聖ルドルフ奮闘記(木更津淳)

『ねぇ、だーね先輩』
「何だーね」
『じゃあ淳先輩の好きな食べ物って何ですか?』
「淳が好きなのは焼き鳥のつくねだーね」
「柳沢先輩、それでいいんですか」
「裕太、何がだーね」
『裕太君、先輩がいいならいいんだよ。そんなことより好きな色は?』
「ベージュだった気がするだーね」
「何でそんなことまで知ってるんですか」
「ダブルスのパートナーだからこれくらい当たり前だーね」


裕太君がさっきからいちいち横槍を入れてくる。
だーね先輩が突っ込んでこないんだからそこはだーね先輩でいいんだよ。
そんなことより裕太君も淳先輩の情報何か知らないかなー?


『ねぇねぇ裕太君』
「え、何急に」
『裕太君は何か淳先輩の情報無いの?』
「急に俺にそんなこと言われても」
「裕太、椎名はしつこいから覚悟しとくだーね」
『無いの?』
「んー、あ!歴史小説読むのが好きってこないだ言ってたぞ」
『それはもう知ってる』
「知ってるのかよ。新撰組が一番好きなことは?」
『それは知らない!おお、裕太君ありがと!』
「貴方達いつまでそうしてるんですか。休憩はもう終わりましたよ」
「今行きます!」
「観月すまないだーね」
『はーい!』


淳先輩が休憩中に観月さんと話があるからって珍しくだーね先輩と居なかったからお話を聞いてたのだけどもう終わっちゃったとか。
あんまり有益な情報は無かった気がする。
これもぜーんぶ裕太君のせいだし。
あんまりだらだらしてると観月さんに怒られるのでさっさと仕事に戻ることにしよう。
あぁ、今日も淳先輩は格好良い。


「椎名さん」
『ひゃい!』
「木更津に見惚れてないで仕事してください」
『見惚れてなんか!ちちち違います!』
「はぁ、では早く仕事をなさい」
『かしこまりました!』


おっと!危ない!
危うく観月さんにバレる所だった!
やっぱり部内恋愛は良くないと思うんだよね。
だからみんなにバレるようなことはしちゃいけない。
だーね先輩と裕太君は鈍感だから大丈夫だろうしね!
さて今から真剣にマネージャー業をやりますか。
さすがに二度も同じことすると観月さんに怒られてしまう。
そこからは淳先輩の方を見ないようにして仕事を頑張った。
視界に入っちゃうとどうしても見ちゃうからね。我慢した!


「椎名ってさ分かりやすいってよく言われない?」
『金田いきなりどうした』
「や、実際どうなのかなーと」
『分かりやすい?言われたことないよ』
「あ、そうなんだ。じゃあ天然は?」
『天然はたまに言われるけど絶対に違う!私あんなにアホじゃないし!』
「それ誰と比べてるのさ」
『だーね先輩』
「柳沢先輩のことアホとか言ってやるなよ」
『じゃあアホ可愛いだーね先輩』
「それもどうなの」
『金田だって部長のことバカ澤って言ったじゃん』
「いつの話してるんだよそれ。三年前だぞ」
『もう三年もたっちゃったのか!』
「急がないと先輩達引退しちまうぞ」
『え?』
「何でもない」


何故教室でよくわからない話題を振られてその結果金田に溜息を吐かれなきゃいけないのか。
何その人を残念そうな目で見る感じ。


『ノムタク先輩』
「どうしたの椎名」
『淳先輩の情報をください!』
「最近そればっかりだね」
『や!べべ別にこの後にみんなの情報も集めますし!』
「そうなんだ」
『そうですよ!』
「んーそうだなぁ。豚汁が好きらしいよ」
『おお!新情報だ!』
「寮で豚汁出ると喜んでるからね」
『分かります!豚汁出ると私もテンション上がります!』


ノムタク先輩はいつも優しい。
淳先輩ばっかりって言われて焦ったけれど私の言葉に納得してくれたみたいだし。
情報色々集まってきたなぁ。
マル秘ノートに淳先輩の情報が埋まってくのがとても嬉しい。


