コイスルオトメ(真田)

『真田先輩お疲れっす』
「あぁ、お疲れ」
『今日も部活に顔出してたんすか?』
「赤也が立派に部長としての責任を果たしてるか気になるからな」
『切原君も大変っすねえ』
「赤也を知ってるのか?」
『1年の時同じクラスでしたよ』


先輩はもう部活を引退したって言うのに律儀にあたしの部活が終わるのを毎日待ってくれている。
一応、お見合いの話は進めていいよってお祖父ちゃん達には伝えてあるけれど先輩とそれについて話したことはまだ無い。
けれどあの日から毎日家に送ってくれるから先輩も認識はしてるんだよねきっと。


『真田パイセン』
「なんだ」
『手繋いで帰りましょー?』
「何を急に!」


そんな分かりやすく狼狽えなくてもいいのになぁ。
隣を歩いてるだけじゃつまらないから何となく言ってみたのに先輩は照れてるみたいだった。
仕方無いから私から先輩の左手に手を伸ばしてみる。


『先輩、何で震えてるんですか』
「椎名!笑うでない!」
『だってそんな今更緊張しなくても』
「さっさと帰るぞ」
『ちょ!先輩!引っ張らないでくださいって!』


手を振り払われることはなくて先輩も手を握り返してくれたけどさっきより歩く速度が上がった。
先輩、面白いなぁ。


『先輩!先輩ってば』
「何度も言うな。聞こえている」
『じゃあ返事してくださいよー』
「また馬鹿な願い事をされても困るからな」
『手を繋ぐのは普通ですってーバカとか酷いなぁ』
「そうやって人の反応を見て楽しんでおるのだろう?」
『なんだ知ってたんすか』


手を繋ぐことに慣れたのか諦めたのか歩く速度がゆっくりになった。
鈍感そうに見えてなかなか鋭いことを言うなぁ。


「お前の考えてることは大抵見通せるぞ」
『真田パイセンあたしのこと大好きっすね』
「またその様なことを」
『珍しく狼狽えない先輩貴重です』
「椎名といると調子が狂わされるな」


そうやって言うのに表情は逆に柔らかい。
諦めた様にフッと微笑んでいる。
今更返品とか絶対にさせませんからね真田パイセン。


『先輩、先輩が見付けてくれたから今あたしここにいるんですからね』
「む、何の話だ」
『金髪でも黒髪でもスカート短くても長くてもあたしをちゃんと見付けてくれてありがとうって話ですよ』
「約束したからな」
『運命ですよきっと!』
「またそんな戯言を」
『白馬に乗ってないし純日本人だけど先輩はあたしの王子様っすね!』
「…お前は本当に」


はぁと溜め息が聞こえたけど耳はほんのり赤いので続きを追及するのは止めておいてあげた。
いつかまた聞かせてもらおう。


『先輩』
「なんだ」
『げんいちろーって呼んだら怒ります?』
「何故俺が怒ると思ったのだ」
『先輩だから』
「それくらいでいちいち怒ってなどおれん」
『んじゃげんいちろーって呼ばせてもらいますね。先輩も凛って呼んでくれていいですからね?』
「あぁ」


さらっと聞き流された感じがしないでもない。
あれ?これちゃんと名前を呼んでくれるのかな?
隣を歩いている先輩の横顔をじーっと見つめる。


「どうした凛」
『わ!や、ついでにちゅーしてくれないかな?とか思ってみたり』
「お前は何を急に言っているのか。場所を少しはわきまえろ」


いきなり名前を呼ぶとか反則だ。
危うくKOされかけたよ。
何とか踏み留まって誤魔化したけど怒られてしまった。
場所をわきまえろってことはそれさえ考慮したら良いってことだよねー?
意外な返事に少しびっくりした。


『たまにな褒めて欲しいんすけど』
「褒められる様なことをしたのか?」
『髪の毛黒くしたしスカートも長くしたっすよ』
「それは当たり前のことだ」
『冷たい』
「頑張ってるのは知っている。昼休みも茶室の開放で忙しいのであろう?」
『黒髪にしてから評判がいいんすよね』
「お前の茶が飲めないと柳と丸井が嘆いてたからな」
『うちに遊びに来たらいつでもお茶くらいご馳走しますよ』
「伝えておこう」
『あ、弦一郎も一緒に来ないと駄目っすよ』
「何故だ?」
『お祖父ちゃんが心配しますからね』
「そうか」
『そうっすよ』


本気は手を繋ぐだけじゃなくてぎゅーっとされたりしてみたいんだけどね。
弦一郎にはまだまだ無理かもなぁ。
こないだバランスを崩した時に支えてもらってそれを大喜びしたら挙動不審だったもんなぁ。
むしろ何故か触ったことを謝られてしまった。
別にいいのにね。


しょうがないから弦一郎のペースに合わせてあげることにする。
なんだかんだお祖父ちゃんに決められた婚約者だけれどあたしは結局弦一郎のことが大好きなんだ。
で、多分弦一郎もきっとあたしのことちゃんと好きでいてくれると思う。
ゆっくりゆっくりコイしていこうね。


恋するあなたにはあたしだけなの。

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