トウィンクル注意報(切原)

━━獅子座の今日の運勢は11位です━━━


『げ』


朝からなんともタイミングが悪い。
リビングを出るタイミングでテレビから聞こえたのは私の星座の今日の運勢だった。
思わず足を止めて振り返る。


━━身近な異性の思わぬ魅力に気付けそう。ラッキーアイテムはビーズクッションラッキーカラーは赤です。さて次の星座は━━━


聞いてみたものの直ぐに後悔した。
11位だし良いことは何1つ言ってくれなかったのだ。
身近な異姓って思い当たる人間が居ないし。
ビーズクッションなんて学校には持っていけないじゃん!
私は赤色はあまり好きじゃないのだ。
思い浮かべてみても身の回りに赤色のものは一切無かった。


ふとそんなことしてる暇が無いことを思い出した。
朝練に遅刻してしまう!


いつもなら余裕で乗れる電車に今日はダッシュで駆け込んだ。
良かった、この電車に乗れたのなら朝練には間に合う。
もう二度とテレビの占いに気を取られたりしない。


「あれ?もしかして椎名?」


息を整えた所で顔を上げると名前を呼ばれた。
車内はまだ空いている。
朝練の時間帯に知り合いに会う確立は低いんだけどな。
呼ばれた方を見てみると懐かしい顔がそこにはあった。


『切原?』
「おー久しぶりだな!」
『切原もこの電車なの?』
「中学の時から朝練ある時はこの電車だぞ」
『嘘!私もずっとこの時間だったよ!』


中学の時三年間同じクラスだった切原だった。
こっちこっちと手招きされたので横へと座らせてもらうことにする。


「全然会ったことなかったよなー」
『私がいつも乗る場所決まってたからかも』
「あーそれ俺も一緒。いっつもこの車両なんだよ」
『私今日は色々あってギリギリだったからこの車両になったんだよね』
「へえ。じゃあたまたま一緒になったんだな。朝からラッキー」
『ラッキーって何でさ』
「だって一人で乗ってると退屈だろ?寝過ごして朝練遅刻したら先輩達から怒られるしさ」
『そういうことね』
「それに会えたのが椎名だったからさ」


会えたのが私だっから何なんですか?
突然言われた言葉に驚いたけど切原はそこから直ぐに話を変えてしまった。


『あ、次で降りるー』
「やっぱり二人だとあっという間だったよな」
『切原は次だよね?』
「まぁな。椎名は外部受験で女子校だっけ?」
『そうそう!テニス強かったから!』
「うちは女子はイマイチパッとしねえんだよな」
『頑張ったんだけどねー』
「確かに椎名はすげー頑張ってたよな。お、もう着くな。また明日もこの車両にしろよ!楽しかったし」
『私も楽しかった。ありがとね切原!』
「じゃ、またな!」
『うん、またね』


駅に着いた所で明日の約束をして電車を降りた。
乗車駅も降車駅もお互いに一駅ずつしか違わないのに中学時代も高校に入ってからも全く会うことが無かった。
テレビの占いを気にしてなかったら会うことが無かったのかもしれない。
そう思ったら今日占いを気にして良かったのかも。
久しぶりに見た切原は昔より少しだけ大人びたような気がする。


「椎名?」
『わ!切原だ!』
「帰る時間も一緒なのかよ」
『切原いるかなって朝と同じ車両にしてみたんだけど本当に居たー』
「凄いタイミングだよな!部活お疲れー」
『切原もお疲れ様!立海は男子は相変わらずテニス部強いみたいだねえ』
「まぁな。椎名は?」
『うちの高校も強いよ。レギュラー取るのにもう必死なんだよねー女子校だからミクスドは出来ないけど』
「あーミクスドとか懐かしいよな」
『よくミクスドのことで喧嘩したもんね』
「だなぁ」


あれは中学2年の時だっけな?
お試しとかで中学生男子の団体戦にミクスドが足されたのだ。
女子テニス部で一番強かった私に白羽の矢が立ったんだった。
切原とはそれまで同じクラスだったけどあんまり話したこと無かったんだよね。
結局ミクスドがあったのはその年だけだった。
その間ずっと切原と組まされたんだっけ。


『先輩達ともミクスド組みたかったのになー』
「俺だってシングルスやりたかったんだぞ!」
『かなり揉めたよね』
「俺達プレイスタイル似てたもんなー」
『切原と一緒にするの?』
「柳先輩だってそう言ってたろ!」