「椎名」
『部長?どうしましたー?』
「実はな木更津のとっておきの情報を仕入れたんだ」
『ほほほほんとですか!?』
「声が大きいぞ椎名。静かにしろ」
『すみません。それで何ですか?』
「今度は小さすぎるだろ。普通の声で話せ」
『はぁい』
「お前は木更津の好みのタイプ知っているか?」
『キレイな子ってだーね先輩に聞きました』
「最近それが変わったらしいぞ」
『そうなんですか?で、どう変わったんですかね?』
「そこまでは知らん」
『えぇー』
「観月にでも聞いてみればいいだろ」
『観月さんかぁ』


好みのタイプが変わったって情報がとっておきだとは正直思えなくてがっかりしてしまった。
部長いつもは頼りになるのになぁ。
がっかりしてマネージャーの仕事に戻ることにする。


「椎名さん」
『あ、観月さんお疲れ様です』
「貴方もお疲れ様でした」
『何かありました?あ、もしかしてお叱りですか?』
「いいえ、今日の貴方はしっかりとマネージャー業頑張ってくれてましたよ」
『えぇとそしたら何でしょうか?』
「そんな貴方にご褒美です。ボクに聞きたいことがあるのでしょう?」
『何故それを!?』
「ボクくらいになると貴方の考えてることなんてお見通しですよ」


観月さんはやっぱり鋭い。
え、それって淳先輩のことを好きってことまで知ってるのだろうか?
表情を伺ってみても私には観月さんが考えてることなんてさっぱり分からなかった。


「で、何か無いんですか?今なら何でも答えてあげましょう」
『な、何でもですか?』
「えぇ、いいですよ」
『部長が淳先輩の好きなタイプが変わったって言ってたんですけど観月さん知ってます?』
「勿論ですよ」
『おお!でしたらそれ知りたいです!』
「木更津の好きなタイプを一言で表現するならば鈍感でしょうね」
『え?』
「ですから"鈍感"だと言いました」
『それって好きなタイプになるんですか?』
「彼にはなるんでしょうねぇ」
『そうですか』
「他には無いんですか?」
『大丈夫です。ありがとうございました』


鈍感な女の子が好きとかどうしたらそうなれるのだろう?
まだキレイな女の子の方が近付ける気がしたのに。
難しすぎて分かんないよ淳先輩!


『無い!何で無いの?全然無い!』


鈍感な女の子について考えていたら淳先輩のマル秘ノートを無くした。
気付いた時には寮でお風呂に入った後だった。
門限にはまだ時間があるから探しに行かなくちゃ。
あれを誰かに見られるのは確実にマズい。


『えぇと、観月さんと話したのはコート際だったからこの辺のはず』


あの時には確かにマル秘ノートを持ってたはず。
鈍感な女の子ってメモしたことまで覚えている。その後の記憶が曖昧だから落としたのならこの辺だ。
コートの中から外周りまで探したのにマル秘ノートは見付からなかった。
何処に行っちゃったんだろ?観月さんが見付けてくれていたのなら寮まで届けてくれるはずだし。


「椎名?」
『ひゃ!』
「ごめんね。驚かせちゃった?」
『淳先輩?』


こんな所で誰かと遭遇するとは思ってもみなかったから声をかけられて私は飛び上がった。
恐る恐る振り向くとそこには想像した通り淳先輩が立っている。
まさか淳先輩に遭遇しちゃうとは。
飛び上がった私を見て淳先輩はクスクスと笑っている。恥ずかしい所を見られてしまった。


「こんな時間にどうしたの?」
『ちょっと探し物をしてまして』
「暗いし明日にすれば良かったんじゃないかな?」
『大事なものだったのでどうしても今日中に探したくて』
「そうだね」


しどろもどろになりそうなのをぐっと堪えて淳先輩へと何とか返事をする。
あれ?「そうだね」って何で?
まるで先輩は私の探し物を知ってるかのようだ。


『淳先輩なん』
「椎名の探し物これでしょ?」
『は?や、何で先輩がそれを!?』
「僕が見付けたからだよね」
『せ、それっ、な!…み』


先輩がこちらに見えるように私のマル秘ノートを掲げた。
聞きたいことは沢山あるけれど驚きすぎて声にならない。
中は見てないよね?大丈夫だよね?
ノートの表書きは単にマル秘ノートとしか書いてないし。
見てませんように。見てドン引きなんてしてませんように。


