幼なじみの延長線上には恋が転がっている(2)

手を繋ぐ。指を絡める。抱き締める。でもキスはしない。まだ、できない。


「凛ーほらほら早く綿菓子食べよう!」
『英二!待ってったら!キャッ!』
「おーっと、危ない!セーフセーフ!」


今日は近所のお祭りで凛と二人浴衣を着て向かう。
小学生までは仲の良かったクラスメイト達みんなで行ったし中学からはみんな学校がバラバラになっちゃったから凛と二人きりだ。
もう六年も二人でお祭りに行ってるんだよなぁ。
俺が急かしたせいで凛が躓いたのを転けないように咄嗟に支えてあげた。


『浴衣なんだから走らないでってば!』
「ゴメンゴメン!でもさ、早くお祭り行きたいじゃん?」
『もー英二のバカ』
「ゴメンってば!ほら、行くよ」
『急いで歩かないでよ』
「大丈夫だって。凛が転けたら危ないもんね」


膨れっ面が全然怖くないよ凛。
手を差し伸べたら当たり前のように俺の手を取ってくれる。
これが俺達の当たり前のような日常だ。


「凛は何食べたい?」
『んーかき氷』
「やっぱり今年もイチゴ?」
『うん。英二は?』
「俺はねー今年はどうしよっかなー?メロンも王道だしレモンも捨てがたいしブルーハワイも美味しいよねー。あー迷うなぁ」
『全部は駄目だからね』
「あ!今それ言おうと思ったのに!」
『それで去年お腹壊したでしょ!』
「にゃはは!バレたか!」
『隠してないでしょー!誰が看病したと思ってるのさ』
「凛に看病してもらったっけ?んでおーいし達に滅茶苦茶怒られたよねぇ」


あの時は俺以外みーんな家族旅行で居なかったから凛の家にお世話になってたんだった。俺は部活があるから参加出来なかったんだよね。
そっか、もうあれから一年たっちゃったのか。


『英二、ブルーハワイ一口頂戴』
「んじゃ俺もイチゴちょーだい」
『いいよ。はい、あーん』
「ん、やっぱりイチゴも美味しいよなぁ。イチゴにすれば良かったかも。はい、凛もあーん」
『ブルーハワイだって美味しいよ?』
「凛が食べてるから美味しく見えるのかなぁ?」


あ、凛から返事が無いなと思ったら頬が赤く染まっている。
いつもツンツンしてるけどこういうとこは可愛いよね。
けれど後一歩がなかなか踏み出せないでいた。
こんなこと誰にも相談出来ないんだよね。
桃達は俺が凛と付き合ってると思ってるけど実際は単なる幼馴染みだ。
友達以上ではあるけど恋人という関係には程遠い。
周りが勘違いしてくれてるおかげで凛に変なムシがつかないのは良いことだけどいつまでもこんな関係のままじゃよくないよね。


かき氷を食べて焼そばとタコ焼きを半分こして綿菓子を食べながら屋台を見て回る。
凛との時間はいつも楽しくてあっという間だ。


『英二!打上花火だよ!』
「たーまやー!なんちって!」
『毎年見てるけど綺麗だねぇ』
「そうだねー」
『来年も一緒に来ようね』
「うんうん、当たり前だよ!」


ギュウギュウと混雑してる人込みの中で周りと同じようにカラフルに彩られる空を凛と見上げる。
ふっと凛の指先が俺の手に触れてそこから熱が伝わってくるみたいだった。


『え、英二!?』
「人が沢山いるからね!迷子にならないようにしなきゃ!」
『そうだけど』
「あ、ほら見て!あの花火もすんごい綺麗だよ!」
『ほんとだ!』


指先が離れてしまう前に掴まえて指を絡ませてみた。
嫌がられたりはしないだろうけど凛の反応が見てみたかったから。
こんな風に手を繋ぐのは初めてじゃないけれどいつも凛は照れるみたいでその反応が可愛い。
可愛いって言うと怒るから言わないけどね。


「楽しかったー!」
『うん、私も楽しかった!』
「来年はさ、隅田川の花火大会も行こうよ!」
『人が沢山居ないかなぁ?』
「大丈夫だって!俺ぜーったいに凛の手離さないから」
『ならいっか』
「そうそう!そんでちょっと贅沢なかき氷二人で食べよ!」
『煉乳のやつ?』
「それそれ!後はフルーツのやつとかさ!」
『いいねそれ』


来年も二人でいるのが当たり前みたいなこの関係が今までは心地好かったのに最近なんだか少しだけ窮屈に感じてる自分がいたりもする。
けれどもし自分の気持ちを伝えたら今の関係が壊れちゃいそうで怖かった。
凛だって俺のこと嫌いじゃないと思う。
だけどそれなら今のままでも充分なんじゃないかって。
今以上を望んだら贅沢のような気がしたんだ。


『ひゃっ!』
「危ないなぁ」


お祭りの帰り道、二人で手を繋いだままゆっくり歩いていたのに凛はまたもや何かに躓いた。
下駄だと歩きづらいからしょうがないとは思うけどドジだよねぇ凛ってさ。
内心慌てて転けそうになった凛を抱きとめる。
俺の方にバランス崩してくれて良かった。
シャンプーの香りだろうか?髪の毛をセットしてるワックスの香りだろうか?
女の子特有の甘い香りが鼻を擽った。


『ごめん』
「大丈夫だった?」
『うん、大丈夫』
「凛良い匂いすんね」
『えっ!?汗かいたからそんなことないよ!て言うか汗臭いだろうから早く離してよ英二』
「えぇー全然汗臭くないよ。大丈夫大丈夫」
『ヤダヤダ!恥ずかしいってば!』
「凛がほんっとに嫌なら言って。離してあげるから」
『……英二のバカ』
「バカでいいもんねーだ」


俺から離れようと胸板を押しているけれどその抵抗が弱まったからこのままでもいいみたいだ。


「あ、俺以外には抵抗してよちゃんと」
『そもそも英二以外の人にこんなことさせないけど』
「それなら良かったー」


まだしばらくは凛に俺の気持ちは言えそうに無い。
ちゃんといつかは言いたいけど。
好きだって言ってあげたいけれど今はまだ無理そうだ。
俺ってこんなにへたれだっけな?


(ああなんてもどかしいこの関係)

菊丸可愛いなぁ。
最初に好きになったキャラだから青学の中では一番菊丸が好きです。
2018/07/12

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -