恋に溺れる彼のセリフ5題(1.俺が恋煩いとか、笑うだろい?)

『丸井、ぼーっとしすぎ!』
「あー悪い」
『ほら、次はAコートで柳生と試合だよ』
「おお、分かった」


マネージャーの椎名に背中を叩かれてAコートへと送り出された。
俺がなんでこんな風になってんのかあいつは知らねぇんだよなぁ。ったく何でこんなことになっちまったんだろ。


椎名とは中学からの付き合いだ。一年の時からあいつはマネージャーをしてて今や俺達立海テニス部にはなくてはならない存在だったりする。
赤也の面倒見も良かったし俺と仁王からしてみりゃ良い遊び友達だ。
ずっとそうやって仲良くしてきた。


「丸井、何か悩み事かい?」
「んーまぁちょっとな」
「幸村、気にせんでいいぜよ」
「何でお前が答えるんだよ!」


部活が終わって着替えてる最中のこと、幸村に話し掛けられた。まぁ今日はテニスの調子もあんまり良くなかったからその確認だろう。
話すか話さないかで悩んであやふやに返したら仁王が俺の代わりに返事をした。
慌てて突っ込むとそれを見た幸村にクスクスと笑われてしまった。これじゃ聞いてほしかったみたいじゃねぇか。


「それで?何があったの?」
「ブンちゃんは単に恋煩いじゃよ」
「へぇ、丸井が恋煩い。珍しいね」
「俺が恋煩いとか、笑うだろ」
「まぁ」
「少しだけ、ね」
「そこは嘘でもそんなことねぇって言えって」
「それは無理かな、過去に恋愛で悩んだことなんか無かっただろ?」
「そうじゃそうじゃ」


それは否定しねぇけど今度の相手は難関なんだよ。どう押していいかわかんねぇっつーか、俺が好きだっつって相手がどう反応するか考えただけでも少し怖い。ほんとどーすりゃいいんだこれ。部室には椎名も他の部員も居ないしこの際悩みを二人に聞いてもらうことにした。


「ほお、ブン太が椎名を」
「笑うなっつーの!」
「椎名のことを丸井がねぇ」


予想通り仁王は笑いやがった。まぁ、そりゃそうだ。前に仁王に「椎名とは付き合わねぇ。あいつは良い遊び仲間だからな」って言ったの覚えてたんだろ。そこは俺が悪いけど笑うなってんだ。
幸村は何やら考え込んでるようにみえる。何か考えさせるようなこと言ったか?俺が椎名のこと好きで何か問題でもあっただろうか?


「丸井、そんな心配な顔をしなくても大丈夫だよ」
「別に心配なんかしてねぇよ」
「しとったじゃろ、顔に出てたぜよ」
「や、幸村が何か考え込んでたら気になるだろい!」
「あぁ、それは悪かったね。別にそういうんじゃないんだ。ただ椎名を好きになるってことはだよ、そのことに対して責任は持って欲しいかな。椎名は俺達の大事なマネージャーなんだから」
「好きになったからには今までみたいに簡単に振るなってことじゃな」
「あー」
「そこだけはよく考えて行動しなよ。じゃあ俺今日は帰るから」
「お疲れさん」
「おお、お疲れ」
「お疲れ様、お前達も着替えたのなら早く帰りなよ」


幸村が部室から出ていってパタンと扉の閉じた音が響く。小さな音が何故かとても大きな音のように耳に響いたんだった。


「丸井」
「あ?」
「頑張りんしゃい、まーくんは応援しとるき」
「あぁ、サンキュ」
「椎名のこと待っとるんか?」
「や、今日は約束してねぇし帰る。つーかいつも遊びに行く時はお前と赤也も誘ってんだろ!」
「冗談じゃ冗談。久々に純粋に恋愛しとるブンちゃんが可愛くてのう」
「うっせ、からかってんじゃねぇ」


結局仁王と途中まで一緒に帰ることになった。あいつ別れる直前まで俺のことからかってたし。
一人になって幸村から言われたことを思い出す。まぁ、そうだよな。椎名は俺達のマネージャーだ。好きになんのは自由だけどその後もし付き合うことになったらちゃんとしろってことなんだろう。傷付けるようなことはするなって釘を刺されたんだよ、な?
…つーか幸村の言ってる意味は理解出来っけど、それ以前の問題じゃね?
付き合うかどうかなんてまだ全然決まってねぇよ幸村!
結局俺の悩みは何にも解決しないまま次の日を迎えることになった。


