鈍感な彼のセリフ5題(2.一口くらい いいだろい)

「なーんかイマイチ」
『あ、やっぱり?』
「なんだろなー?お前ちゃんと美味しくなぁれって心込めてんのか?」
『やってる、とは思う』
「なんだよその歯切れの悪い返事は」
『他のことがあれこれ気になるんだよ!分量間違えてないかなとか!』
「あのなぁ、分量なんか多少間違えても問題ねえって。そっちに気を取られて全然気持ちが込もってねえじゃねーか」


次の日、早速作ったクッキーを味見してもらう。
丸井に貰ったレシピ通りに作ったはずなのに反応は微妙だった。
そうだよね、自分でも食べてみたら何かイマイチだったんだ。
一瞬、丸井のくれたレシピが悪いんじゃないかと思ってしまった。
でもお菓子作りって分量大事だよね?


「なんだよその顔」
『お菓子作りは分量が命って言うし』
「ケーキとかはそうだけどクッキーごとき少しくらい分量が変わろうと大丈夫だって。だからお前にもオススメしたんだからな」
『そっか。分かった。ありがと』
「おい、それどうするんだよ」


味見してもらったしイマイチなクッキーは回収することにする。
うちのお父さんならきっと食べてくれるはずだ。
そう思ってたのに回収する手を丸井に掴まれた。


『や、イマイチな作品だし持って帰るよ』
「これが不味いって言ったわけじゃねえんだからこのまま置いてけよ」
『え、やだよ。丸井は他にも沢山差し入れ貰ってるじゃん』
「いいんだって。親友の初めての手作りクッキーなんだから。しかも俺がレシピ教えたんだぞ?記念だろい?」


そう言ってクッキーを1つ手に取り噛ると丸井は爽やかに笑った。
その笑顔にいったい何人の女の子が惚れてったんだろうか。勿論私を含めてだ。


「まぁちゃんと次の日に作った努力は認めてやるよ」
『うん、ありがと』
「んじゃこれ俺から頑張ったお前にご褒美な」
『え?』
「慣れないことして大変だったろ?一応オーブンの使い方まで書いてやったけどさ」
『まぁ確かに。お母さんに聞きながら頑張ったよ』
「午前中から眠そうだったもんな」
『う』
「だからこれ俺から椎名にご褒美な?特別だぞ」


丸井ががさごそと何やら取り出した。
保冷パックから出てきたのは瓶の容器のプリンだった。
なんだよもう!女子力高すぎだよ丸井!


『何で?』
「昨日チビ達と作ったんだよ。んで余ったからお前にもお裾分けってこと」
『あぁそういうことね』
「平等に分けないと喧嘩になるんだよ。ほら、旨いから食ってみろって」
『じゃあ遠慮なく』


スプーンを手渡されたのでありがたくプリンをいただくことにする。
丸井から手作りのお菓子を貰えるのって女子の中じゃ私くらいしか居ないだろう。
テニス部の連中は誕生日に作ってもらってるらしいけど。
このプリンにしか使えそうにない瓶が家にあることが凄いと思う。
ご丁寧に蓋付きだし。
蓋を外した瞬間甘い香りが広がった。
あぁもう匂いだけでもう美味しいよこれ!


『美味しい』
「だろい?」
『市販のプリンと全然違う』
「俺とチビ達の愛情入ってるからな!」
『カラメルもちょうどいいよ』
「だよなー。俺の分も持ってくりゃ良かった」
『1つしか持って来なかったの?』
「おお、今日の夕飯にチビ達と一緒に食うって約束しちまったんだよ。だからそれ俺にチョーダイ」
『は?』
「なんだよ嫌なのかよ」


や、そういうんじゃなくてさ。
さらっと頂戴って私に言ったけどさ!
スプーンは1つしかないよね?
丸井がもう1つ持ってるようには見えない。
ってことは私が口をつけてしまったこのスプーンしかないんだよ!?
それを分かってるのかな?


「一口くらいいいだろい?また作ってやるから。レシピも教えてやろうか?」
『や、プリンは難しそうだから遠慮する』
「んじゃ一口くれよな」
『…分かった』


どうやら間接キスを気にしてたのは私だけみたいだった。
スプーンを手渡すとさっさとプリンを口へと運んでしまう。
そして直ぐにそのスプーンが私に返却された。


「やっぱ俺って天才的だよな?」
『そうだね。将来ケーキ屋にでもなれそうだよね?』
「だよなー」
『そしたら丸井のお店の常連になるね私』
「おー!お前のために色んなケーキ開発してやるからな!楽しみにしとけよ!」


返却されたスプーンからの一口目はかなり気合いが必要だった。
しかも丸井に気付かれないようにしなきゃいけなかったのだ。
内心かなりドギマギしたけど何とか普通にプリンを口に運べたと思う。
あれこれ考え過ぎてプリンの味なんか全然分かんなかったよ!


丸井がこうやって私に良くしてくれるのは私が友達だからだ。
恋愛要素皆無の私にだからあれこれしてくれるんだろう。
テニス部の連中と似たような存在なんだと思う。
本当に私はズルいよね。


「なぁ」
『何?』
「好きなヤツのヒントとかねえの?」
『無い!教えない!』
「ちぇ」


ブン太は恋愛に鈍感そうじゃないんだけどね。あえて鈍感なブン太が書いてみたかったのさ。
2018/04/17

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