恋に溺れる彼のセリフ5題(2.頭ん中、お前ばっかなんだけど)

あれから椎名の態度がなんか変だ。
あの日からどっか上の空でクラスでも部活でも失敗続きだし、なんつーかあいつらしくねぇ。


「丸井、ちょっといいか」
「おお、どうしたんだよ柳」
「椎名と喧嘩でもしたのかと思ってな」
「は?いやいやそんなこと全く身に覚えがねぇぞ」
「そうか、では最近椎名に何か話したりしたか?」


なんだよいきなり。柳に言われると何か身に覚えがなくとも心配になるだろ。喧嘩もたまにすることはあったけど最近は全くしてねぇ。
俺があいつのこと好きになってからはなくなった。
つーか、あいつがおかしくなったの俺のせいだと柳は思ってんのか?この質問ってそーゆーことだよな?


「話したっちゃ話したけどあの話が原因ではないだろ。ぜってぇに違うと思うぞ」
「ふむ、思い当たる節はあると言うことだな」
「……」
「黙っていても顔に出ているぞ丸井」
「何でもお見通しみたいな顔してんなよ」


墓穴掘ったような気がして黙ったら柳は涼しげにふっと表情を崩して笑った。
まぁ大体柳に隠し事しようとする方が間違ってる。隠したところでこいつは大体のことをいつの間にか知ってるしな。それならカッコ悪いとかそんなこと気にしてないで素直に話した方がいいんだろ。分かってる、分かってんだって。
けど分かってても出来ないことってのがあってだな。


「粗方椎名に恋愛相談でもしたんだろう」
「…言わなくても知ってんじゃねぇか」
「予測の範囲だがな。椎名に恋愛関係の話をしたのは初めてだろう?」
「まぁ今までは相手が違ったし」
「好きな女性にあたかも違う女性を好きなように相談するのもどうかと思うがな」
「はぁ?」
「俺は忠告したぞ丸井」


別にそんなつもりは無かった。そう伝えたかったのに柳はさっさと幸村のとこに行っちまった。
あの言い方じゃそれが原因で椎名の態度がおかしくなっちまったてことだ。
でも何であいつがおかしくなるんだ?そんな必要ねぇだろい?
考えてもその理由はさっぱり分からなかった。


「まぁ恋は盲目ってやつっすよね」
「はぁ?お前急に何言ってんだ」
「赤也、ブンちゃんにはストレートに言ってやらんとダメぜよ」
「まさか丸井先輩がこうもポンコツになるとは」
「お前ふざけてんじゃねぇぞ」
「ふざけてないですって!」
「ほれ、ちゃんと思ったこと言ってやらんと」


昼メシになって赤也がクラスまでやってきた。こういうことはたまにあるから問題は無い。赤也と仁王と昼メシを食いながら椎名の話をしてたはずなのにいつの間にか内容が変わっていた。後輩にポンコツとか言われたくねぇんだけど。仁王も酷くね?お前さ、結局なんか知ってんだろ。
ムカついたから赤也の座ってる椅子の足をガンガンと蹴ってやった。


「俺に当たらないでくださいって!」
「椅子に当たってんだよ!」
「どっちもそう変わらんじゃろ」
「ちょ!仁王先輩それも酷い!」
「早く言いたいこと言えよ赤也!」
「そんな騒いで、椎名先輩がこっち見てますよ」
「あ?」


赤也に言われて友達と昼メシを食ってるであろう椎名の方を見れば確かに目がぱちりとあって、それからさっとそらされた。
や、何で俺が目をそらされなきゃいけないんだ?


