ジーザス!ジーザス!(丸井)

ブン太を好きになったのはいつからだろう?
そうだあれは去年の冬だったと思う。
ブン太とは腐れ縁みたいなもので中3からずっとクラスが一緒でずっと仲の良い友達だと思ってた。
それが崩れたのが去年の冬。


凄い寒い日だった気がする。
クリスマスでお互いに恋人も居ない私達は遊ぶ約束をしてたんだ。
いつもだったら仁王と赤也も一緒だったのに去年のクリスマスは二人とも彼女が居て私とブン太二人きりだった。
ホテルのケーキバイキングのチケットが取れたからってブン太に誘われたんだったなぁ。


待ち合わせに先に着いたのは私で凄い凄い寒い日だったからマフラーぐるぐる巻きにして手袋もして防寒対策はバッチリだった。


「椎名!わり、遅れたわ」
『ブン太おそーい!めっちゃ寒かったんだからね!』
「だから謝ってんだろ。悪かったって。ほらケーキバイキング行くぞ」
『ブン太の奢りですし、許してあげましょう』


初めて二人きりで遊んだんだった。
待ち合わせからいつも四人で遊んでるのとはなんか違くて普通の男女のデートみたいに感じてドキドキしたんだよね。
テンションも高かった気がする。


「さみーなマジで」
『こんな寒いのに手袋してないとか』
「お前片方貸せよ」
『は?嫌だよ。寒いじゃん』
「いいからちょっと貸してみろって」
『あ!ちょっと!』


私の右手から手袋をさっさと取り上げると自分の右手に嵌めてしまった。
私の右手とブン太の左手は寒いまんまじゃないの?


「おお、あったけー」
『ちょっと!私の右手どうしてくれんのさ』
「そんなのこうすりゃいいんだろい?」


私の右手をブン太の左手が取ってそのままブン太のコートのポッケに仕舞われた。
ちょ!それ凄い恥ずかしいやつ!
内心物凄い物凄い焦った。
口には出せなかったけど。


『ブン太の手冷たいって!』
「お前の手あったけー!」
『冷たい冷たいー』
「そのうち温かくなるから少し我慢しろって。な?」


隣から私の顔を覗きこんで悪戯っぽく笑うからそれに釣られて笑ってしまった。
あぁもう何でブン太にこんなにドキドキしちゃうかな。
昨日まで単なる友達だったのに今は何かもう違う。


その日はほんとにほんとに楽しかった。
普通の恋人同士なんじゃないかって錯覚しちゃうぐらいに。
それくらい私もはしゃいだと思う。
ブン太はそんな風に思ってなかったと思うけど。
それから私はずっとブン太が好きだ。


「なぁ俺今悩んでるんだけど」
『どうしたんですか。また太って幸村に怒られた?』
「ちげーし。最近は体重管理ちゃんとしてるっつーの」
『んじゃ何だよ』
「好きなヤツ出来た」
『いいじゃんいいじゃん。告白しちゃえよ』
「お前さ、俺が意外とへたれなの知ってんだろい」
『告白される分には結構軽いのにねぇ』
「うっせ」
『ブン太だし大丈夫だって』
「や、今回はちょっと難しいかも」
『何でだよ』
「好きなタイプが幸村って言うんだぜ」
『あー』
「幸村に勝てる気しねえし」
『でもほら見た目の話でしょ?』
「多分な」
『仲良くなってしまえばいいんじゃないの?』
「俺行けるかな?」
『ブン太なら大丈夫だよ!頑張るんだ!』


何で恋の相談に乗っちゃうかな?
しかも好みのタイプが幸村ならブン太は無理だよって言っちゃえば良かったのに。馬鹿だよなぁ私。
私の言葉にやる気になってくれるのは嬉しいけど。
切ない話だよねこれ。


「髪の毛切らねえの?」
『ロング目指してんの』
「今が過去イチ長くね?」
『いつもセミロングだったからねぇ』
「意外と綺麗に伸びてくもんなんだな」


私の髪の毛を一束掬ってブン太が言った。まぁ覚えてないよね。
去年のケーキバイキングに行った後の映画に出てた女優さんを観てブン太が「髪の毛ロングでサラサラだと触りたくなるよな」って言ったからだから伸ばしてるんだよ。
君に触ってほしかっただけなんだよ。
そんなことは言えやしないけど。


