TwinsPanic(桑原)

「なぁジャッカル聞いてくれよ!凛が俺のお菓子勝手に食ったんだぞ!」
『ちーがーいーまーすー。あれは女の子からブン太と二人で食べてねって言われたんでーすー』
「お前んなこと言って一人で全部食っただろい!」
『美味しかったから。てへ』
「その自分が可愛いですって分かってやってんの気持ち悪いぞお前」
『はぁ?私可愛いもん!ね?ジャッカル!ね?ね?』
「彼女だからって手加減すんなよジャッカル!」
『でブン太煩い!』
「てめっ!今なんつった!?」


毎日昼休みになるとこの煩さだ。
二人とも俺のクラスじゃないはずなのに何でわざわざ遊びに来るんだ?
しかもコイツらのクラスから俺のクラスはかなり遠い。
毎回俺のことそっちのけで口喧嘩だしなぁ。


『ジャッカル!』
「お前はどう思うんだよ!」
「あ、悪い。聞いてなかった」
『私とブン太どっちが大事なのジャッカル!』
「そりゃ俺に決まってんだろい。な?」


なんだその物凄い面倒臭い質問は。
ブン太、お前彼女にその質問されたらウザいとか絶対に言うタイプだろ。


「それって決めれねえ質問じゃねえの?」
『やだ』
「今直ぐ決めろ」
「ブン太は俺と彼女どっちが大事なんだよ」
「そりゃ彼女に決まってんだろ」
「じゃあ俺の答えも分かるだろ」
「はぁ?」
『やったー!私のかーちー!さぁ早くそのクッキーを寄越すのだ!』


つーかクッキーのためにそんな賭け事したのかよ。
コイツら相変わらずだよな。
普段そんな馬鹿じゃねえのにお互いのことに関しては超馬鹿。
シスコンブラコンとかではないんだけどなぁ。
まだクッキーを巡って二人でごちゃごちゃと言い争っている。
まぁここにいるのも苦じゃねえから俺もきっと馬鹿なんだろな。
こないだ仁王と柳生に言われたことを思い出した。


「のう、おまんはあの二人と一緒に居て疲れたりせんのか」
「それは私も気になりますね。お一人ずつだとあまり感じないのですが二人ともなるとあのお二人は相当賑やかですから」
「そこに赤也が加わると効果も倍増じゃ」
「慣れだろそんなもん」
「桑原君にしか出来ないですよきっと」
「ほら、また三人して真田に怒られとる」


休憩中にシャボン玉なんかで遊んでるからだろ。
つーかあのシャボン玉って仁王のたろ?
そうやって俺が言おうとした時には既に詐欺師の姿は俺の前から消えていた。


「柳生は柳生っで仁王の世話大変だろ」
「仁王君はたまに困らせたりもしますがあのお二人に比べたら可愛いものですよ」
「早く柳生も慣れたら楽になるぞ」
「どうでしょうかね」


俺の言葉に肩を竦めて柳生も行ってしまった。
その後俺も練習に戻ったんだっけな。
ブン太と赤也は外周走らされて凛は部活が終わるまで正座させられてた気がする。
真田に怒られるの分かってんのにアイツらやるからなぁ。
巻き込まれる俺の気持ちもたまには考えてほしい。


「俺は彼女のがジャッカルより大事だけどジャッカルが俺より凛のこと大事なのはなんか納得いかねえ」
『負け惜しみだね』
「お前それ横暴にも程があるだろ」
「俺はぜってえ凛よりジャッカルに
尽くしてんぞ!」
『試合だけでしょ!』
「ブン太、尽くしてるとか気持ち悪いこと言うな。つーか試合だったら俺のが尽くしてんだろ」
『そうだそうだ!』
「いーや、絶対に俺のが尽くしてるって」


どんな言い合いだよ。
コイツらほんとよくもまぁこんなに口喧嘩する内容が次から次へと浮かんでくるな。
また俺を差し置いて二人でごちゃごちゃやりあっている。


「ジャッカルは寂しくなったりしないの?」
「は?何がだよ」
「丸井と凛が仲良いからさ。ヤキモチとかないのかと思って」
「あー最初からなかったな」
「双子だもんね。野暮なこと聞いてごめんよ」
「や、よく聞かれるからな」


そういやこないだ幸村にも聞かれたなぁ。
ブン太との方が仲良くなったのは先だったからなぁ。
それにコイツら兄妹だぞ?
気にすることって何もねえよな。
まぁ二人の時間ってのは少ないけど。


「お、凛!今日皆でメシ食いに行ったんだと」
『またうちらは置いてきぼりか!』
「練習終わるの遅いからなー。ジャッカルんちで食ってこうぜ」
「は?」
『ラーメン!ラーメン!』
「どうせ帰って手伝いに行くんだろい?」
「まぁな」
『餃子も食べていいー?』
「デザート無しな」
『なんだと!?』
「俺がデザートはサービスしてやるよ」
『やったー!ジャッカルそういうとこ好きー!』
「俺もジャッカルのそういうとこ好きだぜ」


俺がこうやって言わなくてもいつも何かしらサービスしろって煩いだろお前ら。
赤也が居なくて今日はまだましかもしんねえ。
彼女と帰るっつってたもんな。
つーかブン太は最近そんな話聞かねえな。
どーしたんだ?
気になるけど俺からブン太に話を振るつもりは無い。
聞いてもコイツは誤魔化すから。


