お散歩行進曲(柳沢)

『観月さん!起きてください観月さん!』
「こんな朝早くに何ですか。と言うか貴女は何でここにいるんですか?男子寮ですよ」
『慎也先輩に入れてもらいました!』


今日は部活が珍しく一日お休みだから前々から慎也先輩と計画していたのだ!
その名も『ピクニック大作戦!』だから手分けして部員を叩き起こしてる真っ最中なのだ。
「凛は観月から起こしてくるといいだーね」って慎也先輩に言われたので私は真っ直ぐにここに起こしに来たってわけでその一連の流れを寝起きで不機嫌そうな観月さんへと早口で説明した。
ちなみに寮母さんにお弁当も作ってもらったから準備は万端だ!


「貴女って人は本当に突然ですね」
『そんなことないです!ちゃんとお弁当も用意しましたよ!』
「そのことをボクは言ってません。何故昨日言っておかなかったのですか」
『サプライズだったので』
「ボク達に用事があったらどうするつもりだったんですか?」
『その辺りはちゃんと確認しときました!』


ちゃんと昨日のうちにみんなの明日の予定を確認しておいたからその辺は大丈夫なはずだ!


「確かに皆さんに今日の予定を聞いて回ってましたね」
『はい!なのでピクニックに行きましょう観月さん!』
「嫌だといっても貴女は聞かないでしょうし仕方無いですね」
『わ!観月さんありがとうございます!』
「では準備をするので食堂で待っていてください」
『はい!』


観月さんが行くって言ったらきっと他の先輩達も参加してくれるだろう。
みんなでピクニック楽しみだなぁ。


『慎也先輩!観月さんオッケーでした!』
「あの観月が陥落したか」
「ほら言っただーね。凛なら観月をどうにかするって」
「はぁ。そしたら準備するしか無いですね」
『ほら先輩達も早く準備してください!観月さんに怒られちゃいますよ?』


食堂に観月さん以外は揃っていたけれど準備が終わってそうなのは慎也先輩と淳先輩だけだった。裕太先輩に関してはまだパジャマ姿だし。


「で、どこにピクニックに行くんですか?」
『善福寺公園ですよ!』
「本当にピクニックなんだな」
『アヒルボートに乗りたいんです!』
「それスワンボートだろ」
「赤澤いちいち細かいだーね」
「椎名がこうなったら止めても無駄だろうしなぁ」
『ささ!張り切って行きましょう!天気も良いですから』
「確かにとても良い天気ですね」
「ですねぇ」
「椎名!ちょっと待て!それは俺が持とう」
『へ?赤澤部長いいんですか?』
「お前にそのバスケットを預けた結果昼メシが食えなくなるのは困るからな」
『そんなこと大丈夫ですよー』
「椎名さん、赤澤がこう言ってるんですから持っていただいたらどうですか?」
『えぇ、観月さんまで?』
「女性に重たいものを持たせたくないという部長なりの心遣いだったんですよ」
『あ、それならお願いします!』


せっかくの部長の心遣いを無下にしちゃう所だった!
サンドイッチの詰まったバスケットを赤澤部長へと預けることにする。
アヒルボート楽しみだなー。
みんなでピクニック楽しみだなぁ。


「なぁ椎名」
『どうしたんですか金田先輩』
「せっかくなら柳沢先輩と行ってくれば良かったんじゃないのか?」
『それも考えたんですけどみんなで行ったらもっと楽しいよねって話になったんです』
「あぁ、そういうことか」
「お前と柳沢先輩って二人でデートとかしないのか?」
『裕太先輩まで何ですかいきなり。二人でだって遊びに行きますー。こないだ上野動物園にも行ったし!』
「あーそれで上野公園の不忍池でスワンボートにでも乗ってきたんだろ」
『そうなんです!すっごい楽しかったからみんなで来たいねって慎也先輩とも盛り上がって!』
「「あー」」


何故に先輩達の表情はげんなりしてるんだろ?
今からピクニックだと言うのにだ。


「俺は結構楽しみかな」
『ノムタク先輩!ですよねですよね!』
「何でそんな余計なことを」
「弟クンこうなったら楽しまなくちゃ」
「その弟クンっての止めてもらえませんか」
「先輩、あんまり裕太をからかわないでくださいって」
「事実だろ?」
『裕太先輩はブラコンなんだからそんなこと言っちゃ駄目ですよ』
「椎名、結局俺のこと一番からかってんのお前な」
『いひゃい、ゆーひゃしぇんぱいいひゃいれす』


事実なのに酷い。結局慎也先輩が止めるまでそのままだったし。別にブラコンでもいいのにね?裕太先輩だってお兄さんが活躍してると嬉しそうに報告してくるのにさー。ツンデレさんめ。


「裕太にブラコンは禁句だーね」
「そうだよ凛。何回も僕達言っただろう?」
『事実だから裕太先輩も認めたらいいのに』
「これでもだいぶ丸くはなっただーね」
「昔は拗らせてて不二にコンプレックス感じてる時あったんだよ。だからあんまり刺激したら駄目だよ」
『んー。とりあえずお兄さんの話をしない方が良いってことですか?』
「違うだーね。ブラコンって言わなきゃ大丈夫だーね」
「そういうことだね」
『了解しました!』


仕方無いなぁ。慎也先輩と淳先輩がここまで言うならブラコンって言うのは止めてあげよう。ほっぺたもうつねられたく無いし。さりげなく結構痛かったし。そうやってみんなでワイワイしてたらあっという間に善福寺公園に到着した。アヒルボート楽しみだぁ!


