花火がまだ胸の内にいる(切原)

九月の後半にもなると夏の暑さは和らぎ、朝晩は肌寒さを感じる。
テニス部を引退して早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。


「お前、こんなとこで何してんの?」
『赤也の部活が終わるのを待ってる。丸井は?』
「俺は彼女待ち。つーか何で赤也?俺何も聞いてねーけど」


教室からぼんやりと窓の外を眺めていると音を立てて扉が開いた。視線をやれば両手いっぱいに差し入れらしきものを抱えた丸井の姿。一年か二年のどこかのクラスで調理実習でもあったのだろう。あれはその差し入れだ。足で雑に扉を閉めると窓際の席の私の元までやってきた。
彼女が居ても居なくても丸井への差し入れの数は減らない。
あの出来た彼女なら気にも止めないのかもなぁ。丸井は丸井でそんな彼女に甘えているんだろう。


『約束したの。たまには構えってさ』
「ふーん。もうすぐアイツの誕生日だしちゃんと予定作ってあんのにな」
『そういうのとはまた別らしいよ』
「んじゃ何か、ついにアイツと付き合ってやんの?」
『またそれ?丸井と仁王が勝手に言ってるだけだよね』


どさどさと差し入れの山が私の席に置かれる。前の席に座った丸井が早速山から一つを選んで食べ始めた。
赤也と付き合うか付き合わないかの話はいつも本人の居ないところで始まる。丸井か仁王が言い出してあーだこーだ喋っているけど、私と赤也の間でそういう話になったことは過去に一度もない。
赤也は幸村や丸井達に対するのと同じように私のことを慕ってくれているだけだ。


「けどよ、アイツに一番近い女ってお前だろ?」
『そう?赤也は友達多いじゃん。それを言うなら仁王に一番近い女子も私じゃない?』
「あーまぁな。そりゃ今の仁王はそうだ。彼女いねーし。って仁王の話はいいんだよ。赤也だよ赤也」
『私だけじゃないって。と言うか丸井は私と赤也をどうしたいの?いっつもこの話してくるけど』
「どうしたいってそりゃお前らくっつけば面白いと思って」
『面白がってるとかサイテー』
「いやいや、ちゃんと考えてるって!」


三つめのマフィンを口に放りこみながら丸井は真顔で言い切る。
真剣に面白いって言われても説得力皆無だ。
呆れて溜息を吐くと慌てたように弁解が始まった。


『部活引退したんだからあんまり食べすぎると太るよ』
「いーんだって。土日はジャッカルと動いてっから。お前は赤也のこと何も思ってねーの?アイツ別に悪くねぇじゃん。短気なとこあるし、頭悪いけどさ」
『赤也のこと?嫌いじゃないよ。むしろ好きだからこうして待ってるんだし』
「お前のそれ俺達の赤也に対する気持ちと大差ねーな」
『そうだねぇ』
「つまんねーの」
『私と赤也のことをネタにしてるような人に言われたくないよ』
「ちょ、それ酷くね?」


過去に赤也をそういう目で見たことは一度もない。赤也に限らず目の前の丸井や仁王にだって、幸村達に対してだってなかった。
だからこそテニス部のマネージャーを最後までやり通せたと思ってる。


「なぁなぁ」
『何?』
「何で今まで彼氏作らなかったんだよ。別にそういう話が全く無かったわけじゃないよな?」
『まぁ』
「頑なに誰とも付き合わなかっただろ?だから俺達はお前が部の誰かのこと好きだと思ってた」
『は?』
「待てって。話はちゃんと聞け」
『勝手に勘違いされても困る』
「真田にでも片想いしてたのかとか赤也とかさ、幸村君って話も『それだけはない』
「話遮るなよ」
『そんなこと話してたとか』
「そりゃ俺達だって健全なDKだし?」
『柳生と幸村を見る目が変わりそう』
「アイツだって蓋を開けりゃ大差ねーよ」


私の知らないところでそんな話をしてただなんて初耳過ぎて驚きだ。目の前の丸井や仁王、赤也にジャッカル辺りは想像付くけどまさか柳生や幸村も含めて話をしてただなんて想像したこともなかった。
丸井の言うように彼らも普通の男子高校生だったってことだろうけど、まさかあの二人まで混じってるとか…改めて想像して吹き出してしまった。


