恩を仇で返す系女子(跡部)

「ちょっと綺麗だからってムカつく」
「調子に乗ってるよねアンタ」
『で』
「だからそう言う態度がムカつくって言ってんの」
「直しなさいよ」


またか。あぁもう女子って何でこうも面倒臭いかな。
誰に対してもヘラヘラ愛想振らなきゃ行けないの?
そんなの絶対に無理。絶対にしたくない。


「何とか言いなさいよ」
『面倒なんだよね』
「はぁ?」
『だからさ、アンタ達も毎回毎回飽きないよねって話』
「アンタが悪いんでしょ?」
『毎回毎回毎回同じことを言ってさ、楽しい?』
「いい加減にしなさいよ!」


きゃんきゃん弱い犬程よく吠えるってこいつらのためにあるんじゃないのかな?
大事な昼寝タイムを邪魔されて私は機嫌が悪いのだ。
どうせなら昼休みじゃなくて放課後とかにしてくれないかな?そしたら部活休めるんだけど。


「おい、お前らさっきから煩いぞ」


頭上から声がした。
この声はー宍戸?かな?
見上げると三階の窓から宍戸の顔が見えた。やっぱり宍戸か。


『宍戸何やってんのー?』
「あ?跡部の呼び出しだよ。ここ生徒会室だろ」
『そうなの?』
「お前跡部の呼び出し来ねぇからな」
『面倒じゃん』
「おい、お前も今日は呼び出したはずだ」
『跡部もいんの?』
「生徒会室だから当たり前だろ」
『て言うかだったら毎週毎週これ聞いてたってこと?』
「まぁな」
『助けろよ』
「前に助けた時に余計なお世話って言ったのお前だろ」
『あぁ』
「お前跡部にそんなこと言ったのかよ」
『だって跡部に助けられたら後々もっと面倒になりそうじゃん』
「とにかくさっさと上がってこい」
『へーい』


いつの間にか私の周りの女子生徒の姿は消えていた。
宍戸の声がした時はまだ居た気がするんだけど。
跡部の声で逃げたんだなきっと。
さて、昼寝に向かおうかな。
跡部に返事はしたけれど、私が生徒会室に向かうことはない。
面倒だしきっと部活の時でも問題無いだろうし。
さて、太朗ちゃんはまだピアノを弾いてくれてるだろうか?
私の最近のお気に入りは太朗ちゃんのピアノを聴きながらのお昼寝だ。
ジロちゃんもそう言ってたなぁ。


「椎名、跡部からの呼び出しはなかったのか?」
『太朗ちゃん、跡部の呼び出しより昼寝のが大事だよ』
「跡部を振り回すのはお前と芥川くらいだろう」
「えー俺はそんなことしないC〜」
『ジロちゃん酷いなぁ。私もだよー』


太朗ちゃんたら失礼なこと言うよねほんと。
跡部の幼馴染みだからって流石に振り回したりしません。多分。
それにしても太朗ちゃんのピアノって何でこうも眠りに誘われるのだろうか?
気持ちいいよねぇ。


「おい、起きろ」
『んー』
「起きろ椎名」
『んー?あ、跡部ー?おはよう』
「お前今何時か分かってんのか?」
『何時ー?』
「部活が始まる時間だ」
『は?何で?太郎ちゃんは?』
「昼休みが終わると同時にお前のことは起こしたって言ってたぞ」
『ジロちゃんは?』
「ジローはクラスメイトが迎えに来たんだとよ」
『侑士何で迎えに来てくれなかったんだろ?』
「早く起きろ。仕事をしろ」


爆睡してたらしい。
太郎ちゃんに起こされた記憶とか全く無い。皆無だ。
ジロちゃんクラスメイトが迎えに来てくれるとか羨ましい。
侑士のせいで午後の授業サボっちゃったし。
しかし何で跡部はここにいるんだろうか?


『何で跡部?』
「俺が起こしに来たのが不満なのか?」
『珍しくない?こういう時って樺ちゃんの仕事でしょ?』
「こないだ樺地に迎えに行かせたらそのまま部室のソファで寝続けただろ」
『そうだっけ?』
「今日起こしに行けって言ったら俺じゃ椎名先輩は起こせませんって言われたんだよ」
『樺ちゃん反抗期?』
「お前のせいだろ。ほら立て行くぞ」
『ちょ!跡部待って』


私の腕を掴んで立たせるとそのままぐいぐいと引っ張って行く。
呼び出し行かなかったの覚えてないのかな?もっと怒られると思ってたんだけど。


『あ!跡部鞄がまだ教室だよ!』
「忍足が持ってきた」
『えぇ、じゃあ起こしに来てよ』
「忍足に直接言え」
『跡部怒ってないの?』
「お前に怒った所で何か改善するのか?」


わーお。冷たく言い放たれたよ。
やっぱり機嫌は悪いらしい。


『まぁまぁ』
「俺が自ら迎えに来てやったんだからもっと申し訳なさそうにとかしないのかよ」
『頼んでないし』
「そんな風に言うのこの学校で椎名だけだぞ」
『嘘だぁ』
「たまには恩を返すとかしてみろよ」
『跡部に返す恩なんて無いよ?』


はぁと深く溜め息を吐いてそれきり跡部は喋らなかった。
跡部が溜め息とか珍しい。


「さっさと準備しろよ」
『へーい』


跡部は私を部室に放り込むとさっさとコートへと向かって行った。
さて、ジャージに着替えますかね。
マネージャーの仕事は嫌いじゃない。
面倒臭がりな私だけどここは男子テニス部だ。
面倒臭いことを言ってくる人が居ないから気楽だ。
あーたまに言われることもあるけども。
女子と違うのは何回も無駄なことを言ってきたりはしない。
何回も同じことで怒られたりはするけどね。


『侑士、何で起こしに来てくれなかったのさ』
「はぁ?何で俺がそないなことせんといかんのや」
『ジロちゃんのクラスメイトは起こしに来たらしいもん』
「せやかてジローはしゃあないやん。放っておくと卒業出来んかもしれへんし」
『あたしも授業受けたいよ!』
「堪忍な。俺は起こしに行ってあげれへんよ」


ドリンクとタオルを渡してやったのに侑士は冷たい。
起こさない宣言をされてしまった。
岳人なんてもっと起こしてくれないだろうし。
宍戸もきっと無理だ。ジロちゃんはもっと無理。タッキーは説教してくるから論外だし。
樺ちゃんが無理だったら長太郎も若も無理って言うだろう。
こうなったら仕方無い。跡部にお願いするしか無いみたいだ。
休憩中の跡部のとこに向かうことにした。


『跡部』
「なんだ」
『お願いがあるんだけど』
「椎名が俺に?それで何の用だ」
『昼寝は譲れないの』
「それで?」
『跡部が起こしに来てよ』
「却下だ」
『お願いだよ!授業出ないと勉強ついていけないよ!』
「あーん?俺様がお前を起こして何かメリットあんのか?」
『私の寝顔が見れるよ!』


こうなったら私のお昼寝タイムの保証をしてくれるのは跡部しか居ない。
そんなつもりで必死にお願いした。
授業をサボるとテストが危ういしそれ以上に卒業の危機が迫ってくる。
中3の時それで危うく留年しかけたのだ。
その割に軽い気持ちで跡部に『私の寝顔が見れるよ』と言った時だった。
跡部からの反応が無い。何やら考えこんでいる。


「分かった。その代わり生徒会室で昼寝しろ。そしたら起こしてやる。それ以外は認めねぇ」
『テニス部の集まりの時に起こさない?』
「まぁその場にいるから今までよりはましだろ」
『じゃあそうする!』
「さっさと続きの仕事に戻れ」
『ありがとね跡部』


お礼を伝えて仕事に戻った。
やったぜ私!お昼寝タイム確保だぜ!
しかも生徒会室!これなら呼び出しもついでに逃げることが出来るはずだ。


その日から私は女子からの呼び出しを『跡部に呼ばれてるから』の一言で全て回避し毎日ぬくぬくと生徒会室の跡部お気にいりソファで昼寝するのが日課となった。


「おい、起きろ」
『んー後5分』
「起きないと襲うぞ」
『えっ!』
「バーカ。焦るくらいならさっさと起きろ」
『起こし方が最近雑だよ』
「授業遅れるぞ」
『跡部ってさ何でそんなに優しいの?』


私が毎日そんなことを言うからついに跡部と付き合ってるとまで噂が流れ始めた。
私は周りからのその質問に答えなかったけど(面倒だったから)何故か跡部も違うとは言わなかったらしい。
おかげで他の部員が否定してもいつの間にか私達は付き合ってるってことに学校中で噂になっていた。
私と噂になっても跡部にはメリットが無いだろうに。不思議に思ってたのでこのチャンスに聞いてみることにした。
次の授業は得意科目だ。サボったって支障は無い。


「そんなもん好きな奴に頼まれたら男は断らないだろ。そんだけだ」
『今何て言った?』
「お前の世話を出来るのは俺くらいしか居ないだろって話」
『え?跡部私のこと好きなの?』
「バーカ。気付いてねぇのはお前だけだ」
『そうなんだ』
「何か言いたいことあるなら言えよ。笑うなら笑え」
『笑わないよ。跡部のこと嫌いじゃないし』
「そうか」
『付き合ってるって噂になってるしいっか』
「お前軽くねぇか?」
『きっかけなんてきっとそんなもんだよ。それにさ、恩返したまにはしないとだよね』


跡部からの遠回しな告白に驚いたけどそれでもいいかなって思った。
跡部は嫌いじゃないし、むしろ色々面倒見てくれるし。
この面倒臭い私を好きだって言うモノズキだ。
ならこのまま跡部と付き合っちゃったら私の幸せライフは続いていくだろう。


『景吾ー』
「いきなり下の名前で呼ぶな」
『照れてんのー?』
「今はな。そのうち俺無しじゃ生きていけなくなる様にしてやるから楽しみに待っとけ」
『分かった!』
「凛、授業に行くぞ」
『サボる気満々だったんだけど!』
「駄目だ。俺の彼女ならちゃんとやれ」
『ハードル上がった?』
「俺がしつけてやるから安心しろ」


そうやって私のことを立たせると生徒会室から追い出された。
景吾も一緒だったけど。
やっぱり面倒臭いかもしれない。
でも景吾の照れ顔を見れたのでしばらく頑張ってみようかなって思えた。
次は不意打ちで『好きだ』って言ってみよう。どんな顔をするのか楽しみだ。


『侑士ー景吾と付き合うことになった』
「ほんま?」
『うん』
「良かったなぁ跡部」
『何でー?』
「俺は知っとったからな」
『あぁだから迎えに行けないって言ったの?』
「跡部を敵に回したなかった」
『まぁいいか』
「跡部のこと宜しゅう頼むで」
『うん、任せといて』
「あんま振り回さんといてな」
『それは約束出来んかも』
「遊びで付き合うとかやないやろ?」
『そんなことしないよ。ちゃんと大事にするから』
「ほなえぇで。約束な」
『うん、約束ね』


水棲様より

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -