恋……しちゃいました!(柳生)

高校1年の春。
やっと私にも遅咲きの初恋がやってきたようです。


2つ上の柳生先輩。
きっかけは同じ風紀委員になってから。
テニス部が凄いってのは中学校から知ってたけど詳しくは知らなかった。
友達は丸井先輩がカッコいいとか仁王先輩になら騙されてもいいとか言ってたけど恋って何それ美味しいの?状態の私はその話題に全くついていけなかった。
もっとはやく彼女達の言葉に耳を傾けていれば良かったかもしれない。
そしたらもっと早く柳生先輩のことを好きになれていたのに。


柳生先輩はとても優しいのだ。
全校生徒に配る風紀委員会からのお知らせのプリントを各クラス人数分に分けて職員室へと持っていくと言う雑用を言い付けられた日。
それは1年の仕事だったけど、他の子達は部活があると困った様に言う。
確かにこの量をやるのは時間がかかりそうだ。
私は帰宅部だったから皆に部活に行って大丈夫だと伝えた。
本心で出た言葉だった。
どこか戸惑っている様にも見える1年生達をさっさと部活へと送り出して仕事に取りかかった。


私は一人でやれるとまだその時は思っていたのだ。
その考えが甘かったことを3時間後に知ることとなる。


風紀委員会からのお知らせのプリントは3枚で一組だった。
それをホッチキスで止める作業があったのをすっかりと忘れていたのだ。
ひたすら3枚のプリントをホッチキスで止めていく。
全校生徒分終わる頃にはどっぷりと日が暮れていた。
私の要領が悪いのだろうか?
後はクラス別に分けるだけだ。
正直少しだけ疲れていた。
でも明日このプリントを配るためには今日この作業を終わらせなければいけない。
私が間に合わなかったら他の1年生まで怒られてしまう。
よし頑張ろうと意気込みを持った時だった。
がらりと教室の扉が開く。


「プリントがまだ届いて無いとのことだったので」
『わ、すみません!あと少しで終わります!』
「1年生に任せたはずなのですが他の方々は?」
『部活があると言ってたので私が行かせました。すみません』
「そうだったのですか。あぁ謝らないでください。大丈夫ですから。では私も手伝いましょう」
『先輩の手を煩わせるわけには』
「いいえ、もう時間も遅いですから」


「手伝いますよ」柳生先輩はそう言うと作業を始めた。
私は1年生から柳生先輩は3年生からプリントをクラス事に数えて仕分けていく。
漸く全クラス別にプリントが分けられた時だった。再びがらりと教室の扉が開く。
先生が遅いって見にきたのかな?


「プリントがまだ届いて無いとは何事か!」


開口一番そう聞こえた。
声の主は風紀委員長の真田先輩で表情は険しい。


『すみません!後は運ぶだけなので』
「む、他の1年はどうした」
『部活があると言うので』
「たるんどる!両立させる自信が無ければ委員会など入るべきではない!」
「真田君、彼女に言うことでは無いでしょう」
『あのあの真田先輩、私がいけないんです。皆でやれば早く終わったのに帰宅部だから一人でも出来るって言ったのは私なんです。部活に行かせたのも私なんです。だからそのごめんなさい』
「1年全員でやれと言ったはずだ」
『はい、仰る通りです。すみません』
「彼女も反省していますし早くプリントを職員室に持って行かなくていいんですか?」
「あぁ、そうだな。しかし椎名」
『はい』
「俺は1年にこの話をしなくてはならん」
『え、でも先輩それは』
「この考えはお前が何を言っても変わらん」
『……分かりました』


真田先輩は無情な一言を告げる。
そんな、…結局皆怒られちゃうのか。
ずーんと空気が重たくなった。
結局私は色んな人に迷惑をかけてしまったのだ。
3人でプリントを職員室へと持っていき真田先輩は先生と話があるとかで柳生先輩と昇降口まで降りてきた。


「椎名さん」
『はい』
「真田君は怒りたくて言ったわけではないのですよ」
『でも私が悪かったんです』
「貴方のためですよ」
『私ですか?』
「えぇ。今後も1年生にあれこれ頼むことがあるでしょう。一回貴方が引き受けてくれたから次も大丈夫だと思われたらまた貴方の負担になりますから」
『そういうことですか』
「えぇ、頑張ることが悪かったのでは無いですからね。しかし次回からは気を付けてください」
『ありがとうございました』
「大したことはしてませんよ。さ、遅いですから今日は送りましょう」
『そそそそそんな!』
「遠慮なさらずに」
『なさりますよ!先輩に送らせちゃうとか!』
「女性を一人で帰すなんて恥ずべきこと私には出来ませんので」


「さぁ、帰りましょう」そう言って柳生先輩は歩き始める。
プリントの時も思ったけど意外と柳生先輩は頑固な気がする。
言葉に有無を言わせない響きがある気がした。


結果的に私はこれがきっかけで柳生先輩を好きになった。
ただただ見てるだけの初恋だ。
廊下で見かけたら挨拶をするし委員会の時だって話せる。
でもそれだけだった。
テニス部の練習を見に行ったりもしたけどあまりの女子生徒の多さに辟易してしまったのだ。
コートを観ることすら叶わなかった。


「おまんが椎名か?」
『はい?』


只今お昼休み。
購買で紙パックのジュースを買った帰り道。
銀髪の先輩?に声をかけられた。
この態度からしてきっと先輩だろう。
しかし、この人は何故私の名前を知ってるのだろうか?
無遠慮に私の頭から足元までをじろじろと見てくる。


「おい仁王!さっさと教室帰るぞ。何やってんだよ」
「ブンちゃんちょっとこっちきんしゃい」
「何だよ。ってこいつ何?」


仁王……どこかで聞いたことあるような?
あ!きっとこの人がテニス部の噂の仁王先輩なのか!
じゃあ隣の赤髪のこの人は丸井先輩?
さっきから周りの視線を感じるなと思ってたけど私を見てるんじゃなくてこの二人を見てるんだなきっと。
丸井先輩の「こいつ何?」って言葉がぐさりと刺さる。
誰とかじゃなくて何?ってなんなんだろうか。


「こいつが椎名じゃ」
「あぁこいつが」
『あの、私何かしましたでしょうか?』
「いんや何もなかよ」
「真田と柳生が珍しく褒めてたから気になってただけだ。気にすんな」


えぇ!?真田先輩と柳生先輩が私のことを褒めてくれてたの!?
何で!?こないだの一件で迷惑はかけたけど褒められる様なことはしていない。
何て褒められてたのか気になる。
かなり気になる。


「ブンちゃんこの顔見てみんしゃい」
「嬉しそうな顔してんなお前」
『はい、二人に褒められるのは嬉しいです!』
「素直なのは良か。でもただでは教えれんのう」
『なんですと!』
「反応も新鮮だなお前」


仁王先輩は意地の悪そうな笑みを浮かべる。丸井先輩はそれに呆れながらもどこか楽しそうだ。
ただでは教えてくれないのか。でも今月は金欠なのだ。


『今月は金欠なのでまた来月お小遣いが入ったら宜しくお願いします』


ぺこりと頭を下げて去ろうとしたら腕を捕まれた。
これ以上私に何の用事だと言うのだろうか?
振り向くと丸井先輩はゲラゲラ笑ってるし仁王先輩も吹き出しそうになっている。


「すまん、そういう意味じゃなかったぜよ」
「後輩にたかったなんて知られたら真田から怒られるぞお前」


クックッと喉を鳴らしながら仁王先輩は私に謝りの言葉を告げる。
お金じゃなかったのだろうか?
先輩達の言うことはよく分からない。
首を傾げて二人を交互に眺めていた時だった。


「仁王君、丸井君何をやってるんですか」
「おー柳生」
「仁王がこいつを見つけたんだよ」
『柳生先輩こんにちは!』


柳生先輩がやってきた。
今日はまだ姿を拝見して無かったから会えて嬉しい。
仁王先輩にやんわりと私の腕を離すように諭している。
あ、良かった。ちゃんと離してくれた。


「椎名さんこんにちは。全く貴方達は何をやってるんですか。廊下の向こうからでも目立ってましたよ」
「おまんと真田があんまり褒めるもんじゃからのう気になっとったんじゃ」
「柳生、こいつ面白いぞ」
「椎名さんはお二人のおもちゃではありませんよ」
「「へーい」」
「全く」
「じゃあ椎名またな」
「おーまたなー」
『はい』


私の頭をそれぞれポンと触ってお二人は去っていった。
結局何だったのだろうか?


「椎名さん?大丈夫でしたか?」
『あれが噂の仁王先輩と丸井先輩なんですね』
「お二人とは初対面でしたか」
『はい。初めて見たと思います』
「貴方は本当に可愛らしい人ですね」
『えっ』
「失礼。この学校で仁王君と丸井君を知らない人間はそう居ないので」
『テニス部って有名だって言いますもんね』
「えぇ」
『柳生先輩と真田先輩と生徒会の柳先輩くらいしか分かりません』
「それくらいでいいんですよ」
『あ!あの!私がお二人のこと知らなかったことは内緒にしていてくださいね!失礼になっちゃうので』
「えぇ、貴方がそう望むのなら」


柳生先輩がさらりと可愛いだなんて言ってくれちゃうから顔から火が出そうだ。
他意は無いんだろうけど嬉しい!あぁでも恥ずかしい!
だけど口止めはしとかなくちゃ!
あの先輩達のことを知らなかった何て知られたら失礼になってしまう。


『ありがとうございます』
「では私はこれで失礼しますね」
『あの』
「何でしょうか?」
『助けてくれてありがとうございました』
「貴方は直ぐに分かりますからね。ではこれで」
『はい』


柳生先輩に頭を下げる。
さて私も教室に帰ってお弁当を食べなくちゃ。友達をだいぶ待たせちゃったなぁ。
まさか噂の仁王先輩と丸井先輩に話しかけられてたなんて言えないもんなぁ。


あれ?柳生先輩の言ってたことっておかしくないかな?
目立っていたのは私じゃなくて仁王先輩と丸井先輩な気がするんだけどな。
言い間違いかな?
一人納得して教室までの廊下をご機嫌で歩いた。

原生地様より

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