初めてのデート編【02】

「お前のせいやぞ」
『ユウジが悪い』
「先輩らアホですわ」
「喧しいわ!」
『うっさい財前!』


遊園地に無事辿り着いて、いざ張り切って小春ちゃんとお姫様と騎士ごっこをしようとしたらユウジと揉めた。
ギャンギャンと私達が揉めてる間に小春ちゃんは白石をエスコート役に決めてメリーゴーランドに乗ってしまう。
気付いた時には時既に遅し、メリーゴーランドは回りはじめ、私とユウジと財前は取り残された。


『ユウジのせいで乗り遅れたし、財前も巻き込まれて可哀想じゃん!』
「はぁ?お前こそ財前に謝れや!」
「俺は乗りたくなかっただけなんで二人と一緒にせんといてください」
『小春ちゃんの騎士役を白石に盗られるとかぁ!』
「完全にお前のせいやからな!」
『ユウジが王子様役でおとなしく待ってないから悪いんじゃん!』
「お前こそおとなしく待っとけば良かったんや!」
「完全にうるさいの先輩らですけど」
「ユウくーん!凛ちゃーん!」
『きゃあ!小春ちゃーん!』
「小春!白石に近付き過ぎやろ!」
「急に変わりすぎやろ。ドン引きや」


財前のツッコミをフル無視してユウジに怨みつらみをぶつけていたら小春ちゃんの声が聞こえてそっちを向く。
二人乗りのお馬さんに小春ちゃんと白石が乗ってて楽しそうだ。
ぶんぶんと手を振って回っていく小春ちゃんを見送る。
合間合間にみんなが回ってきたからそれも盛大に見送っておいた。
ユウジはずーっとブスくれてたけどそれは私も内心一緒なので気にしない。
財前はパシャパシャとブログのネタ用の写真を撮っている。
次のアトラクションは小春ちゃんの隣を絶対にゲットしなくちゃ。


『納得いかない』
「何でお前なんかと乗らなアカンのや」
「先輩らが揉めるからアカンと思うんですけど」
「財前!これめっちゃおもろいな!」


次は4人乗りのコースター。
またも私とユウジが揉めてる間に小春ちゃんは銀と千歳と謙也を連れてさっさと乗り込んでしまった。
白石と小石川は下でお留守番だ。
前を走るコースターから小春ちゃんの楽しそうな声が聞こえる。
ハンカチを噛みしめたくなる気持ちをぐっと堪えると隣のユウジも私と似たような表情をしていた。
呆れ声の財前とそんな私達を無視してひたすら楽しんでいる金ちゃん。
楽しんだもん勝ちなのはわかってるけど、私だって小春ちゃんと楽しみたいんだよ!


「先輩らとおっても小春さんが楽しくないからやないですか?」
『は?』
「お前言って良いことと悪いことがあるやろ!」
「凛とユウジずっと怒っとるん?せっかくみんなで来たんやから楽しまんと損やで!」
「金ちゃんもこう言ってますよ」
「『…』」


財前のツッコミにぐうの音も出ない。
確かに遊園地着いてからずっとユウジと揉めてるけど、別に怒ってるわけでも喧嘩してるわけでもない。
でも金ちゃんがこうやって言うってことはそういうことで…。
そろっとユウジと視線を合わせる。
多分、私と考えてることは同じだ。


「休戦や」
『うん』
「一時やからな」
『わかってる。思いっきり楽しんで白石から小春ちゃんを取り戻す』
「せやな。まずはそっからや。魔の手から小春を救うのが先や」
「部長が魔の手とか」
「白石は毒手の使い手やからなぁ」
「せやから金ちゃんも気を付けなアカンで」
『財前もね!』
「揉めとっても面倒ですけど、先輩らって意気投合してる時も面倒臭いっすわ」
「『喧しいわ!』」


意見が一致したところで、私達は一旦小春ちゃんのことを気にしすぎないようにしながら遊園地を楽しむことに決めた。
抜け駆け禁止でがっつり楽しむことに合意したのだ。
そしたらきっと小春ちゃんも私達のところに戻ってきてくれるはず。
魔王白石からお姫様を取り戻すべく行動を開始した。


『ちょ、待ってユウジ』
「嫌や。小春ならまだしもお前なんか待っとっても時間食うだけや」
「ユウジは椎名にだけ棘が多なるなぁ」


全員で入ったはずのお化け屋敷。
気付けばユウジと白石と三人取り残されていた。
謙也と金ちゃんが先ず二人で勝負を始めて走っていってしまう。
その後を小石川と銀が慣れたように追いかけていく。あれは金ちゃんの迷子防止だ。
私は誰と回ろうか、小春ちゃんに声を掛けても良いものか、そう悩んでるうちに小春ちゃんは財前と千歳を伴って消えていた。
残されたのは似たようなことを考えてたであろうユウジとそんな私達を多分気遣ってくれてただろう白石だ。
魔王なんだから白石は逆に小春ちゃんに付いてて欲しかったのに!
小春ちゃんを追いかけようと動き出すユウジの腕を捕まえる。


