氷帝ディヴェルティメント(Chapter V)

「おい樺地、凛達四人をさっさと呼んでこい」
「うす」


跡部さんの機嫌が悪い。
これも全て椎名さんが原因だろう。
きっかけを作ったのは滝さんだ。
跡部さんに言われたので四人を呼びに行くことにした。


部室に行く途中にクラブハウスがある。
その階段の下で日吉達が青学の皆さんとわいわいやってるように見えた。


『あ、樺ちゃーん!』
「何を、やってるんですか」
『誰の目線が1番高いのか選手権?』


椎名さんは何故か青学の河村さんに抱き上げられている。
これ、跡部さんには知られたくないな。


「日吉、何でこんなことに?」
「椎名の足が痺れたせいだから跡部さんのせいだぞ」
「は?」
「樺地、椎名さんの足が正座が原因で痺れて歩けないからって日吉がここまでこうやって連れてきたんだよ」
「そういうことですか」


俺の疑問に鳳が答えてくれた。
滝さんはその様子をスマホで撮影してるみたいだ。
滝さん、楽しいのが好きなのは良いことですけどいつか跡部さんに怒られると思いますよ。


「跡部さんが呼んでます」
『跡部先輩?』
「行きますよ」
『樺ちゃんの視点が1番高そうだねー』
「うす。河村さんすみませんでした」
「いや、樺地君気にしなくて大丈夫だよ」
「次は俺の番だったんだぜ樺地ー」
「後からにしてください」
「桃城、遊んでないでそろそろ行くぞ」
「部長!?いつからそこに!?」
「桃先輩、手塚部長は最初からいたっす」
「マジでか!」


河村さんから椎名さんを受け取って肩に担いで跡部さんの所に戻ることにした。


『樺ちゃん!その持ち方反則だよ!』
「急いでるんで」
「凛、そこが1番見晴らしいいんじゃない?」
『おお!確かに!』
「樺地が1番背が高いからね」
「鳳とはそんなに変わらないです」
「跡部さんにもっと怒られてしまえ」
『日吉ー私は怒られる様なことはしてませんからー』
「宍戸さんから怒られるぞ」
『宍戸先輩が怒るのは恐い!』
「椎名さん、宍戸さんはそんなことで怒らないよ」
「鳳!何でそんなこと言うんだよ」
「事実だから」


椎名さんの周りはいつも賑やかだ。
楽しそうで何よりだとは思う。
周りはいつも椎名さんに振り回されてるけど。
椎名さんを真っ向から相手にするから振り回されるってどうして気付かないのか不思議だ。
これに気付いてるのは俺と滝さんくらいだろう。


「跡部さん、連れてきました」
「樺地よくやった」
「うす」
『樺ちゃんありがとー!』
「で、お前は何で樺地に担がれてきたんだ?」
『え?』
「跡部さん、説教は後にして青学の皆さんも準備が出来たみたいです」
「あぁ、そうか。分かった。行くぞ樺地」
「うす」
「凛、お前は監督の横で大人しくしてろ」
『はーい』


元気良く跡部さんに返事をしてるけど椎名さんが大人しくしてるなんてきっと無理だろう。
椎名さんはいつだって跡部さんの言うことは聞かない。
違う、誰の言うことも大体聞けない。
一体誰が椎名さんの手綱を引けるのだろう。
俺には予測が付かなかった。


「跡部、今日は良い練習試合になった」
「手塚、今年こそ勝つのは氷帝だ」
「いや、今年もうちが勝つだろう」
「手塚、そろそろ行かないと」
『また来てくださいねー!』
「次こそうちで練習試合をしよう」
『はい!宜しくお願いします!』
「おい、凛俺がまだ喋ってるだろうが」
『跡部先輩、青学はもう帰る時間ですよ』
「おい椎名、跡部さんを怒らす様なこと言うなって」
「俺がいつ怒った日吉」
「あ、いえ」
「では跡部、また連絡しよう」
「おお、またな手塚」


練習試合が終わってレギュラー陣で青学を見送る。
椎名さんは結局少しも大人しくしてなかった。
監督は呆れてもう何も言わなかったけど。
仕事を真面目にやるだけまだマシなのかもしれない。


あんなに自由奔放な女性は初めて見たかもしれない。
観察の余地有りだな。
こないだ立海と練習試合をした時に柳さんにコツを聞いておいて良かったかもしれない。
俺は椎名凛の観察日記を付けることに決めた。


『樺ちゃん!今日もお疲れ!』
「椎名さんもお疲れ様です」
『樺ちゃんは労いの言葉くれるよねー。先輩達は言ってくれないんだよ』
「椎名さん今日マネージャーの仕事してないですから」
『嘘だぁ!ちゃんと応援したよ!』
「それは部員ならば当たり前です」
『えぇー』
「後片付けちゃんとやりました?」
『あ!やってくる!』


部室に戻る途中で後片付けのことを指摘したら走って行ったけどきっともう片付けは終わってると思う。
うちの1年は優秀だから。
そう思うと椎名さんの存在はマネージャーと言うよりうちの部活のマスコットなんだと思う。


椎名凛の観察日記

今日は練習試合でした。
椎名さんは跡部さんの言った言葉を誤解して何故か一人で青学に行きました。
青学のメンバーと氷帝にやってきたため跡部さんから説教をされてました。
遅刻したこと以外は悪いと思って無いらしく謝りませんでした。
そればかりか練習試合前に誰の目線が1番高いか選手権なるものを開催してました。
多分優勝は俺だと思います。
マネージャーの仕事は結局一切やってません。
それでもなんだかんだ許されてる椎名さんは部員全員から可愛がられてるんだと思います。


観察日記を書いて柳さんに送ったら「お前のとこのマネージャーは一体何なのか」と返事がきた。
「マスコットです」と返信したら「この調子で観察日記の報告宜しく頼む」と返事がきた。
どうやらこんな感じで良かったみたいだ。
俺の観察日記はまだまだ続きそうだ。

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