ワールドインザホールケーキ

「お前ほんまアホやな」
『うっさい、ユウジに言われたくないし!』
「二人とも、喧嘩しとったらアカンで。ちゃんと勉強せな」
「なぁなぁ、もう勉強いやや」
「金ちゃん、勉強せんと赤点とるで」
「テニスしに行こうやしーらーいーしー!」
「金太郎はん、終わってから存分にやるとえぇ」
「いーやーやー!テニス!じっとしとると体がむずむずしてくるんやって!」
「白石、金ちゃんどうにかせんと勉強にならんわ」
「いい加減うっさいすね」
「金ちゃん、終わったらみんなでタコ焼き食いに行こか」
「けんじろーほんま?」
『あ、それいいかも!』
「せや、小石川の言う通りや。それなら勉強頑張れるな?」
「ほんならワイ勉強頑張るわ!」


やっと金ちゃんが落ち着きを取り戻してくれた。小石川ナイスだよ!
そもそも全員で勉強しようってのが問題だったような気がする。
一番広いからって理由で謙也のうちに集合したけどみんな自由過ぎる。千歳なんてさっきからソファで昼寝してるし。


「おいコラ、余所見しとる余裕なんてないやろが」
『教科書で叩かなくてもいいでしょ?痛い』


ソファで昼寝してる千歳を羨ましく眺めてたらユウジが数学の教科書で私の頭を叩く。地味に痛かったんですけど。抗議をするようにユウジの方を見るも既に小春ちゃんときゃっきゃ喋っていた。


「小春ぅ、ここが分からへんねん」
「ユウくんは数学苦手やもんね。ここはこれを代入すればいいんよ」
「ほんま小春は頭えぇなぁ」
『小春ちゃん!ここ分かんないの』
「凛ちゃんは英語やね、これはこうしたら解けるわよ」
『ほんとだ!小春ちゃんありがとう』
「解らないとこは何でも聞いてね凛ちゃん」
『ほんと助かるー!小春ちゃん優しいから好きー』
「あら!アタシも凛ちゃん可愛えから好きよ」
「じゃあ両想いだね小春ちゃん!」
「おいコラ待てや!浮気か!」


私が聞いたこともないような甘え声でユウジが小春ちゃんに甘えるから私もそれに対抗して甘えることにした。


「ユウジ、それ椎名と小春どっちに言ったん?」
「ケンヤ、それ言ったら長なるで」
「空気読めそうで読めへんスよねケンヤさんて」
「なぁ、何の話ー?」
「金ちゃんはタコ焼きのために勉強しとこな」
「せやな、ワシと小石川で教えたるさかい」
「きゃ、もしかしてユウくんと凛ちゃんでアタシの取り合い?アタシはなんて罪なオンナなんやろか」
『小春ちゃん!それなら私と駆け落ちして!』
「ここで椎名さんが話に乗るんスか」
「小春、ユウジと椎名お前はどっちを取るんや!二人に一人やで」
「結局ケンヤも参戦するんやな」


ユウジと小春ちゃんと私の三角関係ネタはいつものことなので話に乗った。ケンヤが私達を煽るのもいつものことだ。ここでユウジからツッコミが入って笑いを取って終わるはずなのだけどどうしたことだろうか。ユウジからのツッコミが無い。点点点と沈黙が続きユウジに注目が集まる。あの金ちゃんでさえ無言のユウジを不思議そうに見ていた。


『ユウジ、起きとる?』
「この開いとる目がお前には見えんのか!」
「ユウくん?急に黙ってどしたん?お腹でも痛なった?」
『なんだ体調不良か』
「そないなこと一言も言っとらんやろ!アホか!小春ぅ、俺のこと心配してくれるのはお前だけやで」
「ユウくん、元気なら勉強の続きしましょか」
「結局なんやったんや?」
「ケンヤ俺らも勉強の続きするで」
「結局さっきから全然集中出来ないんスけど」


謙也の言う通り結局ユウジが黙った原因はあやふやなまま勉強に戻ることになった。まぁきっと体調不良なのに小春ちゃんに心配させたくなくて無理してるんだろう。アホだな、私だったら体調不良を理由に小春ちゃんに看病してもらうのに。


「なぁ凛」
『どうしたの金ちゃん』
「凛は結局小春とユウジどっちが好きなんや?」
「キャ!金ちゃんもオマセさんね!」
『小春ちゃんと即答したいとこだけどユウジがいての小春ちゃんだからなぁ。悩むねぇ』


私達が集まって勉強となると誰かしら喋るのが普通の光景で、黙ってカリカリ机に向き合うだなんて土台無理な話だ。三分すら黙ってられない。その筆頭の金ちゃんが銀さんと小石川に挟まれながら私へと質問をぶつける。
小春ちゃんと私が金ちゃんへと反応するもまたもユウジからの返事が無い。
と言うかタイミング悪く麦茶を飲んでたらしくユウジはこの質問を聞いて激しく噎せた。


「大丈夫スか?」
「ユウくん?変なとこに麦茶入ったん?」
『吹き出さなかっただけ良かったねユウジ』
「お前アホか!急に何言っとんねん!」
『え、私?』
「あーあ、金ちゃん地雷踏んだわ」
「ワイ地雷踏んだん?ほなユウジ爆発するん?」
「なんや、金ちゃんの質問に噎せたかと思ったら椎名か」
「ケンヤ、それも地雷やと思うで」
「せやなぁ、俺もそう思うわ」


え、まさかの金ちゃんの質問じゃなくて私がいけなかったの?
小春ちゃんがユウジの背中をトントンと優しく叩いてあげてるけど彼の表情はかなり険しい。
いつもなら上機嫌タイムじゃないの?


