静かに溺死(柳)

「……、凛聞いているのか?」
『あ、ごめんなさい。聞いてなかったです』


部活終わり、横を歩く蓮二に声を掛けられた所で我に返る。
いけない、また一人でトリップしていた様だ。
横にいる蓮二がふぅと小さく息を吐く。
その息が白くまた見とれてしまう。


「俺といるのが退屈か?」
『違うよ、そんなことは全くないよ』
「だがお前は俺といるとよく黙り混む。弦一郎とさえ俺よりよく話してるだろう?」
『真田は副部長だし!部活のことで話すこと沢山あるだけで』


どうしてこういう時に伝えたい言葉が声にならないのだろう。
そんな風に思わせたくないのに上手く言葉が出てこない。
口を薄く開いたと思ったら閉じてしまい蓮二の表情が小さく歪む。


「すまない、そんな表情をさせるつもりはなかったんだ」
『わ、私もだよ…そんなつもりはなかったの』


寒い。もうすぐ雪でも降るのだろうか?
そろそろ手袋が必要だなと思いながら両手に息を吹き掛ける。
これは、現実逃避みたいなものだな。


「明日は雪が降るだろうな」
『もう雪が降るの?』
「今年は寒気が強いらしい」
『手袋が必要だねぇ』


さっきの気まずい雰囲気が無かったことになる。
いつもそう。肝心なことは話せない。
私が戸惑うと蓮二は話を変えてくれる。


と、珍しく返事が来ない。
寒いねぇと呟くと隣の蓮二の姿がない。
後ろを振り向くと立ち止まっている。


『れん「手を、繋いでもいいだろうか?」


名前を呼ぼうとすると遮られた。
続く言葉に返事が出来なくて一気に自分の体温が上がる。
私は返事をすることが出来ずただ頷いた。


すっと右手に手が伸びてきた。
身体が火照るように熱い気がする。
気付いた時には蓮二の左手におさまっている。
自分の熱が相手に伝わってないだろうか。
あぁでも嬉しい。手を繋げただけで幸せだ。
自然と笑みが溢れた。


「凛」


名前を呼ばれて蓮二の方を見上げる。
なんだろうか?


「お前の手は小さいな。だが、とても温かい手をしている」
『うん』


あぁまた言葉が出てこない。
どうしてだろう。他の人とは普通に話せるのに。
蓮二と話すのは何故にこんなにも難しいのだろうか。
また一人でどうしようかと思案していると蓮二が笑ったような気がした。
そしてそっと空いた手で頭を撫でられる。
また体温が上がったような気がする。
このままゆだってしまうんじゃないか私。


「先程はすまない。意地悪をしたくなったんだ」
『え?』
「お前が俺といると口数が少なくなる理由は解っている。自惚れでないのならば」


そっと耳元で囁かれた。


「お前は俺のことが好きだからそれを言葉にすることが出来ないんだろう」


全身が熱くてクラクラする。
目眩を起こしそうだ。
何も言えずに再び相手を見やると満足そうに微笑み歩きだした。


相手の手の内だ。
それは分かってる。
相変わらず何も言えなくて身体は火照ったらまま。お互い無言だ。
だけどさっきよりなんだかとても心地好い。
心臓はバクバクと音をたて身体も熱い。


溺れそうだ。


静かで、今にも雪が降りそうで心地好いこの時間に嬉しくなり相手の手を握り返した。


水棲様より

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