初めてのデート編【01】

「『は?』」
「せやから三人でデートしましょって誘ってるんよ」
「『デートぉ?』」


部活が終わって明日は久しぶりのお休みだ。いつもの帰り道に小春ちゃんがとんでもないことを口にした。そこいつもみたいに「遊びに行かへん?」って誘ってくれたら良かったんじゃないの?私とユウジの間で明日のデートプランをどうするか考えている小春ちゃんは可愛らしい。けどもデートって気恥ずかしいよ!ユウジはかろうじて小春ちゃんに相槌を打っている。さすがユウジだ。けども表情は何とも言えない顔をしていた。


こないだ謙也の家でテスト勉強をした時になんとなくお互いの気持ちを確認したけれど、基本的に私とユウジと小春ちゃんの関係は変わらない。
いつもと同じように過ごしていたと言うのに小春ちゃん突然なんてことを言い出すのか!


「せっかくの初デートやし水族館にでも行きましょか?」
『水族館ー?面白いかな?』
「水族館はおもろないやろ」
「デートにおもしろさ求めたらあかん!」
「小春が水族館行きたいって言うのならええけど」
『マグロ見たら食べたくなっちゃうよね』
「こんなこと言う女連れてってええんか小春」
「凛ちゃんは相変わらず色気より食い気やねぇ」
『えへへ、それほどでも』
「小春はミリも褒めてへんけどな」


気まずい空気も一瞬で、小春ちゃんが提案した水族館に対しての論議が始まる。どうやら私と同じようにユウジも"デート"って単語を無かったことにしたらしい。暗黙の了解ってやつだ。


『水族館なら遊園地のがいいなぁ』
「せや!小春!こいつの言うように遊園地にせえへんか?」
「遊園地やと三人じゃバランス悪いんよねぇ」
「『あー』」
「ほな財前クンでも誘いまひょ」
『財前来るかなぁ?』
「まぁ財前なら来るやろ。ムリにでも誘えばええ話や」
『ユウジ鬼やね』
「アホか!お前もよお財前にムリなお願いしとるやろが!」
「財前クンも来てくれるらしいで」
「『はや!』」


私達が言い合ってる間に小春ちゃんが財前に連絡したらしい。財前がうちらのお誘いに乗るとか珍しくて驚いてしまった。どういうつもりなんだろ?そのまま小春ちゃんを家まで送り(単に学校から小春ちゃんの家が一番近いってだけ)私の家へとユウジと二人で向かう(これも二番目に私の家が近いだけ)


「おい」
『ん?』
「明日八時半に小春のうち集合や」
『九時に駅前じゃなくて?』
「小春を迎えに行くのもたまにはええやろ」
『お、サプライズ?』
「せや、そしたら小春喜ぶと思うねん」
『私も小春ちゃんの喜ぶ顔は見たい!』
「ほんならそれで決まりな」
『へーい』
「寝坊すんなよ」
『するわけないじゃん』
「ほなまた明日」
『じゃーね』
「おー」


家に到着しユウジを見送る。此方を向くことなく手だけをひらひらと振って帰っていった。さて、明日は遊園地だ!久しぶりだし目一杯楽しまないとだよね!
動きやすい服と歩きやすい靴をコーディネートして明日に備える。財前ちゃんと私達のノリに付いてきてくれるかなぁ?それだけが心配だった。


『何してるのユウジ』
「アホか、お前が出てくんの待っとったんやろ」
『え』
「小春を迎えに行くついでやついで。寝坊しとったら小春が昨日財前誘った意味なくなるしな」
『あぁ確かに』


翌日、張り切って準備をして小春ちゃんを迎えに行こうと玄関を出たとこでユウジに遭遇した。まぁうちは小春ちゃんちに向かう通り道だもんね。ユウジの言うことに納得して二人で小春ちゃんを迎えに行く。


『メリーゴーランド乗りたい』
「ガキか」
『小春ちゃんとお姫様と騎士ごっこしたい』
「は?お前抜けがけすんなや」
『ユウジはメリーゴーランド乗らないんでしょ?小春ちゃんと二人で楽しむもん。ユウジは財前とカメラマンしといて』
「アホ抜かすなや!小春を守るんは俺や俺!」
『えぇ、じゃあユウジは王子様の役あげるよ。私が小春ちゃんをエスコートしてユウジのことまで連れてってあげるね』
「ならええわ。ってよくないやろが!お前そないなこと言うて小春の手握るつもりやろ!」
『騎士だから当たり前でしょ』


お姫様と騎士なんだからエスコートするのは当たり前だ。ユウジは精々小春ちゃんが来るのを待ってたらいいんだよー。


「お前ほんまおかしいで」
『え、何が?褒め言葉?』
「どこをどう捉えたら褒め言葉に聞こえんのか教えてほしいんやけど」
『仕方無い。そんなにやりたいのならいっそユウジがお姫様でもいいよ。私と小春ちゃんでユウジを取り合おうじゃないか。たまにはいいよね?きっと面白いし』
「お前それ勝負にならへんぞ。小春に負けるで」
『やっぱり?じゃあ私がお姫様ユウジを小春ちゃんのとこにエスコートしてあげるからね!』
「お前ほんまアホや」


