ジーザス!ジーザス!ANOTHER STORY(仁王)

隣にいるのが当たり前だと思っていた友達が女の子で友達なんかじゃ無いってことに気付いたのは不毛にも彼女が自分の親友に恋をした時だった。
あれから季節は何度巡ったのだろうか?


俺と凛の関係は相変わらず親友のままで、凛はブン太を諦めきれないまま俺は凛を諦めきれないままに気付けば社会人になっていた。
今じゃお互い名前呼びだから俺達が付き合ってると誤解するやつらもいるくらいだ。
今年は社会人になって四年目、久々にいつものメンバーで集まることになった。


『わ!赤也とブン太は久々だねぇ』
「凛先輩俺とももっと遊んでくださいよー!」
「赤也は千葉で就職なんかすっからだろい」
「神奈川で再就職しんしゃい」
「えぇー!俺今の仕事気に入ってるんすよ!それは無理っす!」
『今日は千葉に帰る感じ?』
「明日休みなんで実家っす!」
「なら朝まで付き合えよ!」
『いつも赤也だけ先に帰っちゃうもんねー』
「げ、先輩達に付き合ってたら俺の明日の休みが二日酔いで潰れるじゃないっすか」
「それは知らんの」
「お前が酒弱いのがいけねーんだろ」
『そーだそーだ』
「違うっすよ!柳先輩から聞いたけど先輩達が化け物並に酒が強いって言ってましたよ!」
「そんなことはないぜよ」
『そうだよねぇ?』
「普通だぞ」


一日ぶりに会おうが一年ぶりに会おうが俺達の関係は変わらない。
四人で集まったら学生時代に戻ったかの様だ。
それが居心地が良くて楽しいものじゃと思っていた。
柄にもなくいつまでも続くと思ってたんだ。


「あーちょっといいか?」
『どうしたブン太』
「腹でも壊したんすか先輩」
「俺が静かな時はいつだって腹壊したって思ってねえか赤也!」
「違うんすか?」
「ブンちゃん、そこまでじゃ。話が進んでかんぞ」
「赤也に言うだけ無駄か。あのな、お前らに一番に報告したくてさ。俺、結婚決まった」
「マジっすか!?高校からの彼女さんっすよね?おめでとうございます!」
「ありがとな赤也」
「そうか、決まったんか」
「やっとなー。プロポーズすげえ緊張したし」
「何て言ってプロポーズしたんすか?」


ブン太からの報告に正直かなり驚いた。
いずれ結婚したいとは前から言ってたけどプロポーズの相談は一言もされてなかったから。
凛は大丈夫だろうか?
さりげなく隣を見やると顔色が悪い。
ブン太と赤也が気付いて無いのが幸いだ。


『ブン太が結婚なんてねー?おめでとう!』
「全然プロポーズの話とかしてくれなかったすもん。驚いたじゃないですか!」
「そうじゃそうじゃ」
「あー相談はしようと思ったんだぜ?でもほら一人で考えたかったっつーかさ。じゃないとカッコ悪いだろ?」
「そーゆーことっすね」
「ブン太らしいのう」
「だからさ!お前ら式には出てくれな?」
「勿論っすよ!」
「ブンちゃんの結婚式じゃからのう。ちょっとトイレ」


凛からの返事がなかなか出てこない。
さっきはギリギリ持ちこたえたけどそろそろ限界だろう。
トイレに行くふりをして凛へと電話をかけた。


『もしもし』
「俺の名前を呼ぶなよ。仕事の電話のふりをしんしゃい」
『いつもお世話になっております』
「帰るか?そろそろ限界じゃろ」
『そうですね。少しだけ』
「先にうちに行ってるか?」
『はい、直ぐに対応させていただきます』
「鍵はいつもの所じゃき」