「持主の確認をしなくちゃいけないから中は見たよ椎名」
『そんなぁ』


私の願いも虚しく先輩は穏やかに無情な一言を告げた。
体中の力が抜けて思わずそこに座り込んでしまう。恥ずかしすぎて顔を上げれない。
何で観月さん拾っておいてくれなかったのさ。
今なら観月さんに八つ当たり出来そうだった。


「椎名、顔を上げなよ」
『無理です』
「僕は知ってたから驚かないよ」
『は?』
「と言うかみんな知ってると思うよ。椎名は分かりやすいからね」
『え、ほんとですか?』


淳先輩の言葉に思わず顔を上げてしまった。
相変わらず先輩は穏やかに笑みを浮かべている。
みんな知ってたとか、私一生懸命バレないように頑張ってたのに。


「僕が一番最初に気付いたけどね」
『え!?』
「だって椎名僕とその他の部員への態度全然違ったでしょ?柳沢に聞いても椎名と話してて目が合わないことなんて無いって言うしさ。最初は嫌われてるかと思ったよね」
『そんなこと無いです!先輩とは恥ずかしくて目が見れなかっただけで!』
「うん、それも知ってるよ」


気付いた時には物凄い恥ずかしい一言を言ってしまっていた。
穴があったら入りたい。
そのまま地球の裏側まで逃げたい。
ブラジルの皆さん私をどうにかここから連れ出してください。
あまりの恥ずかしさに現実逃避しつつ視線をコートへと下げる。
もう淳先輩の方を見ていられなかった。


「観月に聞いたこと思い出しなよ」
『み、づきさん?』
「何を聞いたの?」
『淳先輩の新しい好きな女の子のタイプ』
「で、観月は何だって?」
『鈍感な女の子って言ってました』
「そうなんだよ。その女の子僕のこと好きなはずなのに他の部員とばっかり仲良くするんだよ。僕のことを嗅ぎ回ってるのは知ってたけどその分話す回数が減ったからさ。困ったものだよね」


一瞬聞き流しそうになった。
恥ずかしくて顔からゴジラなみにビーム出せそうな気がしてて上手く淳先輩の言葉が頭に入って来なかったのだ。
今、先輩何て言った?
先輩の言ったことは何となく分かる。
でも上手く飲み込めなくてぽかんと先輩を見上げた。
月に照らされてても淳先輩は格好良い。
そして相変わらず爽やかに微笑んだままだ。


「いつからかとかは分かんないけど僕もね気付いたら椎名のこと好きだったよね」


今度はちゃんと先輩の言ったことが飲み込めた。
まさか淳先輩が私のこと好きだったなんて。
嬉しすぎて私はその後返事もせずにわんわん泣いた。
まさか先輩が私のことを好きになってくれる日がくるなんて思わなかったのだ。
先輩は私が泣き止むまでずっと背中を撫でていてくれた。


『キレイな子じゃなくてごめんなさい』
「謝るとこずれてるよねそれ」
『でも私も先輩のこと大好きです』
「出会ってからずっとだもんね」
『そこまで知ってたんですか!?』
「それくらい人間観察が趣味じゃなくても分かったよ」


寮までの帰り道、私の手を引きながら先輩が隣でクスクスと笑っている。
一目惚れだったその時のことから知ってるとか恥ずかしすぎる。
この気持ちは先輩達が引退するまでは黙っておこうと思ったのになぁ。
卒業式に『好きでした』って告白するのが理想だったのになぁ。
この話をしたら珍しく先輩は呆れた顔をしていた。


「やっとくっついただーね」
「あの二人見ててかなりもどかしかったです」
「手間しかかからなかったですね」
「木更津から何とかしたいって話があって驚いたよね」
「部長まで協力するとは思いませんでした」
「俺だって出来ることはしてやりたいと思ってたぞ」
「椎名は鈍感過ぎるだーね」
「あれで隠してると思ってましたからね」
「バカですよアイツ」
「裕太、バカな子ほど可愛いって言うだろ?」
「その割に仕事は真面目にやるからな」
「木更津が視界に入ると手が止まりましたけどね」
「観月に注意されてその後一切淳を視界に入れないとこまでワンセットだっただーね」


ルドルフもわちゃわちゃしてて好きだぁ。
2018/09/18

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