「椎名はラケットを握ると人が変わるな」とは言われたことあったけどプレイスタイルが似てるとは言われたことあったかな?
柳先輩とか懐かしいなぁ。


「俺さ、椎名が外部受験って聞いたの卒業式の日でさ。すげーびっくりした」
『3年になってからはミクスドもなくなっちゃったしあんまり話さなかったもんね』


さっきまで楽しく話してたのに切原は急に声のトーンを落とした。
確かにクラスメイトに外部受験するって話はしてなかったと思う。
一般入試だったしギリギリだったからその頃は勉強に必死だったんだ。


『あ、もう駅に着く』
「なぁ」
『何?』
「昔みたいに赤也って呼べよ。何で久しぶりにあったら切原なんだよ」
『それは…そっちだってそうだったでしょ』
「それは!久々にあって名前で呼んで引かれたら嫌だったんだよ」
『それはこっちだって一緒だよ』
「じゃあ赤也な」
『え?』
「俺も凛って呼ぶから。ほら駅に着いたぞ」
『う、うん』
「また明日な凛!」
『バイバイ赤也』


電車のドアが開いたので慌てて挨拶をして降りた。
流されるままに切原のことを赤也って呼んでしまった。
あぁ、本当に懐かしいなぁ。


「赤也と椎名は喧嘩してばっかりだね」
「幸村部長!コイツが悪いんですよ!」
『違いますよ!切原がワガママなんです!』
「困ったね蓮二」
「ふむ、どうしたものか」
「お前達少しは黙らんか!」
「『痛っ!』」
「真田君、女性に手をあげるのはいけませんよ」
「む。すまない椎名。赤也と似たようなことをしたからつい手が」
「ブン太、笑いすぎだぞ」
「ジャッカル!だって見ただろい?真田が女子に手をあげたなんてきっとコイツが最初で最後だぞ!」
「幸村、俺に任せんしゃい」
「何かあるのかい仁王?」
「まずはお互い仲良くなるために強制的に下の名前を呼びあったら良かろう」
「『はぁ?』」
「息はぴったりなんだがな」
「じゃろ?お互いに名前呼びになったら少しは落ち着くかもしれん」
「ちょ!仁王先輩何言ってるんすか!」
『そうですよ!』
「いいかもしれないね。じゃあ二人とも今日からそうしてね」
「『!?』」
「幸村が言うのなら仕方無いのう」
「頑張れよい」
「お互いに名前を呼ばないってのは駄目だからな」
「幸村が決めたことだからな」
「呼ばなかったら罰ゲームだからね」
「『!?』」


きっかけは切原と衝突してばっかりだったからだ。
言い合う私達を見かねて仁王先輩が言い出したんだよね。
罰ゲームくらいならいいかなとか思ってたら幸村先輩は女子の私にすら過酷な罰ゲームをやらせたんだった。
二日後にはお互いに辿々しく名前を呼びあってた気がする。
それが1ヶ月後には自然とお互いの名前を呼んでたなぁ。


『おはよう赤也』
「はよ、凛」
『眠そうだね』
「ちょっと昨日夜中まで格ゲーやりすぎちまった。ふわぁ」
『相変わらず好きだねぇ』
「テニスの次に格ゲーは譲れないぞ」
『赤也らしいね』
「なぁ、彼氏とかいんの?」
『急にどうしたのさ。女子校だよ?いるわけないじゃん』
「そっか」
『何々?合コンのお誘い?』
「んなわけねえだろ!お前は駄目!」
『何でさ!って言っても誘われてもいけないけどね。部活部活で暇がないー』


お前は駄目とか意味が分からないけど合コンは行けそうに無いなぁ。
興味が無いわけじゃないけどそんなことより今はテニス優先だ。


『あ!合コンのセッティングだけなら出来るよ?うちの高校でも立海テニス部は人気だからねえ』
「はあ?」
『え?違うの?』
「ちげーし」
『変な赤也。あ、駅着いたから行くね!』
「おう。また帰りな」
『うん、じゃあね!』


結局赤也は何が言いたかったんだろ?
さっぱり意味が分からなかった。
その日の帰り。いつもと同じ時間の赤也のいる車両へと乗り込む。


『お疲れー』
「お疲れお疲れ」
『いつになく疲れてる感じ?』
「や、そんなんじゃない」
『どうしたの?』
「えーと…」
『やっぱり合コンのセッティング?』
「それはちげぇ!や、それはそれで仁王先輩に頼まれたけどそうじゃなくて!」
『合コンのセッティングは結局するのね』
「そっちは別に適当でいいんだよ!」
『や、適当じゃ駄目でしょ』


何でそんなに歯切れが悪いのさ。
赤也って基本的に言いたいこと言っちゃうタイプじゃなかった?