それだけ伝えて電話を切った。
凛が帰ったくらいに戻れば良かろ。


「仁王先輩遅いっすよー!凛先輩が仕事で帰っちゃったんすよ!」
「すまんのう。綺麗なお姉さんがなかなか離してくれんくてのう」
「ずるいっすよ!」
「お前いい加減に不特定多数と遊ぶの止めろよ」
「え?そうなんすか?俺てっきり凛先輩とそーゆー感じなのかと」
「凛とはそういうんじゃなかよ」
「凛とお前がまとまってくれりゃ俺も安心すんのになー」


ブン太も赤也も鈍感だからのう。
俺達の気持ちには全く気付いてないんだろう。
俺の気持ちに気付いてるのは幸村と柳くらいじゃな。
凛が心配だし俺も帰るとしよう。


「てことで俺も帰るなり」
「は?」
「仁王先輩もですか!?」
「綺麗なお姉さんが約束するまで離してくれんかったのじゃ」
「丸井先輩のお祝いする日じゃないんすかー?」
「それはまた凛のおる時に改めてじゃ」
「お前言い出したら聞かねえしなぁ」
「そんじゃ仁王先輩1つ貸しっすよ!」
「赤也も言うようになったのう」


ブン太には悪いがそれよりも凛を一人にしてはおけんかった。
まぁ赤也もおるし問題はなかろ。
さっさと自宅に帰ることにする。
凛の好きなワインでも買って帰るか。


「凛ー?おるか?」
『雅治おかえりー』


赤ワインを買って帰ると凛は既に家で飲んでるようだ。
缶ビール片手にソファに座ったままで俺を出迎えた。
思ったより元気そうに見えるがこれは無理をしてるんだろう。


「おまんはビール苦手じゃろ」
『だってビールしかなかったんだもん』
「ワイン買ってきてやったぜよ」
『わ?ほんと?じゃあこれ雅治が飲んでね』


赤ワインのボトルを見せると缶ビールと引き換えに取り上げられた。
キッチンでコルク栓を抜いてくるんだろう。


『雅治もワイン飲む?』
「俺はビールで良か」
『分かったー』


コルク栓を抜いたであろう赤ワインのボトルとワイングラスを手に凛が戻ってきた。
ソファで寛ぐ俺の隣へと座りグラスに赤ワインを注いでいる。


『ブン太と赤也何か言ってた?』
「何も。大丈夫じゃ」
『そっか』


赤ワインの入ったグラスをぼんやりと見つめている。
少しだけ飲んでは中の赤ワインをゆっくりと揺らしている。
俺はそんな凛を見守ることしか出来ない。


『雅治は何にも言わないんだね』
「言って諦めれたのならとっくに諦めとったはずじゃ」
『確かにね』
「大丈夫か?」
『最初に聞いた時は死んじゃいたいくらい辛かった。でもさここに着いて雅治帰ってくるまでぼんやり考えてたんだけどさ、やっと髪が切れるかなって思えた』
「そうか」
『これで私も少しは楽になるのかな?』
「髪を切った後でもいいからブン太に気持ちを伝えんしゃい」
『は?無理だよ』
「けじめじゃき」
『そんなのブン太も困るよきっと』
「俺も一緒じゃ」
『雅治本気なの?』
「本当は1発殴ってやらんと気が済まんぜよ」


俺の言葉に凛は此方を向いて困った様に微笑んだ。


『駄目だよ。ブン太と雅治が喧嘩したら悲しいから』
「ならちゃんとブン太に言ってやれ。最後くらい困らせてやりんしゃい」
『本当に一緒に居てくれる?』
「俺を誰だと思っとるんじゃ」
『大親友様です』


凛の親友だからアイツを殴りたいって言ったんじゃない。
凛の気持ちに全く気付かないで何年も過ごしてきたアイツに腹がたったんだ。
凛の気持ちを独占しておきながら他の女と結婚するなんて本当にずるい。
結局の所単なるヤキモチみたいなもんか。


