06

森丘へと張り切ってやってきた。
ハンター装備一式と片手剣を携えて。
野生のアプトノスを倒せる気は全くしなかったので携帯食料が支給品の中にあってほんとに良かった。


こそこそと大型モンスターに出会わないように移動する。
途中でドスランポスと戦ってる新米っぽいハンターが居たけれどそこは華麗にスルーした。


やっぱりお金になるのは鉱石だよね。
ハチミツと薬草も採取しておこう。
やっぱりモンスターを狩れないってのは制約的にキツいよなぁ。
夜になったらアプトノス達に愚痴を聞いてもらおうそうしよう。


野生のアイルーが沢山いる場所へとやってきた。
話しかけてみようと思ったのに私を見付けるとみんな隠れてしまった。
まだ武器すら取り出してないのに。
落ち込みながらも採取を続ける。
ここには鉱石は無さそうだなぁ。
そもそも森丘自体鉱石は少なかったような。
やっぱりキノコ採取のがいいのかなぁ?
採取にすっかり夢中になっていて背後に忍び寄る影に全く気付けなかった。


「ハンター!そこで何をしてるのかな?」
『うおっ!』


キノコが大量に取れたからルンルンしてたらいきなり話しかけられたのだ。
恐る恐る振り向くとそこには怪鳥イャンクックの姿が。
ダラダラと冷や汗が出てくるのが分かる。
今の装備じゃ逆立ちしたって勝てないと思う。
ドスランポスすらスルーしたって言うのにだ。


「この森から出ていってもらおうか」
『まままままま待って!イャンクックちょっと待って!』
「待てと言われて待つ敵が過去にいたかね?」
『いいいいないけどちょっと待って!私には戦う意志は無いよ!』
「それを信じろとキミは言うのかね?」


あー不味い。これは不味い。
イャンクックの嘴が開いて火球を吐き出そうとしてるのが分かる。
死なないかな?大丈夫かな?
いやでも痛いのは嫌だ!


『待って!会話が出来ることを不思議に思わないのイャンクック!』


万が一死んでも困るから火球を吐き出すのは止めてもらおう。
そう思って必死に言った言葉が良かったらしい。
嘴の奥がぼんやり光っていたのが納まったのだ。


「確かに。ニンゲンと会話をしたのはキミが初めてだ」
『良かった』
「しかし敵意が無いことの証明にはならないがね。キミの背中にはまだ武器がある」
『お守りみたいなものであって使う予定は無かったよ!』
「それを信じろと?」
『分かった!片手剣は捨てるから!』
「手に取った瞬間に襲うかもしれない」
『どうしたらいいんだよ!』


私の質問にイャンクックは少しだけ首を傾げた。
どうやら考えてるみたいだ。
私はイャンクックの方を向いて正座している体勢になっている。
振り向いた時に腰が抜けたのだ。


「ではこうしよう。キミが私を信用するんだ」
『するよ!するから!どうしたらいい?』
「私がキミの背中にある武器を取って捨ててこよう。それでいいかな?」
『痛くない?』
「キミさえじっとしてたら大丈夫だろう」
『分かった』
「なんだいそのポーズは」
『ジャパニーズ土下座スタイルです。武器が取りやすいかと思って』
「確かにそうだね」


正座をしたまま頭を下げる。
ここで信用してもらわないことには始まらないのだ。
痛いことされたくないし。
背中の辺りをモゾモゾと嘴が探ってるのが分かる。
くすぐったいけど我慢しないと。


「じゃあこれを遠くに捨ててこよう」
『戻ってくる?』
「勿論。約束したからね」


頭を下げたまま聞くと了承の返事がきてイャンクックは飛び立っていった。
風圧にひっくり返ったんですけど!
とりあえず採取を再開しよう。
まだハチミツが途中だったのだ。


「驚いた。本当に待っていたのかい?」
『へ?約束したよ?』
「てっきり逃げ出したと思っていたよ。キミは面白いね」
『村のアプトノスにもそうやって言われたよ』
「話すニンゲンなんて前代未聞だからね」
『だよねえ』


イャンクックと知り合えたのは良かったけれどさてこれからどうしようか?
私はどうしてモンハンの世界にいるんだろう?
夢じゃなさそうなことは薄々気付いていたけれど夢の中でアイルーと話した内容がすっぽりと抜けている。


「さてキミは今からどうするんだい?」
『採取は粗方終わったかなぁ。と言っても何をしていいのか分かんないんだよ』
「ハンターになるんじゃないのかい?」
『会話が出来るのにモンスターを狩れると思う?』
「私達は会話が出来る相手でも生きるために相手を攻撃することはあるからね」
『イャンクックもそうなの?』
「私はベジタリアンだからね。クンチュウは好物だけれどさすがにあのサイズの虫とは話せないかな」
『そっか』
「キミは無理そうだね」
『そうだね。誰かに頼まれてこの世界に来たんだけどなぁ』
「不思議なことを言うね」
『イャンクックに言っても分からないよね』


どうしたらいいんだろうか?
ハンターにはなれそうにもない。
採取メインのハンターなんて聞いたこと無いし。
家はあるからいいけれど採取したものを売っても大したお金にならない気がする。


「ちょっと時間をくれないかい?」
『何が?』
「少し気にかかることがあってね。でも思い出せないんだ」
『何が気にかかったのさ』
「それも分からないんだ。けれどキミの言葉が引っ掛かったんだよ」
『何か知ってるの?』
「それも分からない。だから時間をくれないかい?」
『いいけどどうしたらいいの?』
「また明日、同じ時刻にここに来てくれたらいいよ」
『分かった』
「後これは返そう」
『捨ててきたんじゃないの!?』
「待っていたら返そうと決めていたんだ。自衛のためには必要だろう?」
『ありがとう!』
「ではまた明日」
『うん、また明日』


イャンクックが捨てに行ったと思った片手剣をあっさりと返してくれた。
さすがクック先生と現実世界で呼ばれるだけのことはある。
片手剣を背負って来た道を慎重に戻ることにする。
帰りは誰にも出会いませんように。
明日になったら何か分かるといいな。


クック先生との出会い。
クック先生は純粋なモンスターです。
本当にモンハンを知らないと楽しめない作品になっちゃうかも。更新通知もしないでひっそりこっそりやってきます。
2018/04/27

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