気こんな感じなの?」
「俺、席戻るわ」
「照れ臭いんじゃない?」
「名前で呼べって言った側があんな顔してたらねぇ」
「バカップルだわほんと」
「「「間違いない」」」
「お前ら好き勝手言いやがって!」
「とりあえず明日までに北海道の行きたい所調べておいてねー」


初めてみんなの前で名前を呼んだら物凄い恥ずかしい。
丸井君は丸井君でなんだか顔が赤い。
その顔が見れたのは嬉しいけど。
ちはるちゃんの声に返事をして青木君と上田君は自分の席に帰っていった。
梨夏とちはるちゃんは何処に行きたいか楽しそうに話している。


『ブン太は何処に行きたい?』
「俺?旨いもん食いてぇ」
『やっぱり』
「笑うなよ。北海道は食も観光だろい。んでお前は?」
『スイーツ食べたい』
「ほらお前もかわんねーし」
『そうだね』


深呼吸してから丸井君、じゃなくてブン太の名前を呼ぶ。
目を合わせて嬉しそうな顔をするからもう恥ずかしいとか迷って名字で呼ぶのは止めようって思った。
二人して観光地じゃなくて美味しい物食べたいってのがまたちょっと嬉しい。


昼休み、今日はブン太と一緒に屋上へと向かう。
月水金が梨夏とちはるちゃんと。
火木土日はブン太とご飯だ。
そういえば会わない日がないなぁ。
テニス部は土日も部活だもんなぁ。
それって当たり前みたいに感じるけど全然そうじゃないよね。
屋上で何時ものように円になって座る。
私の右手にブン太が居て左手は赤也君。


「丸井達は修学旅行どこに行くか決まったの?」
「うちは今日班が決まったとこ」
「他のクラスと比べると遅いな」
『担任が今日まで班決めのこと忘れてて』
「先輩達どのくらい居ないんすか?」
「4日間だな」
「赤也、その間は部活頼むぞ」
「任せてくださいよ!その代わりお土産楽しみにしてるんで!」
「土産など無くても頑張ると言えんのかお前は」
「いや、そりゃそうっすけど!」
「じゃ赤也は土産いらんのじゃな」
「えぇ!仁王先輩酷いっす!」
『大丈夫だよ。ちゃんとみんな赤也君のお土産買ってくるよ。ねぇま、…ブン太?』
「おう。食べれねーもん買ってきてやる」


危ない。丸井君って呼ぶとこだった。
ちゃんとブン太って呼べて良かった良かった。
あれ?みんなの反応が無い。
不思議に思って周りを見るとなんだか赤也君以外みんなさっきより優しい顔をしてる気がする。


「丸井先輩ずりーっす!凛先輩!俺も!俺も赤也って呼んでください!」
『えぇ!』
「赤也、それはぜってー駄目」
「何でっすか!」
「凛が呼び捨てで呼んでいいの俺だけなの」
「ブン太、梨夏のことも椎名は名前で呼んでるぞ」
「男の話だって」
「えぇ、凛先輩駄目っすか?」
『ブン太が駄目って言ったからごめんね。でもお土産はちゃんと買ってくるから』
「じゃ諦めます」
「お、珍しく直ぐに諦めたな」
「切原君も成長してるんですねぇ」
「違うよ柳生。もう一回赤也がしつこくしてたら弦一郎が怒ってたからね。だから赤也は諦めたんだよ」
「ちょ!幸村部長何ばらしてるんすか!」
『なるほど』
「赤也!さっさと飯を食わんか!」
「すんません!」


その後、昼食を取りながら他のクラスの人達がどこに行くのか話を聞いていた。
合間合間に赤也君のそれって何処にあるんすか?の質問に答えながら。
途中でまた真田君に怒られてたけど。


三泊四日だから絞らないといけないよねやっぱり。
うちの高校は何ヵ所かの宿泊施設の候補があってその中から泊まる場所を選ぶ。
札幌、函館、釧路、旭川、他にも何ヵ所かある
移動の事を考えると二ヶ所くらいに絞るのが良さそうだ。
ブン太と北海道に行ける。
楽しみだなぁ。


いつもの部活のいつもの洗濯の時間。
目の前にはいつもの仁王君。
毎日ではないけど休憩入って私が居ない時は見に来てくれてるみたいだ。


「ブンちゃん喜んだじゃろ」
『うん、可愛かった。仁王君ありがとう』
「青木から聞いたからのう」
『青木君?』
「悩んどったらしいぞ」
『そうなの?』
「ブンちゃん可愛いとこあるじゃろ」
『うん。知ってる』
「お前さんも照れたりせんくなってきたからつまらんぜよ」
『楽しむとか酷いよ仁王君』
「冗談じゃ」
『仁王君は何か悩んだりしてないの?』
「何でじゃ?」
『なんとなく』
「なんもなかよ。じゃ、練習戻るなり」
『はーい』


ひらひらと手を振って仁王君は戻って行った。
またかわされちゃったなぁ。
何か話したいことがあるように感じるのは何でだろ?
私じゃ頼りないかなぁやっぱり。
ふと柳君と柳生君が言ってたことを思い出す。
仁王君は誰かに頼ったりしないのかな?
何だか去り際の背中が寂しそうでそれが気になった。


もしかして仁王君ってまだ斎藤さんのこと好きなのかな?


いや、うーん。
分かんないや。
今度柳君に聞いてみよう。


あぁいつの間にか私もこのテニス部の空気に染まってるなぁ。
それが何だか嬉しくて笑みが溢れた。

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