いつもより酒を飲むペースの早かった凛は早々に寝てしまった。
いつものことだ。そのたびに触れたくて手を出したくて葛藤して我慢してきた。
凛がブン太への気持ちを隠すのも俺が凛への気持ちを隠すのも理由は一緒だ。
仲の良い友達でいたいから。
今日もその葛藤を抑え込み凛をベッドへと運んでやった。
凛が来たときは俺はベッドルームでは寝ない。
もう一組布団はあるし凛もそこに布団を敷いて寝ればいいと笑うけれど俺には無理な話だ。
直ぐ隣で惚れてる女が寝ていてそれに手出しをせずに寝れる男なんて紳士くらいだろう。


「紳士は一緒の部屋ではまず寝ませんよ仁王君」


とでも柳生に言われそうだな。
万が一そうしなきゃいけなかったとしても柳生はきっと一晩中起きてそうじゃ。
凛を運んだ後にぼんやりとテレビのバラエティを眺めながら一人晩酌を続ける。
凛が二本目のワインを半分残したから今はそれを飲んでいる。
正直ワインはあまり好きじゃなかった。
それでもこうやって飲める様になったのは凛の影響なんだろう。


『まーさーはーるーおーきーて』
「んー」
『髪の毛切ってくれる予定でしょ?』
「あー」
『ブン太とランチする予定なんだから急いで起きてよ』
「は?おまん今なんて」
『ブン太とランチするの』
「本気か?」
『早い方がいいと思って』
「そうか」
『はいお水』
「ん」


まさかこんなに早くブン太と約束を取り付けるとは思わなかった。
おかげで一気に眠気も吹き飛んだし。
髪を切る気になってくれたのは俺にとってプラスだ。
世界一綺麗な女にしてやるぜよ。


『雅治が土曜日休みって珍しいね』
「有休じゃ。おまんらと飲むと際限無いからのう」
『そっか』


学生時代の約束をいつかちゃんと果たしてやろうと思って俺が進路に選んだのは美容師の専門学校だった。
最初は皆が驚いてたが今じゃそこそこ顧客も増えている。
お世辞を言うのは相変わらず苦手だけど腕のおかげで客が付くって店長が言ってたな。
風呂上がりの凛の髪の毛切ってメイクをして簡単なネイルアートもしてやった。


『あ、服!』
「心配いらんぜよ」


ステップアップをしたくて最近は女子のコーディネートの勉強もしてるから家にサンプルとしていくつかあったのだ。
まだ勉強の段階じゃけど凛のことを考えてコーディネートしてるからきっと似合うはずだ。


『雅治!何でこんな服が家にあるのさ!』
「仕事じゃ」
『あーそういうことね。それにしても好みが合うねぇ。ぴったりだし』


「凛ために用意した服装だから」そう言ってしまえれば楽だろうに。
言った所で今はまだ困らすだけじゃ。
それならもう少しこの気持ちはしまっておこうかの。


「凛、おまんが世界一綺麗ぜよ」
『なんだよ雅治大袈裟な!』
「まーくんの腕を信用して無いなりな」
『そんなことないよ。て言うか何か私じゃ無いみたいで恥ずかしい』
「本当のことじゃきそう照れんでいい」
『ランチ終わったらデートしようか?』
「それもいいのう」


凛のイメチェンにプラスして突然過ぎる告白にブン太は終始驚きっぱなしだった。
ブン太が告白に返事をする前に凛が席を立ち上がって『好きだったってだけだからブン太は気にしないでね。結婚式私もちゃんと出るから!これからも友達として宜しくね!』矢継早にそうやって告げてカフェを出ていった。
ランチまでは無理だったみたいだ。
ブン太に断りを告げて俺も凛を追いかけることにした。


「大丈夫か?」
『うん、大丈夫』
「どうしたんじゃ」
『考えてみたらブン太も直ぐは混乱するかなって。その状態でランチとか気まずいでしょ?』
「そうか」
『謝りの連絡だけいれとくからさ』
「それじゃ俺とデートしてくれんかの?」
『勿論!』


予想外に凛は笑顔だった。
てっきり泣いてるかと思ったのにだ。
やっぱり芯の強い女なだけある。
さてどうやって俺の方を向いて貰おうか。
それを考えるのがきっと楽しくなりそうだ。


2018/04/02

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