「お前、このこと言うなよ」
『言わない言わない』
「真田にもぜってぇに言うなよ。あ、一番やべーの幸村君な」
『わかった。わかったからこれ以上笑わせないでよ』
「これで俺が面白がったのもわかるだろい?」
『DKの語らいが面白いのはわかったけど、それが私と赤也にどう結びつくの?』
「あーそれはだな」
『うん』
「…俺達の出した結論が赤也だったってだけ」
『なんだそれ』
「や、だってお前、赤也と一番仲良かったじゃねぇか。だから赤也かもって」
『あぁそう』
「だから聞いただけ。ちょうど教室戻ってきたらお前が居たわけだし」
『ふーん』
「ま、俺らの勘違いだったってことだ」
『そうだね』
「それでも一回くらい赤也のことちゃんと考えてやれば?」
『は?』
「いいからいいから。ちょうど身近にそういう対象いるんだし」
『そういう対象?』
「や、そうなるだろ。アイツだってモテるんだから」
『あー』


丸井の言うように赤也がモテるのは知ってる。何度も彼女の相談に乗ったし、赤也が理解出来るまで女心を教えてあげたりもした。
私や柳、柳生の奮闘もあって良い男に成長したなぁとは思ってる。それでもまだまだだけど。
かと言って今まで後輩として可愛がっていた赤也をそういう対象で見れるかと聞かれると難しい。


「難しい顔してんな」
『いきなり丸井が変なこと言うからだよ』
「わっかんねーなぁ。嫌いじゃねーのなら試してみりゃいいじゃん。赤也だぞ?何が問題なんだよ」
『問題ってわけじゃ。と言うか赤也の意見ガン無視してない?』
「今彼女いねーからいいんだって。お前が付き合ってみる?って聞いたらホイホイ付いてくんぞ」
『どこに付いていけばいいですか?とか言われそう』
「お前どこまで赤也のことガキ扱いすんだよ!さすがにねぇだろ」
『えぇ、ないかなぁ』


赤也なら何にも気付かず言いそうだけどなぁ。丸井は想像出来たのか爆笑してる。ほら、笑うってことはそういうことだよ。


「後半年もすりゃ高校卒業しちまうぞ。お前もそういう思い出作っとけよ」
『そんな理由で彼氏作るの?』
「きっかけなんてそんなもんで充分だろい」
『どうだろ』
「とにかく、びびって恋しねーのは勿体ないってことだ」
『別にびびってるわけじゃ』
「柳はそうやって予測してたぜ」
『…柳め』
「ま、頭の片隅に入れとけよ。な?」


五つめのマフィンを取り出して丸井はニッと笑った。
いい加減太ると思う。もう一回止めてるから口には出さないけど。
柳が予測したことに関しては考えないようにした。別にびびってたわけじゃない。あまりよく知らない人と付き合う勇気がなかっただけだ。
言いたいことは全て言い切ったのか、それ以上丸井は赤也のことを口にはしなかった。


「凛せんぱーい!迎えに来ましたよ!」
「ブン太先輩!お迎えに来ました!」
「おお!部活お疲れ!」
『もうそんな時間かぁ。二人ともお疲れ様』


進路の話やらあれこれ話してたらあっという間に時間が過ぎた。
赤也とブン太の彼女が揃って私達を迎えにやってきた。
差し入れの山は跡形もなく消え、丸井と二人荷物を持って立ち上がる。


「先輩、今日どこ行きます?」
『赤也が行きたいとこでいいよ』
「あ!じゃあ私達とパンケーキ食べに行きましょうよ!凛先輩!」
「おお!お前らも行くか?すげぇ旨いとこ見付けたんだよ」
『だって、どうする赤也』
「今日は甘いもん食いたいって気分じゃねぇんだよなぁ」
「えぇ、行かないの?」
「赤也が行かねーっつったら行かねぇよ。椎名は赤也のことすーぐ甘やかすから」
『そんなことないよ!』
「そんなことありますよ。赤也くんのこと一番甘やかしてたの凛先輩だし」
「まぁ凛先輩だし?」
「お前も自覚あったのかよ。んじゃ俺ら行くわ」
『赤也は?どこ行く?』
「んー適当に」
「適当とかダメじゃない?」
「構うなって、ほら行くぞ。んじゃまたな」
「あ!置いてかないでくださいよ!」
「またテニス付き合ってくださいよ!」
『二人ともまたねー!』


