氷帝ディヴェルティメント(Chapter Z)

「おい、凛あまりはしゃぎすぎるなよ」
『はい!頑張ります!』
「お前!人の話を聞いてねえだろ」
『せっかく先輩が軽食バイキングのチケット用意してくれたので!張り切って堪能します!』


コイツ俺の言うこと全く理解してねえ。
キョロキョロと目を輝かせながら歩いてるから足元が注意散漫だ。
しかもまだうちの経営してるホテルに入っただけの状態だ。


「ねえ凛ー楽しみだねー」
『ジロー先輩は何から食べますー?』
「俺はねージンギスカン食べたいー」
「ジロー、今日はあかんて。軽食だから羊は多分無いで」
「そうなの?俺期待してたのにー」
「心配するなジロー。俺様に抜かりはねえ」
「マジマジ!?跡部さすがだCー!」
「おい跡部、あんまりコイツらを甘やかすなよ」
「アーン?俺がいつお前らを甘やかした?やるからにはパーフェクトを目指すのが俺だ」
「跡部、もしかして今日のバイキングって」
「勿論貸切だ」
『わぁ!先輩凄いですね』
「やりますね跡部さん」
「お前の好きなぬれ煎餅もあるぞ日吉」
「跡部!跡部!納豆はあるのか?」
「岳人、それはいくら跡部でも」
「全国各地から取り寄せたぞ」
「おお!やるな跡部!」


貸切にしてあるバイキングまで辿り着くと凛とジローと岳人がはしゃいで走って行った。
ったくアイツらは。他に人が居なかったから良かったもののいい加減落ち着きってものを覚えるべきだろ。


「跡部、やりすぎやろ」
「たまにはいいだろ」
「全然たまにじゃないだろお前」
「忍足も宍戸もそこまでにしてさ。せっかく跡部が用意してくれたんだから凛達みたいに楽しまないと」
「滝はほんまお気楽やなぁ」
「日吉と鳳も行っちゃったよ?」
「俺様がせっかく用意したんだ。お前らも楽しめよ」


凛が言い出したことだがお前らに対しての労いでもあるんだからな。


「樺地お前も楽しんでこい」
「いえ」
「いいから行ってこい。ほら凛が呼んでるぞ」
「うす」


俺の後ろに控えている樺地の背中を押してやる。
コイツにもこういう時間は必要だ。
宍戸と忍足も渋々とバイキングへと向かって行った。
残ったのは俺と滝だけだ。


「お前は何をしてるんだ滝」
「跡部、きっと跡部も楽しまないと凛は満足してくれないよ」
「そうか」
「だから俺と行こうよ跡部」
「まぁたまにはな」
「酷いなー樺地程じゃないけど俺も紅茶を入れるのは得意だよ」
「ならお前とアフタヌーンティーでも楽しむことにするか」
「そうだね」


レギュラー部員に対しての労いだつたんだがな。
滝の誘いを無下にするのもらしくねえ。
二人でティータイムを楽しむとするか。


「アフタヌーンティーセットをお願いしたらそのまま出てきたよ」
「うちのシェフは大体のリクエストには応えるぞ」
「紅茶も結局入れてもらっちゃったしね」
「注ぐのはお前だろ」
「注ぎ方で味も変わるって言うからね」


滝が二人分のアフタヌーンティーセットをワゴンで押しながら持ってきた。
俺は窓際の席で待ってるだけだ。
一緒に行く気だったのを滝に断られてしまったからだ。


「はい、跡部の紅茶ね」
「ほう、今日の茶葉も良い香りがするな」
「稀少な茶葉が手に入ったらしいよ。確かに良い香りだね」


ティーカップを滝から手渡される。
紅茶はやはりストレートが一番美味しいだろう。
二人でゆったりとティータイムを堪能することにする。


「跡部はさ、俺があんなこと言って怒ってないの?」
「何がだ」
「凛のこと」
「多少はな」


俺が素直にそう返事をしたら滝は珍しく驚いた様だ。
普段あまり見ることの無い顔だからそれが少し面白く感じる。


「跡部が素直なの珍しいね」
「お前なら別にいいだろ。最近はイライラしていたのが表に出ていただろうしな」
「確かに」
「まぁ今は落ち着いたけどな」
「もう凛を立海に連れてったくらいでジローを怒らないでよ」
「あぁ、それはジローにも謝っておいた」
「跡部が謝るなんて」
「珍しいとか言うなよ。ま、アイツはなんのことだか分かってなかったけどな」
「ジローは気にしないからね」


確かに最近はイライラしてることが多かったかもしれない。
それも全部滝のあの一言のせいだ。
そのせいで宍戸に当たったりジローをたったあれだけのことで怒ったりもしたからな。
俺様としたことが情けない。


「で、どうして落ち着いたの?」
「あ?そんなこと聞きたいのかよ」
「少しだけ」
「お前らと同じ理由だろ」
「そうなの?」
「お前が一番分かってるだろ。いつも俺達の反応見て楽しんでたじゃねーか」
「うん、そうだね」


俺だって周りのことは良く見ている。
アイツらが自分なりに考えてそわそわした気持ちを落ち着けたのが分かったからな。
どうにかしたいじゃなくて今はこのままでもいいかってそろそろ全員が答えを出した所だろう。
まぁ正確にはどうにも出来ないって思ったんだろうがな。
俺も含めて。


「最近は恋愛が出来るのかすら心配になってきた」
「凛だからね」
「焦っても仕方無いからな」
「そのうちケロッと彼氏とか紹介してきそうだよね」
「アイツならやりかねないな」
「俺達はさきっと凛から見たら家族みたいなものなんだよ」


滝の言うことは一理あると思う。
多分俺達は凛からしたら誰一人欠けたらいけない存在なんだろう。


「俺達が恋愛対象から一番遠い存在なのかもしれねえな」
「いつになく弱気だね跡部」
「お前のせいだろ滝」
「大丈夫だよ。俺達が多分凛に一番近いことに変わりは無いから」
「そうだな」
『跡部せんぱーい!ケーキ一緒に食べましょー!』
「ほら呼ばれてるよ跡部」
「アイツはレディの素質の欠片もねえな」
「凛だからね」


大声でこちらに手を振っている。
仕方無い、行ってやるか。
一時は滝の言葉に惑わされてイライラ落ち着かなかったりもしたがそれもほんの一瞬だ。
アイツはこれからも俺達の可愛いマネージャーだからな。
いつまでこの関係が続くのかはわからねえ。
でも落ち着いたからには焦らずに今を楽しむことにする。
バカな所は直してやらねえといけないけど。


凛の座っているテーブルまで行くとそこにはずらーっとケーキが並んでいた。
そこは1つずつ。せめて3つずつとか小分けに取ってくる所だろう。
唖然としつつも促されて席に座る。
もうしばらくは目が離せそうにもねえな。

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