恋に溺れる彼のセリフ5題(3.なあ、もう一回好きって言って)

あれから俺と椎名の関係に変化はない。
ただ避けられることはなくなったし、関係も元に戻った。
なんとなくお互いの気持ちはわかってるし、まぁそれならそれでいいかなと俺的には思ってる。


「さっさと告白すれば良かろ」
「そーっすよ。まどろっこしい」
「あ?お前先輩にその口の聞き方はねーだろ」
「ちょ!今日も俺を蹴るんですか!?」
「反省しねー赤也がわりー」


まどろっこしいとか鼻で笑いながら言うお前が悪いんだろ?
つーか、今日は屋上で昼メシだから椅子がねーんだもん。しょうがねーだろい。
ぶーぶー文句を言い続ける赤也を無視して、メロンパンに手を伸ばす。
やっぱ弁当箱もうちょい大きくすっかなー。天才的に俺の作る弁当は旨いけど量が足りねぇ。
そういや椎名も自分で弁当作ってるって言ってたよな?
土日の練習の時に食わせてもらったことがあったけど旨かった気がする。
あ、でも最近食わせて貰ってねぇなぁ。
あの弁当用の小さめなハンバーグ食いたい。
思い出せばますます食いたくなってきた。


「とりあえず弁当作ってもらうわ俺」
「はぁ?」
「順番間違っとるよブンちゃん」
「うるせーな、食いたいもんは食いたい」
「好きだからお前の弁当食いたいくらい言ってやりゃいいじゃないっすか」
「あのなぁ、それが言えたら苦労しねぇだろ」
「前はほいほい言っとったはずだがの」
「前は前。んで今は今」
「相当重症っすね。つかそれ俺のメロンパンじゃないっすか!」
「もう食っちまったから悪いな赤也」
「気付くの遅すぎじゃ」


だらだら焼きそばパン食ってたお前が悪いんじゃね?
善は急げって言うし早速お願いしてくるか。
二人を屋上に残して足早に教室へと戻ると椎名は直ぐに見付かった。
女子と楽しくお喋りしてるとこに顔を出す。


「なぁ椎名」
『どしたの丸井』
「今度休みの練習ん時に弁当作ってきて。あの小さいハンバーグのやつ」
『何で?』
「何でって旨かったからまた食いたいと思って。ダメ?」
『…ダメじゃないけど』
「んじゃシクヨロ!」


俺が顔を出したとこで女子達の会話がぴたりと止まる。多分好きな男の話でもしてたんだろ。
その隙を付いて椎名にお願いしてみると戸惑いながらも頷いてくれた。
俺からのお願い断れる女子なんて少ねぇけど、椎名が聞いてくれんのはすげぇ嬉しい。
離れりゃ後ろから女子のきゃあきゃあとした声が聞こえてくる。
俺が椎名にお願いしたことが原因だよなあれ。
そろそろ椎名から告白してくんねぇかなぁ。そしたら「俺も」って言ってやれんのに。


「丸井、今日は調子が良さそうだね」
「だろい?俺も自分でそう思ってたとこ」
「その顔は何か良いことでもあったのかな?」
「まぁな」


放課後、幸村から声を掛けられる。
椎名が弁当作ってくれるって約束してくれたおかげなのか自分でもかなり調子が良いのがわかる。おかげでシングルスの試合赤也に勝っちまったぜ。
俺の返答に幸村君は椎名の方を見て頬笑む。


「椎名も最近凄く元気そうだから良かった」
「お、おう」
「後一歩なんだろ?さっさと告白しちゃえばいいんじゃないのかな?」
「あーまぁ、そりゃ」


そうだけども。
まさか幸村にも仁王達と同じことを言われるとは思ってなかった。
いや、目敏い幸村のことだから俺達の変化に気付いててもおかしくねぇけど。
仁王達に言われんのと幸村に言われんのじゃ意味合いが変わってくる。
たらたらしてんなよって言われてる気がするから不思議だ。


「じゃあ大丈夫だね」
「は」
「今日とかぴったりだと思わないかい?仁王と赤也も補習で居ないわけだし」
「あー」
「椎名のこと頼んだよ丸井。俺も弦一郎も蓮二もそう強く願ってるから。あぁ、勿論柳生もね」
「わかった」