丸井の彼女は赤也と同じクラスでテニス部マネージャーをしている。
無邪気でのほほんとしているけど、出来た女の子だ。何せこの赤也の手綱を引けるし、丸井と喧嘩一つしない。
赤也が乗り気じゃなかったのでパンケーキの誘いを断って足早に去っていく二人を見送った。


『じゃあ私達も行こうか』
「適当っつったことすんません」
『別に気にしてないからいいよ。ラーメンでも行く?ジャッカルのとこ』
「ジャッカル先輩んとこは今日はいいっす」
『構えって言ったの赤也なのにノープランなの?』
「先輩に会いたかっただけですもん」
『練習たまには見に行こうか?』


二人が廊下の先を曲がったところで私達も歩きはじめる。赤也から誘ってきたから行きたいところがあるのかと思ってたのに今日はそうじゃないらしい。


「そういうんじゃなくて」
『え、会いにいけばいいんじゃないの?』
「ちげーし」
『え、機嫌悪い?練習何かあった?』


今日はなんだか歯切れが悪い。いつもだと自分の欲望のまま突き進むイメージがあるのに今日はそうじゃなくてなんだか静かだ。
練習見に行くなんて少し前に言ったら大喜びだったのになぁ。この一、二週間で何か変わったのだろうか。男子は三日会わないと変わるって言うけどそういうこと?


「八月の終わり、丸井先輩達と花火行ったって聞きました」
『あぁ、行った行った。みんなで行ったよ』
「俺それ聞いてない」
『赤也は合宿じゃなかった?』
「…そうですけど」


これは拗ねているってことでいいのかな?
引退して引き継ぎも終わって三年でどこか遊びに行きたいねって話してた時にタイミングよく花火大会があったんだ。それで都合もいいからってみんなで集まった。丸井の彼女も合宿参加で居ないからちょうど良かった。
それを知らなかったことを拗ねてるんだろう。
多分、丸井の彼女から話を聞いて発覚したんだろうなぁ。
隣を歩く赤也はぶすっとした表情を隠しもしない。迎えに来た時とは別人だ。


『赤也もみんなと行きたかったよね、ごめん』
「違うし」
『え、花火見たかったんじゃないの?』
「ちげぇ」
『じゃあどうしたの?』
「アンタ、何でその日だけ浴衣着てたんだよ」
『は、浴衣?』
「写真見たら先輩達全員浴衣着てるし」
『偶々だよ?みんなで柳の家で着せてもらっただけだし』


浴衣?確かにあの日は珍しく浴衣を着ていた。それも何でそうなったんだっけ?確か柳の叔母さんが着付けをしていて、偶々泊まりで遊びに来ていて、花火を見るなら着なさいってことで着せてもらったんだ。
八人分の着付けを次々と終わらせていく手腕はもう本当に凄かった。
赤也も一緒に浴衣を着たかったとか?でも赤也はそんなことじゃ怒らない。拗ねたり文句言ったりはするだろうけどこんな風に機嫌悪くなったりはしないはず。じゃあどうして?


「何で俺には見せてくれなかったんですか」
『偶然そういう流れになっただけでね?』
「写真くらい見せてくれたら良かったじゃないですか」
『仲間外れにしたつもりはないんだよ』
「そういうことじゃないんです」


みるみる赤也の不機嫌が加速していく。
反抗期かな?そんなこと言ったら余計に怒りそうだけどそうとしか思えない。
赤也の腕を引いて近くの適当な教室へとお邪魔させてもらう。


『どうしてそんなに機嫌が悪いの?何が嫌だった?』


歩きながら喋ってもどうにもならない。こういう時の赤也は面と向かって話を聞いてあげた方がいい。そう判断して正面から赤也と向き合う。
私が一番甘やかしてるか。確かにこの行動だけ見れば間違ってないかも。笑ってしまいそうになる頬の筋肉を引き締める。いけないいけない、こんなところで笑ったら余計に機嫌が悪くなるに決まってる。


