ハッピーバースデー

「兄ちゃん!」
「せーの」
「「誕生日おめでとう!」」
「おー朝からありがとな!」


朝起きて一番に弟達に誕生日を祝う言葉を貰う。
内心驚いたけどそれぞれの頭をぐりぐりと撫でてお礼を伝えると嬉しそうに笑い布団へと戻っていった。
わざわざ俺に「誕生日おめでとう」と伝えるためだけに早起きしたんだなあいつら。
8歳と11歳になっても可愛いなぁ。
よし、今度またがっつり遊んでやろう。
毎日遊んでるけどさ。


誕生日のことを忘れたことなんて過去に一度もなかったのに今年はすっかり忘れてた。
あ、そしたら凛の内緒話もこのことだったのか?
だったらいいなと制服に着替えながら自然と笑みが溢れた。


いつもより早目にうちを出て凛を迎えに行くことにした。
家族以外から貰う最初の祝いの言葉は凛から欲しかったのだ。


『丸井君!?』
「はよ」
『おはよう。18歳の誕生日おめでとう』
「ありがとな」


ちょうど凛のうちの前に着いたら玄関から出て来るところだった。
俺の姿が目に入った所で驚いた顔をしてる。朝練の時に迎えに行くの初めてだもんな。
でも直ぐに笑ってちゃんと欲しい言葉をくれた。
覚えてくれて良かった。これ忘れられてたら俺すげー恥ずかしいやつだったよな。


『どうしたの?』
「や、何も。最初に凛におめでとうって言ってほしかっただけ」
『わ!ごめん!』
「何でごめんなんだよ」
『私が迎えに行くとこだったと思ったから』
「お前、俺んち知ってたっけ?」
『知らないけど、主役に迎えに来させるなんてしくじりました私』
「彼女に迎えに来てもらうとか誕生日でも嫌だぜ俺」


二人で学校へと歩きながら話す。
何やらいつもより大荷物の様な気がしなくもない。
あぁちゃんと俺の誕生日のこと考えてくれてんだろなー。
凛の手を握りしめて幸せを噛み締めた。


『丸井君』
「んー?」
『内緒話は誕生日のことだったの』
「ん、起きて気付いた」
『やっぱり誕生日忘れてた?』
「俺今まで自分の誕生日忘れたことなかったのになー」
『今日帰りにうちに寄ってね』
「ん?」
『ホールケーキ作ったんだけどさすがに学校に持っていけないから』
「マジで?ホールで貰っていいのかよ?」
『誕生日だもん当たり前だよー』


凛の言うことは確かに間違ってないけど、過去に弟の誕生日のホールケーキ頼んだことあったし。
でも自分のためのホールケーキは初めてで、それが無性に嬉しかった。

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「んじゃうちに連絡しとくわ」
『何て?』
「今日はケーキ2つになるって」
『え、それって』
「いつもは弟達と母さんが作ってくれるんだよ」
『ごめん!』
「なんで謝るんだよ」
『だってその可能性あったはずなのにすっかり忘れてた』
「誕生日にホールケーキ2つとかめっちゃ嬉しくねぇ?」
『いいの?』
「俺2つくらいなら余裕で食えるから大丈夫大丈夫!」


また変なとこ気にするよなー。
今頃うちの家族達は喜んでると思うぞ。
凛のうちのケーキは家族で争奪戦になるからな。


『後ね、これ』
「ん?」
『ケーキは食べたらなくなっちゃうからちゃんとしたプレゼント』
「ケーキもちゃんとしたプレゼントだろい」
『でも何かちゃんと残るものあげたかったのー』
「開けていい?」
『うん、気に入ってくれるといいけど』


握った手を離して鞄から紙袋を取り出した。
それを俺に手渡す。
何でそんな緊張した顔してんだよ。
中身を取り出してラッピングをほどいていく。
何が入ってんだろ?