幸村にこう言われちまったら返事はイエスしかねぇ。まだ先でもいいかと昼は思ってたのに放課後にこうなっちまうとは。
まぁいいか、いずれそうなるならそりゃ早い方が良い。
両手で軽く頬を張って気合いを入れ直し残りの練習に向かった。


『どこか行く?』
「んー仁王と赤也も居ねーしなぁ。カフェにはこないだ行ったし。たまには何もなくても送ってってやるよ」
『丸井がそうやって言うの珍しいね』
「別にいいだろ?弁当のお礼ってことで」
『何それ、まだお弁当作ってもないのに』


部活が終わって二人きりの帰り道、椎名は隣でクスクスと小さな笑い声を上げる。
こうやって笑う椎名なんてもう何十回、何百回と見て来てんのにこっち側の気持ちが変わればそれがなんつーか特別なもんに見えてくる。
そうやって笑ってる顔もすげぇ可愛い。
思ったところで素直に言ってやることはなかなか難しい。
こんなこと幸村や仁王達に知られたら意気地無しだの情けないだの笑われそうだけど、つい最近まで全く意識してなかった女子だぞ?
友達としては前から大切だったけど、それが今はそうじゃない。普通に異性として好きだし大切になりつつある。
頭ではわかってっけど、その想いを実際に口にするのは厳しいもんがある。
やっぱそうなると椎名に言ってもらう方が早いよなぁ。


「なぁ」
『んー?どうしたの急にそんな顔して』
「俺さ、お前に聞きたいことある」


そうと決まれば後は聞くだけだ。
だらだらしてっと椎名んちに着いちゃいそうだし、口に出せなくなりそうで早速本題に入ることに決めた。
何となく椎名の気持ちはわかってるけど、それでもやっぱり緊張はして、いつもより低めの声になった気がする。
俺の真剣さが伝染したみたいに椎名の表情もきゅっと引き締まった。


『えっと、何かな?』
「お前はさ、俺のこと…どう思ってんのかなって」


言って気付いたけど、これ告白するより恥ずかしくね?これで椎名から曖昧な反応されたら立ち直れる気がしない。
だらだらと嫌な汗が背中を伝う。
こんな思いすんなら自分から告白しちまった方が良かったか?いやでも、俺から言うのはキツい。どんな顔して言っていいかわかんねぇし。
椎名の表情を正面から見れなくてそろそろと横目で様子を窺うと分かりやすく顔を赤くしている。
これならやっぱ脈有りだよな?曖昧にされることはねーよな?
仁王だって赤也だって幸村も柳もあんな風に言ってんだから問題はないはずだ。
気恥ずかしさを頭ん中から追い出して気を取り直す。


「聞いてた?お前俺の話聞いてた?」
『うん、聞いてたよ』
「んじゃ答えてくれるよな?」


持ち直しちまえば後は椎名の口から聞き出すだけだ。じっと押し黙って返答を待つ。


『私は』
「おう」
『…ま、丸井のこと』
「……」
『ちょっと待って。無理。無理無理無理そんなの恥ずかしくてやだよ!』
「は?いや待て。それ俺の台詞な?待たねぇ、聞かせろって椎名」
『やだ!絶対にやだ!』


はぁ?いや俺今、告られ待ちしてたとこな?
そんな俺の気持ちも知らず椎名は脱兎のごとく走り出す。
あいつ逃げやがった!即座に追い掛けて捕獲する。俺から逃げるなんて百年はえーよ。


「俺はお前からの告られ待ちなんだって!さっさと言っちまえ!」
『そ、そんなの丸井から言ってくれたらいいでしょ?何で私からなの!』
「だよなぁ、それさっき俺も気付いたとこ」
『え』
「俺はお前のこと好きだ。だから椎名の気持ち知りたかったんだけど?」


開き直ってしまえば何てことはねぇ。
今日の昼間での気恥ずかしさどこ行っちまったんだってくらいあっさりと気持ちを言葉にすることが出来た。
椎名はと言えば完熟リンゴかってくらい頬が紅潮している。
あー前に弟がリンゴ病になってた時こんなんだったよなぁ。んでその時もアップルパイ食いたいって思ったんだった。
言ってしまえば後は返事を待つだけで、予測してたよりずっと俺は冷静でいれる。
まぁ、椎名を好きになる前の恋愛だってこんな感じだったもんな。