「俺も凛先輩の浴衣見てみたかった」
『大したものじゃないよ?写真で見たでしょ?』
「だからそうじゃなくて!」
『写真じゃ駄目だったの?』
「あぁもう何でわかんないかな!」
『ごめんね』


自身の髪を乱雑にかき回しながら赤也は声を荒らげる。
私が直ぐに謝ったことで表情がしゅんと項垂れた。
こういう時は自分が悪かったってちゃんとわかってるから追撃するようなことはしない。
ちゃんと話してくれるのを待つのが一番だ。
話を促すように赤也の腕を掴む手に軽く力を込める。


「…俺」
『うん』
「凛先輩のこと嫌いじゃなかったんです」
『うん』
「幸村先輩達と同じように好きだったと言うか、先輩って頼んだら俺のためにあれこれしてくれたじゃないですか、一番甘やかしてくれたと言うか」
『…うん』
「だから色々相談に乗ってもらってたし。優しいねーちゃんみたいな気持ちでずっといたんですよ。俺のねーちゃん先輩みたいに優しくないし」
『うん』


赤也の言いたいことは何となくわかる。
私だって赤也を似たように見てた。実際に弟が居たらこんな感じかなって可愛がっていた。甘やかしてた。
そんな赤也が改めてこんな話をしてるってことは何か心変わりすることがあったってことで、きっと丸井はそれを知ってたんだろう。
だから急にあんなこと言ったんだ。もっと直球で話してくれても良かったんじゃない?
また明日、丸井に聞いてみなくちゃ。


「何であんな写真撮らせたんですか」
『あんな写真ってどれのこと?と言うか全部は把握してないかも』
「…花火と凛先輩の写真」
『真田が撮ったやつ?』
「多分それっす」


あの日はみんなで沢山写真を撮った。仁王が最初に言い出して、真田も不馴れながら頑張って撮ってた気がする。真田のは酷い出来の写真が多かったんだけど、一枚だけ綺麗に撮れた写真があった。それが偶然にも花火を見上げる私の写真だった。何なら私は後ろ姿と横顔しか写ってない。完全に花火が主役の写真だ。
みんな撮った真田を褒めると同時に被写体の私も褒めてくれたんだった。


『綺麗な花火だったでしょう?』
「…覚えてない」
『真田が撮った一番写りのいいやつなのに』
「凛先輩しか目に入らなかったから」
『浴衣姿の私に見とれちゃった?』
「…茶化してます?」
『ううん、赤也の気持ちは何となく伝わったよ』


終盤に差し掛かる時に開いた大輪の赤い花。
凄く綺麗で会話の途中にも関わらず見とれてしまった。
視界を一面の赤が埋め尽くす。
あぁ、あの花火を見た瞬間に赤也を思い出したんだ。赤也合宿頑張ってるかなって玉川くん困らせてないかなって気になった。


「笑ってるじゃないですか」
『赤也を笑ってるんじゃないの。思い出して』
「なんすか」
『あの花火赤かったの。赤也は覚えてないって言ったけど、凄く綺麗な赤だった。それで赤也を思い出したから』
「…それで」
『赤也はどうしたいの?どうしたら赤也の機嫌は直るの?』
「それは…」
『来年の夏に花火大会一緒に行く約束をしたらいいの?』
「それはそれで嬉しいですけどそうじゃなくて」


丸井の言葉を思い出す。
あの写真がきっかけで赤也が私のことを意識してくれたのなら、丸井の言葉に乗ってもいいかもしれない。
こうやって赤也から向けられる好意が嫌じゃないし、戸惑ったりしていないし、関係が壊れたら嫌だなと思うこともない。赤也とならきっと大丈夫だ。


『丸井がね、赤也のこと意識してみろって言うんだよ』
「あの人何言ってくれちゃってるんだよ」
『赤也がそうじゃなかったらそのままでいいかなと思ってたの。でも違うんだよね?』
「そりゃそうですけど」
『じゃあ付き合ってみる?』
「は?や、凛先輩がいいのならいいですけど。あ、でも明日になって冗談だったとか言うのは無しで」
『それは大丈夫』
「本当ですか?」
『ん、ほんと』
「何でですか?丸井先輩に言われたからですか?」


