鈍感な彼のセリフ5題(5.え、俺のこと好きなの?)

毎日丸井にクッキーを味見してもらい「これなら完璧だな」とのお墨付きまで貰えた。
そしてついに勝負の4月20日がやってきた。
このクッキーを渡したら丸井はどんな顔をするんだろうか?
最後に作ったクッキーはお父さんもお母さんも絶賛してくれた。
丸井も同じくらい喜んでくれたらいいな。


朝練を終えて教室に現れた丸井は両手に沢山のプレゼントを抱えていた。
まだ朝練が終わっただけなのに相変わらず大人気だな。


「椎名はよ!」
『おはよう丸井。さすが誕生日だねー』
「おー!甘いもんばっかでかなり嬉しいぜ!」
『おめでとおめでと』
「は?お前は親友の誕生日に何か無いのかよ」
『えっ普通そこ催促しちゃうの?』
「クッキーのレシピ教えてやったろい?」


好きな人に作るためにクッキーのレシピ教えてやったんだからついでに俺のためにもクッキーくらい作れよってことなんだろなぁきっと。


『確かに』
「は?なんだよその反応」
『まぁまぁ。朝でこんだけ貰うんだから帰りにはこの3倍に増えるでしょ?』
「3倍じゃ済まないかもなー」
『さすが天然たらし』
「あ?」
『何でもないよー』


それから休み時間毎に丸井の誕生日プレゼントは増えていった。
どうしよう。渡すタイミングってあるのかな?
…渡せるかな?
鞄の中にはこれまた丁寧に気持ちを込めてラッピングしたクッキーが入っている。
でもいつ渡していいのかタイミングが全然分からなかった。


昼もひっきり無しに女の子が丸井の所へやってくる。
その1つ1つにあの爽やかスマイルで丸井は律儀にお礼を言っていた。


『凄いね』
「まぁな。部活行ったらもっと増えるぞ」
『だから放課後は誰も来ないんだね』
「部活も見学するんだから直接テニスコート行った方が早いだろうしな」
『確かに』
「つーか、今日のクッキーすら無いのかよ」
『え?』
「昨日までは毎日あっただろい?何で俺の誕生日に無いんだよおかしいだろ」
『あー』


丸井の言うことは最もだと思う。
昨日まで毎日試作品を食べさせてたのにいざ丸井の誕生日にだけクッキー作って無いとか酷い女だよね。
でもこれは渡すチャンスなのかもしれない。


「もしかしてソイツ俺と同じ誕生日なのか?」
『は?』
「もう渡したから俺は用無しってことかよ!」
『いや、ちょっと待って』
「俺はそんな風に椎名を育てた覚えは無いぞ!」
『丸井ちょっと待って!』
「なんだよ。俺はお前との親友解消の危機にあるんだからな」


親友からの誕生日プレゼントってそんなに丸井にとって大事だったの?
今ですらプレゼントは大量じゃないか。
親友を解消されては困るのでクッキーを渡すことにした。
鞄からラッピングしたクッキーを取り出す。
丸井の視線もクッキーに釘付けだ。


『誕生日おめでとう丸井』
「なんだよ!あるならちゃんと言えよ!」
『うん、何か照れ臭くてさ』
「お前からのプレゼント無いかと思って凹んだんだぞ」
『だからごめんって』
「つーかすげー綺麗にラッピングしてあんのな。もしかしてラッピングの練習台にしたのかよ?」


ホッとした様子で丸井はクッキーのラッピングを解いている。
今日も直ぐに食べてくれちゃうのか。
まだ他に本命がいると丸井は思ってるみたいだけど。
勇気を出してちゃんとお伝えすることにする。
気付かれないように静かに深呼吸をした。
丸井はちょうど一枚目のクッキーを噛ろうとしてる所だ。


『練習台なんかじゃないよ。ちゃんと心込めたよ』


あーんと口を開けた瞬間だった。
私の言葉に丸井の動きがフリーズした。
まぁそうなるよね。私が丸井を好きだなんて全く気付いてなかったよね。
居たたまれなくなって視線を下げた。
私が丸井のために焼いたクッキーだけが視界に入っている。


「え、俺のこと好きなの?椎名って」
『そう、なりますね』
「そっか。俺全然気付かなかったわ!」
『そう…だね』


丸井からの返事を聞きたいような聞きたくないような。
この関係が壊れちゃいそうで怖かった。


「お前俺のために頑張ってたのかよ」
『うん』
「口数減り過ぎじゃね?」
『な!何で笑ってるのさ!』


クッキーを食べながら丸井は喉を鳴らして笑った。
人が一世一代の告白をしたって言うのに笑うなんて!


「わりぃ!そんな怒んなって!」
『頑張ったのに』
「ん、クッキーすげえ旨いからありがとな!」


反射的に顔を上げてしまった。
そこには想像してた通りの丸井の笑顔があって嬉しくなってしまった。
ちゃんと私のクッキーを美味しいって喜んでくれた。
当初の目的は果たせたことになる。


『良かった』
「俺さ、お前のことちゃんと考えてみるから」
『え?』
「言ったろ?意識するってさ」
『そうだけど』
「人としては好きだし女の子だと思って考えてみるな!」
『分かった』
「だから次から気まずくなったりすんなよ!」
『うん』
「っとこんな時間か!じゃあ俺部活行くわ」
『今日も練習頑張ってね』
「おー!んじゃまた来集な!」
『またね!』


机の上のクッキーを丁寧にしまって丸井は慌ただしく部活へ行ってしまった。
「ちゃんと考えてみるから」って言ってくれたことが凄い嬉しい。
即座に断られると思ってたんだ。
告白はいつも即断ってるイメージがあったから尚更だった。
ちゃんと誕生日お祝い出来て良かった。
次に丸井に会うのが楽しみだ。


鈍感とかブン太っぽく無いけど可愛い雰囲気で書けたかな。
遅くなりすぎたけどブン太誕生日おめでとう!
2018/04/29

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