『何か変なもの食べたのユウジ?』
「どこをどう見たらそう思うねん」
『今日変じゃない?』
「そやねぇ、ユウくん今日凛ちゃんの言うようにやっぱり変よ」
「お前が変なことばっか言うからアカンのやろが!こんのドアホ!」
『機嫌悪ー』
「ケンヤ、そろそろ休憩にしよか」
「急にどうしたんや白石。休憩にはまだ早いやろ」
「ケンヤさんいいから休憩に行きますよ」
「ほなワシらは金太郎はんとタコ焼き買いに行ってきますわ」
「ヤッター!タコ焼きやタコ焼き!」
「じゃ俺らがタコ焼き買うてくるから白石達は飲み物調達頼むで」
「俺とケンヤと財前で行ってくるわ」


超絶不機嫌なユウジと小春ちゃんと私とソファに寝たままの千歳を置いて六人はさっさと役割分担して出ていってしまった。
えぇ、私達置いてくのー!?
いつもだったらユウジを誘うケンヤも口を開く前に財前に連れていかれてしまう。


「ユウくん、何でそないに凛ちゃんにだけ冷たく当たるん?」
「こいつが小春に色目使うのがアカンのやろ」
『小春ちゃんは私の親友だもん』
「アタシはユウくんも凛ちゃんも好きやから仲良おして欲しいのになぁ」
『私だってユウジと仲良くしたいのにー。と言うかこないだまでそれで仲良くしてたじゃん!』
「せやからお前が急にあんなこと言うからアカンのやろ」
「『あんなこと?』」


あんなことって何?どれがユウジの逆鱗に触れたのかさっぱり分からなくて小春ちゃんと目を合わせて首を傾げてしまう。
ユウジは自分の言葉にハッとして口元を手で覆ってしまう始末だ。


「凛ちゃんはユウくんのことどう思っとるん?」
『え、私?』
「アタシは凛ちゃんの親友やろ?ほなユウくんも親友なん?」
「小春、俺は」
「ユウくんは暫く黙っとって!これは女同士の語らいやねん」


相変わらずユウジは小春ちゃんに弱いなぁ。ぴしゃりと言われてしまい大人しく開きかけの口を閉ざした。
とは言っても本人の目の前で聞かれるのもなんか気恥ずかしいよ小春ちゃん。


『ユウジと小春ちゃんと話してるのは楽しいよ』
「せやねせやね、アタシも楽しいわ。せやからねユウくんと凛ちゃんが付き合ったらもっと楽しくなると思うねん」
『「は」』
「凛ちゃんユウくんのこと嫌いやないやろ?」
『こ、小春ちゃん?でも』
「小春それは多分無理があると」
「二人とも黙っとき!」


突拍子も無いことを小春ちゃんが言い出した。まさかの私とユウジがそうなるの?
いや、ユウジが言うようにそれ無理だと思うんだけど。二人で反対しようと思ったのに今度は二人して黙れと言われてしまう。


「ユウくんもユウくんやで!アタシは分かっとるんやから!蔵リンも財前クンもきっと分かっとるよ!金ちゃんかて無意識に気付いとるみたいやったし」
「それは誤解や小春ぅ」
「誤解やなんて誤魔化さんといて!男ならしゃっきりしなアカンよユウくん!」


この流れおかしくない?これじゃまるでユウジが私のこと好きみたいじゃないか。
しかも小春ちゃん曰くそれを白石も謙也も財前も知ってるとか、金ちゃんまで無意識に気付いてるとか正気だろうか。


「なんかあったと?」
『起きたの千歳!?』
「千歳クン!みんな休憩がてら買い出しに出掛けたんよ。せやからアタシらも行きまひょ!」
「寝るのも飽きたしなぁ」
「じゃあ決まり!二人ともアタシらが戻ってくるまでにちゃんと話を終わらせといてや!さ、行くで行くでー!」
「小春!俺を置いて行くんか!小春ぅ〜!」


急に千歳が起きたからびっくりした。ユウジも肩がビクってなってたし。多分私も同じ反応したと思う。私達のことを構いもせずに小春ちゃんは千歳の腕に絡みつきながら出ていってしまった。
ユウジのこと振り返りもしなかったし、ちょっとそれは同情する。私が同じことされたらきっと泣いちゃうから。
小春ちゃんに置いてかれたのがショックだったのかユウジはがっくりと肩を落としている。