「はよ行かんと小春が行ってもうたやないか」
『わかってるけど怖いものは怖い』
「知らん。こんなの作りもんや作りもん。怖いこと全然ないやろ。白石がここに居るってことは新たな魔の手が小春に伸びとるんやぞ」
『それは困るけど!怖いんだって!』
「俺は魔王か何かなんか?ユウジは素直やないなぁ」
『白石からもユウジに言ってよ!私のこと置いてこうとしてるんだよ!』
「は?そんなこと一言も言うとらんやろが!ボケ!」
「そない怖いなら俺が手繋いだるわ。そんなら怖くないやろ?ほんでユウジも好き勝手に小春のこと追いかけられるで」
『白石が?』
「これならユウジも文句無いやろ?」


魔王白石の手を借りるのも違う気がするけど一人で歩いてくのは多分無理だ。
ユウジを諦めて素直に白石を頼る方が間違ってない気がする。
今は休戦中だから例えユウジが先に出ても抜けがけすることは無いだろう。
それなら良いかとユウジから手を話して白石へと手を伸ばす。


「お前はアホか!」
『へ?』
「最初から素直にそうしとけば良かったやろ」


伸ばした手は白石に辿り着くことなくユウジに絡めとられた。
至極不機嫌な表情をしてるけど、どうやら手を繋いでくれるらしい。
そんな私達を白石は満足そうに見るだけだ。


「これでええんやろ」
『うん、でもいいの?』
「は?しゃーなしな。お前とは休戦協定中だし、先に出て後から勘繰られんのも面倒やから。はよ行くで」
『わかった。白石も行こう』
「金ちゃん迷子になっとらへんとええけど」
「銀と小石川が追ってったから大丈夫や」
『逆に謙也が迷子になってたらウケる』
「…」
「…ケンヤはまぁええやろ」


「お前急に何しとんねん!」『怖い!』「暑苦しい!抱きつくなや!ボケ!アホ!どんくさ!」「照れのせいで語彙力皆無やでユウジ」「白石もさっきから喧しいわ!」『もー怖い!やだ!ユウジおんぶして!やだやだ!歩きたくない!』「ガキか!今時小学生でもそんなこと言わへんぞ!」「ユウジ、しゃーないからおんぶしたり」『白石ー神だ神!』「何で俺がそんなことせな」「手繋いだのユウジやろ。最後まで責任持ったり」「お前ら後から覚えとけよ」『一個貸しでいいからユウジー』「アホ!借りたのはお前や!何で上から目線やねん!」「仲良しやなぁ」「どこ見とんねん!」


お化け屋敷は結局半分歩いたところでユウジにおんぶしてもらった。
予想の百倍怖かったからしょうがない。
出たところで財前と小春ちゃんと千歳が待っててくれた。
財前はカメラをこっちに向けていて、ユウジが口を開く前にパシャリとシャッター音が聞こえた。


『痛ったぁ!』
「そらあかんやろユウジ」
「財前お前何勝手に撮ってんねん!」
「仲直りしたと?」
「二人が仲良しで良かったわぁ。凛ちゃん大丈夫?」
『小春ちゃん女神だ。痛いけど今ので治ったよ』
「俺は!?何でこいつだけやねん!」
「ユウジさんが椎名さん落としたのが原因ですわ」


撮られたことが嫌だったらしく、ユウジの背中から落とされた。
お尻から落ちたからダメージは少ないものの痛いものは痛い。
半べそで文句を言ってたら小春ちゃんが手を貸してくれた。
夢にまで見た小春ちゃんのおてて。
お尻が痛くて、でも嬉しくて泣きそうだ。


『小春ちゃん、ユウジとも手繋いであげて。もう喧嘩しないから』
「ほんまに?ユウくんも凛ちゃんと仲良おしてくれるん?」
「…小春がおるならええけど」
「そんなら良かったわ!ほな三人で次のアトラクション乗りましょ!」
「なんやこの茶番」
「千歳、他の四人はどこ言ったん?」
「金ちゃんとたこ焼き買いに行ったばい」
「ほんならええか」


小春ちゃんを真ん中にして三人で手を繋ぐ。
後ろから財前が写メを撮ってそうだけど、今の私達は小春ちゃんがいるから無敵だ。
些細なことなんて気にしない!
それから三人プラス財前とあちこち残りのアトラクションを回った。
小春ちゃんの隣は順番に楽しんだのだ。
互いに文句を言わずに楽しめたと思う。
そうやってあっという間に時間は過ぎていった。