「椎名?」
『…私も、丸井のこと好きに決まってるでしょ!バカ!バカバカバカ!ずっと前から好きだったんだから!』


…ずっと前っていつからだよそれ。知らねーし。は?本気で言ってんの?
精々俺と同時期くらいからだと思ってたからこの返事には多少面食らった。
お前、どんだけ俺のこと好きだったんだよ。
じわじわと椎名の好きが俺の中に染みていく。


「なぁ、もう一回好きって言って」
『やだ』
「頼むって。もう一回だけ聞きてぇの」


真っ赤な顔を覗きこんでお願いしてみる。
こうなったら俺の願いは聞いてもらえるはず。
視線がかち合って、さっと逸らされた。
椎名の視線が迷うように彷徨って、唇がわなわなと震えている。
小さく息を吐き出したところでゆっくりと口が開いた。


『ずっと好きだったんだから』
「泣くなって」
『泣いてない!泣いてないんだから!』
「ずっと気付いてやれなくてごめんな?俺お前のこと大事な友達だと思ってたから」
『気付くの遅すぎるよ!もう!』
「でも俺ぜってーにお前が好きになった時の俺より今のが椎名のこと幸せにしてやれる自信あるぜ」


面食らったのも一瞬で感情を露にする椎名に冷静に対応出来てる。
好きって聞けたのはすげぇ嬉しいんだけどな。
多分あれだ、怖い話聞いてて自分よりビビってるやつがいると冷静になれるってやつだ。
んで半分照れながら半分怒りながら一生懸命に話す椎名がすげぇ可愛い。
きっぱりと言い切れば百面相だ。
キャパオーバーってやつ?どんな反応していいかわかんねーんだろうな。


「んじゃ明日からシクヨロ」
『丸井何でそんなに普通なの』
「そんなの椎名が俺以上に余裕なくて照れてるからだろい?」
『そんなこと』
「あるある。んで俺はその反応が見れてすげぇ嬉しいってわけ」
『か、か!?』
「なんだよ、ほんとのこと言ってんだぞ」


余裕綽々なのは俺だけで椎名は逆にどんどん余裕がなくなってそうだ。
俺は恋煩いが解消されて日常が戻ってきた気分。


「つーか、んな照れる必要ねーだろ?別に何も変わらねーって。ただ俺は彼氏でお前は彼女ってだけ。普通に赤也と仁王と四人で遊びにも行くし、二人でも遊びに行く。何も変わる必要ねーからな」
『う、うん』
「お前聞いてた?」
『きょ、今日は無理。なんか色々な感情がごちゃごちゃしてて』
「あー」


やっぱ長く片想いしてる方がそうなるんだよな?あんま話したことねーけど、過去に彼女が居たことは知ってるわけだし。
んじゃ慣れるまでは椎名の気持ちを尊重してやる必要があるってことか。
あんまりぐいぐい行きすぎるとまた幸村か柳に何か言われるだろーしなぁ。


「まぁしょうがねぇか。今日は帰って友達に張り切って報告してやれよ」
『うん』
「みんな喜んでくれんだろい?」
『そうだと思う』
「あ、後ぜってーにハンバーグ忘れんなよ。あのお前の手作りハンバーグが好きなんだから」
『それハンバーグが好きで私が付属品みたいに聞こえるんだけど』
「違えよバーカ。お前が好きだからお前の作るハンバーグも好きなんだよ」
『ならいいけど』


家に着く頃には椎名もだいぶ落ち着いた。
俺に軽口返せるようになってたしこれなら明日も大丈夫だろ。
俺は報告どうするかなー。別にいいよな?あいつらなら明日の朝練で全部察するだろし報告しなくても問題ねーだろ。
無事に家に送り届けた後に幸村から「で、どうなったの?」ってグループラインでメッセージが届いてたのには笑っちまった。
何でもお見通しかよ、まぁ幸村だし当たり前か。
言われた通りさっさと行動しとけばあんなに思い悩むこともなかったんだろなぁ。


家に帰って久々にアップルパイでも作るかな。
んで明日椎名に食わせてやろう。


20200709

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