あの日の花火がパッと胸の中で咲いた。
幸村達と見た赤い花火。私が最初に空を見上げて、会話が止まって、つられるようにみんなで見上げた。真田だけは写真を撮ってたけど、カメラ越しに花火を見てたはず。
丸井に言われたように提案してみたと言うのに、赤也はまだ不満げだ。


『私ね、恋愛にびびってたんだって』
「は?そうなんですか?」
『柳がそう判断したみたい。そんなつもりなかったんだけど、言われてみればそうだったのかなと思って』
「それで丸井先輩に言われて俺ならいいかなと思ってくれたっつーこと?」
『そうだね』
「んじゃ俺のこと少なくともそういう対象で見てくれてるってことでいいんですよね?」
『うん、いいよ』
「…明日気が変わったり」
『しないって。信用ないなぁ』
「凛先輩のことは信頼してますって!そうじゃなくて、せっかく手に入ったのに直ぐ居なくなったら嫌じゃないですか」


赤也にしては随分消極的だ。今までの恋愛はガンガンいこうぜって感じたったのに今の赤也はどう見てもいのちだいじにって感じ。
それだけ本気度が高いって自惚れてもいいのかな?


『じゃあ赤也が頑張ってくれたらいいんじゃない?私も赤也に嫌われないように努力するし』
「そりゃそうっすね。つーか、俺が先輩嫌うとかあり得ないですよ」
『じゃあ何も心配することないじゃん』
「そうっすね」
『まだ何か気になってる?』
「いや、なんかすんなり行き過ぎてる気がして。こういう時って後から真田先輩に怒られたりするんですよ」
『それは日頃の行いでしょ。その時は庇ってあげるからさ』
「凛先輩が居ればどうにかなりそうですね。んじゃ行きますか。腹減ったっす」
『お、良かった。何食べたい?』
「丸井先輩達に合流しますか。なんかすっきりしたら甘いもん食いたくなりました」
『お、いいねいいね。連絡してみよう』


私の言葉一つで一喜一憂する赤也がとても可愛い。こうやって思うのは前からだけど、可愛いの中身が前とは少し違う気がする。これはなかなか良い兆候だ。
機嫌良さげに丸井に電話を掛ける赤也を見て頬が緩んだ。


「先輩、丸井先輩達大丈夫ですって。並んでるから早く来いって」
『じゃあ行こう』
「あ、凛先輩のこと彼女って言ってもいいんですよね?」
『うん、いいよ』
「先輩もちゃんと俺のこと彼氏って言ってくださいよ」
『丸井達はもうわかってるんじゃない?』
「それ以外、明日からの話ですって」
『うん、ちゃんと言うよ。友達にも彼氏出来たって報告する』
「ならいいっすよ」


赤也はニッと笑って私の手を取る。
中学生の時は女子と手を繋ぐのすら躊躇してた赤也が成長したものだ。背丈もあっという間に私を追い越して、前を歩く背中が頼もしい。


『成長したねぇ』
「は!?いきなりババ臭いこと言わないでくださいよ。先輩と俺一個しか年変わらないんすよ」
『でもほらずっと見てたから。中学一年のことを思い出すとさ』
「げ。あーもう!姉ちゃんみたいなこと言うのこれからは禁止!」
『え、無理じゃない?』
「ぜってぇに禁止!先輩は俺の彼女なんだから!」
『えぇ、可愛い赤也も覚えてたいのに』
「今すぐ忘れろって!すげぇかっこよく育った俺が目の前にいるでしょ!」
『それはそうだね』


感慨深くてつい年寄り臭いことを言ってしまった。赤也はぶーぶー文句を言うけど、この成長が嬉しいからこそ覚えていたい。
自信満々に言うけど、丸井とか仁王が聞いてたらまたからかわれるよ?
かっこよく育ったってことは間違ってないけど、まだまだなとこ沢山なんだから。


彼氏彼女って関係が改めて考えるとなんだかくすぐったい。
でも悪いものじゃないかも。きっとそれはこうして手を引いてくれる赤也のおかげなんだろう。
隣ではしゃぐ赤也があの日見た花火と重なる。
出逢った頃の可愛らしい赤也も今の男らしい赤也も私はきっと忘れない。


水棲様より

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