「さ、最後は観覧車やで」
『乗る乗るー!ユウジも行こう!』
「おん、まぁええわ」
「俺は下で待っとります。三人でどーぞ」
『えぇ』
「財前くんも来なあかんで」
「小春が言うとるんやからお前も強制やぞ」
「三人で乗りたかったんとちゃいます?」
「小春と二人なら」
『小春ちゃんと二人なら』
「声被ってますやん」
「仲良しやなぁ。ほな行くで!」


白石から連絡が来て観覧車の下で落ち合うことが決まった。
向こうは向こうで楽しんでたらしい。
謙也が迷子になった話はなかなか笑えた。
速すぎて他を置いてったのが原因だ。
四人で観覧車に乗って景色を楽しむ。
夜景にはまだ早いけど、夕焼けがとっても綺麗だった。


「お兄さん、もう一周ええかしら?」
『小春ちゃん?』
「小春急に何を言うとるんや」
「下で待っとるから二人はもう一周してきいや」
「『はぁ!?』」
「ほな小春さんと待っとりますわ」


一周が終わって財前が先頭で降りてった後、二番目の小春ちゃんがなかなか降りないなぁと思ったらとんでもないことを言い出した。
私達の返答も聞かず小春ちゃんが降りて係りのお兄さんが観覧車の扉を閉めて鍵をかけてしまう。
私とユウジは呆気に取られてしまって財前に何も言い返せなかった。


『小春ちゃんと三人が良かったのにね』
「…せやな」


小春ちゃんの行動にがっつりと落ち込む私達。
勉強会のことを思い出して少しだけ気まずいものもあった。
普段ならぽんぽん会話も弾むのに二人だけの空間はなんだかとても静かだ。


『小春ちゃん気を遣わせたかな』
「無理はしとらへんと思う。せやけど、俺らが嫌やろ」
『うん』
「小春がおった方が楽しめるやんか」
『そうだね。ユウジと二人が嫌なわけじゃないけど、小春ちゃんも居ないと私達が寂しいよ』
「そこや。小春はそこをわかってへんのや」
『とりあえず、三周目おかわりしよう』
「まぁまだ白石達乗ってへんからいけるか」


財前と小春ちゃんと乗った一周目よりユウジと二人の二周目の方がなんだか長く感じる。
お互いに嫌いじゃない。そこら辺はちゃんと勉強会の時に理解出来てる。
きっとこれは照れ臭いんだろう。
私もユウジもそういう空気が得意じゃないから。


『寂しいから喧嘩は減らそうねユウジ』
「毎回こうやって小春にされんのは嫌やしな」
『喧嘩してるつもりはないんだよ』
「ボケ、わかっとるわ。俺かて同じや」
『ん、ありがとう』
「腹減ったわ。帰りに何か食いに行くか」
『お好み焼き食べたい。たこ焼きもあるとこ』
「あーまぁ金ちゃんおるしそうなるか」
『小春ちゃんの両端二人で死守しようねユウジ』
「当たり前や」


無事平和に二周目を終わらせて白石達と合流してから三周目を堪能させてもらった。
財前は一人で待ってるらしい。
三人の観覧車はやっぱり凄く楽しかった。
小春ちゃん、やっぱり私達小春ちゃんが居ないと駄目なんだよ。


帰り道、駅は学校と逆方向だから一番最初はユウジの家だ。
小春ちゃんの家まで送るって言ったユウジを無理やり帰らせて今は二人きり。
ちなみに無理やり帰らせたのは小春ちゃんだ。
私じゃない。少しだけ申し訳ない気持ちがするので明日はユウジに遠慮しようと思う。ほんの少しだけ。


「ユウくんと仲良く観覧車乗れたん?」
『喧嘩はしなかったよ。でもね、小春ちゃんが居ないと寂しいなぁってなった』
「あら、嬉しい」
『だからね、三人がいいな』
「ユウくんも?」
『そう』
「ふふ、成長やねぇ」
『そうなの?』
「そらそうよ。せやから嬉しいわぁ」
『小春ちゃん居なくなったりしないでよ』
「そんなことせえへんよ。ちゃんと二人の側におるから」
『じゃあ約束ね。明日ユウジにもちゃんと約束してよ』
「ええよ。凛ちゃんも成長しとるねぇ」


二人きりは久しぶりだ。
しみじみしてる小春ちゃんの隣を歩く。
こういうのもいいけど、ユウジも居ないと寂しいかも。
それに小春ちゃんと二人きりはユウジに悪い気がする。少し前まではそんな風に思うことなかったのになぁ。
これが成長ってやつなのかもしれない。


小春ちゃんもユウジも私も志望の大学は京都だからまた三人で今日みたいに過ごせたらいいな。いつまでもこんな日が続きますように。


20210221

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