氷帝ディヴェルティメント(Chapter W)

『失礼しまーす!』
「椎名さん、今日はいつもより遅くない?」
『んしょと。今日はプレゼント沢山だったんだよー』


委員会の関係で部活に遅れた関係で部室には俺一人だ。
それより後に椎名さんがやってきた。
まだ制服だから部活に参加してるわけでは無いらしい。
両手に何やら沢山抱えている。
そのプレゼントをソファ前のテーブルに丁寧に置いた。


「今日誰かの誕生日ってわけではないよね?」
『違うよー。どうやら家庭科の調理実習が沢山あったみたい。3年生から沢山貰ったよー』


ソファに座ってそのプレゼントの山を部員別に仕分けしている。
宛名とか書いてるわけじゃないのによく覚えてるよね。
普段抜けてるのにそういう所だけはしっかりしてる。
だからこそ女の子達はみんな椎名さんにプレゼントを託すんだろうけど。


『見てみて鳳ー』
「どうしたの?」
『跡部先輩のファンクラブの会長さんに私にってクッキー貰ったの!』
「ファンクラブの人が椎名さんに何かくれるのって初めてだね」
『そうなの!いつもちゃんと跡部先輩に渡してくれるからって貰った!』


全てのプレゼントの仕分けを終えると俺にそのクッキーを見せながら嬉しそうに話してきた。
本当に嬉しかったんだろな。
椎名さんの凄い所は周りに敵が居ないことだ。
テニス部のマネージャーだから最初は俺達も心配したし気遣ったりした。
でもそういう話は結局1つも出て来なかった。
嫌がらせとかは多少合ったと思うのにそれもしばらくしたらなくなったみたいだった。
逆にそういうこ達とも仲良くしてるらしいから驚きだ。
3年の先輩達からは逆に可愛がってもらってるみたいだし。


『ねぇクッキー食べてもいいかな?』
「駄目だよ」
『何で!?』
「椎名さん、部活は始まってるんだよ」
『あぁ、そうか』


俺の言葉に見て分かるくらいにしょんぼり落ち込んでいる。
別に終わってから食べればいいと思うんだけどなぁ。


「1枚だけ食べて後は終わってからの楽しみにしたら?」
『あ!そうだね!1枚なら別にいいよね』
「なるべく早く準備しなよ」
『うん、鳳ありがとう!』


俺の言葉にパッと表情を明るくする椎名さんは可愛いと思う。
いつだったか向日さんが「凛って犬みてえだよな」って言ってたのを思い出した。
犬を飼うってのはこんな感じなんだろうなきっと。
椎名さんを部室に残して部活に向かうことにした。


『鳳これー』
「何かな?」
『真剣ぽかったならちゃんと聞いたげて』
「あぁ、うん。分かったよ」
『宜しく』


次の日、朝練が終わって教室に戻る前に椎名さんから可愛らしい封筒を渡された。
他の先輩に気付かれない様にと空気を読んでくれるのは凄いと思うけど何でそれがいつも出来ないんだろうか?
自分のことになるととことん無頓着だ。


「鳳君、来てくれたんだ」
「うん」
「あのね、手紙にも書いたんだけど」
「ちゃんと読んだよ。ありがとう」
「良かった。椎名さんが鳳君ならちゃんと来てくれるって言うから。こちらこそありがとう」
「気持ちは嬉しいんだけど」
「うん、大丈夫だよ。こうやって来てくれただけで充分なの。部活頑張ってね」
「ありがとう」


椎名さんから渡された手紙には俺のことが好きなことと付き合って欲しいとは言わないから一回会って話したいってことが書かれていた。
昼休みに指定の場所に行くと女の子が一人いて彼女は俺が来てくれたことだけで充分だと言った。
彼女とは面識が無かったと思う。
話したことも無い俺を好いててくれるのは嬉しいとは思うけど、それだけだった。
話さないと相手のことは分からないと思うんだけどな。


『鳳って一見誰にでも優しそうだけどそうじゃないよね』
「何でそう思うの?」
『んー当たり障りなくしてるだけじゃない?』
「そんなこと無いけどなぁ」
『じゃあ私の気のせいだ』


椎名さんは時々とても鋭いことを言う。
咄嗟に誤魔化したけど俺だってそれはそう思ってる。
親しく無い人には当たり障りなく接するのが一番楽なんだ。
周りとの摩擦は無い方がいいから。


先輩達程じゃないけど椎名さんのこういうギャップには俺も惹かれてるとは思う。
本当に興味深い人だとは思う。


「椎名さんは好きな人とか居ないの?」
『うーん。そうだなぁ』
「どっちなのそれ」
『居ないよ。好きな人なぁ』
「微妙な返事だね」
『毎日楽しかったらそれで今はいいからさー』
「恋愛に興味が無いってこと?」
『何だよ鳳ーぐいぐい聞いてくるねー』
「何となくだよ。いつも周りの恋愛に一生懸命だからさ」
『恋してる女の子の応援はしたくなるかな!』


自分のことは二の次なんだねやっぱり。
先輩達、椎名さんはなかなか手強いですよ。


「滝さん、椎名さんが恋愛出来る気がしないんですけど」
「鳳も?俺もだよー」
「やっぱり面白がって焚き付けましたね」
「面白がってるって人聞きの悪いこと言うなぁ」
「事実じゃないですか」
「まぁ否定はしないけどね。でもさ、このままだと凛が死ぬまで独り身な気がしてさ」
「まぁ、確かに」


このまま周りの世話ばっかり焼いて気付いたらお婆ちゃんになってたとか椎名さんだったらありそうだ。


「それは可哀想だからね。凛のことは俺も可愛いし」
「誰が頑張れるんですかね」
「あれ鳳は?脱落宣言?」
「どうですかね。少なくとも俺がどうにか出来る気はしないです」
「頑張ってみないとさそれは分からないよ」
「滝さんが人を励ますとか珍しい」
「俺だって優しいよー。鳳は酷いこと言うなぁ」
「普段の行いですよ」


今だって俺と会話しながら滝さんは楽しそうだ。
この人こそ何を考えてるのか一番分からないと思う。
こうやって傍観してる様に見えてこういう人が一番危ない。
俺達の中で本当に傍観してるのはきっと樺地だけだと思う。


ほんと俺達前途多難だよなぁ。
先のことはまだまだ全く分からなかった。

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