一枚上手な彼のセリフ5題(2.顔真っ赤にして否定されても)

「先輩早いっすね。まだ12時45分ですよ」
『赤也！？わ、は…早かったね！』


部活が早めに終わったからそのまま来ただけなんすけどね。
柳生先輩にも過去に「紳士たるもの女性を待たせてはいけません」って何回も言われたし。
いや、別に俺は紳士目指してねぇけどさ。
そしたら俺に背を向けてそわそわ落ち着かない先輩が駅前に立ってるのを見付けたんだった。
ふーん、まぁまぁ可愛い格好してんじゃん。
これもきっと丸井先輩か仁王先輩の好みが入ってんだろーけど似合ってるからいいか。


「可愛い格好してるっすね」
『わ！や、そそそそうかな？』
「先輩俺のこと考えながらその格好に決めたんすか？かーわい」
『そそ、そんなこと！違っ』
「顔真っ赤にして否定されても説得力ねぇんすけど」
『いや、その』
「ほら行きますよ」


「せめて好きな女の子には優しくしてあげなきゃ駄目だよ赤也」これも幸村先輩が常々言ってたことだ。
先輩達の言うこと忠実に守ってる俺偉くねぇ？
つーか何で褒めたのにそこ否定すんだよ。
素直に『赤也のために考えた』って言えばいいのによー。
顔真っ赤にしてまごまごしてる凛先輩の手を取って歩き出す。
いちいち先輩を相手してると映画の上映時間に間に合わなくなっちまう気がするし。


『赤也！？』
「なんすか」
『手！手！』
「先輩が迷子にならないようにっすよ」
『この年で迷子になんてならないよ！』
「んじゃ離しましょうか？」
『えっ！』
「じゃあこのままっすねー」


離してほしいのかこのままでいてほしいのかどっちなんだよ。女子ってのはいちいち面倒なこと多すぎんだろ。
「赤也、女性とはそういう生き物だ。我々とは考え方が違うのだから自分の価値観をそう相手へと押し付けるな」あぁこれも柳先輩が前に言ってたなぁ。
手繋いだだけなのに先輩は緊張してんのか口数少なめだ。
別に手くらいいつだって繋げるんだから早くいつもの凛先輩に戻ってくんないかな？


「お、ちょうど良い時間にありますね」
『ね！良かったー！』
「ほんとにこれでいいんすか？」
『え？』
「先輩ならあぁいうの観たいんじゃないかと」
『確かにあれも観たいけど赤也寝ちゃわない？』
「まぁ確かに」
『そしたら終わってから感想言い合えないしミッション・イン・ポッシブルも観たかったからいいのー』
「ならいいんすけどね」


一応先輩を気遣ってみた。
こういう気遣いも大事だって誰かが言ってた気がするし。
まぁ先輩は先輩で俺のこと考えてるはずだからこういう答えが返ってくるのはわかってたけど。
分かってても言葉にするのは大事だって幸村先輩が言ってたんだっけ？多分そうだな。
あの人彼女と喧嘩はしたことないって言ってたし。


「あー！切原だー！何してんの？」
「あーデート？だから邪魔すんなよ」
「おお！ごめんごめん！じゃあまた明日ね」
「またなー」
『赤也？今何て言ったの！？』
「事実だしあぁやって言わないと面倒なんすよ。今日は先輩優先ですし」
『そっか』
「嬉しい？」
『うん、それは嬉しい』


同じクラスの女子とチケット売り場で遭遇した。凛先輩の表情がくるくる変わって面白い。可愛い過ぎるでしょ。
表情を曇らしてから慌てて嬉しそうに頬笑むまで全部すげぇ可愛い。


『面白かったねー！』
「あの途中のシーンであばら骨折ったらしいっすよ」
『嘘！？あ、あの橋の上のシーン？』
「あれ観てても痛そうでしたもんね」
『やっぱり凄いなぁ』
「ノースタントとかほんと凄いっすよね」
『最後は切なかったなぁ』
「…どこら辺？」
『元奥さんのとこ』
「あー。旦那さん居たっすもんね」


「いいか赤也。女子の言うことを頭ごなしに否定だけはするなよ」これはジャッカル先輩の言葉だった気がする。
いきなり『切ない』とか言うから「はぁ？」って言いそうになったのをなんとか堪える。
危ない、ジャッカル先輩の言葉思い出して良かった。
俺からしてみたら手を離したイーサンのが悪いと思う。そう簡単じゃ無いんだろうけど。


『赤也付き合ってくれてありがとね！』
「俺も暇だったんでいいっすよ」
『一人で映画観るのはハードル高くて』
「先輩なら友達沢山いるじゃないっすか」
『う、うん。そうなんだけど』
「腹減ったんで今度は俺に付き合ってくださいよ」
『え』
「時間無いんすか？」
『大丈夫！まだ全然時間ある！』
「んじゃ行きますよ」


俺が帰ると思ってたんだろなこの鈍感女。
あーあ、俺結構頑張ってるんだけどなー。
さて丸井先輩オススメのカフェにでも行きますかね。
食べ放題とかラーメンとかでも良かったんだけど丸井先輩曰く「男子とでも行けるとこに女子を連れてくな」だからなー。
シャクだけど行動に移すことにする。


「足疲れてねぇ？」
『うん、大丈夫だよ』
「ならいいんす」
『どこに行くの？食べ放題とか？焼き肉？』
「そんなとこ行きませんって」
『でも赤也好きだよね？』
「そーゆーとこはジャッカル先輩達と行くからいいんすよ」


まぁ、この鈍感な凛先輩と話してんのも楽しいからいいんだけどな。
そろそろ仁王先輩辺りから小言を言われそうだからあんまり引っ張っても駄目だよなぁ。