フローライト(西谷)

「西谷、珍しいもん持ってんな」
「それ俺のお守り」


今日の試験勉強は俺んちに2年が集まった。
試験どうにかパスしねえと東京に合宿に行けねえからな。
力先生樣々だぜほんと。
勉強の合間に木下が勉強机の上に置いてある石を見付けて興味深そうに眺めている。


「天然石か?」
「おー多分な」
「多分って何だよ」
「貰いもんだから詳しくは知らねえ」
「あ!あれだろ?それってノヤの初恋の相手から貰ったやつだよな」
「おー龍、良く覚えてたな!」
「西谷の初恋かぁ」
「田中は全部知ってんの?」
「その石が初恋の相手から貰ったやつってことくらいしか知らね」
「休憩がてら教えろよ西谷」
「おう、お前らにならいいぜ!」


大した話じゃねえけどな。
そう前置きしてアイツの話を龍達にしてやることにした。


あれは小学校の低学年の時だ。
俺には1つ上の幼馴染みってヤツが居た。
あの時の俺は怖がりで何に対しても最初はビビってたと思う。
友達作るのも下手くそだったもんな。
俺と仲良くしてくれてたのは凛だけだった気がする。


『夕?どうしたの?』
「じいちゃんが根性無しはうちのこじゃないって言った」
『泣かないで、大丈夫だから』
「直るまで帰ってくんなって」
『夕はどこに根性落としてきたんだろね?』
「落とした?」
『うん、きっとどこかに夕の根性落ちてるから探しに行こう?』
「見つかるかな?」
『大丈夫だよ。きっと見付かる』


あれは夏前だった気がする。
俺の怖がりに堪忍袋の尾が切れたじいちゃんに家から叩き出されたんだ。
玄関で泣いてたら凛が心配そうに自分ちから出てきた。
それから凛の家で根性を見付けに行く旅支度をして二人で出掛けた。
どこに向かって歩いてるかなんて分かってなかったと思う。
ただひたすら二人で歩き続けたんだ。
今思うとあれって家出みたいなもんだったよな。
二人で手を繋いでひたすらひたすら歩いた。
俺の落とした根性を探して。


気付いた時には全然知らない場所に居た。
迷子ってやつだろな。真っ直ぐ歩いてりゃ帰れたのに行き当りばったりであちこち曲がったから自分達の家の方向なんてさっぱり分かんなくなってた。


「ここどこ?」
『分かんない』
「うち帰れなくなっちゃった」
『大丈夫だよ!夕!私が着いてるからね!』


1つ上だってだけなのにあの時の凛はすげー頼もしかった。
俺の手をギュッと握ってずんずんと歩き続けたんだ。
俺は泣きそうだったけど凛が居たから何とか泣かずに済んでたんだと思う。
焦れば焦るほど日はどんどん沈んでいき俺達は途方に暮れた。


「疲れた」
『夕、大丈夫?ちょっと休憩しようか』
「うん」


既に日が暮れて周りは暗かった。
俺も凛も歩き疲れてへとへとだったから手頃な公園の遊具の下で休憩することにした。


『夕、麦茶飲む?』
「飲む」
『メロンパン半分こしようか』
「うん」


水筒にパンにブランケット。
凛のリュックサックには何でも入ってんだってあの頃の俺はすげー感心した気がする。
凛といれば何とかなるって思えたんだ。


『雷鳴ってる』


夕方までは天気が良かったのに日が暮れて雲が増えたのだろう。
二人で麦茶を飲んでパンを食べ終えた頃にはゴロゴロと雷が鳴っていた。
さすがに凛も傘は持ってなくて真っ暗な空を遊具の下から二人で仰いだ。


『夕ごめんね』
「何で謝るの?」
『私が根性探しに行こうって言ったから』


ザーと雨が降りだして遊具の下へと戻った。
地面よりは高い場所にあるから雨が入ってくることは無さそうだ。
二人でブランケットにくるまって座る。
そしたら凛がその日初めて弱気なことを言った。
今にも泣き出しそうで俺は何にも言えなかった。
凛が泣いたとこなんてそれまで見たことなくて困ってしまったんだ。
どうしようかあたふたしてたらふっとじいちゃんの言葉を思い出した。