『着いたー!』
「結構かかりましたね」
「電車を乗り継いだからな」
「結構広そうですね」
「あ、ほんとにアヒルボートあるや」
「スワンボートだって部長が言ってたよ」
「どっちでもいいだーね」
「凛、あんまりはしゃぐと転ぶよ」
『淳先輩!だってみんなでピクニックですよ!念願の!』


はしゃぐなだなんて無理無理無理!
まさかみんなが参加してくれるだなんて思ってなかったんだ。最悪慎也先輩と淳先輩と三人で行けばいいやって話になってたわけだし。観月先輩は日傘までさして日光に対して完全武装してるけどでもでも来てくれたことが嬉しい!


「とりあえずどうしますか赤澤」
「昼メシにはまだ早いしなぁ」
『先輩!アヒルボートアヒルボート!』
「凛、急かさなくてもアヒルボートは逃げないだーね」
「椎名、とりあえずボートは昼メシの後でもいいだろー?」
『えー』
「じゃあ公園を一周してみようか」
「そうだね、ピクニックだからね」
「椎名!公園一周が先だって!」


ボート乗り場に先行しようとしたら金田先輩からストップがかかったので大人しく戻ってきた。後からだなんて直ぐそこにボート乗り場があるのに。先輩達がさくさく歩いていくので渋々その後を着いていくことにした。


「春に来ても良さそうだな」
「桜の木が沢山ありますね」
「へぇ、池に弁財天を祀った中島があるらしいですね」
『弁財天って七福神の?』
「お金持ちになるってやつだっただーね」
「弁財天は他にも確か水や音楽の神様でもあったんじゃなかったっけ?」
「木更津物知りだね」
「先輩がそんなこと知ってるだなんて意外でした」
「最澄の本をこないだちらっと読んだだけだよ金田」


水の神様だから池の中島に祀ってあるってことなのかな?ってことはお小遣いupをお願いしたら怒られちゃうかもしれないなぁ。うーん。


「凛、池にスイレンが咲いてるだーね」
『あ!ほんとだ!』
「スイレンは丁度今時分が咲き頃ですからね」
「ほお、花は初めて見るな」
「後からボートに乗った時に近くで見るといいよ凛」
『楽しみです!』


そうやってみんなでのんびりと公園を回ったらあっという間にお昼になった。お昼ご飯を食べたらいよいよアヒルボートだ!


「大荷物だと思ったらこんなものまで用意してたとは」
『レジャーシート大事ですよ観月さん!』
「大人数だからね、この方が良いと思って」
「じゃあ俺と金田で飲み物買ってきます」
「裕太頼むだーね」
「金田、ちゃんとみんなの好み把握してるな?」
「多分大丈夫です。あ、観月さんはどうしますか?」
「僕は」
『観月さんの心配は不要です!』
「は?」
『じゃーん!簡易ティータイムセットー!』


本当は観月さんのをお借りしたかったのだけどサプライズだったから仕方無く食堂のティーポットとカップをお借りしてきたのだ。ついでに象印の水筒とこないだ観月さんが好きだと言っていた茶葉!これで完璧なはず!リュックから1つ1つ丁寧に取り出す。


「まったく貴女と言う人は」
「観月、凛が一生懸命考えたから怒ったら駄目だーね」
「いいえ、怒りませんよ。ここまで重かったでしょうに」
『観月さんにも楽しんで欲しかったので!』
「僕はね、そんなことしなくても観月は楽しんでくれるよって言ったんだけどね」
「お前は本当に観月のこと好きだな椎名」
「赤澤!凛が好きなのは俺だーね!」
「そんなことみんな知ってるよ柳沢」
『慎也先輩も観月さんも先輩達みんな好きですよ?あ、でも紅茶は観月さんが淹れてくれないと美味しくないかもです』
「どうせなら教えてあげますから貴女が淹れてください」
『えっ』
「きっとその方が美味しくなるんだよ椎名」
「そうだな」
「頑張るだーね」
「と言うかカップも人数分あるとか凛ほんと頑張ったね」


ノムタク先輩!?私より観月さんが淹れた方が絶対美味しくなるよ!?なのに部長も慎也先輩もその意見に賛成みたいだった。裕太先輩達が戻ってきた所で観月さんに言われて辿々しくも紅茶を淹れることになった。裕太先輩が茶々を入れるから凄い大変だったし!それでも観月さんは私の淹れた紅茶を美味しいと言って飲んでくれた。絶対に観月さんが淹れた紅茶の方が美味しいはずなのにだ。


『観月さんが淹れた方が絶対美味しかったのに』
「凛、気持ちだーね」
『気持ち?』
「自分で淹れるより誰かに淹れてもらった方が美味しく感じるんだと思うよ」
「ここまで重たかったはずなのにこれだけは自分で持ってくって聞かなかったし」
『そっか』


みんなで食べるサンドイッチは格別に美味しかった。寮母さんにお願いして良かったよねぇ。それに観月さんが紅茶を美味しいって言ってくれたことも嬉しかった。賑やかな昼食タイムが終わっていよいよメインのアヒルボートだ!


「どう分かれます?」
「凛は柳沢とでいいよね?」
『はい!』
「では僕は赤澤と乗ることにしましょう」
「俺と!?」
「えぇ、楽出来そうなので」
「じゃあ僕は野村と乗ろうかな」
『残りは裕太先輩と金田先輩ですね!』
「えぇ、俺達は荷物番してるよ椎名」
「ポカポカ気持ち良いから昼寝がてらさ」
『えぇ』
「まぁいいでしょう。では二人とも荷物を頼みますよ」
「「はい」」


裕太先輩と金田先輩はアヒルボート乗らないのか。絶対に楽しいのに損してるよ。


『慎也先輩楽しみですね!』
「そうだーね。淳に負けてられないだーね」
『何の話ですか?』
「池を一周する勝負をするだーね」
『なるほど!』
「観月には負けたく無いから凛頑張るだね!」
「はい!」


わざわざ裕太先輩に電話をかけてスタートコールをしてもらった。観月さんに負けたく無いって言ったけど観月さんがアヒルボートをガチャガチャ漕いでるイメージが全く無い。…さっき楽出来そうとか言って無かったかな?てことは漕ぐのは赤澤部長に丸投げなんだろうなぁきっと。


「負けただーね」
『部長に完敗でしたね』


結果的に二人で漕いだ私達と淳先輩チームより赤澤部長一人で漕いだ観月さんチームがぶっちぎりで速かった。と言うか速すぎて私達は途中で勝負を放棄した感がある。おかげでスイレンものんびり見れたからいいんだけどさ。ここの公園ものんびりアヒルボート乗れて良かったなぁ。


「椎名、お前は帰りはこっちを持て」
『え?』
「そっちは重たいだろ。こっちは空だからな」
『でも』
「赤澤はまだ体力が有り余ってるからいいんですよ」
「そのわりに結構疲れた顔してるよね」
「観月のせいだろうけどね」
「ダントツで戻ってきたもんなぁ」
「部長頑張りすぎなんですって」
「いいからほら貸せ」
『あ』
「凛、部長に持ってもらうといいだーね」
『うう、じゃあ宜しくお願いいたします』


部長は紅茶すら飲んで無いのに申し訳無いことをしてしまった。今度は部長の好きなものをお弁当にしよ…部長の好きなものってカレーライスじゃなかったっけ?そしたらどう考えてもお弁当に出来ないかも。あ、カレーピラフのおにぎりとかならいいかな?うん、今度はおにぎりにしてみよう。


『先輩達今日はありがとうございました!』
「凛のお願いならみんないつだって聞くだーね」
「いつでも聞くのは柳沢だけだけどたまにならまた聞いてあげるよ凛」
「こうやってたまにはみんなで出掛けるのも良い気分転換になりますからね」
「またいつでも言ってこいよ」
「あ、ちゃんと昨日みたいにみんなの予定は確認しなよ」
「と言うか今度からサプライズは止めろよ椎名」
「サプライズじゃなくても楽しいだろうからさ」
『はい!』


その二週間後に今度は違うアヒルボートに乗りに行こうって提案したらさすがにそれは観月さんに怒られた。「貴女はアヒルボート以外にやりたいこと無いんですか!」と言われてしまったのだった。ピクニックって一番安上がりで楽しめると思ったのになぁ。仕方無いので動物園に行きたいと言ったら渋々頷いてくれた。私の行きたいとこってどこか変なのかな?え?動物園でもきっと楽しいよね?裕太先輩は呆れた表情で「柳沢先輩と二人で行ってこいよ」って言うのだった。
慎也先輩と二人でデートはこれからだって沢山いける。でも先輩みんなで行くのは後少ししか無いんだよ裕太先輩。思い出作りしとかないと先輩達あっという間に引退だよ。そう主張したら裕太先輩も納得してくれたみたいだった。
さて今度はどこに行こうかな?


柳沢夢のはずなのにルドルフ夢みたいになった(笑)
ルドルフのわちゃわちゃも書いててとっても楽しい!アヒルボートに乗りたくて書いただけのお話。それなのに前置き長すぎてアヒルボートあんまり沢山書けなかった(笑)
2018/11/01

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