『マームー!久しぶりー!』
「凛!ヒサシブリネー」


店に着いて早々に凛は母さんと抱きあっている。
仲良しだもんなぁ。
確か初対面の頃から仲良しだ。
俺も軽く挨拶をして厨房に入ることにする。
ブン太も母さんの挨拶に慣れたもんだな。
未だに慣れないのは真田くらいだろ。


「あー食った食った!」
『今日も美味しかったねー!』
「ブン太!凛!今日もアリガトネー」


二人が帰るのに見送れって母さんに言われたから四人で店を出る。
二人に挨拶をして母さんはさっさと店に戻っていった。


「お前帰りの電車で寝るなよ」
『寝ないよ!寝たらおんぶして帰ってよ』
「お前重たいからぜってえに嫌だ」
『はぁ!?』
「気を付けて帰れよ!」


またもや口喧嘩だ。
最初は止めてたけど最近は無駄だと分かったのであえて放置してる。
ガチな喧嘩だったら流石に止めるけど多分そういう喧嘩はコイツらしねえからな。
既に二人で歩いている背中に声をかけた。
俺の声に振り向いてブン太は片手をあげる。


「お前何してんだよ!?」
『ジャッカル今日もありがとね!愛してんぞ』


凛は振り返るとブン太に何かを告げてこっちに戻ってきた。
勢いつけて飛び込んでくるからその身体を抱き止める。
そして耳元で囁くとさっさとブン太の方に戻って行った。


すっかり母さんに感化されてるよな。
や、元からの性分なのか?
どっちでもいいか。
愛情表現ってのはストレートのが分かりやすくていい。


そういや次の休み部活も無いからどこに行くか考えとけっつってたな。
上野動物園にパンダでも見に行くかなぁ。
シャンシャンの膝かっくん動画みて楽しそうだったもんなぁ。


『ジャッカル!おはよー!』
「おお、おはよう」
『みてみてにーあーうー?』
「可愛いな」
『でしょ?ブン太に決めてもらったんだ!』


二人で居ないとコイツらってお互いの悪口言わないよなぁ。
だからまぁ普段の口喧嘩も仲良しな証拠みたいなもんか。
駅で待ち合わせて上野へと向かうことにする。


「そういやブン太は大丈夫なのか?」
『何が?』
「あー」


切符を買おうと並んでると凛のスマホが鳴った。
隣でそれに応対している。


『はーい?どうしたのー?』
『うん、マジか』
『大丈夫じゃなさそうだねえ』
『まだ駅だよ』
『ジャッカルと一緒』
『や、大丈夫じゃないでしょそれ』
『あ、ちょっと!』


一方的に電話を切られた様だ。
スマホを眺めて凛は俺の隣で小さく溜め息を吐いた。
こういう態度を凛が取るのは一人だけだ。


「切符買う前だし行ってこいよ」
『ジャッカルといるならいいって言われたよ』
「心配なんだろ」
『うん。でも帰っても怒られるかも』
「動物園行っても気になって楽しめないだろ」
『そうだけど』
「帰ってやれよ。ブン太が弱音吐ける相手は少ないからな」
『私の彼氏様は私もブン太のことも大好きだよね』
「否定は出来ないな」
『埋め合わせはまたするから!ブン太が!』
「今度は三人で行くか」
『身内同伴のデートは嫌だよ!』
「ほら早く帰ってやれよ」


正直、俺は最初に凛とブン太どっちが大事か答えれる気がしなかった。
比べるものじゃないと思ったし。
だからブン太に聞いてから返事をしたんだ。
凛は大切な彼女だしブン太は大切な親友だ。
どっちが大事とか決めらんないよな。


パンダは逃げねえしまた次の休みに行けばいい。
だから今日は凛をブン太の所に帰すことにした。
俺と凛がデートなのは知ってんだもんな。
それを分かってて電話をしてくるのはきっとアイツのSOSだ。


『ジャッカルアイラブユー』
「お前ここ駅だぞ!?」


さっさと帰れと背中を促す様にポンと叩くとこないだの様に振り返って俺に抱きついてきた。
駅の真ん中で何やってんだよ。


『マムがいつだって自分の気持ちを素直に伝えるのが大事って言ってたよ』
「まぁ間違ってないけどよ」
『じゃあまた明日ね。それまでにブン太どうにかしてみる』
「頼んだぞ」


俺の頬にキスを落とすと凛は改札へと消えて行った。
これって残された俺がかなり恥ずかしいよな。
さて、今日は何するかな。
店も定休日だからやることが無い。
誰かしらテニスしてんだろなと当たりをつけて連絡してみることにした。


「ジャッカルってさどうして凛と付き合ったの?」
「は?」
「精市、質問が刺々しいぞ」
「何となく気になっただけだよ蓮二」
「結構アイツらといるの楽しいぞ幸村」
「マゾなのかな」
「幸村、酷くないかそれ」
「ジャッカルだからと甘えてるのだろうな」
「丸井と凛はいいとしても赤也のことは甘やかさないでよ」
「分かってるよ」


結局、幸村と柳と真田が集まってたから赤也も呼び出して五人でテニスをすることになった。
俺はこれからもアイツらに振り回されるんだろうけどまぁそれも悪くないよな。

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