「お前さ彼氏いないんだろ?」
『居ないって朝にも言ったでしょ』
「欲しいとか思わないの?」
『んー欲しくないは嘘になるけど女子校だしなぁ』
「出逢いとか無いのかよ」
『全然。一番親しい異性はって聞かれたらお父さんって答えれる自信ある』
「じゃあさ、俺と付き合ってみようぜ!」
『………は?』
「彼氏いないんだろ?じゃあ俺と付き合ってもいいだろ?」
『何を言ってるんですか?』
「逆に何でそんな嫌そうなんだよ」


忘れてた記憶が一気に蘇った。
あれは3年になってミクスドの試合もなくなるからってペアが解消された後の話だ。
たまたま赤也が話してるのを聞いてしまったんだ。


「切原って椎名と付き合ってんの?」
「は?」
「だって仲良いじゃん」
「アイツはそんなんじゃねーよ!」
「結構可愛くね?」
「ラケット持ったら豹変すんぞ。可愛いとか思えねーし」


それ以上立ち聞きしてるのが嫌で教室の扉をわざと大きな音を立てて開けて中に入っていったんだった。
赤也を始め話してた男子達は気まずそうな顔をしてたことを思い出した。
仲良しだと思ってたからそう言われて少なからずショックだったんだ。


『アイツはそんなんじゃねーよって言ってたじゃん』
「いつの話してんだよ。あれはそういうんじゃ無かったんだよ」
『私ショックだったんだよー』
「そういうのが気恥ずかしかったんだよ。お前が居ないとこで先輩達にも散々からかわれてたし」
『あれ聞いたの先輩達が卒業した後でしょ』
「だーかーら、俺は卒業する前からお前のこと好きだったんだよ」


あれ?いつの間にか私が赤也に告白されている。
きっとからかってるんだと思ってたのに。
赤也から出てきた言葉は真剣味を帯びている。
笑い流そうと思ってたのに。
次第に心臓がドキドキしてるのが分かる。


「他のやつとも付き合ってみたことあったけどさ、なんか上手くいかなくてさ。凛とまたこうやって会えたのも縁だろ?俺もうあんなガキみたいなこと言わねえし!」
『うん』
「だから一回俺と付き合おうぜ」
『お試し?』
「俺のこと好きになるって絶対!」
『分かった。じゃあ駅着いたから』
「何言ってんだよ!それなら家まで送ってやるって」
『いやいいよ!』
「遠慮すんなって!」


断っても赤也はしつこそうだったしさっきからのこの心臓のドキドキはきっと嫌なドキドキじゃない。
中学の時のことはショックだったけどこのドキドキに免じて許してあげようと思ったのに電車を降りるときにまたもやときめいてしまった。
赤也が「遠慮すんな」って言った時にはもう二人して電車を降りてたのだ。
さっき付き合うことが決まったばっかりなのにさらっと送ってくって言った赤也にキュンとしてしまいました。


『あ、仁王先輩に言われたとか?』
「惜しい。これ提案したの柳生先輩」
『それって純粋に紳士としての提案だったと思うよ』
「結果的に何でもいいんだって!あ、合コンのセッティングだけは宜しく頼むな!」
『仁王先輩と丸井先輩と誰が行くの?赤也?』
「俺は凛がいるからパス。ジャッカル先輩かな?」
『そっか。ならちゃんと可愛いこに声かけるね』
「頼むな」


「俺は凛がいるからパス」の言葉にまたもやときめいてしまった。
なにこれ。ついこないだまでそういうのとは無縁だったのにだよ?
赤也と出逢った時の運勢占いを思い出した。


━━身近な異性の思わぬ魅力に気付けそう。ラッキーアイテムはビーズクッションラッキーカラーは赤です。━━━


ラッキーカラーは赤ですか。
赤いものは何にも無かったけど占いってのもあながち悪いものじゃないのかもしれない。
あの日テレビを気にして良かったのかもな。
その後も家に着くまでドキドキしっぱなしだった。


水棲様より

題名に一目惚れしました。
久々にshort書いたら長くなっちゃった。
理想は三千字くらいなんだけどなぁ。
2018/04/30

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