「ブンちゃんドンマイ」
「お前もふざけてんだろ仁王」
「丸井先輩、そんなイライラしないでくださいって!大体丸井先輩さえ素直に行動してたらこんなことになってないんですから!」
「はぁ?」
「まぁ今日は放課後の部活ミーティングだけじゃし一回椎名と話してみるといいかもしれんの」


仁王がそうやって意見をまとめたところで予鈴が鳴って話は打ち切られた。
まぁ話してみるくらいなら別にいいけどよ。
結局赤也も仁王も何だか回りくどいような気がして、変なもやもやだけが残った。なんだよあいつら。
いや、あいつらだけじゃねぇ。幸村にしろ柳にしろなんなんだよほんと。


『え、二人?』
「おお、赤也も仁王も用事があるんだってよ。んで駅前のカフェこないだ行きたいってこなあだ言ってただろ?」
『それはそうだけど』
「何か用事でもあったか?」
『無いよ、でもいいの?』
「何でだよ、俺が誘ってんだからいいに決まってんだろい」
『じゃあ行く』
「んじゃ早速行くとするか」


ミーティングが終わって赤也と仁王が示し合わせたかのように「あ、俺予定あったんで帰ります!」「俺も今日は彼女とデートじゃき」と言って部室を颯爽と出ていった。
あいつらなりに気を遣ったんだろ、多分。
そこは感謝しつつ椎名をカフェへと誘う。
相変わらず挙動不審と言うか歯切れが悪いけど断られなかったから二人で向かうことになった。


「なぁ」
『何?』
「お前最近なんかあっただろ?」
『え、何で?』
「いや、聞いてんの俺な。心当たりあんなら答えろよ」


道中、ここは直球に聞いた方がいいだろうと思ったことをそのまま聞いてみることにする。
質問に質問で返す時は心当たりありってことだろ。


『えぇと』
「何だよ」
『丸井はさ、私に相談するくらい好きな女の子がいるってことだよね?』
「あーまぁ、な」
『今までにそんなこと無かったし』
「まぁ理由はあるんだけどよ」


深呼吸を何度か繰り返してから椎名は話し始めた。そんな気合いを入れる必要あんのか?俺の話だろ?


『だからそれだけ真剣なんだよね?』
「まぁそんな感じで間違ってねぇよ」


幸村にも釘を刺されてるしな。そこは確かに間違ってねぇよ。つーか何でそこで黙るんだよ。


『なんか今までも丸井に彼女は居たけどそうやって直接恋愛の話聞いたことなくてさ。なんだろなぁ、やだなって思っちゃったんだよね』


少しの沈黙の後に椎名が一際大きな深呼吸をしてそれから一気に吐き出した。
は?やだなってなんだよそれ。思わぬ展開に思考回路が止まりそうになった。


「や、待て。俺の頭ん中、お前ばっかなんだけど」


やだなって思うことなくね?別に俺が今悩んでんのはお前のことであって他の女のことなんか一ミリも考えてねぇ。あまりに驚いた結果思ったことがそのまま口から出て、それを聞いた椎名は俺以上にびっくりしたみたいだった。ぽかんと口が開いたままになっている。
その顔を見て今度こそ俺の思考回路は停止した。勢いに任せて何言ってんだよ俺!


『あの丸井今のは』
「違え、そんなんじゃなく…いや違くねぇけど、って何言ってんだよ俺」


二人して完全に歩みが止まって椎名の顔がどことなく赤いように見える。きっと俺も似たようなもんだ。咄嗟に出た言葉はそれを否定していて慌てて訂正したものの、その行動すらカッコ悪くてなんかもうグダグダだ。


『もしそれが本当なら嬉しいな』
「あー嘘じゃねぇし、本当だっつーの」


この気恥ずかしい空気を最初に払拭したのは椎名だった。顔は赤いままだけど口調はいつもと変わらない。それに助けられて俺もなんとか返事をした。


『ケーキ楽しみだね丸井』
「おお、なんか色々美味しいやつあるみてぇだぞ」
『また今度赤也と仁王も一緒に行こうね』
「だな」


嬉しいってことはそういうことだよな?
今すぐ確認したい気持ちはあるものの、今日の俺はこれ以上そっちの話をするのは無理そうだ。まず話の入り方間違えたし。
また今度リベンジするか、椎名も同じ方向向いてんのなら別に焦らなくてもいいしな。
そう決意して二人でケーキを楽しむことに集中する。
仁王辺りには笑われっかもな。まぁたまにはこんな俺でもいいだろ。
椎名もホッとしたように笑ったから間違ってはねぇはずだ。


平成最後はやっぱりブン太で更新です
2019/04/30

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