ブン太の恋が実ったのは今年の春過ぎだった。
どんな子が彼女とかは知らなかったけど仁王と赤也と四人ではちょこちょこ遊んでたから気にならなかった。
初めて彼女を見たのは8月のかなり暑い日だった気がする。
全国大会の決勝だったかな。
私は友達と応援に行ってて優勝が決まった直ぐその後だ。
私も立海側近くに座って居たからこっちに気付いてくれるかなって思ってたのにブン太の視線は別の所向いていた。


ノースリーブのワンピースを着た女の子がそこに居た。
ほっそりとした白い腕がやけに記憶に残っている。
最後までブン太が私に気付いてくれることはなかった。


「椎名!俺こないだやっとキスしたんだぜ」
『ブン太にしては手が遅いですね』
「だろい?俺もそう思う」
『大事にしてるんだね』
「おー内緒な」


手が遅いって馬鹿にしたみたいなことを言ったのにブン太は満更でも無さそうでその顔を見てまた切なくなった。
いっそ嫌いになれたら楽になるんじゃないだろうか?
でも私がブン太を嫌いになるなんてそれこそ難しい問題な気がした。
数学の未解決問題を解く方が簡単かもしれない。


「なぁ、お前は彼氏作らねーの?」
『どっかに良い彼氏落ちてないかなぁ?』
「んな寂しいこと言うなって。お前良いヤツなんだからさ」
『心も身体も寂しいよほんと』
「彼氏作れば解決すんぞ」
『そう簡単にときめかないものだよ』
「お前って理想高いの?」
『どうだろ?仁王とブン太と赤也で見慣れちゃったのかなぁ?』
「はぁ?」
『だってドキドキしたりしないし』
「んじゃちょっと試してみようぜ」
『は?何を?』


あれはいつだったかな?
秋頃だった気がする。
部活も引退して仁王と三人で遊びに行こうって時に仁王が職員室に呼び出されたんだ。
それが終わるのを二人で教室で待ってた気がする。
ブン太からしたら冗談だったんだと思う。
私からしたら心像が止まりそうだったけど。


「ドキドキしないのか試すってこと」
『はぁ?』


私の前の席に座ってたブン太が立ち上がって私の背中側へと回り込む。
そして椅子に座っている私を後ろからギューと抱きしめたのだ。
おまけに私の頬にキスまでしたんだぞ。


『ちょ!ブン太!』
「お、その顔はちゃんとドキドキしたみてえだな」
『冗談でもやって良いことと悪いことあるでしょ。誰か見てたらどーすんの』
「もうしねえって。ちゃんと男にドキドキ出来るって分かって良かったな」


私の顔が赤いのを指摘してケラケラ笑っている。
うん、ブン太だからドキドキしたんだよ。
そうやって言えない私は本当にへたれだと思う。
ブン太がつけてる香水の匂いだけが私に残っていた。


いつかはこっち向いてくれるかなとか淡い期待を抱いたりもした。
でもそれも夢のまた夢だ。
ブン太は今の彼女を本当に大事にしてるのが分かる。
かと言ってこの恋心がいつか消えてくれるのだろうか?
私の夢、消えないでほしい。いつか叶いますように。


「ブンちゃんに言えば良かろ」
『何て』
「ほんとの気持ち」
『無理だね』
「いつまでたってもそのままじゃよ」
『言わなきゃいけないのは分かってるよ』
「それなら」
『でもこの関係が壊れるのは嫌だ』
「お前さんはこのままずっと丸井に縛られるぞ」
『分かってるよ』


仁王にも何回も言われた。
分かってるよ。言えたらきっと楽になると思う。
でも無理だ。女子の中で一番仲良しな友達の座失いたくない。
何回だってブン太にも伝えようとした。
でも結局無理だったんだ。


『私に傷付いて困ってよ。優しくしないで』

って言うのは簡単だ。
でもきっとその瞬間に私達の関係が壊れてしまう。
それは一番寂しいことだと思う。


「んでおまんの髪の毛は伸び続けるんじゃな」
『これ以上はもう伸ばさないよ。貞子になっちゃうし』
「俺は短い髪のが好きじゃき」
『当分切れそうに無いかなぁ』
「まーくんが着いてるからの」
『ん、仁王友達で居てくれてありがと』
「丸井を諦める覚悟が出来たらその髪切ってやるぜよ」
『ちゃんと報告するね』


私の髪の毛はまだまだ切れそうに無い。
これは私の切ない恋のオハナシ。


―――オハナシハツヅク―――

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -