じゃじゃ馬ライダー(切原)

『やぎゅーみーつけたっ!』
「凛さん、女の子がそんなことしては行けませんよ」
『眼鏡曇って見えないでしょー!うひゃひゃ!』
「その水鉄砲どこで手にいれたんですか」
『仁王がくれたー』


凛先輩が水鉄砲を片手に容赦なく柳生先輩を攻撃してる。
いつになく楽しそうだ。
柳生先輩は珍しく不快感を露にしてる。まぁ水鉄砲なんかで攻撃されたら嫌だよな。
いくら夏でもさ。





『赤也みーつけたっ!』
「ちょ!凛先輩重いっす!」
『乙女に重たいなんて酷い!』
「ってゆーか暑いっす!」


柳生先輩で遊び飽きたのか次は俺の所にきた。
日陰で休憩してる俺の背中に飛び付きぐっと体重をかけてくる。
暑い。このくそ暑いのに毎度毎度どうして引っ付いてこれるのか。


「凛先輩!あ つ い っす!」
『ちぇ』
「幸村部長に怒られるんではやく離れてください」
『赤也のいくじなしーばーかばーか』


凛先輩は俺の背中から降りて真田副部長の元へと向かっていく。
あの人くらいであろう、真田副部長に水鉄砲の水をかけることが出来るのは。
幸村凛。正真正銘、幸村部長の双子の妹だ。
部長の妹なのにあの跳ねっかえりっぷりは何なんだろうか?
言ってみれば破天荒、怖いもの知らず、野猿、じゃじゃ馬。通り名は片手では足りない。
つーかいくじなしってなんだ?
あの人の言うことはいつもわけがわからない。


「凛、何をしてるの?」
『あ、せーちゃん?暑いだろうと思ってみんなが涼しくなるように水を巻いてるんだよ!』
「うん、でもその水もう温くなってない?」
『えー、そうかなぁ?』
「ウォータークーラーのやつ入れ直しておいで」
『そうするー!』


唯一、辛うじて言うことを聞くのが幸村部長だ。と言っても辛うじてレベルで基本的に何を言われてもやりたいことはやり通す。
凛先輩黙ってたらすげー綺麗なんだけどな。


「赤也、休憩終わったら俺と試合だぞ」
「柳先輩とっすか?今日こそ勝たせてもらいますからね!」
「望む所だ。遠慮せずにかかってくるといい」


柳先輩に話しかけられてそこから凛先輩のことは頭から抜けた。
今日こそ柳先輩に勝つ!
先輩達に勝つこと、これが俺の目標。


クッソ!今日も負けた!
先輩達と試合出来るのも後少しなのに。
全然勝てない!イライラする!
あぁもうウゼー!
柳先輩との試合が今日最後の試合で他の先輩達は既に部室に着替えに戻っている。
俺はイライラを抑えられなくてまだコートにいた。
ガンっとテニスラケットをコートに投げる。
ちっとも良い気分にならねー。


『あーかや』
「あぁ?何っすか?俺、すげーイライラしてるんですけど!」
『ラケットに当たっても仕方ないじゃん』
「そんなこと言われなくてもわかってるっす」
『落ち着こうよ』
「はぁ?アンタ何しにきたんすか?負けた俺を笑いにきたんすか?」
『違うよ』
「慰めにきたとか言うんすか?怒りますよ」
『いや、もう怒ってるし』
「あぁもうウルセーな。じゃあ何しにきたんすか!」
『何も』
「はぁ?バカにしてんの?」
『一人は寂しいかなって』
「チッ。先輩バカなんすか?」


凛先輩は俺が荒れるといつもいつも構いにくる。
それこそ俺が落ち着くまで離れない。
いつもの飄々とした感じもなくて調子を狂わされる。


ラケットを拾いコートのベンチに座った。
まだ先輩達と顔を合わせたくなかったのだ。
隣に凛先輩も座る。
何も言わない。この人はいつもそうだ。
俺にどんな言葉をかけたってそれが上っ面な言葉にしかならないのを知ってるから何も言わない。
俺が何か言うまで黙って隣にいる。


「先輩は毎度毎度どうして俺の所にくるんすか?」
『赤也が寂しくないようにだよー?』
「はぁ?」
『一人だと寂しいでしょ?怒っててもその気持ちの行き場がないだろうし』
「危ないとか思わないんすか?部員でも怒ってる俺に近付けるのレギュラーの先輩達くらいっすよ」
『いや、だって赤也あたしに何かしたことあるっけ?』
「いや、ないっすけど」
『うーん、伝わってないのかな?』
「だから何言ってん!」


さっと目の前に影が落ちる。
唇に柔かい感触がしたと思えば再び目の前が明るくなった。
は?今何が起きた?


ん?もしや俺、凛先輩にキスされた?


「は?」
『これでもダメかなぁ』


え、ワケわかんねぇ。何が起こった?
俺はただただ呆然と凛先輩を見つめる。
凛先輩は俺と目を合わさないまま何やら首を傾げ悩んでいる。


その視線がゆっくりとこちらを向いた。
ふと目が合うと妖艶に微笑みそのまま右手をこちらに伸ばしてくる。
その手が俺の頬にそっと触れた。
全く動けない、呼吸すら忘れてしまったみたいに。
時が止まった様な気がした。
ゆっくりと凛先輩の端整な顔が近付いてくる。
唇が触れるか触れないかの距離だ。
心臓だけが早鐘を打つ。


『赤也、好きだよ』


そう呟いて先輩はもう一度俺の唇にキスを落とした。


触れるだけのキスが離れた時に止まっていた時間が動き始める。
は?凛先輩が俺のことを好き?
ガンと強く頭を殴られたような衝撃だった。
考えたこともなかったのだ。
幸村部長の双子の妹で破天荒で跳ねっかえりで怖いもの知らずでじゃじゃ馬で、でもとても綺麗な顔をしてる凛先輩が俺のことを好きだなんて。


『赤也?あたしのこと嫌い?』


唇が離れたとは言え俺と凛先輩の距離はまだ近い。
精々20センチくらいだ。
頭がクラクラしてきた。


「嫌いじゃないっす」


どうにか声を絞り出して答える。
あぁ、これ魅了されてんのかな俺。
ぼんやりと頭にそう浮かぶ。


『じゃあ、…好き?』


これはもう逃げられないのかもしれない。
もう言える答えは1つしかない。


「好きになりそうです」


凛先輩はそれを聞くととても美しく微笑んだ。


一瞬で手綱を握られたのはオレ。


「幸村ー凛が赤也にキスしたぞ」
「なかなか大胆な行動にうつりましたねぇ」
「キスだと!けしからん!」
「弦一郎、止めておけ。凛の邪魔をしに行けば精市にお前が雷を落とされるぞ」
「そもそも元の凛のアプローチの仕方が間違っていたと思うぞ」
「仁王だろ?あんな変なこと教えたの」
「さぁのう、俺は知らん」
「俺は凛が幸せになってくれたらそれでいいよ」
「切原君固まったまま動きませんねぇ」
「精市、そろそろ助け船をしてやったらどうだ?」
「蓮二は?もう大丈夫だと思う?」
「いくら赤也でも好きでもない女に二回もキスを許すことはないだろう」
「あんなことされたら堕ちるわなー」

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