しようよ(丸井)

大学を卒業して社会人二年目。
最近ちょっと彼女と上手くいってない。
お互い仕事が忙しいのもある。
一緒に住んでるのに前より距離が開いたみたいだ。


「凛」
『んー?』
「次の休みいつ?」
『土日は仕事だよ』
「そっか」
『火曜日は休みだけど』
「分かった」


こたつで念入りに爪の手入れをしてる彼女はネイリストの仕事をしてて土日は仕事だ。
俺の仕事は営業で休みは勿論土日。
何だろなー何で最近こんなに上手くいかねぇのかな。
今だってこっちの方をちらりとも見ずに返事をされる。俺のこともう好きじゃねぇのかもな。


でも俺はまだ凛のことが好きで別れるなんてことは考えたくもなかった。
忙しさにかまけてろくに話すこともしなくなってたもんな。
これじゃほんとまずいと思う。


火曜の朝、会社には無理言って有休を貰った。
凛は休みの日は昼まで寝る。
俺はいつも通り起きてスーパーに買い物に行った。


『ブン太?仕事は?』
「有休貰った。珍しく早起きだな」
『何か目が覚めちゃったの』
「メシ食った?」
『まだ』
「なら良かった。買い物してきたから俺が作るわ」
『え?』
「たまにはいいだろい。いつもお前に作らせてるし」
『ん、ありがとう』


帰るとこたつに潜り込んでぼーっと雑誌を見てる凛が居て、俺を見て驚いたものの直ぐに視線を戻してしまう。
なかなか上手くいかねぇよな。
凛の好きなパスタを手早く作ることにした。


「ほい、出来たぞ」
『ありがとう。わ、私の好きなパスタだ』
「朝から重かったかもな」
『大丈夫。カルボナーラ大好きだから』
「食うか」
『うん』


二人で一緒に昼食を食べる。
会話は無い。二人でテレビのワイドショーを眺めている。
前は会話が無くても居心地が悪いとかなくてテレビを見て同じタイミングで笑って思わず二人で目を合わせたりしたもんだ。
でも今は違う。お互いにただテレビを眺めてるだけだ。


「なぁ」
『んー?』
「ちょっと話したいことあるんだけど」
『いいよ』


洗い物の後、コーヒーを2つ入れてテーブルへと置いた。
凛は片肘をついてぼーっとテレビを眺めている。


「なぁ、もうちょっと俺達ちゃんと話しねぇ?」
『え?』
「最近忙しくてさ、ちゃんと話してねぇだろ」
『別れ話じゃないの?』
「は?」


やっと凛の視線がこっちを向いたと思ったら突拍子もないことを言う。
あーこれもしかして手遅れだったのかもな俺。


「俺は、別れたくねぇよ」
『最近一緒に居ても全然楽しそうじゃないでしょ?』
「それはお前もだろ。凛は?別れてぇの?」
『ブン太は私のこともう好きじゃないのかなって思ってた』


そう呟いて凛は俯いた。
なんだ俺達似たようなこと考えてたんだな。凛の考えてることが少し分かったような気がしてホッとした。


「凛、俺達最近確かにギクシャクしてたと思う。お互い仕事も忙しくてさろくに話もしてなくてさ」
『うん』
「仕事を理由にお互い自分のことばっか考えてたんだよな」
『うん』
「初心に戻らねぇ?」
『初心?』
「そ。初心に。出逢った時みたいにさ。ここで暮らし始めた時みたいにさ」
『最初は喧嘩ばっかだったねぇ』


俺の言葉に顔を上げて凛は昔を懐かしむようにふっと微笑んだ。
やっと笑ったなこいつ。
最近笑った顔すら見てなかった気がする。
あぁ、そういえば俺も笑うこと最近なかったな。


「話をしないくらいなら喧嘩の方がいいのかもな」
『喧嘩はやだよー』
「お前怒ると弁当手抜きになるもんな」
『ブン太が悪いんだよあれは!』
「だからゴミ出しは俺がやってるだろい」
『それくらいしてくれないと駄目だよ』
「なぁ、これからはさちゃんと話そう。何でもいい。愚痴でも俺の嫌なとこでも好きなとこでもさ。何でも話そうぜ」
『好きなとこってウケる』
「たまには聞かせろよ」
『私の好きなとこは?』
「全部。笑った顔も怒った顔も喧嘩してもこうやって気まずかった時でもメシはちゃんと作ってくれるとこも全部好きだぜ俺」
『もう。そうやって言うのズルい』


俺の言葉に顔を赤くする凛が可愛くて久しぶりにこんな顔を見れて凄く嬉しくなった。


「疲れてるだし今日はうちでゆっくりしようぜ。次の休みが合う時はデートしよう」
『せっかくの休みなのに出掛けなくていいの?』
「今日はさ、話してたい」
『うん』
「もっと早くちゃんと話してたら良かったな」
『ごめんね』
「俺も悪かったな」


まだ頬を赤く染めた凛と目を合わせて二人で笑った。
別れたいと思ってたんじゃなくてほんと良かった。


『ブン太はね、なんだかんだこうやって私が不安な時に先に行動に起こしてくれるから好き』
「なんだよ急に」
『好きなとこ言えって言ったじゃん』
「そんなの男なら普通だろ」
『そうかなぁ?』
「なぁ、久々に風呂一緒に入ろうぜ」
『は?やだよ』
「何でだよ。たまにはいいだろ」
『恥ずかしいでしょ』
「今日は初心に戻るって決めたろ」
『やーだー』
「俺もやーだー」


風呂に一緒に入る入らないで30分揉めてたのはバカだなぁって思う。
でも結局凛が折れて久々に風呂に一緒に入った。
夕飯も一緒に作って沢山沢山話した。


今日休み取って良かったな。
明日からもどんなに疲れてようと凛とちゃんと話をしようと思う。


「俺さ、お前が居ないと寂しいからさ」
『うん?』
「もう手抜きしねぇ。言わなくても分かってくれるなんて思わねぇ」
『なんだそれ』
「だから凛もちゃんと話せよ」
『ブン太、大好き』
「おう。俺も凛のことすげー好き」

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