『ユウジ?大丈夫?』
「お前のせいやぞ、お前のせいで小春が俺のこと置いてってしもうた」
『泣かないでよユウジ』
「泣いてへんやろが!いちいちボケるの止めぇ!」
『そうか、それなら良かった。俯いてたから泣いてるかと心配したよ』


声が震えてるから心配したけどツッコミはいつものように鋭いままだ。勢いで顔を上げたユウジは本当に泣いてなかったようでホッとした。
そしたらユウジは私の顔を見て今度はぎょっとしている。


『え、青のりでも付いてた?』
「お前は歯に青のりが付くようなことしたんか」
『焼きそばは食べてない』
「アカン、お前のペースやとほんまアカン」
『主導権を握りたいお年頃だもんね』
「せやからそんなこと言いたいんやなくてやな!」


ツッコミが鋭いし元気になったのは良かったけれどユウジの話はいまいち要領を得ない。
やっぱり変なもの食べたのかな?


『何が言いたいのかハッキリと男なら言うべきだよユウジ』
「お前なぁ、少しは小春に言われたこと思い出してみ」
『小春ちゃん?けどあれは小春ちゃん達の誤解でしょ?』


私の言葉にユウジはぐっと言葉を飲み込んだ。何かを言いかけたはずなのにそれを言う前に口を閉じてしまったのだ。
カチコチと時計の音だけが響いている。
え、何これ。今だかつてユウジと二人でこんな沈黙になったことあっただろうか?


「誤解やない」
『は?』


たっぷりと十分経過した後にユウジが信じられないことを私に告げた。
私から話し掛けようとしたのだけどきょどきょどとユウジの視線が落ち着かなく左右に動くから声を掛けれなかったのだ。
テーブルの上を睨み付けたままぽつりとユウジは言ったのだった。


「お前は女や。せやけどノリも良いし小春とも仲良しや」
『うん、まぁそうだね』
「お前と小春と三人でおっても気にならへん。小春を想う気持ちに嘘はないけどそこにお前がおっても別にええかなとは思ってる」
『それはありがとう?』
「茶化すのは止めぇ!」
『え、痛い!』


茶化してないよ!別にそんなつもりはなくて、でもいつになくユウジがしおらしいからなんかテレるんじゃん!
私の返事が気にくわなかったらしく容赦なく頭をはたかれた。


「お前もちゃんと考えて返事せえよ」
『何が?』
「せやから小春が言った意味ちゃんと考えろって言うたやろが!アホか!ほんまにアホなんか!」
『それ以上頭叩かれたらバカになっちゃうから止めてユウジ!』
「とっくの昔からアホやから今更気にすんなや!」


考えようとしてもユウジが頭をはたくからいけないんだよ。だから頭が回らないんだから。
と言うかいきなりそんなこと言われても気恥ずかしいしテレくさいしで上手く頭が回転しないのだ。
ユウジの言った言葉を飲み込めばいいのだろうけど何かそれって今更恥ずかしくない?


『ユウジが私のこと好きみたいじゃん』
「アホか、さっきからそう言っとるやろ」
『初めて聞いたよ!?』
「で、断るなら断るでさっさとしいや。長引くとカッコつかんやろ」


思わず『断るって何を?』ってとぼけたくなったけど絶対にまたはたかれるからこれ以上空気を誤魔化すのは止めておいた。
何この甘ったるい空気。気恥ずかしくて死にそうなんですけど。


『断るとかじゃなくて』
「おん」
『何か、ユウジの言った言葉を飲み込むのが気恥ずかしくて』
「俺のが恥ずかしいに決まっとるやろが!死なすど!」
『すまん』
「…まぁええわ。チッ、アイツら遅すぎるやろ」
『小春ちゃんと千歳何買ってきてくれるかなぁ?ケーキかなぁ?』
「アホか、ケーキはさすがにないやろ」
『かなぁ?』


暗黙の了解ってやつで甘ったるい空気は一瞬で元に戻った。まぁお互いに言いたいことは伝えたからいいでしょ。これ以上あんな空気の中で活動したら私とユウジはそれこそ死んでしまう。
これが私とユウジの付き合い方なんだと思う。
小春ちゃんが居て私とユウジがいる。それで私達はいいんだろう。


何が凄いってその五分後にみんなが揃って戻ってきたんだけどクラッカー鳴らされるわ、くす玉を二人で割らされるわで大変なことになった。
ユウジは終始キレてたし。そして小春ちゃんは本当にホールケーキを千歳と買ってきてくれた。


──凛ちゃんユウくんおめでとう!二人で幸せになってな!小春より愛を込めて──


とご丁寧にチョコプレートに書いてある始末だ。これを見てユウジと二人で


『小春ちゃんが居ないと駄目だよ!』
「小春がおらんとあかんやろ!」


と声が重なってみんなに爆笑されたのだった。
小春ちゃんはそれ聞いて涙ぐむし金ちゃんは「お祝いやぁ!」とはしゃぐしで結局その後は全く勉強になりませんでした。


おしまい。

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