「これ…」
『柳君から聞いたの。新しいリストバンド欲しいって言ってたって』
「よく見付けたな。これ俺が欲しかったやつ!どこも在庫切れてたんだよなー」
『これ可愛いなと思って頑張って探したの。丸井君が欲しいやつなら良かったー』


ウィルソンのベアリストバンド。
熊の刺繍が入ってんだよな。
なかなか置いてなくて諦めて普通のを買おうとしてた所だ。
それを伝えるとやっと笑ってくれた。


『後ね、誕生日プレゼントになるかよく分かんないんだけど』
「何だよそれ」
『んー、仁王君が教えてくれたの』
「仁王が?」


プレゼントをしまい再び手を繋いで歩き出す。
凛が少し戸惑いながらポツリポツリと言った。
仁王が?アイツが言うことってろくなことにならなさそうなんだけど大丈夫か?


『んー』
「他にも誕生日プレゼントがあるってことだろ?」
『そうなるのかな?』
「仁王がってのがちょっと釈然としねーけどな」
『仁王君、優しいよ?』
「まぁな。んで何をくれんの?」


さっきとは違って手は繋がれたままだ。
何かを取り出す素振りもない。
これ以上何をくれるってんだ?


『ブン太、誕生日おめでとう』


いつもより小さめな控え目な声が隣から響く。
は?いきなり過ぎるだろそれ。
顔が一瞬で熱を持ったのが分かる。
いや、呼んでほしいとは思ってたけど、それはご褒美でもらう予定だったわけで不意討ちの名前呼びに俺はかなり恥ずかしくなった。


『丸井君?あの、その名前で呼ばない方が良かった?呼び捨てにしない方がいい?』
「いや、嫌だったとかじゃなくて」
『でも』
「気にすんな。それで大丈夫だから」
『いいの?誕生日プレゼントになった?』
「なった。なったから」


凛は俺の気持ちを追撃してくる。
俺の反応どこからどう見てもおかしいもんな。心配するよな。
でもこの気持ちをどう説明していいかちょっとわかんねぇ。照れ臭いだろ。


『口数少ないよ?』
「イライラしてるんじゃねぇよ」
『ほんと?』
「むしろ逆」
『逆?』


確かにイライラしてるときは口数少ないけどさ、今はそうじゃない。
俺の言葉に凛は不思議そうだ。


『あ、もしかして照れてるの?』
「ちげーし」
『顔赤いよ』
「早く朝練行くぞ」
『ブン太』
「何だよ」
『名前呼べて嬉しい』
「おう」


何だよ隣で嬉しそうに笑いやがって。
これ以上横顔を見られたくなくて凛を引っ張るように足早に歩いた。
だんだん凛のペースに嵌まってる気がする。
俺かなりカッコわりぃな。


最初は俺のペースだったはずなのにな。
いつの間にこんな振り回されるようになったんだ?
あぁでも考えて見れば最初から凛のペースだったのかもしれない。
青木の告白を聞いた時から俺は振り回されてたのかもな。


朝練で部員に祝われクラスで皆から祝ってもらって(クラス全員からって誕生日プレゼントを貰った。
まさかのわたあめ製造機。確かにまだうちにはねーけどさ)帰りに凛からホールケーキを貰って、凛のお母さんからは焼き菓子を貰った。
それ以外からのプレゼントも多少あったけど断った。
他は欲しくなかったから。


俺なんだかんだ愛されてんのなー。
帰り道にしみじみと今日のことを思い出して幸せを噛み締める。
帰ってみんな喜ぶだろうなー。


俺の名前を呼んで少しはにかむ凛の顔を思い出して嬉しくなった。
仁王は何で知ってたんだろな?
俺、仁王には話してないと思うんだけど。


まぁいいか。
すげー照れ臭かったけど、唯一の悩みが解決したし。
帰りにご褒美は何がいいか聞かれたけどもう何もいらないって伝えておいた。
あ、毎日の差し入れは必須だけど。
結局名前で呼んで欲しかったって話はしてない。
カッコわりぃから言いたくない。


あいつの誕生日は何をしてやろーかな?
今日のお返しをがっつりしてやらないとな。


帰って豪勢な夕食を食べてホールケーキを2つ並べて家族で楽しんだ。
2つもあったのにあっという間になくなってその後にわたあめ製造機でわたあめを作る。
今度会わせてよとの家族の声に即答で了解しといた。
母さんは驚いてたけど。
まぁ今までは会わせたことなかったもんな。


誕生日がとても幸せな1日になったことを祝ってくれた人達に感謝して眠りについた。
今日は良い夢見れそうだな。

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