「女ってのは弱いから男が守ってやらねえといけないんだよ」


何の話からそうなったのかは覚えてないけどその部分だけははっきりと思い出した。
凛は女の子だから男の俺が守ってやらなきゃいけないんだって強く思ったんだ。


「凛、俺がいるから大丈夫だよ」
『ごめんね』
「大丈夫だから泣かないで」


隣の凛の手を握りしめて泣き止みますようにって必死に大丈夫だと言い続けた。
どのくらいそうしてたんだろう?
凛は泣き止んだみたいだった。


『夕、ありがとね』
「大丈夫だよ。きっと帰れるから」
『うん』


雨は通り雨みたいで直ぐに止んだ。
二人で再び空を仰ぐとそこには無数の星空が広がっていて子供ながらに感動した。
星空なんて見慣れてるはずなのに凛と二人きりで見たその星空が何か特別なものみたいに感じたんだと思う。


『綺麗だねー』
「うん、凄い綺麗!」


さっきまでの不安な気持ちも吹っ飛んで二人で夜の公園で遊んだ。
子供ってのは単純だよなほんとに。
でも本当にあの時は楽しかった。
今でも直ぐにあの時のことが思い出せるくらいに。


「凛ー!」
「夕ー!いるなら返事をしなさいー!」


ふいに遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえた。
それは俺達の母親の声で二人して即座に返事をした。


「お母さん!」
『おかあさーん!』


俺達の姿を視界に入れると二人の母親は泣き出してしまった。
俺達は母親に抱きついてひたすらに心配させたことを謝った。
帰ってからじいちゃんに怒られたけど。


「泣かずにちゃんと凛を守ってやったんなら根性あったんだな。偉いぞ」


最終的にそうやって褒めてくれて頭を撫でられた。
じいちゃんに褒められてすげー嬉しかった。


その年の終わりに凛が東京に引っ越すことが決まった。
親父さんの仕事の関係らしい。
年末の慌ただしい中あっという間に凛が引っ越す日が近付いてきた。


『夕、泣かないで』
「もう会えなくなっちゃうよ」
『泣き虫だねぇ』
「寂しいよ」
『大丈夫だよ。きっとまた会えるよ』
「ほんと?」
『うん、絶対に会えるから』
「分かった」
『それまでこれ夕に預けとくね』
「何これ?」
『夕が泣かない様にってお守りだよ』


凛から手渡されたのはキラキラと輝く石だった。
太陽に翳すとキラキラと反射して綺麗だ。


「いいの?」
『これ持ってたら何にも怖くないよ』
「本当に?」
『私もお母さんに貰ってから泣かなくなったもん』
「分かった!大事にするね」
『また会う日まで大事にしてね』
「約束だよ」
『うん、約束する』


そうやってこの石を俺に預けて凛は去っていった。
凛のこのお守りとじいちゃんの言葉で俺は怖がることを止めた気がする。
次に会える時にまで泣いてたらカッコ悪いもんな。


「こんな感じだな」
「へえ」
「で、今でも連絡取ってんの?」
「いや」
「え?何で?」
「何でって言われても」
「住所とかわかんねえの」
「年賀状はきてっから分かるけど」
「連絡すればいいじゃん」
「会えた時でいいだろ」
「西谷は本当にまた会えると思ってるの?」
「おう!」


そこで俺の初恋の話は終わった。
四人共納得のいかない顔をしてたけど俺はいつか凛に会えるって確信してた。
何でって言われてもわかんねえけど、そのうち会えるって思ってたんだ。


心配も何もしてなかった凛のことだから俺以上にちゃんと色々頑張ってるはずだ。
だから俺も凛に負けない様に色々ちゃんとしないといけねぇ。
赤点取ってる場合じゃないよなほんと。


一泊二日の東京遠征。
翔陽と影山を残して東京へと着いた。
体育館に入った瞬間、ほんとに一瞬で見付けた。
後ろ姿だったのに俺にはそれが誰か分かった。
本能的に直感したんだと思う。


「凛!」


体育館中に響いたその声に皆が驚いてたと思う。
でも俺には凛のことしか頭になかった。


『夕!』


振り向くとあの日の面影を残した凛が居て驚きもせずに笑ってくれた。
ほらな、絶対にまた会えると思ってたんだよ。
龍達は相当驚いてたけど。
離れてたなんて感じないくらい俺と凛の距離は直ぐに縮まった。


「次に合宿来る時に石持ってくるな」
『あれは夕にあげたやつだから大丈夫だよ』
「お前のお守りだろ」
『じゃあさ夕が私にお守り頂戴よ』
「そんなんでいいのか?」
『うん。これからも会えます様にって』
「こうやって会えたんだからこれからも会えるに決まってんだろ」
『ふふ、ありがと』


お守りって何がいいんだろな?
姐さんに相談したら「ネックレスでも買ってやんな」って返事がきたから次に合宿に行くまでにちゃんと買いに行こうと思う。

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