『丸井丸井!』
「んー?」
『春の新作スイーツ買ってきたんだけど食べる?』
「あーいらね」
『えっ、どうしたのさ!丸井が甘いもの食べないだなんて!体調悪い?大丈夫か丸井!』
「心配いらんぜよ椎名、菓子なら俺が貰っちゃる」


俺に差し出された春限定の抹茶味のスイーツをひょいと仁王がかっさらっていった。
お前って甘いもん苦手じゃねぇの?まぁいいけどよ。


『じゃあほら元気になるようにって丸井にもあげるからさ。部活までには元気になってよ?』
「おお、サンキュ」


椎名はいつも律儀に仁王の分まで買ってくる。仁王が食べる食べないは完全に気まぐれだって言うのにちゃんと買ってくる。
結局俺にもスイーツを渡して女子の輪に戻っていった。


「椎名からのお菓子断るとはますます珍しいのう」
「甘いもん食いたい心境じゃなかったんだよ」
「重症じゃな」
「結局幸村の言いたかったことって今の俺のためにはならなくねぇ?それ考えてたらな」
「そうじゃのう」


お前も結局ちゃんとしたアドバイスはくれねぇのかよ!そう思ったけどダサすぎて仁王には伝えれなかった。あーほんと俺ダサすぎる。
机に突っ伏して女子達と談笑している椎名を横目で確認すると楽しそうだ。
あいつっていつからあんなに可愛かったんだろ。そんなの今まで全然気付かなかった。


『丸井、元気出た?』
「ん、まぁぼちぼち」
『あれ美味しかったでしょ?』
「まぁな」


椎名から貰ったもんだしスイーツは昼メシの後に美味しくいただいた。甘いもん食いたい心境じゃなかったとは言ったものの食ったら食ったですげぇ旨かったし。そんな俺を見て仁王はまた笑った。
放課後に椎名と二人で部室へと向かう。仁王は野暮用で後から来るらしい。まぁきっと彼女にでも会いに行ってんだと思う。


『それでどうしたのさ』
「何が?」
『何か悩み事があるんじゃないの?』
「あーなんつーかまぁ、悩みっちゃ悩みかも」
『歯切れ悪いなぁ、どうしたよ!丸井らしくないぞ!』


お前のことで悩んでんだよ!そう言えたらここまで悩んでねぇ。本人に聞かれたって答えれるわけないだろ。けどこいつも話さないと引き下がらないだろうし、ほんとどうすりゃいいんだ。
…いっそ話してみるか、遠回しにしか言えないけどよ。隣で歩きながら俺の返事を待ってんのが見なくても分かるしなぁ。


「俺が恋煩いとか、笑うだろい?」
『え?』
「や、笑われても困るけど停止されても困るぞ椎名」


椎名がどんな反応すんのか少しだけ興味もあった。過去に恋愛のことで椎名に相談したことも無かったしな。だから端的に結論だけを伝えたらぴたりと椎名の歩みが止まった。なんだよその反応、俺が想像してたのと違うだろい。
椎名から二、三歩歩いたとこで俺も止まって振り向くとぽかんとした表情をしている。


「なんだよその顔、笑うなら笑えよ」
『えっと、笑わない…けど丸井が、恋煩いとか珍しいかなって』


眉をひそめて椎名の様子を伺うと開いた唇かきゅっと閉じて表情が引き締まった。それからぽつりぽつりと立ち止まった理由を説明してくれる。


「だよなぁ、俺でもそう思うぜほんと」
『だっていつも当たり前のように彼女いたでしょ?』
「まぁそれは否定しねぇ」
『何で今回だけ…』
「まぁ色々あるんだよ色々な。ほら、止まってっと部活遅れんぞ」
『うん、分かった』


幸村や仁王みたいに笑うと思った。ひとしきり笑って『丸井らしくないよ!頑張りなよ!』って励まされるかと思ってたのに椎名の反応はなんだかいまいちだった。
歯切れも悪いし何でだよ、昨日の俺みたいになってんじゃん。椎名を急かして部活へと向かう。
結局その日の部活は俺より椎名のが失敗が多かった。あいつ急にどうしたんだよ。俺のせいか?や、別に困らせるようなことは何も言ってねぇ。
椎名がやらかすたびに幸村の視線が俺に向けられるのがなんだか怖かった。
や、幸村ぜってぇに俺のせいじゃねぇからな。


ブン太の生誕祭始まります( ・∀・)ノ
去年とは逆で今年はブン太の片想いです。
2019/04/14

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