私の言葉にユウジは吹き出して笑った。お、今日は私の勝ちだな。


「ニヤニヤすんなや」
『いひゃい』
「小春のこともお前のことも迎えに行くんわ俺や。ちゃんと分かっとけ」


頬をつねりながら言う言葉じゃないと思うんですけど。痛くて何度も頷けばパッとユウジの手が頬から離れる。ユウジらしくない言葉にまたもや笑ってしまう。私を置いてすたすたと歩き出すのでその背中を追いかけた。


「あら!二人ともこんなとこで何しとるん?」
「『迎えにきた』」
「うふ、今日も息ぴったりやね!ほな三人で駅まで行きましょか」
『財前ちゃんと起きれたかな?』
「連絡したら起きとったで、安心してな凛ちゃん」
「小春は気遣いも完璧やな」
『細やかな気配りが小春ちゃんは出来るもんねぇ』
「お前も少しは見習うとかせんのか」
『小春ちゃんには敵わないからなぁ』
「アホか!負けずに努力せえ!」
『痛い!』


今日はユウジが真ん中で、三人並んで駅へと向かう。本心で言ったのに容赦ないツッコミが後頭部に炸裂した。相変わらずツッコミがキレキレだなぁ。


「お前ら遅いで」
「『……は?』」


駅に到着した所で声を掛けられて私とユウジは固まった。聞きなれた声は白石でそこには何故か全員勢揃いしている。


「財前クン全員呼べたんやね、おおきに!」
「小春さんの頼みですし、まぁ仕方無いっすわ」
「凛ー!はよ行こうや遊園地!」
「財前と四人で行こうとしてたとか水臭いことすんなや!俺達も誘えって!」
『千歳まで?』
「朝から銀に起こされたと」
「みんな暇だったみたいやしな、せっかくやから全員で行こうって話になったんや」
「全員で遊園地なん久々やなぁ」
「金太郎はん、はしゃぎすぎはあきませんで」


四人の予定が一気に十人になった。なんだ、やっぱりデートじゃないじゃん。ほっとしてその輪に加わるもユウジは珍しく最後まで呆けていた。あんなアホヅラ珍しいなぁ。


「すまんな椎名」
『え?白石が謝る案件なのこれ?』
「ユウジと小春と三人で行きたかったやろ」
『でも遊園地だし三人より偶数のがいいよねって話になったし』
「それで財前に話が回ったんか」
『そうそうそんな感じ。それに小春ちゃんが財前に頼んだみたいだしみんなで行った方が楽しいよね!』


ワイワイと全員で遊園地へと向かう電車内、白石と二人になったところで謝られた。別に三人でも四人でも十人でも楽しいと思うから白石が謝る必要全くないよね?不思議に思って隣に立つ白石を見れば柔らかく微笑んでいる。


『え、何か笑かす要素あった?』
「椎名はほんま飽きんなぁ。別におもろくて笑てへんで」
『じゃああれか、単に白石スマイルを振りまいてるのか』
「別に振りまいてるつもりもないけどな、あの二人とお似合いやと思っただけや」
『まぁ、私くらいでしょうね』


白石と二人で車内でコントを始めている二人へと視線を向ける。周りのお客さん爆笑してるなぁ。謙也が一番笑ってるけど。あのネタこないだ見せられたやつなのになぁ。財前はその様子を撮影しているし金ちゃんは混ざりたそうだ。千歳は既に寝ているし銀と小石川は何やら二人で話している。


「どうなるかと思ったんやけど仲良さそうで安心したわ」
『どうにもならないよ。これが私達だし』
「せやな」
『あ、そろそろ私の出番だから行ってくる』
「お姫様に毒リンゴ食わそうとする継母役やったか?」
『そそ。あ、違う継母じゃなくて実母!』
「どんなコントやねん」


白石の言葉を背に受けて二人のコントへと乱入した。心配しなくても大丈夫だよ白石。私はユウジも小春ちゃんも同じくらい大切で大好きなのだから。


『そこの可愛いお嬢さん、食べればお肌ツルツル毒リンゴはいらんかえ?』
「あら!何歳若返るのおばあさん?」
「あかん!毒リンゴやろ!食べたらあかんで白雪!」


謙也、ユウジより先にツッコミ入れたら駄目だよ!イレギュラーが有りつつも笑いを取るのがユウジと小春ちゃんだ。私は毒リンゴを食べさせるだけ食べさせて退場するだけだから楽チンな役回りだよねぇ。遊園地に到着するまで電車内は大いに盛り上がった。
こんな中寝れる千歳はある意味凄いと思いました。


どうしても書きたかった!不定期にちまちま書いてきます
2019/06/02

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